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大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
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第六話 炎龍再び

「コダ村が村中で逃げ出してるらしい。」
渓谷の下に十数人の着崩れた男たちがたき火を囲んで話していた。
「こりゃぁいい獲物だ。」
「こっちの頭数たりねぇんじゃ?」
「集めりゃぁいい、この前の戦の敗残兵がこの辺りにごろごろいる。そいつらを束ねりゃ、村どころか町を襲うにも申し分ない。」
男たちの話しているたき火の横には馬車とそれに乗っていた商人が首をかっ切られて死んでいた。
「領主を追い出すのも夢じゃねぇぜっ。」
「へへっ、盗賊のかしらから領主様か、悪くない。」
自分が領主様になり、豪華な食事と幾人もの女性に囲まれた姿を想像したが、そんな夢はすぐに闇へと消え去った。
「ひいぃい!?」
いきなり自分たちの頭が死んだことに他の男たちは動揺した。そんな中、渓谷に幼い女の子の笑い声が響いた。声だけ聴くとホラーである。
「おじ様方ぁ~、今宵はどうもありがとう。」
盗賊たちは岩の上の人影に目を向けた。そこにはフリルで飾った漆黒の服装に鉄の塊のように大きく思いハルバート、そして目は血のように真っ赤で細い腕でハルバートを振り回す一人の少女の姿があった。
「生命をもってのご喜捨を賜り、本当にありがとう。」
その間にも彼女をみた盗賊たちは徐々に退いていた。
「主神は、あなた達の振る舞いが大層気に入られてぇ~、おじ様方をお召しになるって仰ってるのぅ~」
彼女が1歩進むたびに1人の盗賊がハルバートで上半身と下半身をお別れさせられた。
そんな中、白い月光で少女の姿がはっきりと見えた。少女はクスリと笑いながらその小さな口を開いた。
「私はロウリィ・マーキュリー、暗黒の神エムロイの使徒。」
渓谷を覆い尽くしていた霧を払うようにハルバートを回転させ、地面に突き刺した。
彼女の正体を知った盗賊たちは恐怖のあまりその場に立ち尽くした。

「「十二使徒の1人、死神ロゥリィ!?」
「ありゃ・・・エムロイ神殿の神官服だぁっ!!」
「に・・・逃げろぉおおっ!!」

「駄目よぉ。」
ロウリィは自分の体重の何倍もあるハルバートを軽々手に持って飛んだ。すれ違いざまに盗賊の体を次々の真っ二つにしていき、斧部を地面に叩きつけて舞い上がった石を盗賊の後頭部に向けて弾き飛ばした。

「ひぃぃ!?」
「うふふふふっ・・・。」
既に最後の一人となった盗賊も、力を込めて振り下ろされたハルバートによって全身が砂煙と轟音と共に消え去った。


・・・・・・・・・・・・・・・


コダ村の避難を支援し続けて既に三日余りが経っていた。
「はぁ・・・。」
ペルシャールは後方に永遠と続く馬車の列を見てため息をついた。
「これって宛でもあるんですか?」
運転している倉田が聞いた。
「ないってさ」
「ないんすか⁉︎」
「敢えて言うなら炎龍が襲って来ないことが分かるまでってらしい」
「ふぅ・・・、逃避行ってのは、想像以上に消耗するな・・・。」
ペルシャールは何度目かわからないため息を吐いた。

第三偵察隊が支援している間、いくつもの馬車が荷物の積みすぎで車軸が折れたり沼にはまったりして落伍していた。その馬車に乗っていた村人は、他の馬車に乗せてももらっていたが、子供数人が兵員輸送車に乗っていた。定員的にはいまだ余裕があったが、これ以上の落伍は防ぎたいと思うペルシャールであった。

車両の増援を頼みたいところであったが、ハイドリヒがフロントライン超えてるから無理ですと拒否したため、現有戦力でどうにかするしかない状況であった。

「前方に・・・カラス?」
「カラスの群れか?」
ペルシャールは双眼鏡を手に持ってカラスの群れを見ていると、その中央にいきなりハルバートが映し出された。
驚いて双眼鏡から目を離すが、改めて双眼鏡に目を当てると、そこにはカラスの群れに囲まれ、路頭に座り込んでいる少女の姿があった。
「ゴスロリ少女!?」
「まじすか!?」
ペルシャールの言葉に即反応した倉田はすぐさま双眼鏡を手にした。その直後少女が立ち上がり、ペルシャールたちの乗る車両に近づいてきた。
「あなた達、何処からいらして~、何方に行かれるのかしらぁ~?」
「・・・なんて言った?」
「さぁ・・・。」
「見た目は子供のようですね。」
3人がそれぞれ言うと、兵員輸送車に乗っていた子供たちが後部扉を開けて少女に向かって走って行った。
「神官様だ!!」
「神官様ぁ!」
「神官、様・・?」
子供たちの口から聞こえる”神官”という言葉にペルシャールは考え込んだ。
日本で言う坊さん的な存在かななどと思案していると、子供たちに続いて大人たちが近づき、跪いて祈りをささげ始めた。
「祈りを捧げているみたいですね?」
「あの変な服装は信仰的な意味合いがあるってことか・・・?」
そんな推測をしていると少女が車両に歩み寄ってきた。
「この変な人達は?」
「助けてくれたんだ、いい人達だよ。」
「嫌々連れて行かれてる訳じゃないのね?」
「うん!!」
「これ、どうやって動いてるのかしらぁ?」
「分かんない。けど乗り心地は荷車よりずっといいよ!!」
「へぇ……乗り心地がいいのぉ?」
子供たちが笑顔でそう言うと、少女はペルシャールを見て唇を小さくひと舐めし、口元に指を当てて思いついたような表情をした。

「私も感じてみたいわぁ。これの乗り心地。」
「えっと・・・さ、ザワールハゥウグルゥ?」

ペルシャールが現地語であいさつすると、少女は後部扉から車両に乗り込み、なぜかエルフの少女の上にハルバートを置くといういじめに近いことをしてペルシャールの膝に乗った。
「んふふふ~♪」
「ち、ちょっとまてっ。」
「ふふふ♪」
「窮屈なんだよ。」
「んふふ♪」
「どいてくれっ。」
「羨ましいです隊長っ!」
「いいから下りろっ。」
「あらぁ?」
「って小銃に触るな!」
「ふふふ♪」
「だから触んなって!」
「羨ましいっすっ!!」
「いや嬉しかねぇ!ってだから触んな!!」
「羨ましいっすっっ!!」
「いいから降りろぉぉおおお!!」

ここでひとつ言っておくが、決して小銃とは男性のあれではなく本当の小銃である。
こんなわけのわからない攻防戦がしばらく続いたが、片膝に乗ってもらうということで何とか妥協してもらい、大統領が少女に手を出すという見出しを出されることは回避された。


それから2時間ほどたつと、あたりの景色は一気に草原から荒地に変わっていた。

「だいぶ雰囲気が変わりましたね。」
「村からだいぶ離れたからな。このまま逃避行も終わりにしたいよ。」
「全くです。」
そう言いながらペルシャールは後方を見た。その視線の先には永遠と続く馬車の列がある。
「こっちの太陽って、日本より暑くないか?」
ギラギラと輝く太陽を見ながら言った。
するとペルシャールは太陽を背にしながら向かってくる物体を見つけた。
それをよく見ると、丘での戦いで遭遇したワイバーンであった。一体程度であれば装甲車の機関砲で何とかなるだろうとペルシャールは思い、まぶしい太陽から視線をずらそうとした。
しかし、そのワイバーンに横から何かが噛みついた。
ワイバーンを遥かに上回る真っ赤で巨大な翼、獰猛な黄色の眼球。


・・・第三偵察隊はふたたび炎龍と遭遇した。
 
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