ロココの真実
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7部分:第七章
第七章
「完成させるから」
「わかりました。それじゃあ」
「頑張りましょう」
アシスタント達も笑顔で応えてだ。そしてだ。
彼女達は描き続けた。どちらの連載もだ。そして遂に最終回まで描き終えたのだった。
カトリーナは描き終えてからだ。その打ち上げの場でだ。こうアシスタントや関係者達に話した。その手には実家から記念に送られた最上級のワインがある。
そのワインを飲みながらだ。しみじみとして言うのだった。
「色々あった連載だったわね」
「はい、連載期間が延びましたし」
「先生途中出産もされましたし」
「他にも色々とありましたね」
「連載期間の間に」
「全くよ」
カトリーナはグラスを右手にアシスタント達に言葉を返した。場所はカトリーナの夫の友人が経営している高級レストランだ。そこのパーティー会場を借りているのだ。
その中央に置いた。長方形の大きなテーブルの上座でだ。カトリーナは言ったのである。
「描くこと自体が大変な連載だったしね」
「ですね。ですが本当にですね」
「これで終わりですね」
「皆のお陰よ」
微笑んでだ。アシスタント達にも他の関係者達にも言った。
「連載を終わらせることができたのはね」
「いえ、私達はそんな」
「何もしてないです」
編集者達がすぐにだ。カトリーナに言ってきた。
「全部先生が頑張ってくれたお陰ですよ」
「アシスタントの皆さんも」
「いえ、それは違うから」
カトリーナは彼女達の今の言葉はすぐに否定した。
「皆いてなのよ。漫画ってのはね」
「描けるんですか」
「そうなんですね」
「そうよ。正直に言うわ」
こうだ。カトリーナは飲みながらも真面目な顔になって答えた。
「私だってね。あの漫画はね」
「一人ではですか」
「描けなかったんですね」
「あの漫画は絶対に無理だったわ」
それは何故かというとだ。
「あんな描き込まないといけない漫画なんてね。とてもね」
「そうですね。一人ですと」
「とてもですね」
「描けなかったんですね」
「そうよ。無理よ」
こう答えるのだった。
「あんなのね。元々漫画は一人で描くことには限度があるわ」
アシスタント、それに編集者が必要だというのだ。そしてだ。
カトリーナは何よりもだ。彼等のことを話すのだった。
「ファンの人がいてこそじゃない」
「そうですね。読者がいないと」
「読んでくれる人の声や目があってこそですよね」
「漫画は描けますよね」
「そのうえで、ですよね」
「そう。とにかく漫画は一人では描けないのよ」
それは無理だというのだ。
「そういうものなのよ。前からわかっていたけれど」
漫画は一人では描けない、そのことがだというのだ。
「それでも。今回の連載はね」
「特にですか」
「そのことがわかったんですか」
「ええ。大変な連載だったから」
それ故にだというのだ。
「わかったわ。そうした意味でもね」
どうかと。カトリーナはしみじみとした顔になった。そのうえでだ。
共にいるアシスタントや編集者達にだ。こう言ったのだった。
「いい連載だったわ」
「ならです」
ここで編集者の一人が早速言ってきた。
「今度の連載もロココでいきますか?」
「それは遠慮するわ」
あっさりとだ。カトリーナはその提案は一蹴した。
「絶対にね」
「あれっ、けれどいい連載だったって」
「大変って言ったでしょ。同時に」
「それはそうですけれど」
「だからよ。あんな徹夜続きで毎日死線の連載なんて二度と御免よ」
今度は過去を思い出してうんざりとした顔になってだ。カトリーナは言った。
「もう絶対にね」
「そうですか」
「今度の連載はね。格闘ものに戻るわ」
「先生の得意分野にですか」
「そうよ。流石にあの連載をもう一度ってのはね」
うんざりとした顔のままでだ。カトリーナは一同に話していく。
「お断りするわ。一度でいいわ」
「ですか。じゃあ今度はですね」
「格闘漫画に戻って描きますか」
編集者とアシスタント達も実際にだ。そのカトリーナと共にいた大変な過去を思い出してだ。
そのうえで頷きだ。これからのことも見るのだった。
カトリーナはその彼女達を見て大変だった過去を振り返り笑顔になった。もう二度と経験したくないがそれでもだ。彼女にとって非常に実り多いその連載を思い出しながら。
ロココの真実 完
2012・2・29
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