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黒を纏う聖堂騎士団員

作者:櫻木可憐
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19.二人の関係

大きなくしゃみが聞こえました。
誰のものかというとマルチェロです。
そりゃ雪国ですから寒いでしょうね。
今、メディおばさんの家の前に来ています。
まだ建て直されていないようで、黒く焦げた木がたくさんあります。

「さ、寒いな」

「ん?そうか」

クロノスはマルチェロを眺めるだけでなにもしません。
どうやら楽しんでいるようです。
皆さん、こういうのを悪女と言います。
しばらく眺めるクロノスでしたが、マルチェロが凍死する前にあるものを渡しました。
ヌーク草を受けとるマルチェロは首をかしげました。

「口に入れるぞ」

クロノスはマルチェロの意思を無視して口に押し込めました。
あーん、のシーンにしてはかなり過激すぎやしません?
マルチェロ悶絶してますし。
そりゃヌーク草はそのまま食べる者じゃないですから。

「な、なんだこれは!!」

「普通、煎じて食べるんだが。
そんな暇と設備がなかったから。凍死しないだけいいだろ?
エイトから盗んできたんだ」

よい子は真似しないでください。
盗むなら愛や心、娘さんにしましょうね。
物はだめです。マルチェロが怒りますよ。
そして煉獄島送りになります。
当の本人マルチェロは何やら考え込んで、クロノスの自慢盗み話を聞いていません。

(なんだこの緊張感。
ヌーク草とやらを食わされた瞬間に発生したぞ。法皇に即位する際に緊張感などなかった。
いや、今までにないほどの緊張感だ。ヌーク草に何かあるのか。
待て。私が知り得ない感情があるではないか。

・・・これが恋か!!)

誰かツッコメ。
皆さんはわかりますよね。
ヌーク草を食わされ辛い思いをした時のイライラドキドキを、恋と勘違いしたんですよ?
と、いうか法皇に即位するのは仕向けていたんですから緊張しません!!
まあ、恋は勘違いって言いますからいいでしょう。

(と、いうことは私もやはり男か。汚らわしい!!
恋などとうつつをぬかす暇があれば金の少しでも増やしたらどうだ!!
ククールのように一発当てなどあてにならん!!
マイエラ修道院はもう少し金を稼げたのだ!!)

「マルチェロ、どうした。」

「すまん。では探すとしよう。
瓦礫をどかすところからだ」

マルチェロは気を取りなおして作業を始めました。
あるかもわからない資料のために。
クロノスの理由もわからず探してくれています。
女性にやらせるなんてククールならしませんよ。
元々男装僧侶だけあり力はあるので任せられますが、雪の中はキツいでしょう。
さすがのマルチェロも気づきました。

「クロノス、あの洞窟で見ていろ。
私一人で充分だ」

「あの洞窟の中に、この家主の息子がいる。
会いたくない」

「なるほど。寒くはないか?」

「・・・?ヌーク草ならまだ二枚あるが?」

マルチェロがやけに優しいので、クロノスは偽者かと疑いました。
優しい疑われるマルチェロに可哀想とは言いませんよ。
二階からイヤミですから。
すっかり恋と勘違いしたバカハゲは、どうやら自分自身の扱いに困っているようです。
不機嫌な顔をしながら考え込んでいるマルチェロを見ていたクロノスは、ヌーク草に副作用があるのか考え始めました。

そんなマルチェロは燃え尽きた大きなレンガを持ち上げました。
このときです。
マルチェロは突然下に消えていったのです。
青ざめたクロノスは慌てて覗きました。
穴に落ちたようです。暗くて中は見えません。
火をつけようにも濡れた木ばかりで明かりがありません。

「地下室のようだ。これなら書物も火事でも無事に済むな。
クロノス、そこで待っていろ」

「あぁ・・・」

クロノスが待つなか、マルチェロは暗闇の地下室を歩きます。
濡れていない木の枝に運よくつまずき、即席の松明を作りました。
やはりマルチェロが考えた通り書物があります。
探している資料があればよいですが。
マルチェロが手にしたのは童話のようです。
『女神エリスの堕落』という子供向けではないようです。
それでは悲しいシーンや回想シーンで流れるあの曲と共に読みましょう。

『まだ国が出来、人が潤う世界ではなかった頃。
エリスという美しい女神がおりました。
彼女は自分を超える美しい女たちの性格を醜いものに変え、争いを起こし始めました。
そして人が国を作り、争い、ラプソーンを封じた頃。
エリスはラプソーンを封じた七賢者たちに挑戦を出しました。
ー私はこれから一日一人、人を殺そう。私に勝てば人間の勝ちだー
日が一日一日と経つなか、連鎖を止められない七賢者の前に少女が尋ねました。
ー私がエリスを封じ込めましょうー
少女は自らの長い長い血筋と引き換えに女神エリスを封じ込めたとさ。』

「曖昧な話だな。嫉妬深い神を封じた話など・・・
ふん・・・・・・ラプソーンか。
命令されるのは嫌いだが、かなりいい経験をしたな。
なるほど、赤の時代とはラプソーンか。青の時代は・・・エリス。」

ククールに呟いたマルチェロの台詞。
記憶にない人も多いかもしれません。
しかし、マルチェロはどこでそんな台詞を入手してきたのでしょう。
地上で待つクロノスはしびれを切らして呼び掛けてきました。

「おい、大丈夫か」

「当然だな」

とは言いましたが、マルチェロはしばらく黙りました。
落ちるのは簡単に手早く出来ますが、どう上ればよいか分かりませんでした。
梯子はありませんし、ルーラもリレミトもマルチェロはありません。
それがプライド上言い出せないマルチェロに気づいたクロノス。
何も言わずに地下に飛び降り、マルチェロに絡み付きました。

「な、何をする!?」

「動くな。ルーラでとりあえずパルミドに飛ぶ。
狭い出口だから頭を打たないようにしたい。
動くと頭を打つぞ。バカになるぞ。」

そういうと容赦なくルーラで飛び去りました。
上下関係が出来上がったようです。
 
 

 
後書き
タイトルをマルチェロの暴走にしたかった・・・ 
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