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銀の煌めき

作者:アイズX
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銀の煌めき 1話 始まりの朝

 
前書き
この世は天界、魔界、現世の三世界で構成されている。
天界、天使や神々が住まう光と白の世界。
魔界、悪魔が巣くう、闇と黒の世界。
そして現世、魔法師を含む、人間達が住まう、四属性により、統率されし世界。
これは、魔界と現世の影で行われし戦いである。 

 
  ちりりりりりーん。ちりりりりりーん。
  部屋に最大音量で鳴り響く、起床アラーム。
「むぅ…朝かぁ…」
  私は枕もとにある携帯の、アラームを、切ろうと、目を瞑ったまま、手を枕もとにのばした。
  カチッ。
  電源ボタンを押すと、うるさいアラームは止まった。体を起こし、ぐっと伸びをする。まだ、昨日の疲れは残っているが、今日は金曜日。あと1日で休み。だから私はパッとベッドから飛び降りて、寝巻きから制服に着替えるべく、制服があるクローゼットへ向かった。
  私のクローゼットのすぐ横の壁には大きな鏡がある。私は鏡に映る自分をしばし眺めた。
「今日はあんまり髪はねてないね。直すのも楽そう」
  クローゼットを開け、ハンガーにかかっている制服を外し、いそいそと着替える。
  寝巻きをある程度たたむと、寝巻きを持って部屋から出た。
  部屋を出た途端、冷たい冷気が私を襲った。
「ううっ〜、ささ、さむ〜」
  急ぎ足で廊下を歩き、階段を降りる。階段はミシミシと小気味良い音を立てるが、同時に私は、この家、大丈夫かなぁ? と、思った。なにせ、築100年に及ぶ、古い家なのだ。とはいえ定期的にちょっとしたリフォームは行われている。電気とガス、それに水道もきちんと通っている。
  階段を降りると、薄緑色のエプロンを身にまとった、一条美雪が立っていた。
「おはようございます、梨桜様。朝食はいつも通り、居間に準備しております」
「美雪さん、いつもありがとう…はい」
  私は、寝巻きを美雪に渡した。彼女はいつも私が階段から降りてくる時に、ここに立っている。それは私の寝巻きを受け取るためである。
  私は居間へと向かった。
  居間には早々と制服を着た兄がいた。コーヒーを飲みながら、またヒエロ…なんたらとかいう、文字で書かれた、魔導書を読んでいた。
「おはよう、兄さん、今日は何読んでるの?」
「これは、太古の悪魔たちが考えたという、自然理魔法についてをこれまた太古の魔法師が書き綴ったという物だ。なかなか興味深いことが書かれていてな、協会長イチオシの魔導書だ」
「へ、へぇ、そうなんだぁ…」
  帝斗は本をとじ、私をジロッと見つめた。
「な、なに??」
「お前、ひいてるな? 現代魔法より、古代魔法の方が学べることが多いと言うだろ?」
「それを言うなら、勝利より、敗北から学べることが多い、でしょ?」
「そうとも言うな」
「言わない…ふぅ…」
  私は、ソファに腰をかけた。テーブルには既に朝食が並んでいる。今日は洋風な献立で、トースト、コーンスープ、目玉焼き、ウインナー、レタス、ヨーグルトだ。洋風朝食のテンプレである。
「兄さんはもう食べたの?」
「あぁ、今日は5時に目が覚めたんだ」
「はや! いっつも私と同じ時間なのに」
  ちなみに、私が起きるのはいつも6時半である。以前は、7時半に起きていたのだが、それでは少しでも寝坊してしまったら、8時40分に始まるホームルームに間に合わないため、ここの所は余裕を持って、起きるように、兄妹揃ってするようにした。この家から学校までは徒歩30分と、電車15分なので、6時半だと随分余裕が持てる。
「いただきます」
  私は、そう言うとトーストをかじった。今日は少しパンが焦げているが、いつもが焦げてなさすぎるので、これくらいが丁度いい。
「なぁ、梨桜。冬休みまであと何日くらいだったっけ?」
  帝斗は魔導書をテーブルに起き、コーヒーを啜りながらそう、私に問うた。
「えーと、あと9日…くらいかなぁ? でも、試験勉強とか無いの?」
  帝斗は、少し目を見開いた。
「な、なに、その反応…?」
「俺がいつ大学に行くって言ったか?」
  帝斗の口から出た言葉は、私にとって信じがたいことだった。
「え? だって、兄さん桜ヶ峰で1番成績良いじゃん。それなのになんで?」
  私の成績も自慢ではないが、学年ではトップクラスである。それゆえ、高校卒業後は大学に進学するつもりでいる。
「なんでって…、身分上仕方ないだろ? 俺だって大学行きたい気持ちは多少ある。だがな、私的な理由で副魔法師長が不在時間を増やす訳にはいかないだろ」
  私は、帝斗が大学にいかない、といった時、どうせそんなことだろう、となんとなく思ってはいた。
「でも、高校は行ってるじゃん?」
「あれは俺の意思じゃない。俺は中学卒業で、魔法師の仕事に専念しようと思って、会長にそれを言ったんだ。そしたらさ、お前は高校まで行け、と命令されてな。反対はしたけど、結局押し通されて、しぶしぶ高校に入った訳だ」
  初耳、と思ったと同時に、兄妹でありながら、なぜそんなことも教えてくれなかったのか、とも思ったが、それは言わないでおく。
「…お前、どうしたんだ? 俺なんか悪いこと言った?」
「え、なんで?」
「いや、なんか怒ってるような気がしたからさ。気のせいだったか?」
  なんでわかったんだろう、と思ったが、多分顔に出ていたのだろう。
「え、いやいや、怒ってないよ〜」
  朝食はあらかた食べ終わったので、このあたりで席をはずすことにした。
「ご馳走様。兄さん、私準備してくるね」
「おう」
  帝斗は既に、自分の隣に鞄を置いていて、いつでも出られるようだ。そうとなれば私も少し急いで準備をしなければならないだろう。
  私は食器をもって、台所へ向かった。居間の隣の部屋が台所である。
「梨桜様、食器は私が洗っておきますので、身支度をお済ませください」
  いつの間にか、美雪が台所にいた。
「いや、私が洗うからいいよ」
「そういう訳にはいきません、私はここで働く義務があります。梨桜様は、今日も学校に行かれるのでしょう。さあ、身支度をお済ませください」
  いつも、自分で洗おうとするとこうである。何を言っても美雪は絶対に引き下がらないので、私は今日もいさぎよく諦めた。
「そんなに言うなら…いつもありがとう、美雪さん」
  私は、台所を出て、自室へと戻った。
「えーと、今日は…」
  時間割を思い出しながら、必要な教科書類を、本棚から取り出し、鞄に入れる。それが終わると、私は携帯をポケットに入れ込んだ。
  部屋の壁にかかっている時計を見ると、7時3分を指していた。
「少しいつもより早いなー。まぁ、早い分には問題ないか」
  私は部屋を出た。
  さっきと同じように、階段を降り、居間へと向かった。
「兄さん、そろそろ行こ」
  すると、居間にいた帝斗は、誰かと携帯で話していた。
「そうか、じゃあ19時にいつもの場所で落ち合おう…うん、じゃあな」
  帝斗は、そう言うと通話を切った。
「誰と話してたの?」
「志倶覇だ。少し怪奇な悪魔が現れたそうだ、今日の19時に志倶覇ん家に来いって。上司命令だそうだ」
  帝斗は、魔導書を消した。消した、と言うより、帝斗が所持する固有結界に転送した、が正しい。
  固有結界とは、上級魔法師が持つ、倉庫的な空間である。簡単に言えば、異次元空間である。
  主に魔装などを保管するのに用いられる。梨桜も持ってはいるが、キャパシティーは帝斗の一割ほどしかない。
「じゃあ、行くか」
「うん、そうだね」
  私は帝斗と、居間を出た。
  部屋を出て、廊下を歩いていくと、玄関には、美雪が立っていた。
「じゃあ、美雪さん、留守番頼みます」
「はい、帝斗様、梨桜様、行ってらっしゃいませ」
「行ってきます、美雪さん」
  私は、そう言うと帝斗と一緒に家を出た。
  外に出ると、また更に冷たい冷気が私達を襲う。
「流石に寒い…体感魔法をかけるか」
  帝斗はそう言うと、梨桜の手を引き、家の中に戻った。そして、玄関の扉を閉めた。
「どうなさいましたか? 帝斗様」
「寒いから体感魔法をかけるんだ」
  美雪は、はぁっとため息をついた。
「魔法はそういうためにあるものではありませんよ」
「使えるものは使う。それが俺のやり方だ」
  帝斗は、そう言うと固有結界から、刃渡り30センチ程の短剣を取り出した。これは魔装の一つで、魔法を行使するのに、使用されるものである。しかし、斬りつければ普通の刃物同様、ある程度のものは切れる。
  帝斗は短剣を右手に握り、左手を広げて前に突き出した。
「自然理魔法、体感温度5度上昇」
  帝斗がそう唱えると、私の体内が少し熱くなった。正確に言うと、自然の理を捻じ曲げて、魔法の対象者の皮膚と空気が触れ合うところに1ミリほどの薄い特殊な、外気より5度暖かい空気膜を構成したのだ。この空気膜は魔法作用で外気とは混ざらないようになっている。
「帝斗様、恩恵を私に与えてくださるのはありがたいのですが、規約に反さない程度にしてくださいね」
「わかってますって、じゃあ行ってきます」
  私と帝斗は改めて外に出た。私は携帯で時刻を確認した。
「やっぱり、少し早いね。電車くるの待たないと」
「なら、駅で買いたいものがあるから売店よっていいか?」
「うん、いいよ」
  私たちは、駅に向かって歩き始めた。通学路には同じ高校の生徒どころか、人がほとんどいない。駅に近づけば、大人はある程度いるが、この辺りは田舎なので、子供がとても少ない。なぜこんな秘境じみたところに家が建っているのかと言うと、人の目を避けるため、と言う理由がために挙げられる。魔法師という事は他人に決してバレてはならないので、霧真家は代々、この土地に住んでいる。
「なあ、梨桜」
「ん? なに?」
「お前さ、銀の魔法師って聞いた事あるか?」
「銀の…魔法師? いや、知らないなぁ」
「そうか、うーん…」
  勉強、魔法関係問わず、知識豊富な帝斗がこの様に悩むのは珍しい。
「それがどうかしたの?」
「いや、忘れてくれ、大したことじゃない」
「そう?」
  少しキナ臭いが、私は気にしなかった。重大なことなら、帝斗自ら私に言ってくるはずだ。言わないということは私には関係のないことなのだろう。しかし、教えてくれないのは少し気にくわない。私は、違う話題で、帝斗を少しいじめることにした。
「ねぇ、兄さん、蒼美さんと一緒に学校行ったりしないの?」
「と言われてもなぁ、家はてんで反対だし、あいつ自転車だろ? たまにあいつを送って帰ることはあるけど、それ以上はないな」
「ふぅーん」
  私はにやっと、意地の悪い笑みを浮かべながら、追い打ちをかける。
「な、なんだよ」
「そんなのでいいのかなー? 蒼美さん、寂しがってるかもよ? ううん、絶対寂しいと思うよ、お兄さんと二人暮らしだし、そのお兄さんだって、そんなに帰って来ないじゃん? うちに泊めてあげたりしようとは思わないわけ?」
「それは…」
  返事に困る帝斗。そんな兄を見るのが、私は数少ない楽しみでもある。
「それは…なぁ、無理だろう。蒼美は魔法師じゃない。確かにそうしてやりたいのは山々だけどさ、普通の人に俺たちの存在がバレるわけにいかない、バレたらどうしなければならないか、知っているだろう?」
「そのリスクを背負っても、蒼美さんを想うなら、やっぱりそうしてあげるべきじゃないのかなー?」
  帝斗は、確かに頭は良いし、魔法師としても優秀だ。だがそれゆえ、それ以外のことに疎かったり、不器用だったりする。
「ま、私にはそういう関係の人がいないから、なんとも言えないけどね」
「…考えておくよ」
  帝斗の口から珍しい言葉が出た。いつもならば、拒否で押し通すのだが、この様な反応が聞けるのはほんとに珍しいことだ。
「ほんとー? きっと蒼美さんも喜ぶよ!」
「まだ、答えは出してないけどな」
  珍しい答えが聞けたが、いつもとあまり変わらない帝斗である。
  他愛ない世間話なんかをしながら、駅へと歩いていく。
「しかし、今日は霧が出てるな…視界が悪い」
「ほんとね…うわ、制服湿ってるよ〜」
  肩や腕を触ってみると、ひんやりと冷たかった。これで体感魔法なしだったら、寒かのあまり震えていたかもしれない。
「ん、待てよ。霧にしては少し見えなさすぎないか?」
「あれ、見る見る濃くなってるよ?」
  家を出た時は、全く霧なんて出ていなかったのに、今では足元も見えないほど、霧が立ち込めている。
「さすがに危ないな、迂闊に動くと何かにぶつかるかもしれない、少し霧が晴れるまで、ここに留まっておこうか」
「そうだね…、ね、よく見えないから手つなご」
「そうだな」
  帝斗は私の右手をつかんだ。隣にいるのに、よく見えない。手を離せばもう見失うと思ってしまうほどに。
「うっ!」
  突然帝斗のうめき声が聞こえた、と同時に私の右側、つまり帝斗が立っているはずのところから赤い液体が飛沫した。
「兄さん!!」
  私が叫んだ拍子に、帝斗の左手を離してしまった。
「兄さん!!」
  今度は、不安を含ませて私は叫んだ。帝斗がどういう状況なのか、濃霧で全く見えない。
  そこで、私は後方に何かの気配を感じ取った。帝斗ではない、何か別のもの。
「誰!?」
  私は不安を押し殺す様に、見えない何かにそう叫んだ。
 
 

 
後書き
初めて投稿します、アイズXです。
まだ、このサイトの使い勝手がわからないので、変なところもあるかも知れませんが、暖かい目で見てやってください。
これからも書いていくつもりなので、どうぞよろしくお願いしますヽ( ̄▽ ̄)ノ 
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