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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―パートナー―

遊矢・レイペア:セットモンスター リバースカード×2 《パートナーチェンジ》 LP8000

剣山・明日香ペア:《ミスティック・エッグ》 LP8000


「わたしのターン、ドロー!」

 ……ざわめく観客や俺たちを完全にスルーしながら、またもやレイがカードをドローする。全てはレイのコンボによって発動された、効果処理というかカードの効果自体が珍しい、永続罠《パートナーチェンジ》が全ての原因だった。

「頑張ろうね、遊矢様!」

「あ、ああ……」

 そんな太陽のように眩しい笑顔をしてきても、何と答えていいやらこちらが困る。俺のデュエルディスクにセットされた扱いの、レイから渡された永続罠《パートナーチェンジ》の効果を見て、そもそもどうしてこうなったのかを考える。

 相手のフィールドにセットカードを移す《恋文》。相手のセットカードを強制的に発動する《強制発動》。そして件の《パートナーチェンジ》により、俺のパートナーが明日香からレイへと移った。この自作自演――もとい、本人曰く《恋する乙女コンボ》により、レイと明日香の立ち位置が入れ替わった。そして本来、次なるターンは明日香の筈だったため、ターンが移行しても再びレイのターン、という訳となり。

「わたしは《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚し、バトル!」

 そして明日香と剣山のフィールドには、レイが召喚した攻撃力0のリクルーター《ミスティック・エッグ》のみ。新たにモンスターを召喚し、そのモンスターへと狙いを定める……流れと盤面は、完全にレイに支配されていた。よくわからないうちに。

「《ミスティック・ベビー・ドラゴン》で、《ミスティック・エッグ》に攻撃! ミスティック・ベビー・ブレス!」

「きゃぁ!」

明日香・剣山LP8000→6800

 兄貴分としては、妹分の成長を喜ぶべきか――などと考えていたが、ダメージを受けた明日香の声によって現実に引き戻される。いつまでも呆けている暇ではないのだ。とにかく、メルヘンチックな小さな竜、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》の攻撃が炸裂し、その効果の発動条件を満たす。

「エンドフェイズ、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と、破壊した《ミスティック・エッグ》の効果を発動! それぞれ対応したモンスターに進化するよ!」

 そのどちらもが、エンドフェイズという微妙に遅いタイミングだったものの。戦闘破壊した時と戦闘破壊された時、という発動条件を満たし、レイのフィールドにそれぞれ《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と《ミスティック・ドラゴン》となって舞い戻る。レベルアップモンスターに似た独特の動きを見せながら、これでレイのフィールドは――いや、俺たちのフィールドは、いきなり攻撃力3600を誇る大型モンスターが陣取った。

「これでわたしはターンエンド」

「まだどうなったかイマイチ分からんザウルスが……とにかく負けないドン! オレのターン、ドロー!」

 剣山らしい解決方法を見せながら、次なるターンは剣山のターン。勇ましくカードを引くと、一枚のカードをデュエルディスクにセットする。

「まずは魔法カード《アースクエイク》を発動ザウルス! フィールドのモンスターを全て、守備表示にするドン!」

 フィールドのモンスター全て、とはいうものの、剣山のフィールドにモンスターはおらず。俺たちのフィールドに存在する、《ミスティック・ドラゴン》に《ミスティック・ベビー・ドラゴン》が効果を受ける。俺がセットした裏側守備表示モンスターは、効果を受ける以前にそもそも守備表示だ。

「そして《始祖鳥アーキオーニス》を召喚! さらに《超進化薬・改》を発ドン!」

 すぐさま発動された《超進化薬・改》により、《始祖鳥アーキオーニス》がリリースされていく。その効果は鳥獣族をリリースすることで、手札から最上級モンスターを特殊召喚する、という効果。

「来い! 《究極恐獣》!」

 レイも先のターン、あっさりと最上級モンスターをフィールドに出してみせたが、そもそもそれは剣山の領分であり。剣山もレイに対抗するかの如く、恐竜族でも有数の《究極恐獣》を召喚してみせる。攻撃力は《ミスティック・ドラゴン》の方が上だが、それは《アースクエイク》で対策済みであり。

「この恐竜さんは、全てのモンスターに一回ずつ攻撃できる効果を持ってるんだドン! バトル、アブソリュート・バイト!」

 こちらのフィールドにいる三体のモンスター。それらが全て《究極恐獣》の標的であり、その名に違わず噛み砕かんと迫るが、その口が噛み砕いたのはまずはモンスターではなく。

「やらせない! リバースカード、《和睦の使者》を発動!」

 伏せていた二枚のリバースカードのうち一枚、《和睦の使者》が《究極恐獣》の攻撃を防ぎきる。いくら全てのモンスターに攻撃出来るとはいえ、こちらのモンスターを戦闘破壊から守る《和睦の使者》には及ばない。

「くっ……だけど、《ミスティック・ドラゴン》だけは破壊させてもらうザウルス! メイン2、魔法カード《シールドクラッシュ》を発ドン!」

「《ミスティック・ドラゴン》!」

 《和睦の使者》で防げるのは、あくまで戦闘破壊に対してのみ。相手の守備表示モンスターを破壊するカード《シールドクラッシュ》には手も足も出ず、最も守りたかった《ミスティック・ドラゴン》は破壊されてしまう。

「よし、ターンエンドン!」

「……俺のターン、ドロー!」

 まだ明日香のターンが来ていないが、とりあえず一巡して俺のターンへと戻ってくる。こちらのフィールドには《ミスティック・ベビー・ドラゴン》にセットモンスターと、使うタイミングではないリバースカードが一枚。対する相手のフィールドは、《究極恐獣》が一体控えているのみ。このフィールドの格差は、主にレイが《パートナーチェンジ》で手番を荒らしたからだが。

「俺はセットモンスターをリバース。《音響戦士ピアーノ》!」

 最初のターンから伏せられていたセットモンスター、《音響戦士ピアーノ》が遂に姿を現した。モンスターを通常召喚するまでもなく、フィールドにはレイが用意してくれた《ミスティック・ベビー・ドラゴン》。

「遊矢様!」

「ああ! 俺はレベル4の《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と、レベル3の《音響戦士ピアーノ》でチューニング!」

 何にせよ目の前のデュエルに集中しようと、剣山と同じような結論を出しながら、俺は二体のモンスターでチューニングしていく。レイの《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を借り、《音響戦士ピアーノ》とともに光に包まれていく。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 金色の鎧を着た、七つの剣を持った機械戦士。《セブン・ソード・ウォリアー》がフィールドに降り立ち、まるで勇者のように《究極恐獣》へと並び立った。

「さらに《アームズ・ホール》を発動。通常召喚を封じることで、デッキから装備魔法を一枚、手札に加えることが出来る。俺は《ファイティング・スピリッツ》をサーチし、《セブン・ソード・ウォリアー》に装備する!」

 デッキトップを墓地に送りながら、好きな装備魔法をサーチかサルベージが出来る優秀な魔法カード《アームズ・ホール》だが、やはり通常召喚が出来なくなるというのは痛い。レイがフィールドに《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を残してくれたおかげで発動でき、さらに《セブン・ソード・ウォリアー》への効果の発動へと繋ぐ。

「セブン・ソード・ウォリアーの効果。このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

明日香・剣山LP6800→6000

 《セブン・ソード・ウォリアー》が放った小刀が剣山に炸裂し、そのライフポイントを僅かに減らす。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》は、上昇値がこの局面では僅か300ポイントと少なく、《究極恐獣》に及ぶべくもないが。もちろん800ポイントのバーンダメージを与えるためだけに、《セブン・ソード・ウォリアー》をシンクロ召喚したのではない。

「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》は、装備魔法を墓地に送ることで、相手モンスターを一体破壊する!」

 狙いは当然《究極恐獣》。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を墓地に送り、《セブン・ソード・ウォリアー》は《究極恐獣》を一太刀のもとに斬り捨てる。さらにショックを受けたような剣山の前に立ちはだかり、ただ俺の命令を待つ。

「バトル。セブン・ソード・ウォリアーで、剣山にダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

「ぐあああっ!」

明日香・剣山LP6000→3700

 こちらのライフポイントがまだ8000にもかかわらず、あちらのライフポイントはすでに半分を切った。フィールドにも何もなく、どう見てもこちらが有利な局面だ。

「やったね、遊矢様!」

「……ターンエンドだ」

 すっかり最初からパートナーだったような感じになっているが、それでも息が合っていることは確かで。どこか釈然としない思いを感じながらも、俺と剣山は《パートナーチェンジ》に対応してしまっていた。……残るは。

「私のターン」

 ――何故かトーナメントに熱狂していた観客が、明日香のその一言によってピタリと止まる。まるで冷水でも浴びせられたような光景に、当のこちらは凍らされているようだ――と思いながら、遂に明日香のターンへと移る。

「ドロー」

 今まで実質ターンが回って来なかったということは、つまり手札は他のメンバーと違って潤沢ということで。ドローしたカードを含めた全ての手札を眺めながら、明日香は一瞬だけ思索するような表情を見せる。

「私は速攻魔法《サイクロン》を発動!」

「あっ……!」

 明日香が発動した一枚の汎用カードに、レイが驚いたような、しまったというような声をあげる。レイの自作自演コンボの中核を成すのは、永続罠《パートナーチェンジ》――つまり、そのカードが破壊されてしまえば、まずそのコンボは瓦解してしまう。それを対策したカードは恐らくまだデッキの中であり、明日香の旋風は為すすべもなく、俺たちのフィールドへと襲いかかった。

 ……そして旋風が吹き飛ばしたのは、俺のフィールドに残っていたリバースカード。剣山の大型モンスターを警戒して最初のターンに伏せたものの、使うタイミングが訪れなかった《ガード・ブロック》だった。

「な、なんで……」

「……さっきのデュエル」

 《パートナーチェンジ》ではなく、正体不明だったリバースカード。予想外の《サイクロン》の行き先に、レイが口から勝手に出たように、しかしはっきりと疑問の声を発する。それに明日香は俺とレイに向かって、不敵な笑みとともに返してきていた。

「引き分けなんて私の性に合わないから。決着をつけましょう、遊矢」

「…………」

 このタッグデュエル大会を前にした、先の俺と明日香のエキシビションデュエル。《パワー・ツール・ドラゴン》と《サイバー・エンジェル-弁天-》の激闘により、引き分けによって幕を閉じていた。その決着をつける為だと――効果のない《パートナーチェンジ》より、正体不明のリバースカードを優先したのだ。

「よし……来い明日香!」

「ええ! 儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

 会場に熱気が戻っていき、明日香のデッキにおけるキーカードとも呼べるカードが発動される。デッキから二枚の通常モンスターが墓地に送られ、明日香のフィールドに機械化された天使が舞い降りる。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 降臨する最強のサイバー・エンジェル。七つの刃を持った機械天使が、登場した瞬間にこちらのフィールドの《セブン・ソード・ウォリアー》を切り刻む。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果。このモンスターが特殊召喚された時、相手はモンスター一体を破壊する」

「俺たちのフィールドには《セブン・ソード・ウォリアー》しかいない……」

 つまり、破壊されるのは《セブン・ソード・ウォリアー》に限られる。そして直接攻撃対策の《ガード・ブロック》も先の《サイクロン》で破壊され、これで俺たちのフィールドに残るのは《パートナーチェンジ》のみ――《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が迫る。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でダイレクトアタック!」

「ぐあっ!」

遊矢・レイLP8000→5300

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》により、こちらへの最初のダメージが与えられ、明日香のバトルフェイズが終了する。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》がしたり顔の明日香へと戻っていき、守護天使のようにその隣へと降り立った。

「私はこれでターンエンド」

「わたしの……ターン、ドロー」

 明日香のターンから続いてレイのターンへと移行されたが、そのレイのドローに気迫がない。意気消沈をしているというべきか、より強いものに呑まれてしまっているかのようだった。

「わたしはモンスターをセット……さらに」

 貫通効果を持った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に対して、裏側守備表示モンスターをセットするのみ、という悪手。だがレイは、さらにもう一枚の魔法カードを発動した。

「魔法カード《マジック・プランター》を発動! 永続罠を墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 永続罠――すなわち、《パートナーチェンジ》。永続罠をコストに二枚ドローする《マジック・プランター》により、《パートナーチェンジ》は墓地に送られる。よってレイが発動していたカードの効果は、他ならぬレイの手によってその効果を失った。

「レイ……?」

「レイちゃん?」

「……うん、もう止めた!」

 自分で発動したコンボを自分で破壊する、という不可解な行動に対して、明日香と俺の疑問の声が重なった。その言葉の返答のように、レイは俺に向けて指をビシリと向ける。

「好きな者は力づくで振り向かせる! それが恋する乙女の心意気なんだから!」

 宣戦布告のようにレイはそう告げると、今は明日香がいる元々のフィールドへと戻っていく。その途中で入れ替わりになる明日香と、二人は少しばかり向き合った。

「ありがとうございます、明日香さん。おかげさまで心意気を思い出しました!」

 こんなカードに頼ってるんじゃなくて――と、レイの言葉は続いた。それを微笑みでもって明日香は返答をすると、二人は元のフィールドへと戻ってきた。レイのターンから明日香のターンにはなったものの、もう通常召喚の権利は裏側守備表示モンスターのセットで失い、明日香の手札にも展開出来る手段はないらしく。実質、ターンがまたもや飛ばされたように等しかった。

「ねぇ遊矢。私、ちょっと怒ってるわ」

「え?」

 再び隣に立った明日香だったが、いきなりそんなことを呟いた。嫌な予感がしてゆっくりと明日香の方向を向くと、無表情でただただ剣山とレイのフィールドを見つめていた。むしろ怖い。

「あなた、《パートナーチェンジ》を破壊出来るのにしなかったわね?」

「……それはそっちの話じゃないのか」

 《サイクロン》で《パートナーチェンジ》ではなく、俺のリバースカードを狙ったのは明日香の方だ。しかしその反論は、明日香が早口で言いだした言葉に続くことはなかった。

「装備魔法をサーチ出来る《アームズ・ホール》。これであなたのデッキにある、魔法・罠カードを破壊出来る装備魔法《パイル・アーム》をサーチ出来たわよね?」

「…………」

 ぐうの音も出なかった。明日香の言った通りに《パイル・アーム》は、フィールドの魔法・罠カードを破壊する効果を持つ装備魔法であり、先のターンに発動した《アームズ・ホール》があればサーチ出来ていた。

「……まあ、その話はあとにしましょう。それより、この状況をどうするか考えないとね。私は、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「あ、ああ……」

 《パートナーチェンジ》が効力を失ったことにより、またもやフィールドが劇的に変更される。俺と明日香のフィールドは、レイが残していった裏側守備表示のセットモンスター――確認すると《トリオンの蟲惑魔》だったが、俺たちのデッキでは有効活用は出来ない。さらに、明日香が今伏せたリバースカードのみ。

 剣山とレイのフィールドには、明日香が儀式召喚した《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。悪手と思われたレイの手は、そのまま俺たちが打った悪手として残っていた。自分の妹分ながら最後まで抜け目のない。

「何が何だか分からんザウルスが……オレにはオレの出来るデュエルをするだけザウルス! ドロー!」

 《パートナーチェンジ》が適応されていない、正しい順番へと修正されたことにより、剣山の手番へと移行する。

「オレは《貪欲な壺》を発ドン! 墓地のモンスターを五体デッキに戻し、二枚ドローするザウルス! ……よし、《暗黒プテラ》を召喚!」

 恐らくはレイのモンスターも含めて五体のモンスターをデッキに戻し、剣山は汎用カード《貪欲な壺》により、二枚のドローを果たす。それとともに召喚されたのは、小型のプテラノドンと呼ばれる恐竜。

「さらに《大進化薬》を発ドン! 恐竜族をリリースすることで、恐竜族のリリースを無くせるザウルス!」

 相手のターンで3ターン、フィールドに残り続けるかの《光の護封剣》にも似た、特異な効果処理を持つ通常魔法《大進化薬》。フィールドに召喚された《暗黒プテラ》がリリースされ、これで剣山はノーコストで上級以上の恐竜族を召喚出来る。ただ、このターンは既に通常召喚を終えているが……

「《暗黒プテラ》は戦闘以外で墓地に送られた時、手札に戻るザウルス。さらに《二重召喚》を発動し、来い! 《ダークティラノ》!」

 ……そこは剣山も抜かりはない。通常召喚権を増やす《二重召喚》により、上級モンスター《ダークティラノ》の召喚を果たした。さらに《大進化薬》のコストとなった《暗黒プテラ》は、自身の効果によって剣山の手札へと戻っていき、これで剣山のメインフェイズは終了する。

「《ダークティラノ》は相手モンスターが守備表示の時だけ、ダイレクトアタック出来るザウルス! いけぇ、ダークティラノ!」

「っつ……!」

遊矢・明日香LP5300→2700

 俺たちのフィールドには裏側守備表示の《トリオンの蟲惑魔》が一体。よって《ダークティラノ》の効果が適応され、俺たちへのダイレクトアタックとなった。そのブレスが俺と明日香に直撃し、あっという間にライフは剣山たちを下回る。

「さらに《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でセットモンスターを攻撃ザウルス!」

 《ダークティラノ》の攻撃は直接攻撃となったが、結局は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》によって《トリオンの蟲惑魔》は破壊される。攻撃の順番の違いでしかなかったが、剣山の野生の勘が成せる技か、明日香が伏せていたリバースカードを苦々しげに眺めた。

「言うまでもないと思うザウルスが、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は貫通効果を持ってるドン」

遊矢・明日香LP2700→1200

 元はといえば明日香のモンスターだ。もちろん貫通効果は百も承知だが、一瞬にしてライフを風前の灯火にしてみせた剣山たちペアに、観客からの応援の声が強くなる。それに手を振って答えながら、剣山はバトルフェイズを終了し。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドン!」

「俺のターン、ドロー!」

 これで剣山のフィールドは《ダークティラノ》に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》、効果が適応されたままの《大進化薬》に、今し方伏せたリバースカード。どうするか、と思索する俺に、隣から明日香が話しかけてきていた。

「……ごめんなさい遊矢。私が残してきたモンスターが……」

「大丈夫だ。アレにやられるのは慣れてるからな」

 明日香との今までのデュエルにおいて、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に何回してやられたことか。申し訳なさそうだった明日香の表情は、その一言で小さな笑みを見せていた。

「そうね。何回やられたかも分からないわ」

「ああ。今回もやってやるさ! 《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 そして召喚されるマイフェイバリットカード。フィールドに旋風を巻き起こすそのモンスターに、レイと剣山の緊張が伝わってきた。

「さらに魔法カード《ヘルモスの爪》を発動! 手札のモンスターと融合し、新たな装備魔法となる!」

「えっ!?」

 さらに発動した魔法カード《ヘルモスの爪》に対し、レイの驚愕する声が響き渡る。百聞は一見にしかず、手札の《ガントレット・ウォリアー》を融合素材とし、それらは新たな装備カードとなって生まれ変わり、《スピード・ウォリアー》の新たな力となる。

「融合召喚! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》!」

 《ガントレット・ウォリアー》が巨大なロケットランチャーとなり、融合召喚されるとともに、《スピード・ウォリアー》の右手に装着される。その外見に反してステータスのアップ等はないが、それはまだこれからだ。

「さらに装備魔法《バスターランチャー》を《スピード・ウォリアー》に装備し、バトル!」

 《ヘルモス・ロケット・キャノン》とは逆の、左手に新たな装備魔法《バスターランチャー》が装備され、《スピード・ウォリアー》が重火器を背負ったような姿となる。《バスターランチャー》の効果は、相手モンスターの攻撃力が2500ポイント以上の時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる効果。剣山の《ダークティラノ》と《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、そのどちらもが2500ポイント以上の攻撃力を持つ。

「《スピード・ウォリアー》で《ダークティラノ》に攻撃! バスターランチャー、シュート!」

「まだまだザウルス……!」

レイ・剣山LP3700→2900

 《ダークティラノ》の攻撃力は2600。よって《バスターランチャー》の効果が適応され、左手に装備されたランチャーが《ダークティラノ》を撃ち貫いた――さらに。

「まだだ! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》を装備したモンスターは、二回の攻撃が出来る! 続けて《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力は2700と、やはり《バスターランチャー》の効果が適応される数値であり、《ヘルモス・ロケット・キャノン》から放たれたロケットが荼吉尼を襲う。明日香には悪いが、そのロケットは寸分違わず《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に直撃し、その身を散らせていた。

レイ・剣山LP2900→2200

「よし……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「わたしのターン! ドロー!」

 《スピード・ウォリアー》による反撃が炸裂し、フィールドもライフポイントもそうだが、デュエルは互角の状況となっていた。そうしてターンは移行していき、レイのターンへと移る。

「わたしは《ティオの蟲惑魔》を召喚! このモンスターが召喚に成功した時、墓地から蟲惑魔を特殊召喚出来る! 来て、《トリオンの蟲惑魔》!」

 レイが新たにデッキに取り入れていたシリーズ、蟲惑魔モンスターが、その連携において二体フィールドに並ぶ。先程俺たちのフィールドにセットモンスターとして、《トリオンの蟲惑魔》を置いていったのは、この《ティオの蟲惑魔》の効果に繋げるためでもあったようだ。

「さらに《トリオンの蟲惑魔》が特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 明日香さんのリバースカードを破壊!」

 さらに特殊召喚された《トリオンの蟲惑魔》は、相手の魔法・罠カードを破壊する効果を持つ。先程剣山からの攻撃の際、明日香がリバースカードを使うかどうか迷ったのを見逃さなかったらしく、《トリオンの蟲惑魔》の効果により《奇跡の残照》が破壊される。

「《奇跡の残照》……ううん、いくよ! 二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 《ティオの蟲惑魔》と《トリオンの蟲惑魔》、二体のモンスターが一体となっていく。最近の召喚方法としてまだ珍しいのか、オーバーレイ・ネットワークの構築に対し、観客の生徒から歓声が漏れる。二体の蟲惑魔によるエクシーズ召喚により、新たな蟲惑魔モンスターがフィールドに現れる。

「恋する乙女を守って! 敵を惑わす花弁の罠、《フレシアの蠱惑魔》!」

 ラフレシア。世界最大の花とも呼ばれるその花から、花に守られるように少女が姿を現した。可憐なその姿に似合わず、その効果は非常に厄介なもの。

「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 レイは《フレシアの蠱惑魔》をエクシーズ召喚した後、さらにリバースカードを二枚伏せてターンを終了する。これで剣山の《大進化薬》とリバースカードを含めて、レイたちのフィールドは守勢に入る。

 対してこちらのフィールドにいるのは、《バスターランチャー》と《ヘルモス・ロケット・キャノン》を装備した《スピード・ウォリアー》と、俺が伏せたリバースカード。そこからどう攻めるか明日香が考えていると、攻め込むためにカードを発動する。

「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と、《ブレード・スケーター》を融合!」

 《融合》によってフィールドに現れるのは、明日香の融合におけるエースカード。サイバー・エンジェルとはまた違う、明日香のデッキの中核を成すモンスターだ。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 融合召喚される明日香のエースカード。融合召喚を表す時空の穴から、滑るようにフィールドに現れると、そこでレイが効果の発動を宣言する。デッキからの落とし穴の発動――これこそが他に類を見ない《フレシアの蠱惑魔》の効果であり、落とし穴を司る蟲惑魔モンスターたちの切り札に相応しい効果だ。だがそれは明日香も百の承知のようであり、あくまで《サイバー・ブレイダー》は囮のようでもあった。

 自身のエースカードすらも囮にする、豪胆な手段を取った明日香が、一つミスをしたとすれば――レイが発動した罠カードだった。

「リバースカード、オープン! 《激流葬》!」

「なんですって!?」

 発動されたカードは《フレシアの蠱惑魔》ではなく、伏せてあった《激流葬》。その効果により、こちらのフィールドの《スピード・ウォリアー》と《サイバー・ブレイダー》は破壊される。だがレイのフィールドにいた《フレシアの蠱惑魔》は、罠カードからの効果破壊耐性を持っているため、《激流葬》に巻き込まれることはなく。

「ふふん、《フレシアの蠱惑魔》の効果だと思ったでしょ!」

「確かにね……」

 《フレシアの蠱惑魔》という格好の撒き餌に誘き出され、まんまと本命の《激流葬》をくらってしまう。もちろん、嬉しそうなレイと悔しげな明日香で対照的だったが、まだ明日香のターンは終わっていない。

「私はモンスターをセット。さらにリバースカードを二枚伏せて――」

「おっと! ここで《フレシアの蠱惑魔》の効果を発動! このカードのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、デッキから落とし穴をこのモンスターの効果として、発動出来る!」

 落とし穴系統のカードとて、ただ召喚に反応する訳ではなく。裏側守備表示でセットした明日香にとて、その花弁の罠は襲いかかっていく。

「デッキから《硫酸のたまった落とし穴》を発動! 裏側守備表示モンスターの守備力が2000以下なら、そのモンスターを破壊する!」

 明日香が裏側守備表示でセットしていたのは、守備力1800の《サイバー・ジムナティクス》。デッキから発動された《硫酸のたまった落とし穴》の破壊圏内であり、壁モンスターとしての役目も果たせず破壊されてしまう。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドローザウルス!」

 しかし、もはや明日香に出来ることはなく。フィールドを空けたままターンを終了し、剣山のターンへと移行していく。

「フィールドにはまだ《大進化薬》が残ってるザウルス! 《暗黒ドリケラトプス》をリリース無しで召喚だドン!」

 恐竜族モンスターのリリース無しでの召喚を可能とする、《大進化薬》は未だに剣山たちのフィールドに残っている。その効果は依然として適応されたままであり、上級恐竜族モンスター《暗黒ドリケラトプス》が召喚される。

「一気に決めるドン! 伏せてあった《化石発掘》を発動し、手札を一枚捨てることで、効果を無効にして恐竜さんを墓地から復活させるザウルス! 蘇れ、《究極恐獣》!」

 一気に決める、という剣山の言葉通りに。手札も《化石発掘》のコストで使い果たしたようではあるが、あっという間に二体の恐竜族でフィールドを制圧してみせた。その圧倒的な体躯を見せつけながら、俺たちへと地響きをたてながら迫ってきていた。

「バトル! 《暗黒ドリケラトプス》で、ダイレクトアタックザウルス!」

「リバースカード、オープン! 《ピンポイント・ガード》! ダイレクトアタックを受けた時、墓地からレベル4以下のモンスターを、守備表示で特殊召喚する! 来なさい、《エトワール・サイバー》!」

 融合のエースカードこと《サイバー・ブレイダー》の融合素材、《エトワール・サイバー》が墓地から特殊召喚される。絶対絶命というタイミングでの特殊召喚だったが、《暗黒ドリケラトプス》の攻撃が止まることはなかった。

「《暗黒ドリケラトプス》は貫通効果を持ってるドン! 怪鳥!」

「きゃあっ!」

遊矢・明日香LP1200→400

 空中から急降下して勢いをつけたくちばし攻撃に、《エトワール・サイバー》の防御を通り越して、俺たちへのダメージが衝撃波となって伝播する。次の一撃は耐えられないだろう。

「だけど《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されたモンスターは、戦闘では破壊されないわ」

 《暗黒ドリケラトプス》にボロボロにされたものの、《ピンポイント・ガード》によって破壊耐性を付加された《エトワール・サイバー》は、何とかフィールドに維持される。《化石発掘》によって蘇生された《究極恐獣》では突破出来ず、恐竜たちは剣山のフィールドに戻っていく。

「くっ……ターンエンドザウルス……」

「俺のターン、ドロー!」

 仕留めきれなかったことを悔やむような剣山から、ようやく俺のターンへと移行する。剣山のフィールドには《究極恐獣》と《暗黒ドリケラトプス》に一枚のリバースカード、そして何より《フレシアの蠱惑魔》が存在する。恐らくタッグを組むにあたって、剣山のデッキにも落とし穴系統のカードが入っていてもおかしくない。

 ここで発動されては苦しいカードは、《奈落の落とし穴》と《串刺しの落とし穴》。特に《串刺しの落とし穴》はゲームエンドに持ち込まれる可能性もあり、剣山の性格から考えると、どちらかと言えば《串刺しの落とし穴》が入ってる可能性が高い。

 ならば、こちらのフィールドにあるカードは。守備表示の《エトワール・サイバー》と、明日香と俺が伏せたリバースカードが一枚ずつだ。俺が伏せたカードは言わばブラフだったが、明日香が伏せていた、《ピンポイント・ガード》ではない方のリバースカードは――

「遊矢。……もう、何年も前だけど」

「……リバースカード、オープン! 《融合回収》! 《融合》のカードと、融合素材モンスターを手札に加える!」

 明日香が伏せていたのは罠カードではなく、自分のターンにしか使えない通常魔法カード。つまり――次のターンである俺に託したカードに他ならず、《融合》の魔法カードと融合素材となったモンスター――《ブレード・スケーター》を手札に加える。

「まさか……!」

 こうなれば、使うべきカードは一つしかない。明日香が《ピンポイント・ガード》において、守備力が高くモンスター破壊効果を持つ《サイバー・ジムナティクス》ではなく、何故《エトワール・サイバー》を蘇生させたかの答え。

「俺は魔法カード《融合》を発動!」

「遊矢先輩が……融合ザウルス!?」

 《ミラクルシンクロフュージョン》や《ヘルモスの爪》ではなく、正真正銘の《融合》魔法カード。今し方《融合回収》でサルベージした、明日香の使っていた融合カードであり、この状況において俺が融合召喚出来るカードが一枚だけある、

 ――それはある意味、シンクロモンスターの機械戦士たちよりも、長い付き合いのある仲間で。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 俺のエクストラデッキから現れる、明日香の代名詞こと《サイバー・ブレイダー》。一年生の際に貰っていたカードであり、それから印象深いデュエルの度に力を貸してくれた。セブンスターズ、光の結社、プロフェッサー・コブラ、アモン――それらの共通点は、明日香を助けるためにデュエルしていたことと、人前で行うようなデュエルではなかったことだ。

「《サイバー・ブレイダー》がなんで遊矢先輩のデッキに!?」

「……《サイバー・ブレイダー》第三の効果! 相手モンスターが三体のみの時、相手のカード効果を全て無効にする! パ・ド・カドル!」

 驚愕を顕わにする剣山からの質問をよそに、《サイバー・ブレイダー》の効果を適応する。剣山たちのフィールドには、《暗黒ドリケラトプス》に《究極恐獣》、そして《フレシアの蠱惑魔》の三体。よって《サイバー・ブレイダー》第三の効果が発動し、相手のカード効果を全て封殺する。

「さらに《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊することで、カードを二枚ドローする」

 効果を無効にしてしまえば、いくら《フレシアの蠱惑魔》だろうとその効果は使えない。心置きなくセットカードをコストに二枚ドローするカード、《ブラスティング・ヴェイン》を発動するとともに、フィールドに旋風が巻き起こっていく。

「破壊されたカードは《リミッター・ブレイク》! よってデッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚!」

 破壊されることでどこからでも《スピード・ウォリアー》を呼びだす専用サポートカード、《リミッター・ブレイク》の効果により、デッキから新たなマイフェイバリットカードが特殊召喚される。だがフィールドに巻き起こっていた旋風は、まだ収まることはなく。

「さらに、このモンスターが効果によるドローで手札に加えられた時、このモンスターは特殊召喚される! 現れろ、《リジェネ・ウォリアー》!」

 特殊召喚効果を持つ二体目の機械戦士が、自身の効果でフィールドに特殊召喚され、《スピード・ウォリアー》とともに並び立った。どちらも下級モンスター、《フレシアの蠱惑魔》を破壊できるほどの火力はないが、俺はまだ通常召喚を行っていない。

「《音響戦士ベーシス》を召喚し、三体のモンスターでチューニング!」

 新たに通常召喚されたチューナーモンスター、《音響戦士ベーシス》に《スピード・ウォリアー》、《リジェネ・ウォリアー》による三体のチューニング。《音響戦士ベーシス》を主導に旋律が集っていき、光の輪を生み出していく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 合計レベルは7。この局面にシンクロ召喚されるのは、やはりこのモンスターだ。黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚され、その雄叫びは効果の発動に繋がっていく。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「右のカード……ザウルス」

 選ばれた三枚の装備魔法から、剣山が選んだ一枚のみを手札に加えると、そのカードはそのまま《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 《デーモンの斧》を装備したことにより、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は3300へと上昇し、《フレシアの蠱惑魔》を破壊できる数値にまで至る。《サイバー・ブレイダー》と合わせて、恐竜族たちに攻撃を集中させれば、ライフポイントを削りきることが出来るかもしれないが……ここは、《フレシアの蠱惑魔》を破壊することを優先する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《フレシアの蠱惑魔》を攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の右のスコップが《フレシアの蠱惑魔》を貫き、守備表示のためにダメージはないものの、遂に破壊に成功する。そして剣山たちのフィールドのモンスターが二体になったため、《サイバー・ブレイダー》の効果は第二の効果となる。

「《サイバー・ブレイダー》は相手モンスターが二体の時、攻撃力を倍とする! パ・ド・ドロワ!」

 よって攻撃力は4200。剣山のフィールドにいる恐竜族モンスターたちを追い抜き、攻撃の体勢を示すようにフィールド内を疾走する。

「《サイバー・ブレイダー》で《究極恐獣》に攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

「今ザウルス! レイちゃんのリバースカード、《ダブルマジックアームバインド》を発ドン!」

 だが《サイバー・ブレイダー》の攻撃宣言の際、剣山たちのフィールドに伏せられていたリバースカードが、遂にその姿を現した。フィールドに存在していた恐竜族モンスター二体が消えていき、その効果が発動される。

「こちらのモンスターを二体リリースする代わりに、そっちのモンスターを二体、次の自分のエンドフェイズまで、コントロールを得るザウルス!」

「何!?」

 発動した二対のマジックアームに捕らわれ、《パワー・ツール・ドラゴン》と《サイバー・ブレイダー》のコントロールが奪われる。あっという間にこちらのフィールドはがら空きに、あちらのフィールドにこちらのエースカードが並ぶ。

 とはいえ打開策はなく。通常召喚権を失ってしまった今、壁モンスターを召喚するゆとりすらない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「わたしのターン、ドロー!」

 これで俺たちのフィールドには、リバースカードが一枚。そして剣山たちのフィールドは、《サイバー・ブレイダー》に《パワー・ツール・ドラゴン》。その状況下において、ターンはレイの手へと移行する。

「遊矢様……このターンでわたしの思い、全部ぶつけるから! だから……来て! 《恋する乙女》!」

 言い方は違えどファイナルターン宣言。レイのその宣言とともに、フィールドにレイそのものとも言える、代名詞のようなモンスターが現れる。俺にとっての《スピード・ウォリアー》と似たような――いや、思い入れの強さだけなら遥かに圧倒的な、フェイバリットカード。

「さらに《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せて、相手が選んだカードを手札に加えるよ! パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ」

 いつもはこの装備魔法の選択を強いる側であり、初めてこの《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を敵として対面する。レイのデッキから選ばれた三枚の装備魔法の中から一枚を選ぶと、その装備魔法が即座に《恋する乙女》へと装備される。

「装備魔法《ハッピー・マリッジ》を発動! コントロールを奪ったモンスターの攻撃力分、《恋する乙女》の攻撃力をアップする!」

 レイのフィールドにいるのは《ダブルマジックアームバインド》で奪われた、《サイバー・ブレイダー》に《パワー・ツール・ドラゴン》。二体の攻撃力が加えられたことにより、《恋する乙女》の攻撃力は5800にまで到達する。明らかなオーバーキルではあるが、それがレイの思いの強さということか。

「バトル! 《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック! グリッサード・スラッシュ!」

 まずは攻撃力が低いモンスターから、という基本を忘れることはなく。レイが操る三体のモンスターのうち、まずは《サイバー・ブレイダー》が俺たちに襲いかかる。それらに対して対抗出来るカードは、僅かにリバースカードが一枚――

「リバースカード、オープン!」

 発動されるリバースカード、迫る攻撃、《恋する乙女》。それら全てが解決してフィールドに立っていたのは、ライフポイントが減っていない俺たちと、俺たちを守るように立つ《サイバー・ブレイダー》だった。

「俺が発動したのは《リビングデッドの呼び声》。墓地からモンスターを攻撃表示で特殊召喚した」

 明日香が融合召喚した《サイバー・ブレイダー》を――ではなく。《リビングデッドの呼び声》で特殊召喚したのは、《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていた、下級機械戦士の一人《レスキュー・ウォリアー》。

 《レスキュー・ウォリアー》の効果。それは戦闘によって破壊された時、相手にコントロールを奪われたモンスターを、こちらのフィールドに取り戻す効果。この効果によって、元々の持ち主がこちらの《サイバー・ブレイダー》を奪い返し、再び俺たちを守るようにフィールドに君臨した。

「そして《サイバー・ブレイダー》は、相手モンスターが二体のみの時、攻撃力が倍になる! パ・ド・カドル!」

 ……そして攻撃力を倍とした《サイバー・ブレイダー》とは対照的に、コントロールを奪ったモンスターが《パワー・ツール・ドラゴン》のみとなった《恋する乙女》は、《ハッピー・マリッジ》の効力が弱まり。その攻撃力は3700となり、《サイバー・ブレイダー》を突破することは出来なくなっていた。

「遊矢様……ありがとう。わたしの思いに、思いっきりぶつかってくれて……」

 レイにもはや手札はなく、コンバットトリックを挟む余地もない。《ダブルマジックアームバインド》の効果が適応されるのも、このエンドフェイズまでと――逆転の芽がなくなったレイが、そっとデッキの上に手を置いた。

「わたしたちの負け。《恋する乙女》がやられるシーンも見たくないし……ごめんね、剣山くん」

 サレンダー。レイが降参の意を示した事により、ライフポイントに関係なくこちらの勝利となり、観客が健闘を称えてレイたちに拍手を送る。

「いやいや、どうせ次のターンでやられるだけだし、楽しかったザウルス!」

 《パートナーチェンジ》などで迷惑をかけたからか、剣山に深々と謝罪するレイだったが、剣山はまるで気にしていないように笑い飛ばす。レイはそれからこちらにも走ってくると、明日香の手を少し強く握りしめる。

「次決勝戦ですから、よろしくお願いしますね、明日香さん!」

「え、ええ……」

「負けたら承知しないドン!」

 そして、どうやらこちらの決着待ちだったらしく、吹雪さんのパフォーマンスとともに決勝戦開始のアナウンスが鳴る。少し休ませてはくれないのか、と思いながらも、そのパフォーマンスに苦笑いしていると……

「……レイ?」

 今まで、同じデュエルスタジアムにいたはずのレイの姿がどこにもなく、気がつけばどこかに姿を消していた。その女子用オベリスク・ブルーの制服を着た、一際小さな背丈の彼女を探そうとしたものの、その姿は忽然と消えていて。

「遊矢先輩どこ行くドン? ほら、もうすぐ決勝戦ザウルス!」

 デュエルスタジアムから降りて本格的に探しに行こうとした俺だったが、それを阻止するように剣山が立ちはだかり、その間に観客席は決勝戦ムードに変わってしまっていた。レイにも何か事情があるのだろう、と明日香とともに決勝戦用のスタジアムへと歩いていき……
 
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