鎮守府の床屋
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番外編 ~夜戦トーナメント~
ハル、将来の危機
『次の試合は、ハルの膝枕を狙うみんなにとっては憎きラスボスの登場だよー』
「誰がラスボスだクマッ!!!」
怒髪天を突くとでもいいたげにアホ毛をまっすぐ上に伸ばした妖怪アホ毛女が、北上のアナウンスに噛み付いていた。その姿はどう見てもラスボスにしか見えない。
対する第一試合の勝者ビス子は、いくら国籍を詐称しようが日本人になりすまそうが、やはり綺麗な青い瞳と金髪を称えた白人。まさに妖怪アホ毛魔王とファンタジー世界からやってきた正義の騎士ビス子の一騎打ちとでも言うべきか……
「もういいわよ……ヤパーネリンでいいわよ……私、どいっちゅなのに……」
「クックックッ……ここに来て戦意喪失したクマ?」
「そんなわけないでしょ!! ハルの膝は明け渡してもらうわよ!!」
「あの膝は球磨の膝だクマ! 誰にも渡さんクマッ!!」
『……と言われていますけど、言われたハル兄さん、感想は?』
「いちいちコメントを求めんでもええわ……」
あんなことを堂々と言われても、こっちが恥ずかしい……
「お姫様だなぁハル。ニヤニヤ」
「隼鷹、さっきから提督さんがお前のこと可愛い可愛いって……」
「すいませんハルさんやめてくださいおねがいします」
それはまぁ別にいいとして、なんつーか第一試合のときよりも気合というか何というか……さすがに気迫が違ってきてるなぁ。特に球磨。珍しいぐらいに戦闘意欲が満々だ。
「クマ……いや、ここはあえてクマ・ヨシダと呼ばせてもらうわ!!」
「……?!」
「あなたの将来は祝福してあげる……でもね……ハルの膝枕だけは、譲れない!!」
『ねーねー。ヨシダって?』
「俺の名字だよ……お前らいっつもハルハル言ってて俺の名字が吉田だって忘れてただろ……ビス子はよく覚えてたな……」
しかしなんつー恥ずかしいことを……。だが、そんな揺さぶりであの妖怪アホ毛魔王が多少なりとも動揺なんてするはずもなく……
「クックックッ……そんなことで動揺するほど、球磨は甘くないクマっ」
「?!」
「今、ハルはお姫様クマ。ということは……」
「……!!」
「そう!! ハルの方こそ、『球磨型軽巡洋艦・ハル』と呼ばなければならないクマッ!!」
うわー……いやだー……。お姫様だけではいざしらず、俺、艦娘になるのかー……しかも球磨型かー……。
「し、しまった……この一人前のレディーであるビス子が……このような単純なミスを……!!」
お前もしまったじゃないだろビス子。何についてしまったなんだ。何が単純なミスだったんだ。後ででいいからゆっくり聞かせろ。
「むはははははは!! 一人前のレディーが泣くクマァアアッ!! ハルはこの栄えある球磨型軽巡洋艦の六番艦になるクマッ!!!」
提督さん……俺もう帰っていいすか。明日の準備ありますし。
「駄目だハル。お前はこの戦いの発端。すべての戦いを見届ける義務があるッ!」
「めっちゃカッコイイことをドヤ顔で言ってますけど、発端は暁ちゃんとビス子の上申書ですからね? その辺勘違いされちゃ困りますよ?」
『じゃー煽り合いはその辺にしといて、そろそろ第三試合はじめるよ。やっちゃってー!!』
「行くわよクマッ!!」
「クマァァアアアア!!!」
漫才としか思えない二人の寸劇も終わり、演習場の照明が落とされる。その直後から、演習場にドカンドカンと休むこと無く轟く砲撃音。これは……
「他の試合に比べると予想以上に激しいな」
「ですね。二人の気迫が伝わってきます」
『フォイヤー!!!』
『舐めるなクマァああああ!!!』
あれだけアホな寸劇をやってたくせに、戦いとなると二人は気性が激しいんだなぁ。
「クマッ!!」
「クッ……まだやれるわよ……フォイヤー!!!」
「被弾クマッ?!!」
今『被弾』て聞こえた気がするけど大丈夫か……?
「心配はいらん。演習用の模擬弾だから大丈夫だ」
「ホッ……そうですか……」
『なになに? 自分の姉さんが心配なのハル?』
「アホ。……姉さん?」
『だってハル、球磨型軽巡洋艦六番艦になるんでしょ? ハルが妹になるのかー……』
「よし。姉そっくりのアホ毛をこしらえてやるから、あとでちょもらんまに来い」
『やーだよ』
そうこうしている間にも試合は続く。心持ち、二人の砲撃の回数が少なくなってきた。……すんげーどうでもいいツッコミなんだけど、北上と隼鷹、解説として機能してなくね?
『だってしょうがないじゃん隼鷹酔っ払ってぐでんぐでんになってるし』
『ヒャッヒャッ! 試合を見ながら一杯ってのもオツでいいねぇ~!!』
「……だからさっきから隼鷹は黙ってたのか……」
「そろそろ決着だな」
「なるほど」
『さすが提督。こっちからじゃわかんなかったよ』
おいどうした解説・北上。仕事を放棄するな。
「これでダス・エンデよ!! フォイヤッ!!!」
「甘いクマッ!!!」
「しまッ……?!」
「クマァアアッ!!!」
周囲に『バクゥァアアアアン』という、トンカチでフライパンを思いっきりぶん殴ったような音が鳴り響いた。なんだこの音。今まで聞いたことないような……
『ストップ。試合終了ー。ビス子が大破判定を受けたので、勝者は球磨姉ー』
演習場の照明がついた。その時演習場に立っていたのは球磨。そしてそのそばでは、さっきの暁ちゃんと同じように、ビス子が海面にぺたんと女の子座りをしていた。
「……やられたわ。まさか素手で艤装を壊せるとはね」
「球磨は張り手には自信があるクマッ」
球磨のそのセリフを聞いて改めてビス子の艤装を見ると、主砲の部分にちょうど球磨の手ぐらいの大きさの手形がくっきりついていた。……俺って、常日頃あんな強烈なツッコミ受けてたんだ……。今更ながら空恐ろしくなった……。つーか頑丈だなぁ俺って。
「さすがね。……よかったら私にもそのやり方教えて」
「いいクマ!」
ビス子は素直に負けを認め、球磨はそのビス子の手を取り、自身の技術を素直に伝える。うん。いかに勇者と魔王の戦いといえど、試合が終わればノーサイド。互いの健闘を讃え合うその姿は清々しい。
さて。次はいよいよ決勝戦。妖怪アホ毛魔王vs妖怪夜戦女。一体誰がこの組み合わせを予想したであろうか……世紀の妖怪大戦が、今始まる……!!!
「ムハァー……夜戦……早く私に、次の夜戦をォオ……!!!」
「クックックッ……ハルを明日から球磨型軽巡洋艦六番艦にするクマ……!!!」
誰か-。助けてー。私、このままだと男なのに艦娘にされちゃう。助けてー。
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