悪魔の死
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第一章
悪魔の死
ドイツ第三帝国親衛隊大将ラインハルト=トリスタン=オイゲン=ハイドリヒの名を聞いて顔を顰めさせない者はそれこそ世界に誰もいない。
これはドイツと敵対している連合国の者達だけではない、味方であるドイツのそれも親衛隊の面々でも同じことだ。
「あの男程危険な者はいない」
「恐ろしい男だ」
「悪魔の様に頭が切れる」
「倫理観もない」
「情報を何処からでも入れて己の中に収める」
「その情報を最大限に利用する」
親衛隊、ゲシュタポが入手する情報をだ。
「目的の為には手段を選ばない」
「残忍で冷酷極まりない」
「人間ではない」
「最早な」
こう言うのだった、そしてだった。
親衛隊の者達もだ、彼を遠ざけていた。それは親衛隊長官でありナチスの影の部分を一手に担っていたヒムラーでさえだ。
腹心の者達にだ、彼等と共にいる時に言った。
「あの男は信用出来ないな」
「恐ろしく切れる方ですが」
「それでもです」
「冷酷で残忍です」
「目的の為には手段を選ばれない方です」
ヒムラーの腹心達もこう口々に言う。
「権力志向は異常に強く」
「人を蹴落とすことも躊躇しません」
「本気で次の総統になろうとしておられるとか」
「どうやら」
「そうだな、その途中でだ」
ヒムラーは危惧する顔で言った。
「私もだな」
「閣下の親衛隊長の座もですね」
「奪う」
「総統になるまでに」
「そうされますな」
「私はだ」
それこそというのだ。
「彼の力は認めているが」
「しかしですね」
「それでもですね」
「彼の人間性は全くだ」
それこそというのだ。
「信用出来ない、このままではだ」
「それこそですね」
「閣下が失脚しますね」
「あの方によって」
「私も彼についてはそう思っている」
一見すると小心そうな顔に隠れている鋭い光を放つ目でだ、ヒムラーは言った。
「権力志向が強く冷酷で残忍な切れ者だ」
「政治家、謀略家として極めて有能で」
「優れた方でもですね」
「むしろだからこそ」
「油断がなりませんね」
「そうだ、彼はだ」
まさにというのだ。
「危険過ぎる、ある意味で人を超えている」
「では超人、いえ違いますね」
「そんないいものではない」
側近の一人にだ、ヒムラーは答えた。
「悪魔だ」
「確かに。言われてみれば」
「あの方はです」
「悪魔です」
「人としての情が見られません」
「如何なる弾圧、虐殺、陰謀も平然と行う」
それがナチスの常にしてもというのだ。
「倫理観はない」
「まさに悪魔ですね」
「金髪の悪魔」
「そうした方ですね」
「危険過ぎる」
これがヒムラーのハイドリヒ評だった。
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