ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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ファンディスク:神話と勇者と断章と
コラボ・クロスクエスト~六絶神が言っていた~
ターン1
前書き
今回のコラボは壊滅的にSAOと関係ありません。「俺はSAOのコラボを読みに来たんだ」という方は回れ右をし、『ワールド・カタストロフ』の辺りでお待ちください。
刹「……」
「……なんでこんなことになってるのかしら」
「さぁ……?」
セモンは隣に座るコハクの問いに、疑問符を浮かべることで答えた。ごめん分からない、と。
目の前では、白銀の機械装甲を纏った蛇竜と、紫の装甲のヒトガタが、ブレスやら槍の一撃やらで攻撃の応酬を行っている。言うまでもなく、どちらも人間ではない。現実世界にも存在しない。つまりここは仮想世界。セモンたちにはよく馴染んだ、VRワールド。
「死にさらせUベルゼェェェッ!」
「そう簡単に破壊させるかよッ!」
しかしちょっと常識と異なるのは、それらの怪物の後ろに、人間の姿が見えることだ。どちらもセモンにとっては一応見知った顔なのだが……その手には、セモンが知る彼らとは、大きく違ったものが握られている。
蛇竜の背後の少年……リンも。
ヒトガタの背後の青年……ダークも。
その手には、剣ではなく──黒い、カードを持っていた。
つまり、カードゲームをしているのである。
問題はそれが、周囲のフィールドをぶっこわす程の一大戦闘になっていること。態々VR世界に来てまでやっていること。そして、膨大な数の観客の前で行われていることだ。
「思ったより人気があるんだなぁ……」
セモンは呟く。
彼にとっては以外だったのだ。
この、2026年になっても──TCG、『バトルスピリッツ』が、取り合えずはユーザー人口を保っていたことが。
そしてなぜか、VR世界で大会が行われていて、知り合い、しかし『別の世界の住人』が参加しているという、謎の状況が。
***
その日、ギルド《聖剣円卓》一行は、珍しく現実世界の商店街に来ていた。基本的にVRMMO、特にALOの中で集まることの多い彼らである。この状況は、彼らを知る人々からすれば中々貴重な光景だろう。
「ごめんね、清文。荷物持たせちゃって」
「いいよ別に。琥珀の為だし」
さらりといちゃつくセモコハ。後方で食えない笑顔と共に、陰斗が「末永く爆発しろ」と呟く。
事の始まりは単純に、琥珀、笑里、刹那の三人の買い物に、それぞれ清文、秋也、陰斗が連れ出されただけだ。この事自体は。
──商店街のある一角で、陰斗が『ソレ』を見つけるまでは。
「いっけー!ジークヴルム! 【激突】!」
「うわぁ、スピリットが居なくなっちゃった……」
一軒の店の入口。そこに置かれた長椅子で、一組の少年たちが、なにやらカードを広げて遊んでいた。様々なイラストが描かれたカードと、その上に置かれた、水晶のような石が特徴的だ。
「うっは、バトスピじゃん。こんなところでやってる人々に出会えるとは」
後ろで陰斗が嬉しそうな声をあげる。
「お兄様、嬉しそうですね」
「勿論。もう東京では廃れたもんだと思ってたからね。一カードバトラーとして同志に出会えたのは嬉しいことだ」
刹那に向かって答える陰斗。
「バトスピか……懐かしいな」
「たしか、少し前のTCGですよね……秋也さん、やってたんですか?」
「ああ、昔、清文と陰斗と一緒に、少しな……」
車椅子の少女、笑里の問いに、彼女の車椅子を押していた秋也が答える。彼はそのまま陰斗の方を向くと、
「お前がまだ続けていたとは、驚いたぞ」
「まぁ、今やただのコレクターと化してしまったがね。やる人誰もいないし。この時代になってはマイナーTCGだしね……」
はははー、と乾いた笑顔を浮かべる陰斗。
その言葉を聞いて、琥珀が清文に問う。
「清文、TCGって?」
「ん? ああ、『トレーディング・カードゲーム』の略だよ。ああいう、いろんな種類のカードを集めて、戦略を組み立てて遊ぶカードゲームの事。最近はあんまり見なくなったけど、一昔前に大流行したんだ」
全盛期は2013年頃か。そのころからソーシャルゲームの並みに押されて、TCGは世の中から姿を消し始めたが、有名どころは今でも根強く残っているのだろう。
「懐かしいなぁ、中学生の頃やってた」
「へぇ」
「清文のデッキはなかなかえげつなかったな……」
「それを言うなら秋也のもだろ」
清文の脳裏に思い起こされるのは、中学生時代に、たまに対戦した際に秋也が使っていた、酷いデッキの事だった。何度も苦しめられたのを覚えている。
「久しぶりにやりたくなってきたな」
「あつられたかのようにカード屋だしねここ。中にデュエルスペースくらいあるでしょ」
陰斗が言う通り、少年達が座っていた長椅子は、カード屋の前に備え付けられていたものだった。カード屋はわりと新しいのか、中は綺麗で広かった。
「わっ……」
となりで琥珀が息をのむ。
無理もあるまい。清文達が入ったカード屋は、非常に広く、綺麗に整理されていたからだ。中央には長机が十基ほど備え付けられ、その上で老若男女、様々な人達がカードバトルを繰り広げていた。
「思ったより広いのですね」
「デジャヴ」
同時に感想をもらす刹那と陰斗。
「デジャヴ? どういうことだ?」
秋也が陰斗に問う。確かに気になる。なにか既知のものはこの中にあるだろうか……?
「うーん、この内装、この広さ……なんだろうか、トッパの時のと覇王の時の店を足して二で割ったような……」
「……?」
イマイチ良く分からない。多分察するに、その昔放送されていたアニメ版の事だろう。清文は見ていなかったが、陰斗は熱狂的なファンで、全作見ていたはずだ。というか陰斗はニチアサマニアなのだろうか。
さて、そんな事を思っていたときだった。
「あ、あのっ」
清文は、自分達を呼ぶ声を聞いた。
見れば、小柄で、犬の尾の様にも見える髪型の少女が立っていた。清文は、その人物に見覚えがある。
「ユーリさん?」
「はい、お久しぶりです、セモンさん、コハクさん」
少女は、かつて別の世界で共闘したことがある、やはり別世界のSAOのプレイヤーだった人物、ユーリであった。たいへん美しい剣技を使う人物だった事を覚えている。紫色を基調としたコーディネートだ。
「久しぶり。……ランは?」
セモンが出した名前は、ユーリの恋人かつ、やはりセモンとも共闘した、強力なプレイヤー、ランのこと。二人で組んで行動していることが多いため、今日も一緒にいるのかと思ったのだが、姿が見えない。
「今日は私一人なんです。その、これに参加するために……」
「……?」
ユーリが自分の携帯端末を開いて見せてきたのは、何かの広告のようだった。
そこには、『VRバトスピ大会開催! 参加者募集!』と、これまた見覚えのある筆跡で書かれている。
「……この筆跡、温泉で見たぞ」
清文は頬をひきつらせる。なるほど、また奴らか。奴らなのか。
「しかし何でまた。ユーリさんじゃなくてランが出そうな雰囲気なのに」
「彼、こういうの苦手らしくて。でも勝負事だから参加したいらしくて……私が代わりに」
「難しいなそれ」
思わず口走る。
「あなたも大概よ、清文」
「うっ」
琥珀の呟きが突き刺さる。なるほど、覚えが無くはない。
「でも私、ルールが良く分からないので、どなたか知っているかたに教えてもらおうと思ったんですが……そうしたら、皆さんが経験者だそうなので、それで」
「なるほどね」
レクチャーして欲しい、と。
ううん、と清文は内心で唸る。正直な話、実は清文はそれほどルールに詳しくなく、最新のシステムに関しても不勉強なところがあるのだ。誰か代わりがいると助かるのだが……。
「丁度いい。笑里もルールを知りたいと言っていたところなんだ。ついでに教えよう」
「本当ですか!」
清文の後ろにいた秋也が進み出て、助け船を出す。秋也と陰斗は清文よりも詳しい。その内の一人である秋也が担当してくれるなら、間違いはないだろう。
「いいか? 陰斗」
「いーよ。ただ、僕はシングル漁ってくるから相手役は清文な」
「な!?」
唐突に話を振られて固まる清文。なにいってんだこいつ、といった目で陰斗を見る。
「じゃっ!」
そして次の瞬間には姿を消す陰斗。あの野郎……と、清文は内心でぼやいた。
***
「まず、トレーディングカードゲームというのは、自分の扱うカード群……『デッキ』を構築する必要がある。バトスピもその例外ではない」
長テーブルのうちの一つの上にプレイシートを広げ、秋也と清文が座る。その隣に琥珀、ユーリ、椅子の無い部分に車いすの笑里。
秋也がプレイシートの上に置いたのは、黒い背表紙のカード群。バトスピのデッキである。因みにデッキの事を『ライブラリ』と呼ぶ人もいるが、これはバトスピの元にもなっている世界初のTCG、『マジック・ザ・ギャザリング』の影響だろう。例外定期に現代でも大流行していて、ザ・シードを用いたVR大会も開かれているらしいが、残念ながらルールが非常に難解なのでTCG初心者には向かない。
「バトスピのデッキは、最低40枚のカードで構築しなければならない。上限は無いが、極力40枚にするべきだな」
「バトスピでは、デッキの中に同じ名前のカードは3枚までしか入れられない。だから、40枚にした方が、引ける確率が上がるからな」
まぁ、例外もあるんだが、と、清文は内心で呟く。『ミニーズ特攻隊』や『四甲天カメジュウジ』など、何枚でも積めるカードも存在するからだ。
話者は秋也に戻る。
「カードの種類は、俺達と共に戦う”スピリット”、時にはスピリット、時には装備としてスピリットを強化してくれる”ブレイヴ”、フィールドに常駐して効果を発揮し続ける”ネクサス”、基本一発限りである代わりに強力な効果を秘めた”マジック”、そしてスピリットの上を行く”アルティメット”の五種類だ。それぞれモンスター、武器、地形、魔法、フロアボスモンスターみたいなものだと思ってくれ」
「なるほど……」
ユーリがこくこく頷く。秋也の例えはSAOサバイバーであり、VRMMOプレイヤーであるユーリには飲み込みやすかったのだろう。より地形や魔法に馴染みが深い笑里はさらに頷いている。
「そしてバトスピをバトスピ足らしめているのがこの物体……『コア』だ」
「コア?」
秋也は、プレイシートの横に置いてあった、青い六角形の水晶の様なものを手に取った。
「コアは力の源。マジックを使用する時。スピリットを呼び出す……召喚する時。あるいは一部のカードの効果を発動させる時。そんな時に、このコアを使う。コアを用いた戦略は無限。テンプレこそあれど、全く同一のデッキを、全く同一の戦法で動かすことはほぼ不可能に等しい。それがこのカードゲームの醍醐味だ。……まぁ、少し難しい気もするのだが、これにはすぐ慣れるから安心してくれ。それから、特殊な使い方をする『ソウルコア』というものもある。この五角形のがそれだな」
秋也はコアをもとあった場所に戻し、それから銀色の縁取りを持つ、五角形のコアを指し示した。
「そしてカードには六つの『色』がある。赤、紫、緑、白、黄、青だ。それぞれがそれぞれの特色を持つ。これらを組み合わせていくのも、戦略の一つだ。
……さて、ここからは実際に勝負しているところを見せた方が早いな……清文」
「ああ、いいぜ」
一応、昔使っていたデッキをそれなりに再現したデッキは組めた。秋也も同じであると見ていい。
お互いにデッキをプレイシートの右上にセットする。先ほどからコアが置かれている場所……『ボイド』から、五個のコアを、プレイシートの左下、その上段に置く清文。
「これが『ライフ』。相手のライフかデッキを0にすれば基本的には勝ちだ。たまに無効化してくるカードもいるけど」
「その下が『リザーブ』だ。使用できるコアはここからとる事になる。使ったコアやマジック、破壊されてしまったカードはこの『トラッシュ』に置かれる」
秋也は左下のリザーブ、右下のトラッシュをそれぞれ指し示す。
「初期手札は四枚だ。『バトスピ』だから四枚、と覚えると覚えやすいぞ。カードをデッキから引くことをドロー、という。これは覚えておいてくれ。そして先行をジャンケンで決めるんだが……」
「まぁ、レクチャーの意味もあるしなぁ。色的に俺だろ」
秋也が清文を見たので、清文も苦笑いしながら受ける。
「じゃぁ、はじめよう。バトスピの1ターンは以下の流れで進む」
清文はプレイシートに描かれた、『ターンシークエンス』を指示した。
「『スタートステップ』はターンの開始を宣言するターン。次の『コアステップ』は、ボイドからリザーブにコアを1個置くステップ。先行の第一ターンはこのコアステップと、後述のリフレッシュステップがないから注意してくれ」
「はい」
清文の言葉にユーリが頷く。
「で、次が『ドローステップ』。デッキからカードを一枚ドローする。次のリフレッシュステップは、トラッシュのコアをリザーブに戻して、行動が終わって『疲労』したスピリットを回復させたりするんだけど……初手じゃぁ誰もいないからな」
「ああ…」
「そして次からが本番、『メインステップ』だ。手札のカードを使って、場を整えていくよ。俺は手札から、{エクス・ムゲンドラ}を召喚」
清文の手札から、赤い鎧に身を包んだ、小型のドラゴンのカードが、フィールドに置かれる。
「この左上の数字が『コスト』。全てのカードにあって、ここに書かれている数字分、リザーブのコアをトラッシュに置かなくちゃいけない。エクス・ムゲンドラはコスト2だから、二個置かなくちゃだね」
そう言って、リザーブのコア二個をトラッシュに送る清文。
「で、スピリットやアルティメットにはコストの他に、『維持コスト』っていうのがある。この左にある三つの数字のうち、一番上の小さいのがそれ」
「えっと……1、ですね」
「ああ。コア一個がのったエクス・ムゲンドラはLv1。このLv1コスト分のコアを乗せられなくなったら、このスピリットは『消滅』といって、破壊されてしまうんだ」
「因みに『破壊』と『消滅』は厳密には違って、消滅では破壊時効果が使え無い場合が多い。レベルがなくなってしまうのだからな」
「なるほど……」
秋也の補足が入った。助かる。
○エクス・ムゲンドラ
スピリット/2(赤1)/赤/系統:新生・古龍
Lv1<1>BP2000,Lv2<2>BP3000,Lv3<5>4000
Lv1,Lv2,Lv3【スピリットソウル:赤】
Lv2,Lv3『このスピリットのアタック時』
自分はデッキから一枚ドローする。
シンボル:赤
「この次は『アタックステップ』……なんだけど、やっぱり先攻にはない。これで『エンドステップ』……ターンエンドだ」
「では俺のターンだな。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ……そしてメインステップ。俺は{クォーツ・ゴレム}を召喚。コストは1だ」
召喚されたのは青いフレームのカード。青のスピリットだ。
○クォーツ・ゴレム
スピリット/1(0)/青/系統:造兵
Lv1<1>BP2000,Lv2<2>BP3000,Lv3<4>BP5000
Lv1,Lv2,Lv3『このスピリットのバトル時』
相手のデッキを上から1枚破棄する。
シンボル:青
「そして俺はマジックカード、{ストロングドロー}を使用。デッキから三枚ドローし、二枚破棄する」
「三枚!? わぁ、マジックが一発限りだけど強いってこういうことかぁ……」
ユーリが感嘆の声を上げた。しかしそれと対照するかのように、笑里が不思議そうな表情で首をかしげた。彼女の視線の先にあるのは、先ほど使用され、トラッシュに置かれたマジック、{ストロングドロー}。
「……あれ? 秋也さん、このマジックカード、コスト3ですよね? でも今、2個しかコアを払ってなかったような……」
「そうだな。それは、軽減シンボルのおかげだ」
「「軽減シンボル?」」
秋也がカードの左上、コストのすぐ横を指さす。
「ここに青いアイコンがあるだろう? これは、クォーツ・ゴレムの右下に描かれているものと同じだ。右下にあるこれは『シンボル』といって、相手のライフを減らす時のダメージ数値に等しい。そして軽減シンボルは、これと同じ色のシンボルの数だけ、コストを減らせる機能なんだ」
「へぇ……だから2コアしか払わなくて良かったんですね」
「ああ。とはいえ、軽減シンボルにも限度がある。例えばこのクォーツ・ゴレムなんかは軽減シンボルが無いから、いくら青のシンボルがあってもコストは1のままだ」
そう言って、秋也は何も描かれていない軽減欄を指差した。
「それでは本番だ。アタックステップ! クォーツ・ゴレムでアタック! アタック時効果でデッキを一枚破棄!」
クォーツ・ゴレムのカードを横にする秋也。これが『疲労状態』。疲労したスピリットは、アタックとブロックが出来ない。
清文はデッキの上から一枚をトラッシュに送る。これが青のデッキ破壊。このまま何度もアタックされてしまえば、いつかはデッキアウトで敗北だ。青属性の常套手段。
「ここでフラッシュタイミングが入る。防御側から順に、マジックカードや、【神速】をはじめとする効果を使うことができるんだ」
「まぁ、今は使わないよ。秋也は?」
「俺もない。では、このアタックはどうする?」
「そうだな……ライフで受けるよ」
清文は自らのライフゾーンに置かれたコア1つを、自分のリザーブに移動させる。
「こうやって、相手のライフを0にするか、相手のデッキを0枚にしてスタートステッブを迎えさせれば勝ち」
「わぁ……」
「むむむ、簡単なような難しいような」
「実戦をするのが一番分かりやすいか……誰か対戦者を……」
自分でやって、覚える。それが上達への第一歩だ。
秋也が対戦者を募集しようとした、その時。
「はーい! じゃぁアタシが相手になるよ!」
どこからともなく声がした。
「?」
「え?」
声の発信源を辿った彼らが見たのは。
「ふふーん、アタシ、こう見えても強いんだからねっ!」
テーブルの上に置いてある、剣だった。
後書き
話数がまだそんなに多くない作品だからなのか、今一キャラがつかめぬユーリさん。今回の主人公(?)は彼女です。視点はセモン君だけど。
さてさて、次回はユーリさんが初バトルです。Askaのタクティクスはお察し。
刹「それでは次回もお楽しみに」
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