ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
圏内事件~実験編~
「DDAが?」
キリトの報告を聞いた途端、アスナはわずかに眉をひそめた。
DDA、とはディヴァイン・ドラゴンズ・アライアンスの頭文字で、ギルド【聖竜連合】の略称である。
その聖竜連合がどうしたかと言うと、要するに昨夜、キリトがレン達と別れた後、聖竜連合所属のプレイヤー六、七人に待ち伏せされ、強引に情報と凶器の短槍を巻き上げられた、ということらしい。
明けたサクラの月二十三日は、天候パラメータの機嫌が悪いようで、昨日とは打って変わって朝から霧雨模様となっていた。空が上層の底で覆われているアインクラッド内部で雨が降るのは理不尽だが、それを言えば晴天時の日差しもありえないことになってしまう。
午前九時ちょうどに、事件現場のある五十七層の転移門で待ち合わせたレンとキリトとアスナは、とりあえず手近なカフェテラスで朝食がてら情報を整理することにした。
そのわりには、レンだけはかなりの量の注文をして、現在進行形で次々とその全てを腹に納めているのだが。
最大のトピックは、やはり昨日キリトを待ち伏せた上で、強引に情報と凶器を巻き上げていった聖竜ギルメン、シュミット氏のことだった。
「あー、いたわねそんな人。でっかいランス使いでしょ」
「そそ。高校の馬上槍部主将って感じの」
「そんな部活ないけどね」
あんまり面白くないキリトのユーモアを一蹴するアスナ。どーでもいいけど、オブラードって単語知ってますか、閃光様。
そしてアスナは考え込むようにカフェオレのカップを抱えた。
「…………実はそいつが犯人、てセンはないわよね?」
「断定は危険だけど、まあないよな。足がつくことを怖れて凶器を回収する、くらいなら最初から現場に残す必要がない。あの槍はむしろ、犯人のメッセージだったと俺は思う」
「そうか………、そうだね。あの殺し方に加えて、武器の名前が《罪の荊》………。単なるPKのパフォーマンスというよりも、《公開処刑》だったって考えたほうがしっくり来るわね…………」
アスナが陰鬱な表情で呟いた言葉に、キリトも同意の頷きを返した。
無差別PKではなく、カインズというプレイヤー個人を狙った処刑。そして、過去にカインズ、グリムロック、シュミットの間で起きたと思われる何らかの出来事。
キリトが声をひそめて、そこから導かれる推察を口にする。
「つまり──、動機は《復讐》、いや《制裁》ってことだよな。過去にあのカインズ氏が何か《罪》を犯して、それに対する《罰》として殺したと、犯人はそうアピールしているわけだ」
「そう考えると、シュミットはむしろ、犯人側じゃなくて狙われる側、って感じだわね。以前にカインズと一緒に《何か》をして、その片方が殺されたから焦って動いた………」
「その何かが判れば、自動的に復讐者が判る気がするな………ただ、これが全部、犯人の演出に過ぎない可能性もある。先入観は持たないようにしないとな」
「そうね。特にヨルコさんに話を聞くときはね」
キリトはアスナと同時に頷き合い、ちらっと視線を動かして時刻表示を確認した。
午前十時になったら、すぐ近くの宿屋に滞在中の、カインズ氏の友人兼目撃者のヨルコというプレイヤーに、話を聞きに行くことになっている。
黒パンと野菜スープの質素な朝食をモソモソ食べ終えて、かなり時間が余った様子のキリトは一瞬レンを見て、胸焼けしたような顔をし、次にあろうことか向かいに座るKoB副団長殿の姿をぽけーっと眺め始めた。
今日は私用だからということなのか、いつもの白地に赤の模様のある騎士服ではない。
ピンクとグレーの細いストライプ柄のシャツに黒レザーのベストを重ね、ミニスカートもレースのフリルがついた黒、脚には光沢のあるグレーのタイツ。
おまけに靴はピンクのエナメル、頭にも同色のベレーとくれば、何だかやたらとキメてきている──ような気がするが、これが女性プレイヤーの平均的普段着であるのか
もしれないし、それが判断できるほどのファッションアイテムの知識は持ち合わせていない。
そんなとき、だいたい同じようなことを考えていたらしいキリトが問いかけるような視線をよこしてきた。
──なんで、僕に振るんだ。
そう思いながらレンは、頬に元が何なのか分からない、魚の切れ身のようなものを引っ付けながら首を振る。
キリトは、何故か憐れむような顔をし、またアスナに視線を戻す。
と、不意にアスナがちらっと視線を上げ、ぷいと横を向いた。
「…………何見てるの」
「えっ……あ、いや…………」
途端にうろたえ出すキリト。
「えーと………そのどろっとした奴、旨い?」
するとアスナは、スプーンでかき混ぜていた謎のポタージュっぽいものを見下ろし、もう一度キリトを見て何とも微妙な表情を作ったあと、はぁーっと深く長いため息をついた。
「………おいしくない」
ボソッと答えて皿ごと脇に押しやるアスナ。
軽い咳払いを挟み、細剣使いは口調を改めた。
「わたし、昨夜ちょっと考えたんだけどね。あの黒い槍が発生させた《貫通継続ダメージ》だけど………」
頷くキリト。
「うん?」
「例えば、圏外で貫通属性武器を刺されるじゃない? そのまま圏内に移動したら、継続ダメージってどうなるのか、きみ知ってる?」
「えー………っと」
思わず首を捻るキリト。
確かに、そんなシチュエーションにこれまで遭遇したことはないし、考えたことすらない。
「いや、知らないな………。でも、毒や火傷の継続ダメージは圏内に入った瞬間消えるだろ?貫通ダメージも同じじゃないか?」
「でも、そしたら刺さってる武器はどうなるの?自動で抜けるの?」
「それもなんだか気持ち悪いな………。よし、まだちょっと時間あるし、実験しようぜ」
キリトの言葉に、アスナが眼を丸くした。
「じ、実験!?」
「百聞一見」
怪しげな四字熟語とともにキリトは立ち上がると、街区マップを呼び出し、最寄の門への道を確認した………ところでレンを見た。
「………………そろそろ食べ終われよ。レン」
レンは、積み上げられた空っぽの皿のタワーに囲まれながら、首を振るのだった。
アインクラッド第五十七層主街区【マーテン】のすぐ外は、節くれだった古樹が点在する草原になっていた。
しとしと降る霧雨を掻き分けて、市街の門から出た途端、視界に【OUTER FIELD】の警告が表示された。
すぐモンスターが襲ってくるわけではないものの、心の一部が自動的に緊張する。
傍らを歩く、腰にいつものレイピアを装備しなおしたアスナも、どこか神経質に前髪に溜まる水滴を煩わしそうに弾いている。
「んで………実験ってどーするの?」
「こうする気」
フードを目深に被ったレンの言葉に答えたキリトはベルトを探ると、常に三本装備されている《スローイング・ピック》を一本抜き出した。
アインクラッドに存在するあらゆる武器は、斬撃、刺突、打撃、貫通の四属性に分類される。
キリトの片手直剣とレンのワイヤーは斬撃武器だし、アスナのレイピアは刺突武器だ。
メイスやハンマーが打撃、そしてカインズ氏を殺したスピアや、シュミット氏の持つランスが貫通武器ということになる。
ここで微妙なのが、幾つか存在する投擲武器の扱いだ。
同じ投げモノでも、ブーメランや円形の刃を持つチャクラムは斬撃、スローイングダガーは刺突、そしてキリトのスローイングピックは貫通と属性が分かれる。
つまり、たかだか長さ12センチほどの大型の鉄針にしか見えないが、このピックは立派な貫通武器であり、ゆえにわずかながら継続ダメージが発生するのだ。
自分のHPは実験に提供しても、装備の耐久度まで減らすのは馬鹿らしいのか、キリトは左手のグローブを外し、広げた手の甲に向けて振り上げた──
「ちょ……ちょっと待って!」
──ところで鋭い声にぴたっと手を止める。
キリトと二人して見ると、アスナがアイテム窓を開き、高価なヒーリングクリスタルを取り出しているところだった。
キリトと二人、思わず苦笑する。
「大げさだなぁ。こんなピックが手に刺さったくらいじゃ、総HPの一、二パーセントくらいしか減らないよ」
「バカ!圏外じゃ何が起こるかわからないのよ!さっさとパーティー組んでHPバー見せて!!」
雷を落としたアスナは、そのままウインドウを操作してパーティー要請を飛ばしてきた。
何故かレンにも。
反論しようと開きかけた口も、レーザーのようなアスナの視線に晒され、即座に閉じた。
仕方なく受諾すると、視界左上の自分のHPバーの下に、やや小型のアスナとキリトのゲージも出現した。
キリトはというと、なぜだかまたアスナの顔をまじまじと眺めている。
「…………なに?」
「いや……なんつうか、こんなに心配してくれると思わなくて………」
キリトが言った途端、アスナの白い頬が右手の結晶と同じ色に染まり、眼を丸くしたキリトを再びの落雷が落ちた。
「ち……違うわよ!いえ、違わないけど…………もう、さっさとしてよ!!」
ひぃっ、と震え上がり、キリトは改めてピックを構える。
「じゃ、じゃあ、いきます」
宣言してから、大きく息を吸い───
キリトは、まっすぐ伸ばした己の左手目掛けて、投剣スキルの初級技《シングルシュート》のモーションを起こした。
右手の二本指で挟んだピックが、控えめなライトエフェクトとともにぴうっと飛翔し、直後にどすっと手の甲を貫通する。
HPバーは、キリトの予想よりも僅かに多く、約三パーセントを減らしていた。
レンがぽけーっと刺さった鉄針を眺めていると、五秒後に再び赤いエフェクト光が閃く。同時にHPが0.5パーセントほど削れる。
まさにこれが、カインズ氏の命を奪った《貫通継続ダメージ》に他ならない。
「………はやく圏内に入ってよ!」
強張るアスナの声に背を押されたようにキリトはひとつ頷くと、HPバーとピックの双方に視線を据えたまますぐ近くのゲートへと向かった。
ブーツの底が踏む湿った草が硬い石畳へと変わると同時に、視界に【INNER AREA】の表示が浮かぶ。
そして───
HPバーの減少が停止した。
五秒ごとに赤いエフェクトがフラッシュするのだが、ヒットポイントはわずかにも減らない。やはり、圏内ではあらゆるダメージはキャンセルされるのだ。
「………止まった、わね」
アスナの呟きに、頷くキリト。
「武器は刺さったまま、でも継続ダメージは停止、か」
「感覚は?」
レン。
「残ってる。これは……武器を体にぶっ刺したまま圏内をうろつくバカが出ないようにするための仕様かな………」
「今の君のことだけどね」
絶対零度のような声を背に受けながら、レンは袖口から煙管を取り出し、かぱーっと煙を吐き出す。吐き出された紫煙は、綺麗な輪となって宙空に消えていった。
その光景をぼーっと見ながら、レンは今までの解ったことを整理していた。
空中で死んだカインズ。
黒い短槍。
貫通継続ダメージ。
「………ってうわ!?」
レンの思考を邪魔したのは、背後にいるキリトの奇声だった。
思わず振り返ったレンの視界に、信じられないような光景が飛び込んできた。
アスナが、キリトの左手を両手で掴んで胸に引き寄せ、むぎゅーっと思い切り握っているのだ。
「おまっ……な………なっ………………」
意味不明言語を連発するキリトを完璧なまでに無視して、副長殿は数秒後に手を離し、横目でキリトを睨み──もとい見て、曰く。
「これでダメージの残留感覚消えたでしょ」
「───────う、うん、まあ、ども」
レンはというと、どういう表情をしたらいいのか、迷ったすえ、思いっきりの笑顔を浮かべていた。
…………………………はたかれた。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!!」
レン「それでは、早速お便り紹介コーナー行っちゃうよ♪」
なべさん「はやいねー、ま、いっか」
レン「では一通目、霊獣さんからのお便りです」
なべさん「バッチこーい!!」
レン「時間軸がずれまくってるような気がするのですが………」
なべさん「おっふ」
レン「んで、どうなの?」
なべさん「えええええ、えーと、ででですねぇー」
レン「どもりすぎ」
なべさん「えー、ぶっちゃけミスりました。本当にスイマセン……」
レン「追伸、ランさんはSAO内にいるんですか?……ランさんってのは、ユウキねーちゃんのお姉さんのことだね」
なべさん「えっと、これは書こうとしてて、書けなかったのですが………」
レン「たんに忘れてただけなのでは……」
なべさん「ユウキの姉、ランさんは原作通りAIDSで亡くなってます。もしランさんファンの方がいらっしゃったならば、スイマセンでした」
レン「なんか今回、謝ってばっかりだなー」
なべさん「……………シクシク」
レン「はーい、それでは自作キャラ、感想などを送ってきてくださーい!」
──To be continued──
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