大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第五話 人命救助 村規模の引っ越し
「燃えてますね・・・。」
「ああ、盛大にな。」
第三偵察隊は、森を一望できる崖上に来ていた。
「大自然の驚異って奴か。」
「というより、怪獣映画です。」
桑原が指差す方向に皆が目を向けた。
「あれはっ。」
「ドラ、ゴン・・・?」
「そうっぽいな。」
「ミースト隊長、これからどうします?」
双眼鏡で炎龍を見るペルシャールに栗林が問いかけた。
「栗林ちゃ~ん、俺だけじゃ怖いからさぁ、一緒についてきてくれる?」
「いやです。」
「あ~そう・・・。」
栗林はペルシャールの言葉を一刀両断するように即答した。
その直後、炎龍は雄叫びを上げて大きく羽ばたき、その場を去って行った。炎龍が去った後も森は燃え続けていた。
「・・・ぁ、なぁ、あのドラゴンさ。何もないただの森を焼き討ちする習性があるのかな。」
「ドラゴンの習性に関心がおありでしたら、隊長ご自身が、今すぐ追いかけてはいかがです?」
先ほどのペルシャールの言葉で悪印象を持たれたのか、栗林が冷たい一言を放った。
「いやそうじゃなくて、さっきのコダ村で聞いただろう?あの森の中には集落があるって・・・。」
その言葉にようやく気が付いた栗林は、すぐに森を見た。
「やべぇっ!」
「おやっさん、野営は後回しだ。」
「了解です。全員移動準備っ!」
第三偵察隊が集落に到着する頃には日もある程度治まり、灰色の雲が空を覆っていた。
「まだ地面が燻ってますね。」
「これで生存者がいたら奇跡っすよ・・・。」
集落の惨状を見て桑原と倉田が呟くように言った。それでも生存者の捜索活動は行われた。
「・・・あの、閣下、あれ・・・。」
「言うなよぉ・・・?」
あまりの惨状に隊長と呼ぶことも忘れていた。
「隊長、この集落には建物のような構造物が32軒、確認できた遺体は27体で少なすぎます。」
「建物が焼け落ちたときに、瓦礫の下敷きになったと思われます。」
未だ形をとどめていた井戸に座っているペルシャールの元に、栗林が報告をした。
「1軒に3人と考えても100人近い人数が全滅か・・・。」
「酷いものです。」
ペルシャールはすでに空になった水筒を口まで動かした。が、当然水がのどに流れ込むはずもなく、水筒を元の位置に戻してため息を吐いた。
「この世界のドラゴンは集落を襲うこともあると報告しておかなければな。」
「丘での防衛戦で遭遇した小さな龍も、12.7ミリ徹甲弾どうにか貫通ということでした。」
「そうだったな。はぁ・・・ちょっとした装甲車だな。ドラゴンの出没範囲も調べる必要が出てくるな・・・よっっと。」
ペルシャールは水筒に水を補給するため、井戸に桶を投げ込んだ。だが、ペルシャールの期待する水に落ちる音はせず、かわりにコーンという音が響いた。
「へ?」
「いま、コーンって・・・。なんでしょう?」
ペルシャールがベルトに入れているライトで井戸を照らした。
「人だ・・・人がいるぞっ!!」
「人命救助!いそげっ!」
「「「了解!!」」」
「いや、人、というより・・・エルフ、か・・?」
ペルシャールは後ろに抱えた少女を見てつぶやいた。
「とにかく、濡れた服を脱がせてっ。」
「ごめん、切るよ。」
兵員輸送車の中では、黒川と栗林が救助したエルフの少女の治療を行っていた。
その間、外では倉田が一人興奮して叫んでいたが、ペルシャールは半長靴に入った水を出してため息を吐いていた。
「隊長。」
10数分後、治療を終えた黒川がペルシャールに近づいた。
「ん?どう、エルフの方は。」
「体温が回復してきています。命の危険は脱しました。」
「そりゃあよかった。」
ペルシャールはふたたびほっと溜息を吐いた。
「それで、これからどうしましょう?」
「集落は全滅しちゃってるし、ほっとくわけにもいかんしなぁ・・・。まぁ保護ということで連れ帰ろう。」
「隊長ならばそうおっしゃると思っていました。」
「俺、人道的でしょ?」
「さぁどうでしょうか?」
ペルシャールが得意げに言うと、黒川は笑顔のまま否定した。
「へ?」
「隊長が特殊な趣味をお持ちだとか、あの子がエルフだからとか、色々と理由を申し上げては失礼になるかと。」
黒川が終始笑顔のままであったことも相まってペルシャールは苦笑いするしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
第三偵察隊は帰還途中もう一度コダ村を訪れていた。
「なんとっ、集落が全滅したと・・・。」
「大きな 鳥 いた。森 村 焼けた。」
ペルシャールは片言でしゃべりながら、カメラで撮ったドラゴンの写真を見せた。
「え、炎龍・・・。」
「そ、そんな。」
「まさか・・・。」
村長の言葉に周囲の村人が動揺した。
「炎龍 火 出す。人 たくさん 焼けた。そして 女の子 一人 助けた。」
「この娘一人か、いたわしいことだ。」
村長は帽子を外して胸に当てた。
「この娘村で保護を。」
ペルシャールが聞くと村長は頭を横に振った。
「エルフの保護はできん。それに我らもこの村から逃げ出さねばならん。」
「村 捨てる?」
「そうだ。エルフや人の味を覚えた炎龍はまた村や町を襲ってくる。」
ペルシャールと村長が会話している間にもコダ村の村人たちは逃げ出す準備を整えていた。
コダ村のはずれでは、ガトー老師とその弟子レレイ・ラ・レレーナが馬車に荷物を運んでいた。その途中ガトーがこけて子供の用に喚いたりレレイにこれ以上詰むのは無理と言われて駄々を捏ねていたが、結局載せれる分だけ載せまくって最後は魔法で馬車を浮かせて何とか出発した。
「・・・この先はどうなっとるんじゃ・・?」
村の出口あたりまで行くと、そこには馬車の列があった。
「ガトー先生っ、レレイっ、実は荷物の積みすぎで車軸の折れた馬車が、道を塞いでいるんです。」
ガトーとレレイを見つけた村人が説明した。
「手の空いている者は集合しろっ!」
「隊長は司令部に応援要請をっ!」
「分かった!」
ガトーとレレイが見たのは第三偵察隊の隊員であった。
「聞いたことのない言葉じゃのぉ。」
「見たことのない服。」
ガトーとレレイは隊員達を見て言った。
その直後黒川が怪我人の確認のために出てきたのを見て再び二人は驚いた。
「お師匠、様子を見てくる。」
そういうとレレイはガトーの静止を聞かず一人馬車を降りて走った。
レレイが現場につくと、そこには馬車が倒れて馬がその下敷きになっていた。
その横には女の子が倒れていた。
「危険な状態。」
レレイは近づくとすぐにそう判断した。
その直後に黒川が女の子の診察を始めた。
「君、危ないから下がってっ。」
古田がレレイに注意するが、レレイは黒川を見続けていた。
「・・・医術者・・・?」
いきなり馬が起き上がり、興奮しているのか暴れ始めた。
BAMBAMBAM!!
馬にライフル弾が3発命中した。撃ったのは桑原だった。
「あなたっ大丈夫!?」
馬が起き上がった際に出来た土煙の中、黒川がレレイに呼びかけるが、レレイは反応せずにただ第三偵察隊の隊員達を見つめていた。
「あの人たち・・・私を、助けた・・・?」
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