ハーメニア
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友達
「全力って!もうやめろミクッ!」
俺が叫ぶ。しかしそんなことは意に介さず、二人の戦いは続いていく。ミクが剣を振り下ろせば、着物男がそれを防ぐ。同じ光景が何度も何度も繰り返されている。
「お父さん!ミクちゃんは私達の友達です。だからこんなことは!」
「そうはいかん。奴は二人の命を狙ってきた。ならばそれを見逃す訳にはいかん」
親父が答える。でもこのままじゃ、ミクは死ぬかもしれない。そんなの、絶対に嫌だ。結月も同じ気持なのか、俺の方を見ている。そうだ、こんなこと許す訳にはいかない!大体だ、俺を殺すつもりならいくらでもチャンスはあった。でも何故今、必ず着物男がいる時にミクは襲撃をかけてきたんだ?
「それは……ミクの心に迷いがあったから?」
「私も同じ考えです。だからまだ、ミクちゃんと分かり合えるはずだって、私は信じてます!」
もしかしたら俺達の考え過ぎなのかもしれない。でも少しでもその考えがあるなら、俺はその可能性を捨てたくない。何よりも
俺達が
「「 ミクちゃんを死なせたくない!」」
私達が
親父が何かを考えている。
「一つだけ手がないこともない。ゆかり、お前だけでは不可能だが、マコトが力に目覚めることができれば」
「あるなら教えてくれ!なんでもする!」
そんなことを話している間も戦いは激しさを増していく。
「ミクちゃん!」
結月が叫んだ。遂に均衡が破れたのだ。着物男がミクを蹴り飛ばす。ミクはその勢いのままステージにぶつかった。
「だから言ったんだ。愚かだと、自身の力を分かっていれば、死なずに済んだものを」
着物男が一歩一歩、ミクに近づいていく。ミクはたたきつけられたまま、動かない。
「親父、早く!このままじゃミクが殺される!」
親父は未だに何も言わない。こいつ……
「アンタなぁ!いいかげんにしろよ!このままじゃ人が死ぬんだ、それも自分の友人が!そんなの見て黙ってられるかよ!」
親父の胸ぐらをつかみながら怒鳴る。たとえそれが俺を殺そうとしたやつだろうと、こんなことが許されるわけがない。だから俺は何がどうしても助けるんだ、たとえこの身を盾にしてでも、ミクは死なせない。
「……ゆかり。あれを使え」
「でも、あれは私は……」
「ここにはマコトがいる。二人分の力があれば、試し価値はある」
「!わかりました、マコトさん。行きましょう、付いてきてください!」
「ついてこいったって、このままじゃミクが!」
「だからそれを防ぐんです!私と、マコトさんの二人で!」
結月が走りだした。
「いけ、マコト。二人でなら止められる」
「ああっ!行ってくる!」
親父に背を向けながら結月を追う。
「……やはりこうなるか。お前たちには戦ってほしくなかったが……」
PM XX:XX
「それで、止めるったってどうやって!?」
「このステージ内でハーメニアは、できることが2つあります。まず一つは、身体能力の向上です。これはその言葉通り、身体能力が大幅に上がります。もう一つは響器きょうきの作成です」
また聞き慣れない言葉が出てきた。響器ってなんだよ。名前からして恐ろしいぞ、それ。
「響器とは、ハーメニア個々が持っている音の形です。がくぽさんやミクちゃんが持っているものがそれです。がくぽさんが持っているのが『楽刀・美振がくとう・みぶり』という名前があります」
音の形か……ハーメニアが持ってるってことは
「だったら、俺やゆかりも?」
「私も出すことには出せますが……一人では不可能なんです」
「不可能?なんで」
「強力すぎるらしいのです。だからマコトさん、貴方に手伝って貰いたいのです」
結月が手を差し出してきた。
「私に力を貸してください。ミクちゃんを助けるために」
真剣な目でこちらを見つめる。
「それはこっちのセリフだ。やるぜ、結月!」
「はい!」
結月の手を取ってミクの元へ走る。身体の中に何かが入ってくるのがわかる、これは、結月の音?静かだけど暖かくて、凛としていて。なんだか安心する。
「マコトさん!行きますっ!」
「ああっ!」
繋いだ手とは逆の手に光が集る。それは次第に形をなし、俺達の手にはそれぞれ別の武器が宿っていた。
「これは……チェーンソー?」
結月の手にあったのは、その姿には似つかわしくない、大きなチェーンソーであった。紫と黒でカラーリングされたそれは、ブルンブルンと、獣のような音を上げている。結月が驚いたようにそれを見ている。
「俺の方は着物男と同じ、刀だな。名前は」
鍔の近くに名前が彫られている。『紲月歌』……せつげつかでいいのだろうか。刀身が白く輝いており、月明かりを反射して幻想的な雰囲気を醸し出している。
「話は後です!やりますよ!」
結月が先行してミクのもとに加速する。俺もそれに習い、足に力を溜める。すると、足に銀色の音波が螺旋を描き、俺の身体が強化されているのがわかる。
「ミクはやらせない!絶対に!」
PM XX:XX 初音ミク視点
「最後に、何かいうことはあるかい?」
「……ばーか」
「ふん、バカって言った奴が馬鹿だ。気休めかも知れないが、君は強かったよ、それじゃね」
こんな強がりをしたけども、もう私の身体はボロボロだった。視界だって定かじゃないし、相手の声もうっすらとしか聞こえない。あ~あ、結局私ってこの程度だったんだ。あれだけ意気がっておいて、こんな簡単にやられて、任務も遂行できずに……。
(大体そうだよ、マコトさんを殺れなかったのなんて、完全に馬鹿じゃん。今までだって殺す機会なんていっぱいあったのに)
こんな時なのに、思い出すのは学校でのことばかり。マキさんにあってギターを教わって、マコトさんに会って優しくしてもらって。ああそうか、私がマコトさんを殺せなかったのは、そういうことか。
(楽しかったんだ。一緒にいるのが、だから『兄さん』たちの命を無視してまで私は……)
刀が振り下ろされるのが分かった。ああ、もう少しだけ、みんなと一緒に……
「させるかぁ!」
「させませんっ!」
…………なん……で?
「なんで……。マコト……さん、それにゆかり……さん」
PM XX:XX
結月と俺で着物男の刀を止める。これは流石に予想外だったのか、驚いた表情を浮かべ、後ろに下がった。しかし、これはなかなか。体にくる物があるな。
「驚いた。ゆかりはまだしも、君が響器を発動させるとはね」
「そんなことはどうでもいいんだよ!これ以上続けるなら、俺達が相手だ!」
紲月歌を着物男に向け、叫ぶ。結月も隣でチェーンソーを構え、既に臨戦態勢だ。
「……やめた。興ざめだ。リーダー、また何かあったら呼んでください」
刀を納め、姿を消した。
「消えた!?」
「ステージを無効化なんて……やっぱりあの人は次元が違う」
そんなレベルなのか。勢いと覚悟だけで飛び出したが、正直戦いにならなくてよかった。
「ミクちゃん!」
結月がミクのもとに向かう。俺も急いでミクのもとに走る。
「大丈夫か、ミク!」
「まだ意識は辛うじてあるようです。マコトさん、手を」
結月が手を差し出してきたので、先ほどのように握り返す。今度は俺の中から、力が結月に流れ込んでいく。
「私の音と、マコトさんの音を合わせて治癒を試みます」
「俺はどうすれば?」
「ずっと音を流し込んでいてください。できればミクちゃんとの思い出を浮かべながら」
結月に言われた通り、ミクとの思い出を思い返す。
『回想』
ミクと初めて会ったのは、今から一年前。俺達が二年生だった頃だ。
『あなたが新しく入ったギターの子?』
『え?そ、そうですけど……』
『私、弦巻マキ!一応だけど、ここでギターさせてもらっってるの。話は聞いてるよ~』
最初に話しかけたのはマキだったな。筋の良いギターの子がいると話を聞いて、喜々として部室に行き、ミクと話していたのを覚えてる。初めは有名な人物に話しかけられて、焦ってたが、少しずつ一緒に演奏をするごとに仲良くなっていった。
『マコトさんはなんで一人暮らししてるんですか?』
『……それは(カクカクシカジカ)』
『うわぁ、子供……』
偶にすごくイライラさせることを、悪気なしにいうところは少し苦手だったが。
それでもミクと居るのは楽しかった。例えお前が俺を殺すために近くにいたとしても、それでも俺は、俺達はお前と一緒にいたい。だから、だから死ぬんじゃないぞ!ミクッ!
PM 21:10
ステージが少しずつ消えていく。
「…マコ…ト…さん?それに、ゆかりさん」
ミクが口を開いた。まだ少し苦しそうではあるが、どうやら山場は越えたようだ。結月も安心したのか、その場にヘタリと座り込んだ。
「全く、ヒヤヒヤさせやがるな」
「私はあなた達を殺そうとしたんですよ?何でそんな私を、命をかけてまで……」
訳が分からないというふうに言うミク。その言葉に俺と結月はきょとんとした顔でミクを見る。何だ、そんなことも分かってなかったのか。
「そんなのきまってるだろ」
「そうですよね」
お前が
「「 ともだちだから」」
貴方が
それをいうとミクが、目を見開いた。そして
「ッ!私……私っ!」
ミクが泣き始めた。
こうして俺達は無事にミクを、大切な友達を救うことが出来たのだった
続く
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