大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第八話 避難民の生活
「・・・なんじゃこれは?」
カトーが唖然として言った。
カトーとレレイが見ていたのは地面を掘削しているショベルカーであった。
「私たちの家を作っているらしい。」
「やれやれ、これでようやく荷車から荷物を降ろせるわい。わしゃぁ寝るっ。」
カトーはため息をは吐きながら仮住居に歩いて行った。レレイはショベルカーを見ているテュカのに近づいた。
「どうかしたのか?」
「いえ。こんな光景見過ごしたなんて言ったら、お父さんきっとがっかりするわね。後で教えてあげなきゃ・・・。」
ショベルカーが掘削する様子を見ながらテュカが呟いた。
「・・・・」
そんなテュカをレレイは無言で見つめていた。
「危ないぞー、離れていなさい。」
そんな二人の元に工作兵が近づいて注意した。
レレイが向かったのは野戦厨房であった。そこでは兵站課所属の兵士たちが食事を作っていた。
「・・・ん?あぁ、大根だよ、大根。」
「ダイコン。」
レレイは少しなまった言い方で言った。
「そう、だいこん。」
「・・・ダイコン。」
レレイはピーラーで剥かれた大根を興味深々で見た。
「では、お食べください。えーと、イル ラクーア。」
「うまいぞぉお!!このパンなんちゅう旨さじゃっ!フワッフワ、フワッフワじゃっ!!」
ペルシャールが食事の始まりを宣言するのとほぼ同時にカトーがパンを手でモミモミしながら大声を上げた。
「大根、パン、箸。」
そんな中横にいたレレイは自分の前に置かれた食事を見てつぶやいていた。そして見終わると手を合わせて目を閉じた。
「おぉい、食べんのか?レレイ。」
それを見たカトーは覗き込むように問いかけた。
「ロンディバルト軍の人は食べる前にこう言う。・・・頂き、ます。」
・・・・・・・・・・・・
「・・・新首都に異世界へ通じるゲートが出来たそうだな。」
「はい、現在大統領のミーストが司令官となって派遣軍が現地に送られております。」
「いい機会だ。この機に一気に新首都に乗り込んでゲートを破壊するべきだ。さすれば英雄たるミーストとその側近であるハイドリヒの両名は排除され、ロンディバルトは混乱に陥るだろう。」
「そのあとは我らが帝国領で蜂起し、再び帝国を築きロンディバルトの奴らを打ち倒すのだ。」
「閣下の策にはわたくし感服の至りっ。」
「亡き公爵の敵を討つときがようやく来た。各自準備を進めよ。失敗は許されぬぞ。」
「はっ!」
・・・・・・・・・・・・
「特地での戦闘の被害者の数を、明確にしていただきたいっ!」
「民間人も含まれているそうですがっ!?」
「副大統領!特地で民間人に被害者が出たという報道についてっ。」
「政府は特地での大統領及びその指揮下の軍について行動を把握していないのではっ!?」
「民間人被害者は特地での災害、通称”怪獣”によって発生したものであり、軍との交戦によってではありません。」
「政務次官が答弁で隠していたのはなぜですかっ?」
「あの時質問されていたのは、”戦闘による被害者”ということでしたので・・・。」
・・・・・・・・・・・・
「ぷはぁ・・・あ^~気持ちいんじゃあ^~」
ペルシャールは本日オープンした特地の湯に一番に入っていた。
これはペルシャール自身が避難民からの要望を得て作らせたものであった。
「はぁぁあん、気持ちいいわぁあ~。」
その隣にある女風呂にはレレイ、テュカ、ロウリィの3人と子供たちが湯に浸かっていた。
「まさか、こんなところに本格的な浴場を設えるなんて~。」
「私も、お湯のお風呂は初めて。」
現代では仮設程度の浴場であったが、宮殿や高級住居でない限りお湯の風呂なんてない異世界では、こんな仮設でも本格的な浴場であった。
「あなたもぉ?」
「私は元々流浪の民ヌルドの一族。だから、水浴びぐらいしか・・・。神官様は、お風呂はあった?」
レレイは逆にロウリィに尋ねた。
「ロウリィ、でいいわよ。」
「私はレレイで。」
「そうねぇ~、神殿には帝国式の豪華なお風呂があったわぁ~。けど使徒として私は各地を巡ることを運命づけられた身。だからこんな辺境でお風呂に入れるなんて、驚いたわぁ~。」
ロウリィは気持ちよさそうに言った。
「風呂は毎日用意すると、ミーストが言っていた。」
「ミースト?あぁ、ロンディバルト軍の。」
ロウリィは思い出したように言った。
「それっ、私を助けてくれた人!?」
それを聞いたテュカが身を乗り出して尋ねた。
「・・ぁ、あの、村の井戸で気を失っていた私を、救い出してくれた人かな、と・・・。」
テュカは大声を出したことで少し遠慮しながら言った。
「そう、あなたを助けたのはミーストの部隊のはず。」
レレイが答えた。
「ミースト・・・ミースト・・・。」
テュカは少しうれしそうに繰り返し呟いた。
「だいぶ普通に戻ったのかしらね。」
ロウリィはテュカの方を見て呟くように言った。
「えっ?」
「集落親族全てを失ってまだ間もない。ショックを受けていると理解していた。」
「・・あの、私あの日からずっと面倒を見てもらってばかりで。本当は、こんなところに居ちゃいけないのかなって・・・。」
「いいのよぉ~。」
下を向きながら言うテュカに対してロウリィが言った。
「ここにいること多くは、親族を失った子ばかりだから。」
それを聞いたテュカは少し顔を上げた。
「しかし、貴方随分向こうの言葉を覚えたのねぇ。」
3人は子供たちの頭を洗いながら話していた。
「まだ勉強の最中。」
まだとは言うが、アルヌスに来てまだ一週間も経っていないのに基礎を覚えたのは大したものであった。
「でも、相手の事も少し分かってきた。」
「ロンディバルト軍の事?」
間髪入れずにテュカが聞いた。
「ロンディバルト軍は”ロンディバルト民主共和国”という国の戦士達らしい。」
「随分覚えずらい名前ねぇ。」
「そして門の向こうにはロンディバルト以外の国があるらしい。」
「他の、国・・・。」
「ふふ、面白そう。」
「私たちの知らない世界が、門の向こうにある。」
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