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4部分:第四章


第四章

「それだけでね。もうかなり違うわよ」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「今朝起きたらすぐに走ってるじゃない」
 彼女が言うのはそこだった。二人で走っている。朝とはいえ女一人だと物騒なのと二人の方が楽しくすることができるからである。
「だから走ってる時にきたら」
「辛いってわけね」
「だからそれはね。ちょっと」
「そうね。考えたらね」
 智巳もそれを言われて気付く。気付いて苦笑いになる。
「それはまずいわね」
「だからそれはなしにしましょう」 
 あらためてこう提案する真由子だった。
「残念だけれど」
「一応公衆便所もあるけれどね」
「それでも辿り着くまでに来たらね」
「地獄よ」
 一言で充分の話であった。
「そうなったらね。私も経験あるから」
「そうなの」
「帰るギリギリでね。来たことがあるわ」
 真顔だった。どうやらこれは彼女にとって辛い思い出らしい。
「慌てておトイレに入ってね。本当に間一髪だったわ」
「危なかったのね、本当に」
 真由子はそれを聞いて半分以上我が身のことのように思った。こうした話は無意識のうちに感情移入してしまう。彼女もまた同じだったのだ。
「聞いていて冷や汗が出るわ」
「怖いでしょ」
「下手な怪談よりもね」
 見れば彼女もまた真顔であった。
「怖い話ね」
「だから。これはやめておいた方がいいわね」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「やっぱり運動と食生活なのね」 
 今度はこれを言うのだった。
「ダイエットにも便秘にも。それなのね」
「両方一緒じゃない」
「そうね」
 言われてみればそうだった。同じなのだ。
「出たらそれだけ痩せるんだから」
「汚い話だけれどね」
「仕方ないじゃない。それでも健康な証拠よ」
「言ってしまえばそうだけれど」
「それに真由子」
 彼女自身に対して言ってきたのだった。
「何?」
「あんた、痩せたわよ」
 にこりと笑って真由子に言ってきたのだった。
「早速ね」
「痩せたかしら」
「ええ、それもかなりね」
 こうも彼女に語る。
「痩せてきたわよ。いい感じよ」
「だったらいいけれど」
「体重は計ってるわよね」
「毎日ね」
 これは欠かしてはいなかった。ダイエットならば当然である。
「やってるわよ」
「いいわ。それで何キロ痩せたの?」
「三キロ」
 お風呂の中から右手を出して三本指を見せて答えてみせた。
「三キロ痩せたわ」
「目標は何キロの減量なの?」
「十キロ」
 こう答える。
「そこまで考えてるんだけれど」
「もう三キロね」
「まだ三キロじゃないの?」
「いいふうに考えるのがコツよ」
 優しい笑みで真由子に語る。
「こうしたことはね」
「だからもう三キロなの」
「まだ、って考えるのともう、って考えるのとで全然変わってくるからね」
「気の持ちようでも全然違うのね」
「これ、考えたことないでしょ」
 このことも真由子に対して尋ねるのだった。
「まだとかもうって」
「ええ、私はどっちかっていうと」
 視線を斜め上に右から左に泳がせる。考えている目であった。
「まだ、って考えるから」
「人によるけれど真由子にはよくない考えね」
「そうなの」
「引っ込み思案だとね。余計にしんどいわよ」
 真由子に教える。
「だから。ここはね」
「もう三キロって考えるのね」
「あとたった七キロ」
 こうも言う。
「頑張ってね。たった七キロだから」
「わかったわ。じゃあ智己」
「何?」
 今度は彼女が真由子の言葉に顔を向ける番だった。
「あんたの目標は何キロなのかしら」
「五キロね」
 こう答えてきた。
「それが目標よ」
「五キロか。私の半分ね」
「そうね。完全に半分ね」
「じゃあもうすぐじゃないの?」
 ここまで聞いて智巳に尋ねた。
「今三キロ痩せたから」
「残念だけれど私は二キロも痩せていないわよ」
「えっ、そうなの」
 それを言われて目を丸くさせる。
「同じだけ動いていて同じものを食べてるのに」
「体質よ」
 今度言うのはそれだった。
「体質なの」
「そう。真由子は油断するとすぐ太るでしょ」
「ええ、まあ」
 その通りだった。完璧なまでに当たっていた。
「そういう体質なのよ。だから困ってるのよ」
「それはかえっていいのよ」
「いいの!?」
「言い換えればすぐに痩せられる体質よ」
 こう真由子に述べる。
「簡単にね」
「簡単に」
「そうよ。だってもう三キロも痩せたじゃない」
 そのうえでこうも言ってきた。
「だから。あと七キロだってすぐよ」
「すぐなの」
「だから安心して。痩せるのは私より楽だから」
「わかったわ。それにしても智巳」
「何?」
「私がダイエットする理由は結婚だけれど」
 ウェディングの為だ。これははっきりしている。
「けれど智巳はどうしてなの?もう充分痩せてるのに」
「それは秘密よ」
 しかしそれについては笑って答えようとしない。何かを明らかに含ませた怪しい笑みであった。それをわざと見せてきたのである。
「秘密。いいわね」
「秘密主義なのね」
「ええ。その時になったら言うわ」
 しかしこうも言うのだった。
「その時にね」
「その時って」
「絶対に言うから」
 一応はこれは保証してみせるのだった。
「それは安心してね」
「安心って。そういうものじゃないと思うけれど」
「まあとにかく。ダイエット頑張りましょう」
「ええ、まあそれは」
 これに関しては異論はない。彼女もそのつもりだ。
「御願いするわ。こちらもね」
「ええ。それじゃあ明日もね」
「まずはランニングからね」
「そういうこと。最近身体軽くなってきたでしょ」
「ええ。特に」
 真由子は気付いた顔で答える。実際にあることに気付いたのだ。
「走ってる時に。重さが消えたし」
「それだけじゃないでしょ」
「滑らかに動けるようになったわ」
 こうも答えるのだった。
「何か。軽くなったのはわかるけれど」
「寝る前にストレッチしているからよ」
「ストレッチなの」
「そう。運動はいいけれど怪我をしたら何にもならないじゃない」
 基本中の基本だった。それを押さえつつやっているのが智巳である。
「だから。ストレッチもしておかないと」
「それで私にそれも勧めたのね」
「そういうこと。あれって身体を柔らかくするじゃない」
「ええ」
 これについては真由子も知っていた。彼女もそれ位の知識は備えているのだ。
 
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