我が剣は愛する者の為に
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賊に支配された村
星が旅に同行する事になったが基本的に何か変わるというのはなかった。
俺達は荊州南陽に向かう事を星に話すと彼女は異論はないとの事。
何でも孫堅の噂を聞いて、直接目で見て判断したいとの事らしい。
前にも話したが星は何処かに仕えようとしているらしい。
噂や評判などを聞いて、最後に自分の目で見て判断するらしい。
ちなみに孫堅の噂は気になったので聞いてみた。
「孫堅殿は江東の虎と呼ばれているのですよ。
海賊との一戦で数では圧倒的に不利の状況で、自分達の軍は大軍である事を示すような指揮をして海賊を撤退させた。
その後も数々の功績を残しつつ、高い指導力で軍力を強化。
この辺りではかなり有名な人です。」
星の言葉を聞いて、師匠と会った時の孫堅を思い出す。
とても話を聞いた限りの人には思えないのが現実だ。
しかし、雪蓮に怒った所を見るとやる時はやる人だと思う。
オンオフを切り替えを上手く使っているのだろう。
何より、雪蓮や冥琳と再開するのも楽しみしている。
華佗には冥琳の病気について治療をお願いしたのだが、どうなったのだろうか。
「縁殿、顔がにやけていますぞ。」
色々と考えていると星が話しかけてきた。
手を自分の頬に当てると、少しだけ笑っているのが分かった。
どうやら、自然と頬が緩んだらしい。
「孫堅殿に会うのが楽しみなのですか?」
「そうだな。
小さい頃、師匠と一緒に孫堅さんに会っているんだ。
その娘と親友にもな。
久しぶりの再会だからな、少し顔に出てしまったみたいだな。」
「ふふ、縁殿は戦っている時とそうでない時と別人ですな。」
星は軽く笑みを浮かべながらそう言う。
そうなのか?、と首を軽く傾げながら聞いてみる。
「そうなのか?」
「私と初めて戦った時もそうでしたよ。
剣のように鋭い闘気を発しながら戦う様は武神のようでしたよ。」
「星、武神は言い過ぎだ。
俺より強い奴なんて幾らでもいる。」
あの呂布とか。
実際に戦った事ないけど。
それでも武神は言い過ぎだ。
俺は神でも何でもない、ただの武術ができる一般人だ。
「御謙遜を。
少なくとも私が戦ってきた中では圧倒的な強さを持っていますよ。
そんな強さを持ちながら、今は子供のような無邪気な笑みを浮かべている。
本当に別人みたいですよ。
でも、そこが縁殿の良さなのかもしれませんが。」
さっきから俺をベタ褒めする星。
流石に照れたので顔を軽く逸らす。
すると、ニヤニヤと笑みを浮かべながら逸らした視線に入ってくる。
「な、何だよ。」
「縁殿、照れておりますな。」
やっぱりばれているみたいだ。
「て、照れてないよ!」
それでも否定してしまうのは俺が男としてのプライドがあるからなのか。
それが分かっているのか、星は妖しい笑みを浮かべる。
「ふふ、今の縁殿は可愛いですな。」
「か、可愛い!?」
思わず声が裏返る。
それを聞いた星は堪えかねてのか、大きく声をあげながら笑い出す。
俺はさらに恥ずかしくなり、顔を俯かせる。
ちなみにだ。
この会話に一刀は一切入ってこない。
理由は簡単だ。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・」
息をするのも苦しいような息を吐きながら、俺達より五歩くらい離れた位置を歩いている。
手に持っている木刀を杖代わりにしながら、必死に歩いている。
馬には荷物などを乗せているが一人くらいなら乗る事はできる。
けど、一刀は乗らない。
少し心配したのか星が後ろを確認しながら、俺に囁く。
「縁殿、よろしいのですか?
一刀殿をあのままにして。」
「さっきも言ったけどこれも修行だ。
何より、あいつ自身から乗る必要はないって言ったんだ。
俺はあいつの意思を尊重するよ。」
それが一番の理由だった。
星が旅に同行するようになって、彼女も一刀の修行に付き合ってくれた。
その為か普段の修行よりもきつくなり、今のように息も絶え絶えになっている。
修行が終わった時には足は震え、肩で息をして木刀を杖代わりにしないと歩けないくらい疲労が溜まっていた。
さすがに、俺も馬に乗って休憩しろと言ったが、一刀は息を切らしながら言った。
「はぁ・・・い、い・・・
これ、も・・はぁ・・はぁ・・・しゅぎょ、う・・・」
それだけ言って一刀自ら歩き出した。
だが、歩くペースは遅く今の状況になっている。
この旅で一刀は自分の存在がどれほど大きなものであるのか認識しつつあった。
街などによると一刀の噂は広まっていて、彼にこう言う者が増えてきた。
「御使い様!
どうか・・どうか、この国を救ってくだされ!!」
別に一刀に金をくれとか、早く平和にしろなど言ってくる輩もいるにはいた。
しかし、さっきのように心から一刀にお願いをする人が圧倒的に多い。
早くしろ、とかそんなのではなく、この国を救ってほしい。
単純な願いだ。
天の御使いという不確かな存在にすがりつかないと生きていけない人達が多かった。
それを聞いて回ってからだろうか。
一刀の剣の重さが増してきたのは。
あいつはあいつなりに自分の肩書きの重さを受け止め、背負っている。
だが、今のあいつは明らかに無理をしている。
このままでは取り返しのつかない事になるだろう。
腕に力が入らないのか、支えになっている木刀が滑る。
そのまま前に倒れそうになる所を俺が支える。
「ったく。
一旦休憩を入れるぞ。」
「ちょ・・・まだ、行ける。」
「うるさい、黙って休んでいろ。」
俺は星に頼んで水の入った竹で出来た水筒を貰う。
それを一刀に渡して、地面に座る。
一刀は俺が休む所を見てゆっくりと俺の隣に座る。
星は空気を読んだのか、少し離れた位置で休憩している。
水を飲んで落ち着いた一刀に話しかける。
「落ち着いたか?」
「ああ。
でも、休んでいる暇は。」
「確かにないな。
こうしている間にも不幸になっている人もいる。」
「だったら!!」
「それでも、お前が無理して身体を壊したらどうする?
二度と剣も振る事のできない身体になったらどうする?」
俺の言葉を聞いた一刀は黙り込む。
言いたい事をちゃんと理解しているようだ。
俺は言葉を続ける。
「剣を振るうだけが全てではないが、それでもお前には前に立ってほしい。
焦る気持ちも分かるが、まずは自分の身体を大事にしろ。
お前は天の御使い。
この国の民の希望でもあるんだ。
そんな奴が身体を壊したら話にならないぞ。」
「そう・・・だな。
悪い、何か焦っていたみたいだな。」
一刀は力のない笑みを浮かべて言った。
俺は拳を突き出す。
「お前が道を外れそうになったらそれを正すのが俺の役目。
それは逆も言える。
俺が外れそうになったら頼むぞ。」
「ああ、任せてくれ。」
突き出した拳を自分の拳と軽くぶつけ合う。
少しリラックスしたからなのか、眠気が襲われた一刀は気がつけば寝息を立てて寝ていた。
好きなだけ寝させてあげよう、と思いそのままにする。
場を見計らって星が隣に座る。
「すまんな、気を遣わせて。」
「構いません。
一刀殿は無理をしていたのは私も分かっておりましたから。
しかし、お二人の間には揺るぎ無い絆がありますな。」
「そうか?」
「そうですよ。
少し羨ましいです。」
星は膝を腕で抱える。
二人の間に言葉がなくなり、一刀の寝息が聞こえるだけだ。
ふと、星の方を見ると星がこちらを向いていた。
「何か用か?」
「いえ、一人一人をちゃんと見て気遣う優しさ。
縁殿は王に向いているのかもしれませんな。」
「何なら、俺の所に仕えてみるか?」
冗談半分で言ったが満更でもない表情で星は言う。
「それも良いかもしれませんな。」
「えっ・・・」
「ん・・・んん・・・あ、れ・・・?」
その時、人知れず寝ていた事に驚きながらも一刀が起き上がる。
それに合わせて星は立ち上がり、馬の世話をする。
一刀は眠そうに欠伸をしながら聞いてくる。
「ふわぁぁ~~~~何かあったか?」
「いや、別に。」
結局、星にあの時の言葉を聞き返す事はなかった。
あれからさほど無理することなく一刀は修行に打ち込んだ。
荊州南陽には順調に向かっている。
今は森林が生い茂る街道を歩いている。
ここを超えて少し歩けば、南陽に着く筈だ。
俺達は雑談でもしながら歩いていると、近くの茂みががさがさと揺れる。
ここは森だ。
熊などが出てきてもおかしくはない。
軽く剣を掴みながら、警戒する。
茂みから出てきたのは肩や背中に矢が刺さった男性だった。
俺達は驚きながらもその男性に近づく。
「おい、大丈夫か!?」
一刀は男性の容体を確かめながら声をかける。
星は馬から包帯などを取り出し、怪我の治療をする。
旅を長くしているからか、その手際が良かった。
男性の方も矢は刺さっているが気は確かのようだった。
俺は男性が出てきた茂みの奥に視線を向ける。
もし彼が獣にやられたひっかき傷ならまだ自然と言える。
だが、森の奥からそれも何本も矢が刺さっているなど自然ではない。
眼を凝らすと奥に人影が複数見えた。
彼らには弓や剣などを持っている。
彼らは何かを話し合うと、そのまま森の奥に消えていく。
警戒を緩める事無く、俺は怪我の治療に手伝う。
「あ、ありがとうございます。」
「何があった?」
俺が聞くと、男性はゆっくりと話し始めた。
「私はこの森の奥にある村の者です。
私達の村は貧しい村ですが、それでも協力し合いながら生きてきました。
ある時、賊の集団が私達の村を襲いに来たのです。
その時は私の村にとても強い人がいたので撃退する事はできました。
ですが、賊達は諦めていなかった。
奴らは村の子供を人質にとり、その人も自分の娘を人質にとられたのです。」
「ひどい。」
一刀は率直な感想を口にする。
男性は涙ぐみながら話を続ける。
「賊達は私達を殺さず飼う事を選びました。
子供達を殺されたくなかったら、食料を提供しろと。
ただでさえ、貧しい村なのに賊達の言い様に喰われていき、今では生きてくだけで精一杯な状況です。」
「反撃の隙はなかったのか?」
星が質問すると男性は大きく首を横に振る。
「私達の村で唯一戦えるその人は腕を買われ、賊側の用心棒として連れて行かれました。
その人はとても強くて優しい人です。
私達が幾ら束になっても敵いません。
でも、その人は雇われている立場を利用して自分が食べる筈の食料を渡してくれたり、食料を横流ししてくれました。
ですが、それでも限界はあります。
だから、私達は決意したのです。
この村を救ってくださる人を探しに行こう、と。
近くの街まで行き、誰かに助けて貰おうとしましたが、村を見張っていた賊に見つかってしまい今に至るのです。
貴方達が居なければ、どうなっていたか。」
すると、男性は懐から小さな袋を取り出す。
それを俺達に差し出す。
「少ないですがこの中にはお金が入っています。
見た限り武芸者のお方とお見受けしました。
どうか、私達の村を救ってください!」
土下座しながら男性は言う。
俺達は頷き合い、俺はしゃがみ込む。
「顔を上げてくれ。」
俺の言葉に男性は顔を上げる。
「そんな話を聞いたら黙っていられない。
お金は入らない。
すぐに村まで案内してくれ。」
俺がそう言うと男性は涙を流しながら、何度も頭を下げてお礼を言う。
男性の案内の元、森の中に入る。
森の中に入って歩いている時だった。
ボゴォ!!、と鈍い音と同時に何かが倒れる大きな音が聞こえた。
俺達は顔を見合わせる。
「助けを求めたのはあんただけか?」
一刀が聞くと男性が頷く。
「先に行くぞ。
後からついて来い。」
そう言って、俺は音のした方に向かって走る。
修行時代にこういう森を走っていたので、颯爽と走る。
音のする方に向かうと人影が見えた。
そこには身体が不自然に凹んだり、曲がっている賊が五人倒れていた。
さらには木も峰の方が強い衝撃でも受けたのか、へし折れておりその場には同じように凹んでいる賊が倒れている。
その傍に赤い服を纏い、つむじ辺りの髪をサイドに分けたオレンジ色の髪をした女性が立っている。
彼女の手には二本の剣が持たれている。
長さは八十センチくらいだろうか。
刃はなく、ゴツゴツした鉄の棒が代わりにある。
鉄鞭と呼ばれる武器だろう。
状況を察するに彼女がこの賊を殺したのだろう。
俺は警戒しながらも尋ねる。
「お前がこれをしたのか?」
声をかけるとこちらに振り向く。
「友人の頼み事でこの近辺に村があるかどうか確かめに来たら、賊が襲い掛かってきてね。
貴方は何をしに来たの?」
答えようとした時、後ろから一刀達が遅れて到着する。
事情を説明すると彼女は剣を収める。
「なるほど。
賊に支配された村ね。
貴方達はそれを助けに行くと。」
「そうだ。
あんたはどうする?
村がある事は分かったが。」
俺がそう言うと軽く笑みを浮かべて言う。
「もちろん手伝うわよ。
そんな村を放って帰ってきたら怒られちゃうし。
何より、村を放っておくわけにはいかないしね。」
彼女は俺に手を差し出してくる。
そして、こう言った。
「私は太史慈、字は子義。
少しの間かも知れないけど、よろしくね。」
後書き
太史慈の武器は史実では弓ですが、私の小説では鉄鞭です。
ご了承ください。
服に関しては恋姫の孫策の服に露出面が少なくなり、動きやすい服をイメージしてくださると分かりやすいかもです。
誤字脱字、意見や感想などを募集しています。
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