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幻のIS小説のプロットの更なる続き。
前書き
真人くんは割と極端な設定を施したが為に愛着のあるキャラクターでして、このキャラクターを没にするのは嫌だなぁと当時ものすごく思っていたのを覚えています。
そのため、後に書いたオリジナル短編の「新説イジメラレっ子論」にはセルフ改変した真人くんを出しました。「はて迷」のオーネストも真人くんのセルフアレンジキャラだったりします。このプロット内に登場する真人くんは、その原型になったキャラなのです。
※プロットでは日常会話などが大幅に省かれていますが、真人とセシリアは異性として意識し合っています。
第六章
真人と同級生の抗争にシャルが参戦する。しがらみから解放された彼女は周囲の想像以上に思い切りが良く、周囲から「風原二号」と揶揄されるほどにいじめ関連の絶妙な駆け引きが上手だった。どうやら会社や母親に対して溜まっていたものがあったようだ。また、ラウラも軍隊式煽りで上級生と火花を散らし、今まで水面下で行われていた対立構造がむき出しになる。そんな中、セシリアは自分があまりこの手の戦い向いていないことで小さな疎外感を感じていた。
同刻、一夏は鈍っていた剣の腕をメキメキ上達させていた。しかしそれは強さへのあくなき欲求ではなく、学校内に渦巻く独特の悪意を忘れたいがために没頭しているだけだった。クラスメートとは上手く行っているし、最近は真人にもそれほど邪険にされない。クラスの雰囲気は最初に比べれば軟化していた。それでも、悩みが無くなる訳ではない。
真人たちと上級生の争いに終わりが見えない。同級生も未だに皆が真人を認めているとは言い難く、少し前までシャルに黄色い声を上げていた女子が今ではシャルを毛嫌いしているという手のひらを返したような光景も日常茶飯事だ。別のクラスではもっとひどい噂も出回っているらしい。
一夏からすれば、真人と上級生が互いに謝罪して手打ちにするのが最も平和的ない方法に思える。しかし、真人という男は自分が悪くないと判断した場合は何をされても絶対的に頭を下げないし、あちらもそんな真人が気に入らないので和解する気がない。先生はそれに見向きもせず、どうにかしようとしている大人は少数派だった。
とめどない悪意が生み出す濁り。かつて箒や鈴を助けた時の単純ないじめの構造とかけ離れた現状。仲裁するべき立場である大人が口を出さないという怠慢とも取れる態度。真人はあちらが手を出さない限り決して自分から攻撃することはない。しかし、上級生は真人という存在そのものを根拠に、実体のない巨悪のイメージを作り出している。
両者の戦いは、全く無意味で実体のない戦いなのだ。何故それに気付かないのか。何故応酬は止まらないのか。今までに何度もこの戦いを止めようとした一夏だが、真人たちは「攻撃されたから反撃する」のスタンスを崩さないし、上級生に到っては一夏を神輿にして真人を攻撃する態勢を正当化しようとした。
「言葉じゃ足りないのか?誰かが誰かより下じゃないと、みんな納得してくれないのか?」どちらかを護ればどちらか意味のない戦いをすることになる。どちらも護ろうとしても結局はどちらかがどちらかを弾圧しようとうする。一夏の悩みは袋小路に陥っていた。
鈴はこの戦いを割り切っている。「人間なんていつだってこんなもんよ。アタシだって中国人だからっていうつまんない理由で虐められたし。アタシたち、どうしようもない生き物なのよ」。箒もまたニュアンスは違えどそのような現実を見てきたため、意見は同じだった。足りない物を探すように、一夏の太刀は鋭さを増していく。
迷いは太刀筋を鈍らせる――そう思っていた。千冬の剣は正にそれだった。だが、一夏は迷い、悩み、その中でも前へ進もうとする。その強い意志が、剣に力を与えていた。
箒はそれを間近で受け続けたが、生身はともかくISの方は既に一夏に付いて行けなくなりつつあった。そんな折、彼女の携帯に束から電話がかかってくる。「専用IS、欲しくなぁい?」。あちらからの連絡に箒は微かな不信感を覚えるが、一夏を支えるのにレンタルの打鉄では無理だ。箒は頷く他なかった。
そして臨海学校の日が訪れる。真人を除き、おおむね全員が初日を楽しそうに過ごした。その真人も周囲から離れて趣味の「釣らない釣り」を楽しむことにするが、そこに箒が現れる。「嫌な予感がするんだ」。何の根拠もないが、箒は何年も音信不通だった姉が突然向こうから接触を図ってきたという「感情の機微」が気になっていた。
あまり興味なさそうに箒の話を聞いていた真人だったが、不意に彼女の語る人物を聞いていて思い出す人間がいた。前に釣りをした時に現れた、面倒で不審な女――あの女と会った直ぐ後、真人はテロリストの襲撃を受けた。そのことを話すと、箒はそれは束本人である可能性が高いと感じた。箒は千冬にも嫌な予感を伝えたが、「防ぎようがない」と言われてしまったという。だったら――束に嫌われたかもしれない真人がどうなろうと「防ぎようがない」のではないか。言い知れない不安を感じながら二人はその場を後にした。
その日の夜、真人はのほほんと共に夜食を抜け出していた。別に逢瀬という訳ではない。実は真人は肉の件とは別に、幼い頃食中毒で死にかけたトラウマから生魚が極端に苦手だったのだ。肉と生魚のない食事をあらかじめ用意していたのほほんは何所か楽しそうに真人と共に食事をする。それなりに真人が心を許してくれている気がして嬉しいようだった。そんな所にセシリアが現れ、シャルが現れ、他数名の専用機持ちたちが現れ、全員で夜の月を見上げた。
中学時代の親友たちとアウトドアに出かけた日の夜を思い出した真人は、無性にあの頃の親友に再会したくなった。外出許可はいつまでも出ないが、夏休みには出るだろうか――そう淡い期待を抱きながら。
翌日の朝、束は箒へのプレゼントと共に、真人に最悪の知らせを告げる。それは、中学時代に「友達」だった人物の一人――守達姫が所属不明のISに拘束されている写真だった。その写真を見た瞬間、真人は既にISを展開してその場を立ち去っていた。
周囲は追いかけようとするが、束のことを読み違えていた千冬は真人を捨て置くように指示し、原作の道へと向かう。釈然としない周囲だが、千冬は「更識の護衛」が真人を守っている事を暗に匂わせて納得する。事実、真人には影の護衛が存在した。
それは学園2年生のロシア代表候補生「アレーシャ・イリンスキー」。表向きは楯無と犬猿の仲と称されているが、実際には楯無の異母姉妹でありれっきとした更識の人間だ。しかし彼女は使命感に溢れるが故に、以前のテロ発生時は民間人を護るのに精いっぱいで真人への援護が間に合わなかった。その事を悔いていた彼女は学園では風邪で欠席したことにして数名の部下と共に極秘裏に真人を護衛していた。
真人は殆ど冷静さを失っていた。彼にとって友達とは里親と同じ位に大事な存在。下手をすればその感情は自分の命以上の価値を感じているほどだ。それを誘拐されたと聞いた時、彼は自分が中学時代に住んでいた街へ一直線に向かっていた。
しかしそれをISを展開して追い付いたアレーシャが静止する。真人はまるで効く耳を持たなかったが、そんな彼の耳が急に冷静さを取り戻される。「仮にそれが敵の仕業だとして、正面から無策に突っ込めばそれだけ無辜の民が血を流す!我々に同じことを繰り返させないでくれッ!!」。真人は迸る感情を抑え込み、友達の為にアレーシャに協力することにした。
更識の調査能力を活用した結果、達姫が攫われたのはそれこそ今日の朝であることや、攫った相手が近くの街の大型ホテルにいる事を知る。どうやら拉致の瞬間を束に見られていたのは相手にとっても予想外だったのか、警戒は薄かった。アレーシャは相手が人質作戦を取ってくることも考慮して、最初の一撃で人質と誘拐犯を完全に分断する計画を取る。
作戦は成功、更識の万全のサポートで敵IS操縦者と達姫を分断し、真人は達姫を救いだす。だが彼女に無事かどうかを確かめた真人は、彼女が既に手ひどく痛めつけいる事と声を一切発することが出来ないでいる事に気付く。ISを所有するテロ組織に拉致され、短期間ながら拷問のこうな行為を受けた彼女は精神的ショックから声を失っていたのだ。
達姫は、いわゆる女子の間でのいじめられっこだった。彼女は家族からも近所からも同級生からも虐げられ、それでも痛い苦しいと叫ぶことが出来ない環境に押し込められて他人に媚びる事しか出来ないでいた。それが真人の友達と出会い、様々な問題にぶつかり、やっと打ち明けることが出来た存在だった。
彼女は真人が助けてくれたことに感謝しているのだろう。ありがとうと、彼女はそれまでずっと言えなかった言葉を言えるようになっていたのだ。なのに声は出なくて、どれほど頑張っても出なくて、言葉を奪われた達姫は真人の胸の内で泣きじゃくった。
真人は彼女を更識の別動隊に任せ、そして静かに怒りに支配された。理不尽な現実への怒り――真人が人生で常に燃やし続けていた怒りに任せ、真人はアレーシャが交戦していた元凶のオータム駆るアラクネに猛攻を仕掛ける。「お前が……お前らはぁぁぁーーーッ!!」「『あいつ』のやり方はヌルいんだよ!!本当に手に入れたいんなら人質なりなんなり使ってとっとと言いなりにしちまえばよかったんだ!!なのにあいつも攫ったクソガキも『思うようにはいかない』ってよぉ!!」。
オータムは、以前に真人を攫いに来たあの偽真耶の手ぬるいやり方に反発して今回の拉致事件を起こしていた。彼女の計画では友達全員を攫うつもりだったが、攫われた達姫の真人への信頼が彼女には酷く癪に触ったらしい。余りにも身勝手な行動に堪忍袋が破裂した真人の中で「何か」が起こり、真人はISの限界を越えた超人的な機動でオータムを追い詰める。それはまるで人間の怒りと機械の非情さが入り混じったようで、暴力的で、人間として歪な戦い方だった。
しかし、その戦い方はISのエネルギーを激しく消費させ、戦闘中にIS展開が解除された真人はオータムに捕まる。ISが無ければ唯の青臭いガキ、そう思ったオータムは泣いて赦しを乞えと嗜虐的な笑みで叫んだ。それに対する真人の回答は――突入前に更識に受け取った拳銃によるオータムの顔面へのフルオート射撃だった。「お前がくたばったらしてやってもいいぞ、クソ女」。それは真人という人間が元来持っている、現実への絶対的な反発の意志。彼の友達が真人に見た魅力であり、オータムの怒りを最も誘うものだった。
そして次の瞬間、オータムはあの偽真耶に吹き飛ばされていた。「真ちゃんに手ぇ出したら君から先に処分するって……ねぇ、言わなかったっけ?」。それは真人の先ほどの怒りさえも上回る凄まじい威圧感を持って場を支配する。偽真耶は越権行為を行ったオータムを一瞬で黙らせ、更識たちの目の前でオータムの腹を殴りつけて吐血させ、気絶したオータムをゴミ袋でも引きずるように掴む。「御免ね、真ちゃん。同じような事はこれからさせないから……私が絶対にさせないから。それだけは、信じて」。「信じてもいいけど、聞かせてくれ。アンタは一体俺の……何なんだ」。「味方………かな。これからも、ずっと」。偽真耶が撤退していくのをアレーシャは追撃しようとするが、真人はそれを制した。真人はどうしてか自分でもわからないまま、彼女の事を信じていた。
第七章
達姫は更識の手で病院に通って精神的な傷を少しずつ治療することにした。達姫は、真人と関わったばかりにこんな目に遭ったにも拘らず、筆談で「自分の所為で真人を苦しませた」と逆に謝っていた。真人には彼女が何故そんな風に思うのか理解できない。何故なら、悪いのは自分だからだ。
真人がIS学園に行った後に彼女と友達になった子たちは、真人を疫病神のように蔑んだ。ホテルの戦闘では死者は辛うじて出なかったが、自分がISになど選ばれなければこんな事件が起こる事さえなかったろう。「俺が産まれて来なければ、みんな幸せだったのかな」。昔から潜在的に感じていたことを、真人は吐露する。
自分が自分であろうとすればするほどに誰かが敵になり、傷ついていく。虐めてくる相手に全力で反抗して大怪我を負わせたことは何度もあるが、その度に自己嫌悪を感じていた。自分がこんな人間でなければ――いや、最初からいなければ………。しかし、その台詞を吐いた瞬間、達姫が真人の頬を細い手で叩いた。「そんなこと言わないで、風原。クリューだってタイイツだって、コーリューだってカレンだって、皆あなたにいてほしい。勿論、私もずっとフゲンにいてほしい」。フゲン――それは昔、友達が風原の姓と昔の小説の登場人物をもじってつけた仇名。
懐かしい響きに、自然と真人の頬から涙が伝う。遅れて達姫――彼女の渾名はダッキだった――以外のメンバーが病室になだれ込んだ。堂々と真人をスルーして達姫を可愛がりに行く奴もいれば、真人がいることに驚きまくってる奴もいる。一人は真人が泣いていることを盛大にからかってきた。学園にいってからも、友達はまるで変っていなかった。「成長しねぇ奴等」「それ、君が言う事と違うからね」「私は最初から完成してるわ」「じ、自意識過剰……」「俺達ってそういう集まりだからな!」。
胸のとっかかりが一つ外れた真人は、友達に達姫の事を任せて臨海学校に戻る。時刻は既に深夜を回っていた。しかし、彼を待っていたのは項垂れる箒と、生命維持装置に繋がれた一夏だった。ゴスペルとの戦闘で一時は敵を圧倒した一夏だったが、原作通り「極めて不自然な」密猟者を庇って倒れたのだ。
何故こんな状況になっているのか、事のいきさつを聞いた真人は千冬を睨みつけた。一夏と箒を行かせたのは千冬だ。唆したのが束であっても、千冬が行かせたのだ。仮にそれがIS委員会直々の要請であったとしても、この女は自分が護るなどとほざいていた生徒を死地に向かわせ、そして現在に至る。自分の実の弟が倒れ伏しても未だに指令室に居座っている千冬に、真人は再び激怒した。
「そうか、そうかよ。自分の立場を護る為なら生徒が死のうが自分の弟が死のうが、それでいいってわけか……クズだな、あんた!」「貴様のような責任知らずの餓鬼に何が分かる。お前は暴れるだけで満足だろうが、私はそうではない。私の立場の重さが貴様に分かるのか?」「話を逸らすな!!テメェは世界最強のブリュンヒルデ様なんだろ!?だったら剣を握って助ければよかったんだよ!護る為のISを用意してればよかったんだ!委員会に『糞喰らえ』って吐き捨てて、自分で犠牲の出ない作戦立てて、テメェがケリを着けて来れば全部解決だったんじゃねえか!!」。千冬も言い返すが、真人の爆発的な怒りは止まらない。
「テメェ、自分の地位と生徒の安全を天秤にかけたんだよ!あの胡散臭い兎女の甘言に乗って、自分が傷つかねぇ方を選んで、弟はあの様だ!生徒の命がどうでもいいんなら最初から薄っぺらい責任なんて説くな!!どうでもよくねぇってんならもう一度現実を見て見ろ!!テメェが一体誰の何を護ったのか、織斑の前で言ってみろよッ!!」。その言葉は、ジレンマを抱えた千冬にとって最も残酷な言葉だった。
苦しい判断を迫られた中で、親友を信じてしまった。だから一夏は死にかけている。それが端的な答えだった。千冬はこれまでも生徒のことを一番に考えていたつもりだ。真人がちゃんと他の生徒とコミュニケーションを取れているかどうか、こっそり覗き見をしていたこともある。そんな千冬の「最善」の結果が今だった。
千冬は気付いてしまった。世界最強の肩書と、学園教師の教鞭。その二つを手に持ってしまうと、もう他の物――護る為の剣と、一夏を握る事は出来ないのだ。もっと早く気付いて手放していれば何の問題もなかったのに、自分はなくしてはいけない方を手放してしまった――これ以上喋るのは無駄だとその場を後にする真人を背に、千冬は大いに悩むことになる。
生徒。今まで社会に送り出してきた生徒。これから送り出していく生徒。叱った思い出、褒めた思い出、涙を隠して見送った思い出――思えば千冬は学園教師になってから、どう生徒と接するのかに悩み続ける日々だった。悩みに悩んだ末に、千冬は一つの結論を出す。
悩み続けながら、出来る事をしていく。最も基本的なのに、千冬はそれが出来ていなかったのだ。
その後、結局真人は候補生たちと共にゴスペル迎撃に向かうが、ここで連戦のダメージを修復しきれなかった真人のミソラスが限界を迎え、護衛のアレーシャの援護も虚しく戦闘不能になる。その後、一夏が決着をつけるまでの間、真人は気を失った状態で水面を彷徨い、予備ISで救助に来た千冬に助けられる。
千冬はガタの来ていたミソラスで戦った真人を一方的に咎めたのち、「二度目は起こさせない」と呟く。それは、いつの間にか日和見になっていた千冬が、次からは立場を越えて戦いに参加することの一方的な意思表示。真の意味で「生徒を護る教師」となる事の宣言だった。一夏によってゴスペルが止めを刺される光景を見ながら、真人は偉そうに「出来るならやってみろ」と呟いた。千冬は「やってやるさ」と、青臭い若者のように頷いた。
一方、束はまた真人が自分の予想を辛うじて潜り抜けたことに若干の不満を抱きつつも、自分の思うように事が進んだことに満足する。彼女は自由で、奔放で、自分の為にしか動かない。覚悟を決めた千冬を前に会話を交わしても、彼女はいつもどおりだった。千冬は、その笑顔が今まで自分が想像していたよりずっと残酷で無責任な笑顔であることを少しだけ感じ取り、生徒の為ならば友達でも容赦はしないと警告した。
その日の夜、真人はまた不思議な夢を見る。あの忌まわしい思い出しかないアパートの中、真人はまた見覚えのない少女と共にいた。少女は何故か傷ついたまま横たわっていた。その傷を見た真人は、傷の場所とミソラスの損傷個所が同じであることに気付く。「ミソラス………」。最初は忌々しいだけだったIS、そして眉唾物だったISの自我。真人はその非現実的な繋がりにこれまでにないリアリティを感じた。
自分が戦えば戦うほど、ミソラスが傷つく――真人にとって最も嫌なことは、自分の起こした行動で自分と関係のない人が傷つくことだった。だが、目を覚ました少女は「これが役目だら。生まれてずっとまもりつづけた役目だから」という。「間違ってる。俺のせいでテメェがボロボロになるのが役目だと?そんな役目があってたまるかよ!!」真人はミソラスにその意識の外を見て欲しくなった。そして今のミソラスの在り方を否定する答えを見つけてほしいと思い、彼女を背負ってアパートの外に出ようとする。
そんな二人を、「ミソラスによく似た誰か」が見ていた。
真人の夢は覚めた。
夢の内容は、あまり覚えていなかった。
第八章
学園が夏休みに迫ってきた頃……真人の異母兄妹である九宮梓沙が学園見学に訪れた。見学とはいっても、実質的には二学期から学園に入学することになるため、この日から彼女は学園の人間としてここに住むことになる。
そして、日本政府はイメージアップ戦略として真人と梓沙の二人に「仲のいい兄妹」を演じる――願わくばその通りになる事を望んでいた。しかし、少なくとも梓沙にはその気は全くない。今頃こちらが苦労させられて家族仲まで引き裂かれたことも知らず、女に囲われていい気になっている(であろうと推測される)真人を殴ってやると強く心に決めていた。
一度も真人に会ったこともない梓沙の勝手なイメージでは、真人は優男でへらへら笑っていて、マニュアル通りの台詞を吐いて真人間ぶるいい子ちゃん。施設でそうあることを強要された梓沙は、真人もそんな人間になっているに違いないと信じていた。
実際には外では真人とシャルのガチンコ殴り合い対決の所為で「男性操縦者の怒りっぽい方」という評価を受けていたのだが、政府はこの情報を含む彼の悪行が梓沙の「兄」へのイメージを悪化させるとして勝手に伏せていた。結果、梓沙は様々な方向で勘違いしたまま真人との対面に向かう。
その頃、真人は教室にいた。親友との再会や、夏休みでの多少の自由。それに臨海学校で他の専用機持ちと轡を並べたことで、多少なりとも雑談をする程度の関係を築けていた。未だに真人を敵視する人物は(特に癒子は今でものほほんへの仕打ちを根に持っている)いるが、やっと彼の周辺環境は改善らしい改善を見せていた。
そんな教室に、どこか真人に似た顔立ちの少女が入ってくる。梓沙だ。梓沙は突入するなり一夏を真人と間違えてぶん殴る。余りテレビを見ない梓沙は間違いを指摘されても反省しない。そもそもこの男が見つからなければ真人も見つからなかったという意味では、一夏も諸悪の根源だ。そして改めて無表情な真人に向かい合った梓沙は、今度こそ真人の顔をぶん殴った。「アンタの所為で、全部滅茶苦茶になったのよ!!」。
梓沙は彼が謝ったり、怒ったり、言い訳したり、とにかく何かアクションを起こすと思っていた。それに対する返しまで考えていた。しかし、真人は彼女の凶行に割って入ろうとする専用機持ち達を手で制し、「お前には俺を殴る権利がある。だから、この一発は甘んじて受けた」と告げた。誰に媚びることもない強い瞳に、梓沙は一瞬気圧される。「だが、これはケジメの一発だ。これ以上俺を殴るんなら『保険付き』じゃなくて『自己責任』でやれ」。高圧的とも取れる態度に、梓沙はムキになってありったけの挑発を叩きつけた。こうして二人の最悪のファーストコンタクトは終了した。
以降、夏休みに突入。そして日本の要望で真人とシャルの相部屋(あの後も続いていた。よからぬ噂も流れたが)は解消され、梓沙がそこに入る。僅か数日の、梓沙の一学期目が始まった。彼女の世話は真人に任されたが、真人は頼まれたこと以外で彼女と口を利く気が無かった。何故なら、梓沙は決定的に真人を嫌っており、あちらも話しかけてこないからだ。千冬はどうにか二人を仲良くさせられないかと悩んでいたが、梓沙の意固地さはある意味で真人より厄介だった。
無視すればいい――真人はそれが一番楽なので、迷わずそれを選ぶ。しかし、梓沙は逆に接する機会がない事で彼への潜在的な不満や荒探しが出来ずに苛立ちが募る。そして真人と仲のいい専用機持ちは全員敵扱い。生活環境は違った筈なのに、彼女は妙なところで真人に似ていた。
だが、梓沙はそんな生活の中で、真人は嫌いだが彼が決して物語の登場人物のような典型的悪人出ない事を節々から感じ取っていた。最初は反真人派とよく喋っていたが、彼女たちの言葉の中には「風原真人はそんな人間ではない」と感じることが多くなり、次第に関係はぎくしゃくしていった。
結局距離が埋まらないまま夏休みが訪れたある日、真人が黙ってどこかに出かけるのを梓沙は目にした。何か彼をギャフンと言わせるような弱みが欲しい――そう思った梓沙は、反真人派で一番気が合う癒子と共に彼を追跡する。真人は外出許可を貰い、電車に乗り、段々と学園から離れていく。二人は下手くそな尾行をしながら追跡し、ある家に辿り着いた。真人はそのまま家に入る。どうしても真人の行動を観察したかった二人は双眼鏡などを使って遠くから観察しようとするが、突然彼女たちは黒服の男達に拘束れる。
突然の事態に身の危険を感じた二人だったが、ややあって誰かの指示を受けた黒服は二人を解放し、真人の入った家へ案内を始める。そこで二人はやっと真実を知る。この家は、真人の両親が現在住んでいる場所で、黒服はシークレットサービスだったのだ。
真人はアホ二人に呆れ顔だったが、シークレットサービスとの会話を聞いた両親が「二人に会いたい」と言い出したために仕方なく迎え入れてやったという。短いながら家族の会話を終えていると告げた真人は数か月ぶりに自室(引っ越しをしたために自殺未遂した部屋ではない)に荷物の整理に生き、両親と二人が残される。
真人の両親は、真人とは似ても似つかないほど善良な夫婦だった。歳は50ほどだろうか、どうしても子宝に恵まれなかった二人は当時孤児だった真人を里親制度で引き取った経緯がある。その事を知った二人は、真人が孤児であることを初めて知って衝撃を受ける。
更に、真人は父には捨てられ、母親から酷い虐待を受けて育児放棄されたこと……孤児院から中学時代までずっと誰かに差別され、いじめられ続けていたこと……さらに自殺未遂の事を知る。里親ときちんとした信頼関係を築けたのもつい数年前で、それまでは口も碌にきかなかったという。「優しい子なんだ、本当は。ただ、その優しさを表現することを怖がっているだけでね……」「学園では随分皆さんを困らせているでしょう?本当に不器用で不器用で……でも、あの子が私を『かあさん』って呼んでくれた日は嬉しかったわ」。
夫婦は二人を真人の友達だと思い込んでいる。真人の思わぬ真実を知ってしまった二人は、まさか真人が嫌いでしょうがないから追いかけていたなどと言い出せない。この二人には言えない――そう思わせるだけの柔和さが二人にはあった。結局癒子を中心になんとか乗り切った二人は疲れ果てる。
真人は生まれつきあんな人間だった訳ではない。社会のゆがみや不運、そんなよくない要素が偶然一カ所に集まって、真人が誕生した。両親の会話から、癒子は真人が決して自分から望んであんな態度を取っている訳ではないことをそれとなく察する。だから真人を許したわけではないが、彼女の心は確実に揺れていた。
梓沙も揺れていた。彼女は確かに不幸かもしれないが、真人の不幸はそんな自分のそれが霞むほどに大きかった。梓沙は、彼に意地を張っている自分がとても矮小な存在に思えた。そして自分の母親よりもよほど親らしい里親を持つ真人に嫉妬している自分が嫌になっていた。
晩御飯までごちそうになってしまった帰り道、二人は一言もしゃべらずに真人に着いていく。ばつの悪い二人は両親の前では友達のような態度を取ったが、いざ真人と二人きりになると何も言えない。しかし、そんな二人に反して真人は意外なことを言った。「お前ら二人が来て気が楽だった」。
もしセシリアやのほほんみたいなのが来ていたら余計な事を言いまくって「何とか言ってください!」と具体的な部分を指摘して直訴しかねない。かといって誰もつれて来なかったら二人は不安になるし、シャルや一夏は悪ふざけで愉快犯になりかねない。その点で癒子と梓沙は良くも悪くも小物……初対面の人間に下手なことを言えるほどの勇気はない。
言うまでもなく、真面目な顔で馬鹿にされた二人はこの説明に怒り狂い、真人嫌いは加速した。
ただ、今までの漠然とした存在否定的な嫌いではなく、人物的な嫌いに変わっていたことは、当人たちも気付かなかった。
その後、梓沙は少しずつだが癒子と共に他の生徒ともコミュニケーションが取れるようになっていく。時折厄介な絡まれかたもしたが、気が付くと真人が彼女を庇うように現れた。何か大きな失敗をしてしまった時も、真人は静かにフォローする。何のつもりだと怒鳴っても、真人は口を開かない。家族として接する事はしない癖にこちらを気にかけたような行動を取る真人の真意を知りたくなった梓沙は、苦手なタイプなので接したくなかったのほほんに話を聞く。
のほほんの推測によると、真人は日常を壊された自身と梓沙を重ねており、巻き添えのような形でIS学園に連れて来させられた彼女に内心で同情しているのではないかという事だった。「あずにゃんもそーだけど、まなまなも大概素直じゃないよねー?」。
もしかしたら――真人は真人なりに、「兄」としての役目を果たそうとしているのかもしれない。そう感じた梓沙だったが、彼女が真人を、真人が彼女を素直に兄妹だと思える日は遠いだろう。二人は不器用な所が良く似ているだから……。
第九章
夏休みも終わり学園も再開。とうとう暗部対策も兼ねて楯無が動き出すのだが、真人は楯無を全く信用しておらず、徹底して楯無のペースに乗らない。我慢比べになったら真人は無類に強かった。また、一夏は一夏でいじめ問題などに思い悩んだ結果段々と求道者の道に目覚め始め、からかっても楯無の望むリアクションからずれていることが多かった。
どうにも煮え切らないまま事態は進行し、タイミングは学園祭へと移る。
楯無勢も政府も最大限の警戒網を敷いた緊張感の中、テロリストが取った行動は……「大々的な学園への直接攻撃」だった。IS3機による一斉強襲+あの事件の洗脳兵にパワードスーツを着せた人間。これまで水面下で動いていたテロリストの余りにも直接的な、しかも民間人が学園に訪れているタイミングでの襲撃で学園と政府は再び後手に回ることになる。
専用機持ち達は襲撃IS迎撃へ。一夏、真人は他の生徒と共に避難を強いられるが、そこで二人はのほほんだけがどこにもいない事に気付く。周囲に聞いてみると「一人だけ真耶と別の所に行った」という。しかし、真耶は現在テロリスト迎撃のために政府と連携を取っている筈。真人は直感的に、のほほんを連れ去ったのが偽真耶だと言う事に気付く。
のほほんを助けるために初めて緊急時に共に行動する一夏と真人。二人が移動した先には、気絶したのほほんと、完全に戦闘不能にされた楯無。偽真耶はなんと楯無を一方的に下したのだ。圧倒的なまでの実力の差――偽真耶曰く、真人を護衛するときの真耶はブリュンヒルデクラスの戦闘機動をしており、それに比べてロシア代表でもある楯無はあまりにもお粗末だったという。
偽真耶は、今回の作戦も自分としては不本意だったと語り、真人がこちらに下るのならば同僚を黙らせてこの場から撤退させると提案した。テロの流れ弾は校舎の一部を壊すほどに激化しており、いつ民間人に死者が出てもおかしくはない状況だった。
楯無は自分の実力が届かない現実を悔いた。一夏は「全員助けると言う選択肢を確実に潰してくる」敵という存在に、自分の認識の甘さを噛み締めた。そして真人は、「この人は嘘をついていない」とまた根拠もないのに直感する。投降を考えて手ぶらで前に出る真人――しかし、外で戦闘していたMの駆るゼフィルスが建物内に突入。一夏を発見してそのまま交戦に入る。
簪が訓練機で駆けつけて楯無とのほほんを保護し、やむを得ず4機は戦闘を開始する。一夏はMを迎撃し、真人はそれを援護し、Mは一夏を集中攻撃し、偽真耶はラファールのようなISを展開してMを援護する。偽真耶は何故か真人を撃つことは絶対にしない為、それを利用した巧みな真人の援護によって戦闘はこう着状態に陥る。
だが、やはり学生二人の即席コンビでは限界があったのかエネルギーの限界が近付く。そんな折、真人は見たくないものを見てしまった。事件の混乱で集団からはぐれた3年生が戦闘現場に紛れ込んだのだ。最悪な事にMもまたその存在に気付いており、「一夏の心を折る為に」BTで容赦なく生徒に発砲。真人は咄嗟にISの盾であり武器でもある複合装備を展開し、身体を張って護る。偽真耶はそこで真人が生徒を守っている事に気付くが、Mはそれもまた一夏への精神攻撃になると一斉砲撃。エネルギーが限界に近づいていた真人のミソラスは、バリアエネルギーの残量が一気にゼロになった。
真人は死を覚悟したが、その時、真人の意識が遠のいた。
いるのは忌まわしいアパートの一室。どうしてか、いつもと違って玄関が開いている。そこで真人は玄関の外の何もない空間にミソラスがいる事に気付く。全身が痛々しい生傷で覆われている姿を見た真人は、その傷が致死に到っていることを確信した。
ミソラスは「貴方を守りきれなかった」と謝り、「自分の全てはその子に託した」と言って真人の後ろにいたミソラスそっくりの少女を指さす。真人はありったけの言葉を叫びながらミソラスに手を伸ばした。「馬鹿野郎……何でだよ!!何でお前は俺なんかを守って死んでいくんだよ!!どいつもこいつも……俺が傷ついて欲しくないと思った人は皆いつもこうだ!!」。「何でいつも、傷付けてるのは俺なんだよッ!!」。真人はこのアパートで母親の暴力に耐えきれなくなり、家にある鈍器で母親を殴りつけた。殺さないと自分が死ぬと思ったからだ。事実、この行為で真人の母親はとうとう本気で真人を殺しにかかり、重傷を負ったことで虐待の事実が発覚した。真人は母親に愛して欲しかったのに、母親からは暴力しか返ってこなかった。そしてそのまま、母親は行方をくらまし、真人は肉親の愛を受けることが永遠に出来なくなってしまった。その後も、直接、間接に関わらず、気が付けば真人に関わった人ばかりが傷付き、怪我し、時には死んで行っていた。
そう、このアパートは紛れもない真人の心象風景。真人はあの時の後悔を乗り切れないまま15歳になってしまった。ミソラスはそんな真人の心の中に入り、ずっと健気に真人の身体とを護ろうとしていたのだ。ミソラスがここから外に行けないまま目が覚めたのは、自分の心がこの場所に縛られているから。ミソラスが消滅しようとしているのは、全て真人の所為だった。
真人は、消えゆくミソラスを助けるために涙を流しながら手を伸ばす。部屋を飛び出してミソラスに手が触れる瞬間、彼女は粒子になって消えた。消える瞬間の彼女は、少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。粒子になったミソラスが真人の後ろの少女に吸い込まれるように寄っていき――
気が付いた時、真人はミソラスに似たISを展開し「限界を超えた機動」でMと偽真耶に戦いを挑んでいた。獣のような咆哮を上げて二人に猛攻を繰り広げ、Mには大きなダメージを与える。しかし偽真耶を倒すには至らず、テロリストたちは撤退していく。
呆然とする一夏、助けられた3年生をよそに、真人はミソラスが消えてしまったことを悲しんで泣いた。
説明しきれていない情報
オリキャラのアレーシャはとても生真面目な人ですが、実は次期楯無襲名候補第二位だったために楯無との間に温度差があります。というか、楯無が一方的に「実は疎ましがられてるのでは?」と内心でビビりつつもアレーシャにもう少し近づきたいなーと考えているのに対し、アレーシャはイマイチ楯無との距離感が分からないで近付かれても戸惑うという関係になっています。
後書き
正直、プロット長いよ!もうここまで来たら普通に書きものだよ!と内心で思っています。
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