ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
圏内事件~調査編~
レンとキリトとアスナ、ついでにエギルは連れ立ってアルゲードの転移門から、まずはアインクラッド最下層【始まりの街】へと移動した。
目的は、黒鉄宮に安置された《生命の碑》を確認することだ。
鍛冶屋グリムロック氏を訪ね当てようにも、死んでいれば元も子もない。
広大な始まりの街は、春だというのに荒涼とした雰囲気に覆われていた。
気候パラメータのせいだけではない。宵闇に包まれた幅広の街路にはプレイヤーの姿はほとんどなく、気のせいかNPC楽団が奏でるBGMも陰鬱な短調のメロディばかりだ。
ここ最近、最大ギルドにして下層の自治組織でもある《アインクラッド解放軍》がプレイヤーの夜間外出を禁止したという冗談のような噂を耳にしていたが、これはどうやら本当なのかもしれない。
出くわすのは、お揃いのガンメタリックの部分鎧を着込んだ《軍》の見回りだけなのだ。
しかもそいつらは、レン達を見つけるたびに、中学生を補導するお巡りさんもかくやの勢いで駆け寄ってくるので心臓に悪い。
もっとも、先頭に立つアスナの絶対零度の視線を食らってたちまち退散していくのだが。
「……へー、アルゲードが賑わうわけだねー………物価高いのに…………」
思わずレンが慨嘆すると、エギルが更に怖い噂を教えてくれた。
「何でも軍は、近々プレイヤーへの《課税》も始めるらしいぞ」
これにはキリトが眉を跳ね上げた。
「へ!?税金!?………嘘だろ、どうやって徴収するんだよ」
「そこまでは解らんが………モンスターのドロップから自動で天引きされたりしてな」
「エギルおじさんの店の売り上げも取り上げられたりするかもね」
等々と頭の悪い会話を繰り広げる男性陣も、さすがに黒鉄宮の敷石を踏んだ途端に口をつぐまざるを得なかった。
その名の通り、黒光りする鉄柱と鉄板だけで組み上げられた巨大な建物は、明らかに外より冷たい空気に満たされていた。
すたすたと前を歩くアスナも、むき出しの腕を寒そうに擦っている。
時間が遅いせいか、内部に他の人間の姿はなかった。
昼間のこの時間は、友人や恋人の死を信じられずに確認に訪れ、名前の上に無情に刻まれた横線を目にして泣き崩れるプレイヤーの悲痛な声が途切れることはない。
青みがかかったかがり火に照らされた無人の空間を、レン達は足早に歩く。
左右に数十メートルにわたって続く《生命の碑》の前にたどり着くと、アルファベット順に並ぶ無数の名前たちの、《G》のあたりを凝視する。
エギルは止まらず、そのまま右のほうに歩いていった。
レン、そして後ろから覗き込むように見るキリトとアスナは息を殺しながら列挙されるプレイヤーネームを視線でなぞり、ほぼ同時にその名前を見つけた。
《Grimlock》。横線は────なし。
「………生きてるね」
「うん」
「だな」
同時にほっと息をつく。
少し離れた《K》のブロックを眺めていたエギルも、すぐに戻ってくると真面目な顔で言った。
「カインズは確かに死んでるな。死亡日時は、サクラの月二十二日、十八時二十七分」
「……日付も時刻も間違いないわ。今日の夕方、わたしたちがレストランを出た直後よ」
アスナはそう呟くと、俯き、長い睫毛を下ろした。キリトとエギルも揃って短く黙祷する。
レンは、黙祷などどこ吹く風という感じで、軽く鼻歌を歌うぐらいの陽気さだったのだが、アスナにものすごい目で睨まれ、慌てて俯いた。
ちなみに殺されたカインズ──《Kains》という男の綴りについては、知り合ったカインズ氏の友人兼目撃者から入手したという。
全ての用事を終え、足早に黒鉄宮を出たところで、レン達は詰めていた息を同時に吐き出した。
いつの間にか、街区BGMは深夜帯用のゆったりとしたワルツに変わっている。
NPC商店も全て鎧戸を閉めてしまい、道を照らすのはまばらに立つ街灯のカンテラだけだ。
さすがにもう《軍》の巡回も見当たらない。
無言のまま転移広場まで戻ったところで、前を歩くアスナが振り向き、言った。
「………グリムロック氏を探すのは、明日にしましょう」
「そうだね………」
「ああ」
レンとキリトが頷くと、エギルが魁偉な眉丘を八の字に曲げた。
「あのな……オレはだな、いちおう本業は戦士じゃなく商人でだな………」
「解ってるよ。助手役は今日でクビにしてやろう」
キリトがポンと背中を叩くと、風かな安堵を見せつつ「済まねぇな」と唸る。
この人のいい巨漢は、本心から《商売優先》とか《調査面倒》とか思っているわけではない。
あの禍々しい短槍を作ったプレイヤーに直接相対するのが嫌なのだ。怖れているのではなく、その逆──普段はモンスターにのみ向けている怒りのエネルギーを爆発させてしまいかねないから。
頑張れよ、と言い残してエギルがまず転移門に消え、キリトもそろそろねぐらに戻るというので、ひとまず今日はここで解散ということになった。
「明日は、朝九時に五十七層転移門前で集合にしましょう。寝坊しないでちゃんと来るのよ」
教師か、いっそお姉さんめいたアスナの言葉に苦笑しつつ頷き、キリトが転移門に消えた。
アスナと二人取り残されたレンは、青く揺らめくゲートの前に立ち尽くしたまま、しばし漂う微妙な緊迫感を味わっていた。
時計の秒針がくるりと一回りくらいしてから、アスナが口を開いた。
「今日のことは……その………ありがと」
それだけを言って、立ち去ろうとするアスナに堪らず言う。
「アスナ……ねーちゃん…………」
青く揺らめく光の中に立ったアスナは、こちらを見ずに言った。
「勘違いしないで、私は今でもあなたを許してない」
そして《閃光》のアスナは、なおもいい募ろうとするレンを無視して、白と赤の残像を残しながらポータルに消えた。
一人取り残されたレンは、大きな溜め息を一つついて今日の宿探しを始めた。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「はーい、本日はとくに言うことはありません」
なべさん「ないのかよ!」
レン「なんかあんの?」
なべさん「……………………ない」
レン「……………………………」
なべさん「………………………」
レン「はい、自作キャラ、感想など、じゃんじゃん送ってきてくださーい!!」
なべさん「………うぅ………もうネタがないんだよぉ……」
レン「…………ドンマイ」
──To be continued──
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