鎮守府の床屋
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番外編 ~夜戦トーナメント~
妖怪夜戦女vs桜の木の下で眠る獅子
「なんか加古の煽り文句がシュッてしててかっこいいクマ……」
「そうか?」
「クマっ」
まぁなぁ。『獅子』なんて単語を選んだんだからけっこうかっこよく映るのかもしれないな。
「ふっふーん……川内、重巡洋艦の本当の力、見せてやるからね」
二人はすでに演習場に入っている。加古は腕を組み、自信満々にそう言ってのけた。俺が付けた煽り文句はあながち間違いではないようで、今の加古はまさに眠る獅子の如き貫禄に満ちあふれている。
『艦種的に考えたら、今のメンバーの中で1番夜戦が強いのは加古だからね』
艦娘のことにやや疎い俺に対し、アナウンスの形で北上がそう教えてくれた。なるほど。ということは、実は今回のトーナメントの優勝候補筆頭なのかもしれないな。
一方……
「ハァー……ムハァー……早く……早く合図をォオ……夜戦……ムハァー……夜戦は……」
川内は暴走した汎用人型決戦兵器みたいな前傾姿勢で肩で大きく息をしつつ、焦点の定まらない目で加古を見ているようだ。……提督さん、川内はあれですか? 夜戦中毒的な何かなんですか?
「なんか最近、輪をかけてひどくなってきた気がするな川内は」
「そうなんすか?」
「ああ」
自身の顎をさすりながら不思議そうにそう言う提督のそばには、顔を真っ赤にして申し訳無さそうに佇んでいる神通と、その横でアイドルスマイルを周囲に振りまきながらぴるんぴるん回っている那珂ちゃんがうっすら見えた。
「ちくしょう……張り倒してぇ……ッ!!」
「んお?」
『じゃあ第二試合はじめるよ。やっちゃってー!!』
「いくよぉぉおおおおおお!!」
「やせぇぇええええええええん!!!」
ついに第二試合の火蓋が切って落とされた。照明が落ちる寸前の二人の姿は、まさに威風堂々な女戦士と、危険極まりない夜戦変態とでもいえばいいのだろうか……なんかそんな風にしか形容できないんだけどいいのだろうか……。
『いいんじゃない? 川内も楽しそうだしさ-』
「いいならいいんだけどな……」
そして、今回の試合は、先ほどの第一試合と根本的に違うところがあった。
『ふんっ』
『や……ちょっ……』
『ふーん!』
『こおのっ……変態野郎ッ……!!』
『ふーん!!』
『ちょっ……スカートひっぱら……やっ……』
……提督さん、あの二人は暗闇にかこつけて、一体何をやってるんでしょうか。
「元々川内は主機をフル活用したアクロバティックな動きが得意だ。加古の周囲を動きまわり、翻弄しているのかもしれんな。スカートひっぱったりして」
ものすごいドヤ顔でそう言う提督さんだが、内容が内容だけに素直に感心できん。翻弄するのはいいとしても、なぜスカートを引っ張るのか……
「こんのぉおッ!! 放せッ!!」
「ふんッ?!」
「捉えたッ!!」
今まで翻弄されっぱなしだった加古の、自信と覚悟に満ちた一言がここまで届いた。これで決まるか?!
「?!」
「ぶっ飛ばす!!」
しかし妖怪夜戦女は甘くなかった。
「探照灯照射ッ!!」
「まぶしッ?!!」
突如として加古に浴びせられる強烈な光。二人から遠く離れたこちらにまで届くほどの眩しさを誇る探照灯だ。それを至近距離から直撃でくらった加古はひとたまりもないだろう。光ったのはほんの一瞬だったが、目を押えてうずくまる加古の姿は、その一瞬のうちにハッキリと見えた。
「目がぁあッ!!」
「突撃ッ!!」
そして『ドカン』と鳴った砲撃音。今の音は川内なのか加古なのか……
『ストップ。試合終了ー。加古が大破判定を受けたので、勝者せんだーい』
演習場の照明がついた。そこにいたのは、始まる前の変態的な姿勢とはうってかわって、自身の腕に取り付けられた単装砲を構えた凛々しい姿の川内と、その前で海面で大の字になって倒れている加古の二人だった。
「参ったぁ~……さすが川内。スカート引っ張られた時はどこの変態だと思ったけど……」
「まぁね~。下手の横好きじゃカッコつかないからね! でも加古も強かったよ!!」
「へへ……そら重巡だもん」
「さすが古鷹型!!」
そういって互いの健闘を讃え合う二人。戦闘中こそ変態色の濃ゆい内容だったが、終わってみればやはり気持ちのいい清々しい二人だったな。
さて次の試合は……
「クックックッ……格の違いを見せつけてやるクマ……!!」
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