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どうやら俺は主人公を殺したらしい

作者:パワタス
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八話、エクスカリバーァァァァァァァ!!!!②

 
前書き
前話の話を他視点で補正する回です。
誤字記入報告。ドラゴンスレイヤー→龍殺し―――アスカロンに修正しました。 

 
 


 デクタ・テイン、もといデクタ・テインの分身とオーフィスが接触する半刻前――

 それは唐突だった。
 運が良かったとしか言いようがない。それはきっと神様が与えてくれた一つの奇跡だった違いない。

 俺は運良く気付いたのだ。
 暗いストリートをゆらゆらと迫る気配を。俺は感知した途端、理解した。
 嫌な予感はしていた。見たくない。早くこの場から逃げたい。だが、理解しなければなならなかった。

 俺は聖剣の因子を自身の血液から通じて、身体強化を行う。
 人間の限界を超えて、更に高密度に精巧なまでに強化されたその視力は、そのまだ見ぬ気配を、明確な情報としてはデクタの脳に伝えてくれるはずだ。

「………ッ!!!」

 冷や汗がブワッと吹き出す。

 オーフィスがいた。

 無限がいた。

 あの化け物がストリートをトコトコと歩いていた。
 暗い夜道と電灯の灯りを背景に、無感情と異常なまでの気配を感じさせていた。

 そもそもオーフィスとは、デクタ・テインが知る限り、この世界、つまり原作の中でボスクラスに位置するんじゃね?と思わせるキャラクターだった。
 原作自体は、もちろんの事だが、その原作というのを全て読み通し訳では無い。だが、デクタ自身が読んだその原作の一部分と、自分が今立っているこの現実世界の情報を用いたことで、ほぼほぼどんな存在なのかは、理解しているつもりだ。
 と言うかあのアザゼルに教えてもらっている。
 結論を言うと、関わってはいけないキャラクターなのだ。圧倒的な力。無限、夢幻と恐れられるドラゴン。当然そんな末恐ろしいものに関わるつもりは無い。

 故にデクタは―――逃げた。それも全速前進で。

 走る。駆ける。
 地面を抉り、風のように駆け抜け、全身の力をフル活用し、疾走する。その速さは、デクタが持っている聖剣――天閃の聖剣《エクスカリバー・ラピッドリィ》の特性である超速の名を体現しているようだった。

(クソっ! 何であんな奴がいるんだよッ!! あとフラグ回収乙ッ!!)

 デクタは声に出したくても、何とか内心で留まらせる。
 怒りと混乱を、自分の自制心で押さえ込むしかないこの状況に、歯がゆい。
 ある程度話しても安全な圏内までに到達すると中二聖剣が口を開く。

『勇者ッ!! 何故逃げるのだ!? 先程あのヴァーリという輩に侮辱されたばかりではないかッ!!』

 騒ぐ中二聖剣。
 聖剣の言葉通りだった。デクタはただ走っているのではない。逃げているのだ。現実逃避。生きる為の行動。

「うるせっ!! 死ぬと分かっていてわざわざ行く馬鹿がいるかよ」
『ぐぬぬ……。我としては戦いたいッ!! 無限と言われたオーフィスと戦って、奴の混沌の闇でカッコよく散りたい。クックックッ。できたらこう常闇の中で、月の下で美しく死にたい』
「なんだその死ぬ前提のシチュエーションとかおッかしくねッ!?」

 怒鳴りつつも静かに突っ込む。

『冗談が通じぬのう勇者』
「中二病のあんたが言うと冗談に聞こえないよ……」
『ク、ククッ、ちゅっ中二病とはなんだ?我にはさっぱり分からんのだがなぁ』

 がたがたっ。
 からっていたトランクが揺れた。
 それも手に持つ事さえも困難である程に。


 デクタは何故こうなったなんて考える間もなく原因の奴の名前を叫ぶ。

「マゾ聖剣やっぱテメーか!!」

 ガチャっ。
 デクタの声に応えるように、明らかにロックが外れた音と共に、鉄でできた剣先が―――龍殺しの聖剣―――アスカロンがひょっこりと顔を出す。

『っぷはーッ!! デクタ様っ! ありがとうございます! こんなに窮屈なトランクでワタクシを放置プレイ―――』

 ガチャリと金属同士が嵌められる音でその声は途切れる。
 ガチャっ。
 だが、また開く。

『あんっ………ワタクシ既に何回かイッ―――』

 ガチャリ。

「ちょっ、コイツッ、ぐ、ぐぐぐ。ど、どうやってロックを開けたんだよッ!!」
『勇者はよ閉めろ!! こやつを出さんで良い!! 我だけで充分であろう!? “M”キャラより“中二病”キャラの方が需要あるしな、ふふん』
「知らんがな―――しまっ」

 からっていたトランクに気を取られ、駆けていた足が一瞬鈍る。元々、デクタは、超速だった状態だったのだ。
 必然的に鈍った片方の足が体感のバランスを歪め、高低差のあったレンガ上の地面に躓く。はっきりいってその一連の動作は阿呆そのものだった。

「ぶへっ」

 それに反応できずに、足と足が不自然に絡まってしまい、見事なこけっぷりを披露してしまう。
 超速だった筈のスピードが一気に減速し、急斜面を転がるボールのように、障害物を砕きながらも、ゴロゴロと転がる。その間に、身体強化で防御体勢に入る。
 止まる。白い粉塵が巻く。
 
「痛っつ」
『この間抜けが、何をコケおるのだ?』
「………クソ」
『あの、だ、大丈夫……?』
「あー……うん」
『そ、そうか! ふふん、この程度で泣き言を吐く様な男じゃあ無いからな! 分かっておったぞ。ふん、そもそもこの元凶は全てあの女狐のせいだ。クックックッ……後で我の闇の炎成敗してくれるわ!! 止めるなよ、勇者』

地べたに這いつくばりながら、適当に返事をする。トランクを確認するが、幸い開け閉めする際に掛けるロックが機能していたおかげで、中身が地面に散乱する事はなかった。中身を、中にあるマゾ聖剣ことアスカロンを確認余裕はない。

 無様に横たわったその足を大地に直立させようとする。でも竦んでしまう。馬鹿みたいに震えてしまう。
 それでも尚立とうとするも、こけたせいなのか、先程まであった極限までに募らせていた緊張が一気に解けてしまい、筋肉が麻痺していた。動けない。

 そして、沸き上がる焦燥と共に、デクタに悪い状況が舞い込む。

 オーフィスがこっちに気づいた。
 緊張が解けて、デクタの粗末になってしまった因子のコントロールを察知したのだろう。

 確実にオーフィスは自分を狙っている。直感がそう言っている。
 またここから逃げる事を続けるのか。
 いや、どのみちもう無理だろう。既に、自分を日本へ連れていくはずだった案内人は、死んでいるはずだ。
 それはこの状況に至る前に確認した事だ。
 集合場所であった近辺に予定の時刻には誰もいない。感知能力で遠方まで探しても、当てはめる人物はいなかった。
 ここまで行くと、デクタは他人事ではすまない。つまり意味のない逃走だった。
 敵がオーフィスだったから、それを理由にしたとしても、不名誉の烙印を押されるだけ。追放されるかもしれない。
 例えそれで死んだとしても誰も逃げろ、なんて言うわけがない。寧ろそれが正しいと言うのではないか。ゼノヴィアたちもそう言うのではないだろうか。

 どの道、夜中とはいえ、街のど真ん中であんな化物を置いておくつもりはない。いや、ぶっちゃけ気づかれさえしなければ、そのまま街なんかを放り投げて、突っ走っていたけれど。まあ、それなれば、不名誉の烙印を付けられるけど。それは最終手段として保留だけしておく。

 そう考えているうちに、時間はなくなる。
 一秒一秒刻刻と迫るタイムリミット。その中で熟考する。
 場所は特定をされていれど、まだ正確な位置はオーフィスに特定されてはいない。多分。
 それだけを確認したデクタは、まずオーフィスをどうするかを熟考に熟考を重ねて結論に至ったデクタは、ついに行動を起こす。
 麻痺していた体が回復したのを確認したデクタは、半ば強引に起こす。
 それでも、まだ体の痺れはとれならないのか、右手に持った中二聖剣で膝を付きながら、バランスを保つことしか出来ない。だが、そこまで支障はない。

 そう判断したデクタは、目を閉じ、空いていた手を地面にかざす。
 そして印を結ぶ。

 今からデクタがしようとしているのは、自分の分身の錬成だ。
 その力の根本になるのは、仙気。つまり仙術を使っているのだ。
 “仙術”と言えば、この世界では希少な存在である。
 周囲の気を取り込み、飛躍的に能力上昇も可能。そして、浄化の力を保有し、闇や負の力に影響大な効力を発揮する。
 更に様々なエネルギー等に変換らも可能。
 更に更に寿命を伸ばしたりなど、回復系統にも使えるという、万能性能である。
 あのオーフィスも目を付ける程の能力なのだからそれほどのものなのだろう。

 だが、だからといって、デクタがその全部が全部扱える訳では無い。寧ろ扱えない方が圧倒的に多いと言える。
 ていうか殆どが使えない。

 強いているなら、精神的な安定剤として使える程度の浄化力。
 そして現在進行形で作業している、分身の錬成のみ、である。

「よしっできた」

 分身はできた。だが、一体しか出来ないのが、しょぼい。

『勇者よ……これは誰だ?』
「俺だけど……。てか時間ないから無駄口している暇ないから次行くぞ」
『いや、待て、主はこんな顔じゃないだろう?
 絵の具全色をグッチャぐちゃにかき混ぜたようなドロッドロとした黒い目した勇者とは逆に、この分身の目はキラキラしてるじゃないか。
 隈も消えてるし。
 それに勇者はこんな純粋無垢な瞳であったかのう……。髪もこんなにサラサラしている訳では無かろうに。
 主は手入れの行き届いていないガッサガサのボサボサなんだが。背も勇者と比べると心なしか高い気がする。足が長くなったというべきか。足はそこまで長くないだろうに……。
 ふむん、我の知っている勇者とは相反するような気がするのだが』
 「ほっとけや。まだ成長期真っ盛りのガキなんやい」

 目的地に向かいながら、デクタは中二聖剣を流す。
 こういう時は無理に絡まなくていい。反論なんかせず、流すのが一番だ。首を締めるだけ。
 ハッ!!と何かを察した中二聖剣は、ふと呟く。

『クックックッ。なるほどな。ククッ勇者も素直に言えばいいもの。この分身の姿は、勇者、貴様の願望から生まれたものそのもの。
 つまりは、勇者はイケメンになりたいというわけだなッ!! わははははッ!!』

 うぜぇぇぇと、心底思いつつも、自分の顔面偏差値を測定する。
 いや、結構いいほうだろう。鏡で何度も確認したことがあるが、美形だし、何なら女顔とでも言うのだろうか。兎に角、世間一般的にモテたことのないデクタは自信を持って、中二聖剣には言い返せることなく、呻くだけ。
 ―――と、目的のポイントにいつの間にか着いていた。
 そこは先程までデクタがいた地点の死角になるビルの屋上。
 からっていたトランクを下ろす。
 白い吐息を吐きつつ、分身の気配を探る。すぐにそれは見つかる。
 やはり先程までデクタがいた場所。見やると予想通りデクタの分身は誰かと対面していた。
 そこにいたのは―――オーフィス。最強幼女ことオーフィス・ドラゴンであった。
 デクタは気配を遮断しながら、肉眼でそれを見ることになる。
 初めて見るその姿は、自分が想像していたのと差異はほぼなかったと言えよう。アザゼルが最後に会った時のオーフィスの姿はジジイだったとか言ってた気がするが、姿形も自由自在なのだろうか。
 いや、オーフィスという化物クラスとなればそんな事は朝飯前だろう。だが幼女になるとはどういうこったい。

『それで勇者よ、これからどうするのだ? 我はもちろんできる限りのサポートをするが』

 いきなり問う中二聖剣に、デクタは今更ながら気づく。
 まだ今からする作戦を伝えてないことを。作戦と言うがそんな大層なものではない。
 ただ分身という囮を使って、その囮に気を取られているオーフィスを狙って不意打ち。シンプルでしかない、狙いも分からない作戦であるが、一応その先に何をするかはだいたいは決めてある。今更ではあるが、本心では、作戦自体も変えたほうがいいんじゃないのかと思っている。だからといって既に作戦のスタートを切ってしまっているのだ。やるしかない。
 ともあれ、口頭じゃなくいい。意思で伝えようと意識したん途端、中二聖剣は、呆れたように『そうじゃない』と断る。

 コホン、と言い直して中二聖剣は続ける。

『私はなにをすればいい?
 私は剣だ。道具だ。恐怖なんて感じない。例えあのオーフィスだろうと、神であろうと、魔王だろうと私は恐怖に屈しやしない。力に屈しない。
 あるとすれば、貴方を失う恐怖。それを断ち切るならば、私は何だってして見せましょう。あのオーフィスだって切り伏せて、魔王だって聖なる剣で消し去ってみましょう。
 私にできるのは、貴方の命を明日に繋げること………』

 ―――さあどうする、 勇者?

 回りくどいその問いにツッコミを入れたかった―――が、デクタは至極真面目に考える。
 オーフィスはこちらに気づいていない。お互い視認している状態ならまだしも、こちらが主導権を握っているのだ。元々、今からしようとしているのは、騙し討ち。
 デクタの分身は、接触こそはしてないものの、既にオーフィスと対面しているため、その不意打ちをするタイミングは限られている。その分身が偽物だとバレる前に、動きたい。
 その最高の瞬間に動かなければならない。とはいえど、まだ時間はあった。

「俺がお前を守る。だからお前は俺を守れ」

 自分でも臭いセリフで、痛いセリフ。
 傍から見れば、意味不明だと捉えられるそんなセリフ。
 でもそれを理解している中二聖剣とっては、待っていたと言わんばかりに、満足気に言い放つ。

『ああ、その願い―――聞き入れた』

 瞬間、デクタの体は再構成されてゆく。
 バシュッと空音が響き、強制的に因子が聖剣へと引き出される。
 因子が光へと形を変えて、光がデクタを包み込む。意識さえも、思考さえも変えられていくような、そんな感覚に浸る余裕もなく、それは一瞬で終わった。
 結果そこから生まれたのは――― 騎士王だった。
 青い西洋のドレスで身に纏い、銀色の甲冑がそれらを覆う。
 短髪だった黒髪は、長髪の金髪に変わり、その髪は後ろに結い上げられていた。聖剣は装飾品で象られ、輝きを放つことなく、静かに顕在していた。
 デクタは手の甲にまである甲冑を、かちゃりと音で確かめながら、2度目となるこの姿に、不慣れさを感じていた。

 だが、理解している。
 何をすればいいのか。どうすれば自分がしたいことを再現できるのか。もしかしてじゃなくても、

 今のデクタは、転生特典である『天閃の聖剣を5000%扱える体質』の5000%のうち、100%という数値を超えた状態。
 超えた瞬間に生まれるその姿を身にまといながら、デクタは、エメラルドのような輝きを放つ双方の瞳で、目標であるオーフィスを見る。

 串刺し。
 オーフィスのか細い手刀で、軽々と貫かれている分身。
 そして、強化されていた聴覚から届いたものは―――まだか、と伝わる焦燥だった呻き。

「あと少しだ」

 弾速のように、飛び上がる。
 そろそろ時間は迫っている。オーフィスが分身をダミーだと分かった以上自分の居場所を悟られるのも時間の問題だろう。
 だが本体である自分の居場所はバレていない。
 アホ毛を夜風で揺らしながら、冷静に分析する。

 射程距離までドンピシャ。
 因子から生まれる光の魔力が足場をつくる。
 ぐん、とマックスだった物理法則を無視した動きで動きを止め、そこに降り立つ。

「行くぞ化け物」

 眼孔にオーフィスを収め、一気に魔力を解放した。
 全力だ。
 今持てる最高の力でオーフィスを抑え込む。油断なんてしない。最初から全力で挑もうとしよう。むしろそうしないと戦いにすらならない。
 そう直感する。

 聖剣を上段で持ち上げ、止める。そして肩で聖剣を深く深く構える。
 光の魔力が聖剣へと送り込まれる。
 5000%という規格外の質量を思いのままに、聖剣に収束させる。収束された魔力は光へと変換される。
 本来ならデクタの眼下にある街は、彼の体に奔流する魔力の熱量と圧力に耐えられず、この時点で消え去っていたことだろう。
 だが、デクタは全てを支配していた。完全に掌握していた。
 それが『天閃の聖剣を5000%扱える体質』だった。
 ただ、それは体質であって、才能であるために、永久的なものではない。
 デクタ・テインは人間だ。
 いくら正教会によって改造された身体だとしても、本来は人間で、今も人間なのだ。
 それも今デクタが使っている力は、神の神域を犯す程の能力。

 つまり、使い過ぎると自滅する。

 そうなる前に、事を済ませる。

 溜まった。放つ分だけの力は溜まった。後は放つだけ。
 ―――準備完了だ。安心させるように分身に念じる。
 視線を感じた。
 見やれば、オーフィスがこちらを見ていた。気づかれた。

(いや、何でこっち見てんの?)

 かなり距離を取ったはずなのに。
 いや、分身がこっち見てたし、そりゃオーフィスもこっち見ますよね。あーマジあの分身腹パンしたい。何安らかに寝てんじゃい。と愚痴をこぼすと、ゾッと寒気が襲ってくる。

 ―――何で……笑っているんだ……?

 デクタはオーフィスを見ながら疑問に思った。
 奴はこちらを見ながら笑っている。魔王をも滅ぼす一撃を、ただ呆然と笑って一蹴しているのだ。
 もしかして、俺の一撃程度は大したことない。だからあんな風に笑っているのか? 狂気を感じさせるそのオーフィスのそれは、デクタを凍らせる。

『放てッ!! 奴は気づいたッ!! 早く極太ビームを放てェェェ!! 』

 アホ毛は叫ぶ。それで正気に戻る。
 分かっている。そもそも倒せる相手ではない。勝とうなんて思っていない。今からする事は、オーフィスをこの場から引き離すこと。
 ふぅぅぅ、と空気と溜まっていたストレスを吐き出す。
 そして放った。

「エクスッカリバァァァァァァァッ!!」
 
 

 
後書き
テンポ悪いのでせめて投稿ペース上げたい。
あとオリ主はクズです(真顔) 
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