ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第27話オーバーロード
ライリュウside
2024年10月22日、第50層・《アルゲード》
74層の攻略とは言えないボス攻略から4日。オレが妙な頭痛で倒れて、昨日やっと目が覚めた。あの後未来がやたらと騒がしかったため、落ち着かせるのに苦労したな。まあオレを心配してくれてた訳だから嬉しいような申し訳ないような。その後聞いた話では《ザ・グリームアイズ》に戦いを挑んだ《アインクラッド解放軍》で3名の犠牲者が出たらしい。オレ達の目の前で死んだリーダーのコーバッツと他2名が亡くなった。コーバッツが最初から撤退の指示を出していれば誰も死ななかったのではと思うと何だか腹が立つ。
「しかし・・・残念だったな~~。あと2日早く起きてたらな・・・」
「3日も寝込んでたくせに何言ってるの。人の気も知らないで・・・」
「それはホントに悪かったって。でも見たかったじゃん・・・キリトVSヒースクリフのデュエル」
オレが目覚める1日前にキリトが《血盟騎士団》の団長、ヒースクリフとデュエルしたらしい。理由は何でも、キリトがアスナさんのギルド脱退を要求して、戦力不足の今このタイミングで彼女にギルドを抜けられると困るからデュエルで話をつけようという事になったそうだ。キリトが勝てばアスナさんの脱退を認める、ヒースクリフのおっさんが勝てばキリトが《血盟騎士団》に入るという条件を付けて。この二人のデュエルはすごく興味があった。理由はーーー二人がユニークスキルの保有者だからだ。キリトのユニークスキルは《ザ・グリームアイズ》との戦いで見せた《二刀流》。ヒースクリフのユニークスキルは大きな十字型のシールドと、同じく十字型の細長い片手剣から織り成す攻防自在の剣技ーーーその名も《神聖剣》。攻撃力も凄まじい物だけど、何よりも防御力が圧倒的に高い。それ故にボス攻略でもHPがイエローゾーンまで減った所を見たプレイヤーはほぼ皆無と言っていいほど存在しない。
結果はキリトが敗北し、《血盟騎士団》に加入した事で話は纏まった。それで今日は未来と一緒にエギルの店にいるキリトに顔を見せに行こうって話になった訳だ。まあ他に楽しみはあるんだけどな。キリトがいるのはーーーこの部屋だな。
バタン!
「おっすキリト!ひさしぶり~~・・・」
「ちょっとお兄ちゃん!ノックくらい・・・お、おふぅ/////」
ノックしとけばよかったな~~。そうすればオレがこの状況でリアクションに困る事も、未来が顔を真っ赤に染めて変な声を出す事もなかったかもしれない。このーーーアスナさんがキリトの顔を自分の肩に抱き寄せるという光景を目にする事はなかったのかもしれない。
当の二人はぱぱーっと物理的に(←これ大事)距離を離したがーーーすまん、もう遅い。
「お、お邪魔しますた・・・」
「ちょっと待てバカ忍者」
「大丈夫だから!何も見てないから!二人で大人になろうとしてる所なんて見てないから!」
「ミラちゃん待って!誤解してる!何か誤解してる!完全に何か誤解してる!」
ホントにオレ達何も見てないからキリトはバカ忍者の肩を離してくれ。アスナさんも未来が暴走思春期なだけだから離してやってくれ。って誰がバカ忍者だコラ。
******
「しっかしキリトお前wwwww」
「正直に似合ってないって言「似合ってねぇwwwww」即答だな」
「だってキリトくんいつも真っ黒なんだもん!プフフフフ」
オレの一番の楽しみ、それはキリトが着る《血盟騎士団》、通称《KoB》のユニフォームを見ること。《KoB》のユニフォームは真っ白な布地に赤いラインが入っているメンバー共通のカラーリングである。四六時中真っ黒な格好のコイツが着たらーーー全く似合ってねぇ。似合わなすぎて逆に笑える。デザインはいつも着てる《コート・オブ・ミッドナイト》と同じだけど色が変わるだけで全く似合わなくなる。
キリトが正直に言えと言ったのでオレは正直に似合ってないと答え、未来はオレと同じ事を考えていたようで大笑い。アスナさんもニコニコと笑っているだけで何も言わない。残念だなキリト。お前に味方はいなかったんだよ。
「それはそうと・・・大丈夫なのかよ?ライリュウ」
「確かにあんな超スピード出して、そのすぐ後気絶したら誰だって心配するよ・・・」
「お兄ちゃん・・・ホントにアレなんなの?あのスピードは最早・・・」
「システムの枠を越えている・・・って言いたいんだろ?」
みんながオレに心配の声をかけてくる。正直、オレの敏捷値じゃあんなに速く動けない。しかもみんなの視点だとオレが本当にこの場所にいるのか疑問を感じたレベルらしいし。オレから見たらグリームアイズが止まって見えたようなーーーいや、マジで止まって見えた。それが終わっていつも通りに世界が見えた瞬間、脳に激痛が走った。
「今後の攻略が大きく楽になるならまだいいんだけど、それだと・・・」
「ライリュウがどうなるか、だな。早い内に原因が解ればな・・・」
「団長もこの話を聞いて、ライリュウくんをギルドにスカウトしようと考えてる」
「やだよ。あのストーカーとほぼ毎日顔合わせる事になんじゃねーか」
未来とキリトは攻略が楽になるのとオレの安全を天秤にかけてるみたいな事を言ってる。頼むからオレの安全を選んでくれ。《KoB》のスカウトはクラディールがいる限り絶対受けるつもりはねぇ。
「とにかく、オレに起こった謎の現象は割りとすぐに解ると思うぞ」
『何で?』
そりゃあ決まってんだろーーー通信回線、接続開始。
【やっほー、ひさしぶり~~☆】
「えっ!?何!?今の声!!」
「なんか頭に直接声が届いたような・・・」
「龍星兄!?」
「よう兄貴」
『兄貴!?』
そろそろ話せるかなって思ってた所だったぜ神鳴龍星。
「あ、どうでもいいけど紹介するよ。神鳴龍星、オレの三つ上の兄貴。SAOのサーバーにハッキング仕掛けてオレ達の《ナーヴギア》に声送ってんだ」
【どうも、そちらの名前だと・・・ライリュウとミラですね。二人の兄です。弟と妹がお世話してます】
「SAOサーバーにハッキング!?」
「龍星兄は超天才だから。それに前にもあった」
「いや超天才でもそんな事できないわよ!!」
「そんな長く出来ないみたいだけどな。出来てもこの疑似テレパシーくらいか?ちなみにオレ達の考えてる事駄々漏れだから」
『どんな化け物・・・?』
オレと未来全く同じ反応してんな。化け物って言われても文句言えねぇぞ?実際これ思考読まれてるんじゃプライバシーの侵害だし。
そんな事よりーーー聞いてたんだろ?最近オレに起こった現象の事。
【・・・話は聞いてたよ。というか、弟の脳波を計っていたから、気付かない方がおかしいよ】
「脳波を計ってた?」
「どういう事ですか?」
「脳波って事は・・・ライリュウ兄ちゃんの脳に直接関係ある事なの?」
脳波を計ってたーーー確か《メディキュボイド》って医療用VRマシンにオレの《ナーヴギア》を繋いでるんだっけ?それで脳波を計ってたのか?じゃあーーー原因は解ってんのか?
【10月18日、ライリュウの脳波が数秒間激しく動いた事があったんだ。それも今までにないくらい激しく】
「グリームアイズと戦ってた時だ!」
「その数秒間って、もしかしてあの超スピードでグリームアイズを圧倒してた時・・・?」
「速すぎて何がなんだか解らなかったよ・・・」
【超スピード・・・ライリュウから見たらどうだった?】
すっかりライリュウ呼びが定着したな。
オレから見たあの瞬間はほぼ間違いなくーーー
「止まって見えた・・・」
【やっぱりか・・・】
「やっぱりって・・・龍星兄心当たりあるの!?」
「あるなら教えてください!」
「使いようによってはライリュウが危険な物だって事は俺達にも解ります。お願いします・・・ライリュウは俺にとって数少ない友達なんです」
「お前ら・・・」
そこまでオレの事を気に掛けてくれるのか?何でだろうーーーなんか目が熱くなってきた。
【・・・いい友達を持ったな。原因はほぼ確実に・・・僕がライリュウの左腕を再生させるために投与した新薬だな】
『新薬?』
「それってこの前言ってたやつ?」
【そうだよ。恐らくあれが一番の原因だ】
新薬ってーーー投与したの左腕だろ?それが何で脳に繋がるんだ?
そういえばーーーなんか色々副作用があるとか言ってたな。もしかしてーーー
【ライリュウの左腕に投与した新薬にはドーピング等の色々な副作用があってね、その中の一つが脳に作用する物だったんだ】
「つまりライリュウくんはその副作用に侵されて・・・」
「あのスピードアップに繋がった・・・」
【いや、新薬はきっかけにすぎなかったんだ。そのスピードアップは・・・脳の活性化】
「活性化・・・?」
ようするに、オレの謎の現象の正体は新薬の副作用によって発生したーーー脳の活性化だったって事か?
【その名も・・・《オーバーロード》】
『オーバーロード?』
全く聞いたことがないワードが出てきたぞ。何だよそれ?
【人間の脳が極限まで活性化した状態の事だ。その状態になると周囲の物体の動きが全てスローモーションに見えるんだ】
「あっ!!」
周囲の物体の動きが全てスローモーションに。確かグリームアイズの動きも止まって見えるくらい遅くなった。龍星の説明内容とピッタリ一致する!
【頭の回転や身体の反応速度が超高速になるから、周りの人間には残像しか残らない場合もある。最も、SAO・・・VR世界だからこそそんな超スピードが出せたんだと思うよ】
『言われてみれば・・・』
オレ以外の三人が声を揃えて呟いていた。何でかオレの動きが全く見えないくらい速くなったって言ってたからーーーその点も当てはまるんだ。
【コツを掴めば自由に使えるはずだよ。でも、あんまり乱用しない方がいいと思うよ】
「どういう事だよ?」
「もしかして、あの時みたいに気絶したりするんですか・・・?」
【気絶で済めばまだやさしい物ですよ、アスナさん。オーバーロードの欠点は、使用後に著しく脳に負荷が掛かるんです。しかもVR技術は脳に直接その世界のデータをインプットする仕組みになっているんです。君達は身体はずっと寝ているけど、二年間脳が働きづめな状態です。弟の場合はオーバーロードも加えて・・・乱用すると精神の崩壊もありえない話じゃない】
「じゃあライリュウは・・・」
「壊れちゃうの・・・?」
脳に掛かる負荷がデカイ上にーーーSAOで乱用でもしたら精神崩壊もありえる?オレがオレじゃなくなる?メリットよりもデメリットの方が圧倒的にデカイ。諸刃の剣としては刃が脆すぎんだろーーー
【こっちからは手が出せない、使う分には十分注意するようにしろよ?まあ少しずつ慣らしていけばその危険性は薄くなっていくだろうから、そこら辺を意識して「ちょっと待て」・・・え?】
「そのオーバーロードってのはようするに龍星がオレに投与した新薬が引き金になったんだよな?」
つまり、オレがすんげぇ危険な状態に陥ってるのはーーー
「全部兄貴のせいじゃねぇかーーーーーー!!」
【ちょ、ちょちょちょ、落ち着こうか!とりあえず落ち着こうか!】
これが落ち着いていられるか!お前が親切のつもりでやった事がオレを精神崩壊の一歩手前の状況に立たせてんだぞ!つーかよくよく考えたら人体実験なんじゃねーのか左腕の再生!!
【えーと・・・あっ!そろそろ回線を切らないとシステムにヤバイ影響出ちゃうかも!それじゃあみなさん、ごきげんよ~~!・・・】プツン
「待てこの・・・逃げやがったあのクソ兄貴!」
「それにしても・・・すごいお兄さんだったわね」
「超天才って・・・俺ライリュウとミラが現実でどうなのかすごく気になるぞ」
「現実の詮索はマナー違反だよ?それより・・・」
オーバーロード、か。仮に自由に使えるようになるとして、その度に気絶するのはなーーーでも使うタイミングを上手く掴めば攻略も少しは早く進めるかもしれない。
「・・・よし!決めたぞ!」
「お兄ちゃん?」
「決めたって・・・」
「ライリュウくん、もしかして・・・」
決まってんだろーーー
「やってやるぜ・・・オーバーロード!!」
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