大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第九話 イタリカへ
「デュラン陛下・・・。」
「・・ピニャ殿下か・・・何故ここに?」
森の中に佇む修道院偵察に出ていたピニャが訪れていた。デュランは少し睨みつけながら問うた。
「アルヌスに関する情報を探索中、ここに高貴なお方が傷ついていらっしゃると聞きまして。」
「情報・・・姫はアルヌスで何が起きたのかご存知ではないのか・・。」
「えっ・・・。」
「何も聞いておらんのか。我ら諸王国軍に何が起きたのか・・・。」
「帝国軍は本当は兵を出していなかったのであろう?それを承知で皇帝は連合諸王国軍を招集した。帝国に牙をむくかもしれぬを、敵に押し付けた。」
「た、確かにっ、出陣が遅れていたことは存じておりましたっ。しかしっ!・・・」
ピニャは必死に弁解するが、デュランは聞く耳を持たずに続けた。
「姫、諸王国軍は最後まで戦った。だが、我らの敵は背後にいた。」
「背後・・?」
ピニャはいまだ分からぬという表情で聞いた。
「帝国だ!帝国こそが我らの敵だったのだっ!」
「なっ、陛下!せめてお教えくださいっ!敵がどのようなものであったかを!
デュランの言葉にピニャは衝撃を受けて怯んだが、すぐにデュランに情報を聞き出すために肩に手をかけたが、すぐにデュランに払われた。
「知りたくば姫自らアルヌスの丘で行くがよかろうっ!」
デュランは睨みつけながら言い放った。
結局何の情報も得られずにピニャは修道院を出た。
そこには腹心であるハミルトン、グレイ、ノーマの3人が待機していた。
「姫様・・・、騎士団でアルヌスに突撃なんて言い出さないで下さいよ?」
「妾もそこまで馬鹿ではない。いずれにしろ、一度アルヌスにいかなければならん。ノーマ、本体に移動の指示を送れ。」
先ほどのデュランの言葉をピニャは一度忘れて指示を出した。
「はい。」
「グレイこの先は?」
「この先、アルヌスに向かう途中にはイタリカがあります。」
「イタリカ・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「テュカ、どうしたの?」
テーブルに座り1式そろった衣類を見つめていたテュカにロウリィが話しかけた。
「いや。」
テュカはあたり触りのない返答をした。
「それにしても大層ね。ミーストは”一時的な居留地だからそれまで我慢してくれ”って言ってたけど。」
22世紀の現代には災害などで家がなくなった人のために簡単に設営できる仮設住居の開発が進められてきた。その結果専用の工具などを使わずに設営可能な仮設住居が完成した。
噴火や地震、津波が頻繁に発生するため、国家予算で作りまくっていた予備をここ特地にも運び込んでいたのである。
仮設と言っても下手な住居より設備はしっかりとしており、専用のパイプをつなげることで水やガス、電気を使用することも可能である。大きさは横5メートル縦7メートルで、中にはベッド、テーブル、椅子、収納棚、クッキングヒーターのある簡易キッチンがあり、これもすべてセットで簡易住居1セットである。
異世界の人々からすれば高級住宅よりも贅沢と言うかもしれない。
「食事も出てくるし、お風呂もあるしで、森の生活よりも贅沢なくらい。でも・・・。」
そういうとテュカは言葉を詰まらせた。
「何かあるの?」
それを見たロウリィが問いかけた。
「いつかは自活しないといけないけど、方法が見つからないわ・・・。最悪は、私たちが他の兵隊に身売りでもっ。」
ちなみにこの時点でペルシャールは”最悪俺が責任とって全員を引き取らなきゃいけないのかな”と自分の貯金を見ながら考えていたそうである。
「ひっ!?」
「なぁにぃ~?」
損話をする二人に全身防護服を着たレレイが現れた。
「外は安全のよう、なので・・・ちょっと付き合ってほしい。」
レレイが二人を連れて来たのは丘を少し下った場所であった。
「これ、全部翼竜の死体?」
「帝国や諸王国軍がロンディバルト軍と戦った跡。」
そう説明するとレレイは続けた。
「この翼竜の鱗、全部私たちが取ってもいいと、ミーストが。」
「ええ!?翼竜の鱗は高く売れるわよ!?」
レレイの言葉を聞いたテュカは驚いた。この世界では翼竜の鱗は装飾など多くの用途に使われ、高級品であるからであった。
「ロンディバルト軍はこれに興味がないらしい。」
実際は完全にないわけではなく、死体を数体本国に持ち帰り研究材料としていた。
ちなみに銀座事件の際に捕獲されたゴブリンやオークは生体研究のために生かされている。だが人ではない以上生体実験なども行われ、既に10体以上がお亡くなりになっていた。
「身売りの必要は、ない。」
レレイはテュカの方を向いて言った。
「で、俺たちは運送業者って訳ですか。」
「まぁ、そう言うな。避難民の自活はいいことだし、それに特地での商取引の情報収集ができるいい機会だ。」
「いっそ商取引で町ごと要求してみてはいかがです。イタリカは帝国の重要な穀倉地帯だそうですよ。」
シェーンコップは嗾けるようにペルシャールに言った。
「まぁ帝国の制圧が我々の目標ではあるが、まずは情報収集をしないとどうにもならんしねぇ。それに人心掌握をして内側から崩壊させていく作戦だし、ここで穀倉地帯占拠して民間人に恨まれるようなことは避けないといけないからな。」
「ま、確かにそうですな。」
シェーンコップはすぐに引き下がった。
「・・・どうした?」
一向に乗らないテュカにレレイが聞いた。
「また、知らない土地に行くの?・・・お父さん、私、どうしたら・・・。」
そんなテュカの方に黒川で手を掛けた。テュカが振り向くとそこには黒川、栗林、桑原がニッコリと笑顔でテュカを見ていた。
「一緒に行こう。炎龍が出てきたとしても緑の人が助けてくれる。だから大丈夫。」
「早くしなさいよ。」
レレイとロウリィがやさしく声をかけた。
テュカはその声を聞いて決心がつき、手を伸ばした。レレイがその手をつかむ。
「・・・ふ、よし、それじゃぁ出発!」
第三偵察隊は再び出発した。帝国の重要穀倉地帯 イタリカへ。
「閣下、ミースト司令官が商取引の情報収集のためにイタリカへ向かいました。」
副司令官室では柳田が上官のハイドリヒに報告をしていた。
「あそこは帝国の重要な穀倉地帯だったな。」
「はい、帝国の実に6割ほどがあそこで賄われているようです。」
「・・・第一SS航空騎兵団に出撃用意を。」
「し、しかし、ミースト閣下の許可を取る必要があります。」
「武装親衛隊長官命令だ。第一航空騎兵団に出撃用意をさせろ。」
柳田は必死に反論するが、ハイドリヒの威圧に耐えられず渋々了解した。
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