戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百四十九話 厳島その七
「広島城に戻ろうぞ」
「では牡蠣を召し上がられて下され」
元就が言って来た、彼もまたこの社には縁が深い。清盛の様に多くの献納もしている。
「魚もよいですが」
「清盛公は出世魚を召し上がられましたな」
「でしたな、しかし上様はです」
「位人臣を極めたからか」
「他のものがよいかと」
「牡蠣にか」
「それに鯛でしょうか」
元就はこの魚も話に出した。
「海の魚といえばやはりです」
「第一は鯛じゃな」
「ですから」
それ故にというのだ。
「如何でしょうか」
「わかった、では鯛も食おう」
「さすれば」
こう話してだった、信長は実際に参り終えてからだった。それから鯛や牡蠣を食いそのうえで広島城に戻った。
そしてだ、城に戻った次の日に報が入って来た。
「周防の端にです」
「魔界衆の軍勢が出ました」
「その数四十万」
「海にも多くの軍勢がおります」
「そうか、ではじゃ」
信長はそこまで聞いて言った。
「これより全軍周防に向かうぞ」
「そしてそのうえで」
「周防で、ですな」
「戦ですか」
「水軍もじゃ」
彼等もというのだった。
「周防の海に向かうぞ」
「畏まりました」
「さすれば」
諸将も頷いてだ、そうして。
全軍はすぐに出陣してだった、周防に向かった。まさに天下の軍勢が動いた。
その周防でもだ、魔界衆の軍勢はというと。
相当な数の軍勢を出してだ、決死の顔でいた。
その本陣においてだ、棟梁達が揃っていてだった。
そのうえでだ、口々に言っていた。
「見付かったか」
「どうやらな」
「何とか傷を癒さねば」
「完全にな」
「織田信長が来る前に」
「何としても」
「そうじゃ、まずはじゃ」
主の座にいる老人も言う。
「傷を癒すぞ」
「はい、今は」
「そうしてですな」
「次の戦の為に」
「備えますな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「それから陣を敷くぞ」
「ですな、それからです」
「傷を癒してから」
「陣を敷き」
「織田信長と戦う」
「そういうことですな」
「おそらく織田信長は既に出ている」
出陣していることをだ、老人は読んでいた。
「そしてな」
「こちらに向かっている」
「四十万の軍勢を以て」
「そうしてきていますな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
それでもと言うのだった。
ページ上へ戻る