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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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ファンディスク:神話と勇者と断章と
VS《白亜宮》!
  《夢仕掛けの神》VS《白亜の女神》

 
前書き
第一弾はケンケン4さんのソーニャと、《白亜宮》からはグリヴィネの戦闘です。 

 
 ──静か、ですね。

 暗闇の中を墜ちながら、猫耳の少女……ソーニャ・エクス・マキナは、欠伸と共にそんなことを思った。

 周囲は漆黒。ソーニャの好きな夜空の色ではない。ねっとりとした、かつさらさらした、無明の闇。『そこ』に在る存在()は自分だけ──そんな予感が、確かに存在した。

 何故、こんな奇妙な空間を一人、何処へと向かって落下しているのか──それは彼女自身にも、実はよく分かっていない。気がついたらこの闇のなかを、延々と落ち続けていた。

 ──まぁ、いっか。

 もう一度小さく欠伸をして、楽な姿勢になる。そうして見上げた虚空は、やはり暗くて詰まらなかった。

「ふぁ……せめて、星でもあれば良いでしょうにね」

 そんな事を、ソーニャが願った……その瞬間であった。

 ざぁぁぁっ、という涼やかな音と共に、空が、変わった。
 暗い紺碧の空に、満天の星。天の川も見える。

 可笑しいのは、それが季節・地域関係なく配置されていることだ。

 鳳凰座が見えるのに、カメレオン座が見える。
 からす座の嘴が、コップ座についている。
 南十字星(サザン・クロス)北斗七星(ビッグ・ディッパー)が両極に見える。
 そして黄道十二宮──否、蛇遣い座を含めれば十三の星座が、一同に会して環を作っていた。もっとも、その配列はバラバラ。山羊座の隣に魚座がある。

 ──そして。

 中央に輝く、北極星。どうしたことなのか、その周囲を聞いたこともない四つの星が取り囲んでいる。

 現代地球で言うところの中国という国では、天帝、という万物の守護者が五柱…東西南北の四方と、中央に一柱…いるとされている。
 その五柱の中で全てを支配するのは、中央の天帝──

「綺麗だろう、自信作なんだ」

 いつの間にか、すぐ隣に誰かが、居た。

 それは白い装飾の男だった。いや、男というにはまだ若い。十五、十六歳前後の少年だ。ボロボロの真っ白いローブと、先に行くにつれて()()くなっていく奇妙な色のマフラーを纏った、癖毛の少年。

 その少年を、知っていた。
 大昔に、どこかで会った。

「……こんなめちゃくちゃな配列でも、ですか?」
「否、否。だからこそ、さ。見ろよ、完璧だ。何せ山羊座の隣に魚座だ。
ヒトだったころの僕と、『彼女』の誕生星座だ。懐かしいなぁ」
「……貴方でも、そんな風に感じるんですね──《(しゅ)》」

 少年の()を、《主》と言った。
 レギオン《白亜宮》の長。超越者。異常な者。

 その存在自体は、さほど不自然でもない。しかし、その存在は、不自然だった。

「どうして、貴方がここに?」

 先程まで一人だけだった。何故、突然この男が現れたのか。その事は不自然で、不思議だった。

 しかし少年神は、くつくつ笑って答えをもたらす。

「それを聞きたいのはこっちの方さ。キミが突然、僕たちの領域に墜ちて来たんだ。大方、何かしらの理由でキミという《存在》が重くなりすぎて、セカイが耐えられなくなったんだろうね。それ故落下を始めたんだよ。ここに──『座』に向かって」

 ──相変わらず、話の長いひと。
  ──歌の一つで解決してしまう、あの人とは全然違う。

 どんな人物が話し相手でも、忌々しさを感じさせてしまうこの少年神に辟易しながら、ソーニャはそんなことを考える。

 兎も角、彼の言いたいこと、言っている事は理解できた。理由の心当たりもあった。だが──問題は、どうやって此処から帰るか、だ。

 他人の心を読む白き神は、ソーニャが口に出す前に、その疑問に答えた。

「そうだねぇ……僕を殺して、『座』を奪い取ること、かな。そうすればこのセカイがキミの物に塗り代わり、あらゆる全てが自由自在──」

 その瞬間だった。

「《機械仕掛けの神の夢(ソーニャ・ドリーム・シアター)》」

 夢神は、その権能を行使していた。己の願いを媒体にして、あらゆる『夢』を具現化させる神の技。顕現したのは巨大な鎌。音符の刻まれた、処刑鎌──

 体は勝手に動いていた。明らかに、《主》の口にした、『世界を自由に操る力』に反応したのだ。

 ソーニャの放った一撃は、狙い違わず少年神の首筋に向かって吸い込まれ──

「危ないなぁ、もう」

 半透明の障壁に、激しい音と共に弾かれた。

「くっ……」
「この宇宙をキミの夢で埋め尽くしたいのかい? 悪いね、僕もこの(I)を奪われる訳にはいかないんだ──グリヴィネ」

 そして、天に輝く星のひとつが、明るく眩く煌めいた。それは微かな、しかし確かな兆候。

「はい、お兄様」

 神の傍らに、白き女神が舞い降りた。

 真っ白く、長い髪の毛は、先端に行くにつれて()()色に、鮮やかに染まって行く。纏うマフラーも同じ色。瞳の色は、輝く()()
 浮かべる笑みは慈愛の微笑み。包み、寄り添う、女神の笑顔。

 彼女の名前はグリーヴィネスシャドウ。グリーヴィネスシャドウ・イクス・アギオンス・アンリマユ。《白亜宮》の王妃にして、《主》の最高眷族筆頭。

「キミの相手は彼女だ。僕を殺したければ、彼女を突破してくるんだな──もちろん、そんな事はさせないけどね」

 くつ、くつ、くつ。静かに笑って、《主》が消える。残ったのはソーニャとグリヴィネの二柱だけ。 

「……そこを、退いてください」

 ソーニャはグリヴィネに向かってそう言い放つ。けれども、それが聞き届けられる筈がない事は、当然理解は出来ていた。だからあくまで、ポーズでしかない。

「う~ん……ごめんなさい、お兄様のお願いなので……私も、貴女のことを追い返さなくちゃいけないんです」

 ふふっ。

 そう、微かに笑う女神の表情は──もう、慈愛のそれではない。
 そこにあるのは狂気。白き神を信奉する、狂信者の笑みだった。

 それに気がついたその時には──

「──ッ!」
「えいっ」

 既に、グリヴィネは目の前にいた。

 いつのまにか、彼女の手には奇妙な形の武器が握られている。
 グリップは異様に短い。古代ローマのグラディエイターが構えたと言う剣……《グラディウス》に近かった。
 対する刀身は、なんと柄の両側から飛び出している。しかしそれは両剣などの刀の刃では決してなく、刃渡り30㎝以上はあろうと言うほど巨大な刃──どちらかと言えば、鎌のそれに近い形状だった。

 血色の半透明の石……刀身の材質はそう見えた(もちろん、実際には違うのだろうが)。その表面を、クラック……或いは血管の様に、奇妙な稲妻模様が覆っている。

 そんな奇怪な両刃が、そら恐ろしいほどのスピードで迫ってくる。

「くっ」

 ざしゅり。グリヴィネの刃は、いとも簡単にソーニャの身体(からだ)に食い込んだ。瞬間、バシュウッ! という音と共に、切り裂かれた周囲が消滅した。空間侵食──《ディメンション・イート》か。

 陽炎の様に消えるソーニャの身体。その中から、無傷のソーニャが姿を現す。彼女の権能、その一端である《機械仕掛けの神の白昼夢》の、自動防御システムで死を免れたのだ。

 ──あまり使いたくは無かったんですけどね。

「あらあら……不思議な技をお使いなんですね」
「ええ、まあ」
「ふふっ、楽しくなってきました」

 本当に、本当に綺麗に──白い女神は笑う。

「今度はこっちの番です」

 しかし先手は許さない。ソーニャもまた、その夢の力で空を渡る。瞬き一つの間にグリヴィネの正面に出現し、音符の鎌を振るった。

 神速。その一撃を弾く刃もまた、神速。激しい音と光、そして鎌が砕け散る音。

 空間捕食で刀身を奪われた鎌を投げ捨て、次の鎌を抜き放つ。

「《機械仕掛けの神の悪夢(ソーニャ・ナイトメア・シアター)》」

 その詠唱と共に、彼女を取り巻く獣達が姿を現す。それは竜だった。それは馬だった。それは亀だった。それは鳥だった。

 神竜、麒麟、霊亀、鳳凰──四聖と呼ばれる神の獣。それらを呼び出し、女神へとぶつける。

「うーん、召喚獣はズルいですよー……私、ずーっと制限(がまん)してきたのに」

 ゾクリ。

 柄にもなく、ソーニャの背筋が冷たくなる。

 何かが来る。それが何なのかは分からないただ──


 間違いなく、四聖より、不味い。


「──『(アイ)を。貴方の器を満たす(I)を』」

 それはソーニャが知っている、《白亜宮(彼ら)》の祝詞とは違う。

「『空っぽの貴方が注ぐ愛と同じだけ、貴方にも私の愛を』」

 どこかの世界の管理者(アドミニストレータ)と似通った、でもそれよりずっと優しく、それ故恐ろしい渇望。

「『この身が犯した全ての罪を、貴方への愛に入れ換えて──愛欲と、献身と、私の愛で……お兄様を、満たします』」

 だからそれは、寸分の狂い無く、彼女の祈り。

「『─《惟神》─』

 唯々、愛したいという、願いだった。

「『《色欲(Luxuria-Lust)》』」

 ズアァアアアッ!!!

 何かが、おぞましく、それでいて快い奇妙な音を随え、顕現した。
 それは真っ白い山羊。身の丈三メートルは在ろうかという、魔羯龍だった。背中に生えた翼は、グリヴィネの背中のそれと同じ意匠。鎧に覆われた尾は、まるで蠍の毒尾。

『─────』

 あらゆる言語とはまるで異なる嘶きと共に、

「『淫らに舞え、アスモディオス! 《オーガズム・ブレス》!!!』」

 羯龍の口から、波動が放たれた。

『ぎゃおおぉおあおおッ…………』

 ソーニャによって呼び出された獣達が、その波動がもたらす効果に耐えられずに消滅する。そう、彼らは神の獣。神が『不浄なり』と断じた生理に、従えない。

 即ちは。

「ひぁぁああぁああっ!?」

 オスとして。メスとして。快楽の絶頂に溺れることが。

 ソーニャの身体中から力が抜ける。お腹の底が激しく熱を持ち、快感に反応している事を否応無く伝えてくる。

 もともと人ではなかった身である。が、獣でもなく、妖魔であったことに代わりはない。故に慣れない。快楽に溺れることに、慣れてはいない。

「ぁ、ぅ……」
「んー……私の技って、その人の『愛』が強いと余計に強くなっちゃうんですよね。ってことは、それだけのヒトがいるって事、ですよねー……自分の存在意義、っていうか。その人が居なくなっちゃったら死んでもいい、って思えるくらいの」

 そうですねー、と、彼女は続ける。

「私にとっての、お兄様ですね」

 愛しげに。

「元々、殺戮機械でしか無かった私に愛をくださったのがお兄様です。今の私を創り上げてくださったあの人を……私は愛しています。私の、大切な人です」

 ──大切な人、ですか。

 脳裏に浮かぶのは、まだ一介の妖魔でしかなかった自分に、歌を教えた少年と、彼によくにた鎌使い。

 恋だったのか。愛だったのか。そもそもそんな感情は無かったのか。
 結局のところ、そんなことを夢に微睡む女神が思うよりも以前に、彼らは消えてしまった。死んでしまった。

 ああ──そうか。

「……私は、彼らを生き返らせたかったのでしょうか」

 だから、自由自在な世界を夢見た。それが欲しくて、白い神を殺そうとした。

 なんて──下らない。

「どうかしてたみたいです」

 普段の自分なら、そんなことは夢にしか見ない。そう、あくまで夢。泡影に消え行く、儚い想い。

 満たすこと。満たされること。それがグリーヴィネスシャドウの愛ならば──

「ねぇ、貴女の夢は、なんですか?」
「夢? う~ん……そうですねぇ……」

 白い女神は可愛らしく唸って、

「お兄様の、赤ちゃんが欲しいです」

 やっぱり、いつもと変わらない調子で答えた。

「外の世界の人物じゃない私には、無理なことですから……それだけは、お姉様が羨ましい」

 悲しげに。でも、愛しげに。

「でもでも、それが今の私を創っている訳ですから──お兄様に与えられた夢ですから、大切に、握ってます」

 そうして、彼女は魔鎌を構える。

「ソーニャさん、でしたっけ。今度は、貴女の愛のカタチ、教えてください」

 両手を広げて、

「《神・哭・神・装》」

 羯龍が、白き羽衣と化して、グリーヴィネスシャドウを包み込む。背中の翼は三枚に。美しく、どこか、儚く微笑んで。

「『──まず始めに望まれましたる愛の形は《献身》。求められし姿は"理想"』」

 彼女は祈りを紡ぎ出す。

「──《正夢(ソーニャ・トゥルース・シアター)》」

 ソーニャもまた、『ダレカノノゾミ』を真実に変えて。

 少女たちは、己の愛を、己の夢を、ぶつけ合う。

 彼女達の、愛する誰かの為に。 
 

 
後書き
 ちからつきた。
 地味にグリヴィネって文章で書くの難しい。いっつも絵だったし、基本的に彼女「はい、お兄様」しか言わないから……。
 まぁ、そんな訳でほっとんど戦闘してません。はい。
刹「……」

 次回は闇リーファVSダーク! 今度は戦闘しまくる予定です。わりと内容酷いけど。 
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