俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
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31.心の温度差
「連続殺人事件ッスか?」
「確定じゃあないがな。上の方もちょっとピリピリしてるし、状況が状況だ。そういう噂はしたくなるんだろうよ」
「………………あ、あくまで噂……ですよね?」
ギルドの休憩室で啜っていた紅茶を噴きだしそうなショックを受けながらその少女――犬人のトローネは同僚の物騒な噂話を無理に笑い飛ばそうとした。
同僚が喋っているのは、最近になってギルド内で囁かれるようになった話だ。何でもここ最近になって死因不明の死者が街中で発見されていることから、何者かがこれを殺して回っているのではないかという説が浮上しているのだ。
「最初は確かに噂だった。だがな、もう一週間連続で続いてるんだよ……街中での不審死の報告が」
「既に死者は7名……今日もあったらとうとう週を跨ぐッス。生存者がいれば事件かどうかもはっきりするんスけどねぇ」
同僚の一人――先輩ヒューマンのヨハンは時々こちらを怖がらせようとからかってくることがある、トローネとしては誠に残念なことに今日はそうではないらしい。同期で「ッス」が口癖のルスケも先輩の言葉の節々から感じるリアリティを察知してか神妙な面持ちだ。
「しかも倒れた瞬間を目撃した人の証言内容に共通する部分があることが分かった。どんな事件背景があるにせよ、ここまで来ると偶発的な事故で片づけるのは無理があるだろ?」
「まぁそうッスね。俺らギルドはこの街の秩序の体現者である必要がある。なら当然、ルールの隙をついている悪い奴がいる可能性を示唆されたら放置はできねぇ」
ギルドはこの街の大枠を管理し、直接的な戦力を持たない代わりにルールの執行者としての絶対的な立場を堅持している。もしもギルドの管理がなければ、オラリオ内は本格的に多くのファミリアが無法を尽くす世紀末都市と化すであろう。唯でさえr『神』という世界の異物を大量に受け止め続けているこの街だ。上でルールなしに暴れられると、皿そのものがひっくり返る。
この街では公的な罪は公的立場にあるギルドが主導で対策し、解決に導く必要がある。クエストなどで処理される事件も多いが、こと指名手配や大規模な捜査はギルドに話を通さずして行うことは認められない。
と、いうことは。
「そ………それって私達ギルド職員が調査するってことですかぁっ!?」
「まぁ、当然そうなるわな。ギルド憲章にもちゃんとその義務が乗ってるぜ」
「無理です無理無理!!少なくとも私みたいなドジで内向的で学歴だけ高いような新人職員には無理ぃぃぃぃぃぃ!!」
「いやいやいや、まだトローネちゃんが担当になると決まった訳じゃないッスからそんなに慌てなくとも……というかさり気に学歴自慢したッスね」
ひいいいいっ!と独り善がりに頭を振って怯えるトローネの臆病すぎる姿に二人は呆れた。
「調査ったって一人でやる訳じゃないし、大抵は協力者におあつらえ向きの冒険者を雇用するんだからそんなに怯えなくとも……」
「しゃーないと言えばしゃーないッスけど。トローネちゃんは臆病ッスからねぇ。正体不明の殺人鬼なんて絶対に関わりたくないでしょーよ。本人がドン臭いのも事実だし」
「ドン臭いというよりはトロいんだよなぁ、この子は。言葉の意味を理解するのにやたら時間がかかる上にちょっとズレてるし」
「殺されりゅううう………犯人に逆上されて殺されりゅううう……!いやそれ以前にギルドの将来の危険因子として目ざとく狙われて路地裏でコッソリ始末されりゅうう!」
「自分の妄想に怯え過ぎだろ。呂律がヘンだ」
「何でさっきからチョイチョイ自分の価値を過大評価してるんッスかねぇ」
もはや何もツッコむまいと二人は休憩室常備の茶菓子を齧りながらトローネを放っておくことにした。3人は確かにギルド職員だが、ギルドだって結構な人員がいる。ピンポイントで自分たちに担当が回ってくることは相当確率が低いし、きっと関係ないだろう。
「――ヨハンさん!ヨハンさん、いますか!?」
不意に、休憩室の外から若い女性の呼び声と慌ただしい足音が響いた。続いて休憩室の扉が乱暴に開け放たれ、眼鏡をかけたハーフエルフの女性が顔を出す。人気受付嬢のエイナ・チュールだった。
「何事だい、エイナちゃん?俺達は休憩時間だよ?」
「分かってますけど、緊急事態なんです!急いで外に出る支度を……あ、丁度いいからルスケくんとトローネも一緒に行って!」
「…………そこはかとなーく嫌な予感がするッスね。対策会議と祭りの準備で人手が足りない……という話じゃなさそうだ」
「殺されりゅううう……う?あれ、エイナさんじゃないですか!エイナさんも休憩ですかぁ?」
一人だけ状況把握能力が可哀想なトローネに「ああ、この子はもう……」と頭を抱えながら、エイナは口早に状況の説明をした。
「西通りでまた人が倒れました!今度は被害者がまだ生きているそうです!急いで事実確認に向かってください!!」
……数分後、トローネが『告死天使』に遭遇して恐怖の余り気絶したことを追記しておく。
= =
事件現場に居合わせたレフィーヤは、被害者男性の手当てをするブラスを心配そうな目で見ていた。
ブラスは神妙な顔をして被害者男性に少量ずつ水で薄めたポーションを飲ませ続けている。被害者男性も目を覚ました当初は問題なさそうに見えたが、時折顔色が悪くなったり体が痙攣したりと容体は安定していなかった。
「あの……怪我はしていないように見えますけど、本当にポーションで大丈夫なんですか?」
「ああ。恐らくだが容体が安定しないのは電撃傷で体内の血管や神経が引き裂かれている所為だ。お前も魔法使いなら雷の特徴くらいは知っているだろう?リヒテンベルク図形痕がないということは電流は表皮を流れず体の中に直接叩き込まれた可能性が高い。広義に於いては怪我と同じことだからポーションで治るだろう」
(リヒテンベルク・ズケーコンってなんですか………!そりゃ雷の勉強はしましたけど、やったのは精霊を媒介にした人工的な雷の発生原理までですよ!人体に命中した際の対処は魔法使いじゃなくて治癒士のお仕事ですっ!!)
そもそも、この世界で魔法とはあくまで魔物に対抗する術として神や精霊に授かったものだ。魔法というスキル自体も希少なものであり、人に対して雷を放った際のダメージなどという限定的な知識を知ってる者などまずいない。
「大体、なんでわざわざポーションを水で薄めてるんです?普通のポーションを飲ませてあげた方が……」
「こいつはさっき一時的に心停止になったんだぞ。今のこいつは体内の流れが乱れて激しく不安定な状態になっている。ポーションは確かに傷を治すには最適だが、それには急激なコンディションの変化というリスクが伴う。こういう時の人間はちょっとした刺激や負担で簡単に突然死するものだ……しかし、傷がある以上は放っておいても死ぬかもしれん。リスクとリターン両立させるには、これが一番いい」
「ダンジョンでもない所でそんなに簡単に人は死なないと思いますけど……」
「お前が思っているだけだ」
「なっ………!」
余りに挑発的な物言いに流石のレフィーヤも頭に血が上りそうになるが、その苛立ちを治めたのもブラスの言葉だった。
「例え神の恩恵を受けようが、どんな魔法を覚えようが………所詮人間は人間でしかない。最期ってのは驚くくらい呆気ないものだ。どいつもこいつも、な」
その時だけ、いつでも事実を見つめているオーネストの瞳はどこか遠い場所を眺めていた気がした。
自分より長い間危険な場所で戦い続けた戦士の言葉は、一般論を語るそれとは比べ物にならないほど重い。
「………でもそれ、黒竜に殺されかけて瀕死の重傷を負いながらもう一度戦いに行こうとして大暴れした挙句にガレスさんを素手で殴って膝をつかせた人の台詞じゃないですよね?」
「………………」
これは又聞きした話だが――数年前、黒竜に殺されかけていた所を助けられてロキ・ファミリアに看病されていたオーネストは意識を取り戻すなり看病していたティオネを突き飛ばして武器も持たず医療テントを脱走したそうだ。
止めに入ったフィンを投げ飛ばし、それにキレたティオナの本気の拳をクロスカウンターで迎撃して逆にKOを取り、最後に立ちはだかった『重傑』ガレスの鎧を着た腹を素手で殴りつけて吐血させたところでリヴェリアに不意を突かれてトドメを刺されたらしい。
『重傑』の名の通り、ガレスはオラリオ内でもトップクラスの耐久を誇る最強のドワーフだ。高レベルの魔物でさえ彼に膝をつかせるのは至難の業であり、正面からのぶつかり合いで彼に勝てる冒険者は片手で数えるほどしかいないだろう。
そんな彼を素手で、しかも鎧越しに殴ったら普通は手の方が折れるもの。しかもこの時のオーネストは黒竜との無謀な戦いのダメージで死に体な上にティオナのストレートパンチが顔面に直撃して意識が朦朧としていた筈である。そんなコンディション下で何をどうすればあのガレスに膝をつかせるのか。そして、そんな事をした人間が『人間は呆気なく死ぬ』などと、どの口がほざくかという話である。
「………………………」
「………………………」
しばしの沈黙。
「………俺は、人より死ににくい。だからいつも俺より先に周りが死ぬんだよ」
(あれ、地雷踏んだ!?)
オーネストの表情は変わらないが、心なしか肩が落ちたような気がする。こういうときどんなふうにフォローすればいいのか全く分からない。アズなら何気ない台詞で普通にコミュニケーションを取れるだろうに。
(アズさん早く戻ってきて~~~!!)
「ん?俺を呼んだか?」
背後から――薄れてもなお氷のように冷たい死神の気配。
恐る恐る振り向いた先にいたのは、黄金の仮面を被った見覚えのある男。
「よっす!ギルドの人連れて来たよー!」
「…………ぴぎゃああああああああああああああああああああああああ!?」
人間は不意を突かれると人生で想像したこともない悲鳴をあげるものだと――この日、レフィーヤは学んだ。
閑話休題。
精神を立て直したレフィーヤ、容体の安定した男性が病院に運ばれていくのを見送ったブラス、そして現場にギルド職員を案内したアズの3人は、近くの喫茶店で事情聴取を受けていた。ヨハンが質問し、ルスケとトローネははメモ役らしい。
「えっと……まずはお三方の名前を聞こうか。金髪の君はアイズ・ヴァレンシュタインで間違いないね?」
「俺のどこがアイズだ。よく見ろ」
「レフィーヤ氏を連れていて金髪金目の女剣士だろう?どう見ても『剣姫』ヴァレンシュタインだ。持っている剣も第一級冒険者の品質だしな」
「しまった、言われてみれば条件が揃っている……!!」
早速ブラスに面倒くさい受難が降りかかった。
確かにこの街に金髪金目でレフィーヤと共に行動する女剣士などアイズしかいない。本人に親しい者でもなければ普通に間違えておかしくない。何より二人の顔立ちは割と似通っているから、遠目に見れば本人との違いが分からないのだ。
「くっ……似ているだけで別人だ。レフィーヤとは街で偶然出会った」
「ほう、余所のファミリアにしては呼び捨てにしている上に見知った顔だったようだが……トラブルを避けたいのなら下手な嘘はつかない方がいい」
ヨハンは完全に決めつけにかかっている。これは面倒な状況だ、とブラスは内心で毒づいた。本人は本気で間違えている上に至って真面目なつもりらしい。そして間抜けな癖に真面目な人間というのは話をどこまでも厄介な所へ無自覚に運んでいく。
しかも、ここでレフィーヤが違うと主張した所で「口裏を合わせている」と決めつけられたら聞く耳を持ってくれない可能性が高い。
「……自分の正体を隠そうとする、か。それがどういう意味を持っているのか知っているのかね?」
(無視して帰るか殺すかどっちにしようかこいつ)
(ハッ!?相棒がとてつもなく物騒な事を考えている気配がする!!)
――忘れられがちだが、ブラスはギルドが大の嫌いである。嫌いなものは嫌い、鬱陶しいものは鬱陶しいという竹を割ったような判断力を持つ彼女にとってヨハンの態度は不愉快極まりなく、言ってしまえば「下手に出てやったらつけあがりやがって」という一触即発レベルの苛立ちを抱いている。
すわ爆発か――!?と異変に気付いたアズが戦々恐々とした瞬間、想いもよらぬところからフォローが入った。
「ま、待ってくださいセンパイ。その人、本当に『剣姫』じゃないかもしれません」
オドオドしながら小さく挙手したのは、この中で一案頼りなさそうな御仁――トローネだった。
「お前がそんな風に口を挟むなんて珍しい……理由は?」
「アイズ・ヴァレンシュタインなら前に仕事で見たことがありますが、その時に持っていた剣はゴブニュ・ファミリアの専用剣でした。事実、税収に関する資料をこの前見た時もロキ・ファミリアとゴブニュ・ファミリアは専属契約者を多く抱えており、『剣姫』の名もそこにありました。でも彼女がいま抱えている剣はヘファイストス・ファミリア製と見受けられます。武器の違いは冒険者の違い……ですよねっ」
どこか慌てたように口早に説明するトローネだが、その指摘にヨハンははっとしてブラスと名乗った女性の持つ剣を見る。複数本持っていることも妙だと思っていたが、見れば剣の鞘にヘファイストス・ファミリア製であることを示す印があった。
それに、トローネは鈍くて遅いところはあるが記憶力と推理力が高い。その正確さたるや、あらゆる書類に記載された情報を繋ぎ合わせて会ったこともない冒険者の懐事情を理解できるほどだ。彼女の言葉を聞いたブラスは、肯定を示すように傍らに立てかけた剣を拾い上げてギルド三人衆に見せる。ヘファイストス・ファミリアのスタンダードモデルだ。
「………椿・コルブランドと専属契約をしている。『契約冒険者』をやっている手前、見てくれは市販の剣と同じだがな」
「なるへそ……専属契約者がいるのによそのファミリアで剣を買うなんて考えられないッスね。ンなことがバレたら店同士で情報が行き交って、即バレの上で契約打ち切り!それに、俺も『剣姫』がこんな男勝りな喋り方をするたァ聞いたことないッス」
「つまり、本当に他人の空似か………紛らわしい」
新人二人の指摘に自分の予想が間違っていたことを確信したヨハンは、心底面倒そうにぼそっと呟く。が、勘違いしたのはヨハン側だというのにこの態度なために周囲から冷めた視線が注がれる。迂闊な言葉で株を落としたヨハンは後ろ頭をぼりぼり掻いた。
「えー………こっちの不手際で申し訳ない。お詫びに何か奢るよ、お嬢さん」
「この店で一番高いクイーンベリーパフェの特盛とセイロンティー一品ずつ、ついでにお持ち帰りのジャムセットの一番高い奴」
「予想以上にガッツリ頼んできた!!」
「態々『一番高い』ことを強調する辺り、ご機嫌斜めッスね。まーこれは先輩が悪いッスから必要経費ッスね」
山盛りのパフェをもくもくと、しかし異様なまでに洗練された手つきで頬張るブラスは一旦さて置いて、質問は次へ移った。
「で、次ですが………ガネーシャ・ファミリアの人ですね?」
「違うよ!俺のどこがガネーシャ・ファミリアだって言うんだ!」
「どっからどう見てもガネーシャ・ファミリアだろーが!!これ見よがしに黄金の仮面なんか付けやがって!!鏡見てから言えよ!!」
「酷い!身体はガネーシャでも心は天使だよ!」
「ブラスさん、あれ……」
「確信犯だ、言うまでもなくな」
レフィーヤは頭を抱えたくなった。あの仮面でガネーシャ・ファミリアに間違えられない訳がないと完全に理解した上でのあの発言。この男、間違えられるのを分かっていてボケに入りやがった。パフェを未だにもくもくと食べていたブラスがふんっ、と鼻を鳴らしてジロリとアズを見やる。
「おいアズ。そのコントは読めてたからとっとと説明しろ。時間の無駄だ」
「ええっ、もうちょっと遊びたい……」
「え?いまスプーンで目ん玉くり抜いて欲しいって言ったか?」
「言ってないよ!お前のヤクザ並みの暴力発想が怖いわ!」
「あの、話が進まないんですが~………ねぇ聞いてます!?」
この不毛な茶番が終了するまでに数分かかったことは言うまでもないだろう。
一通り茶番を終えた6人はやっと本題に入っていた。
「つまり、3人は突然の閃光と共に被害者が崩れ落ちたのを確認。アズライール氏とブラス氏の私見では周囲に怪しい気配や魔法の発動は感知出来なかった……と」
「俺はともかくとしてブラスの気配察知能力は確かだぜ。まぁ、半径300M以内に不審者がいたら一発で気付くレベルだかんな」
「うわぁ、鷹の眼かよ………」
「流石は冒険者、化物染みた能力だ」
ドン引きするルスケとは対照的に冷めているヨハンは素早くメモを取る。トローネは病院に運び込まれた被害者や目撃証言に関する報告書を精査しているようだった。
「周辺の目撃証言と今回の証言……そして例の連続不審死事件で挙った証言、全て一致しています。周辺に犯人らしき不審者はなし。被害者が倒れる直前に雷のような音と光があったというのも共通です」
「被害者の様子は?」
「意識ははっきりしていますが、本人にも今のところ倒れた原因について心当たりはないそうです。ただ、ブラスさんの証言通り被害者には落雷などの強い電流を受けたような症状が現れているそうです。また、今回の証言を基に不審死した死亡者の遺体写真を確認した所、胸や首筋にごく小さな火傷のような穴が開いていたとのことです。以上の事実から――こちらの書類をギルド長が」
トローネが書類の中から一つだけ紙質の違うものをヨハンに渡す。その内容を改めたヨハンは、眉間にしわを寄せて内容を読み上げる。
「此度の連続不審死を何者かの手によって恣意的に発生させられたものと断定し、事件として認定するものとする………ギルド長の捺印もある正式な書類だ」
「と、言う事は………もしかして」
「ほ、ほ、ほ、本当に殺人事件の調査を手伝うんですかぁっ!?」
ルスケは予定外の業務内容に頭を抱え、トローネは震えあがる。
新人局員には余りにも荷が勝ちすぎる事態を、もしや自分たちが任されるのだろうか。いやいやこんな異常事態なら別のメンバーが寄越されるはず。いくら祭りや組織会議が近くて忙しいからと言って末端人員にそんな大事を任せはしない筈……戦々恐々する二人に、ヨハンはにっこり微笑んだ。
「安心しろ、お前ら……大丈夫だ」
「で、ですよねー!私みたいなデスクワークばかりの期待の大型新人を現場に向かわせるなんてそんな……ねっ!」
「だから何で自分を過大評価して………まぁいいッス。それよりも先輩、安心していいってことは帰っていいっつーことッスよね?今日の業務はすべて終了ってことでいいッスよね!?」
「はーははははは………そんな訳なかろう?むしろいい機会じゃないか。新人は現場研修こなしてナンボだ!!」
「なん……」
「ですと……」
二人の新人の顔色が、さあっと青く変わっていく。
「ロイマン局長から直々にアズライール・チェンバレット氏及びブラス氏の二名に事件解決の協力依頼も出ている。お前らはその二人の金魚のフンになってこい!事件捜査も護衛もその二人がやってくれるから!」
「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?!?」
ギルド局員の余りに間抜けで情けない悲鳴とともに――事件は幕を開けた。
その、傍らで。
(ブラスさん、どういうつもりなんだろう。不審者はいなかったって――私と肩をぶつけたあの人はどう考えても怪しいのに、『あいつの事は報告するな』って……?報告したらブラスさんに都合の悪い事があるってこと……?)
少女は、密かな疑いを胸に抱いていた。
後書き
ぶっちゃけ前話の被害者男性は普通に死なせるつもりでした。そんなひどい。
ついでにオリキャラなギルドの3人をば。
トローネ・ビスタ……
高学歴芸人の犬っころ。垂れ耳タイプ。年齢は17歳。勉強は出来るけど鈍いタイプ。
ルスケ・ウエストロット……
ッス口調のヒューマン。年齢は22歳。どっちかというと怠け者だが、仕事の手は抜かない。
ヨハン・ネナーベ……
何気に仕事歴の長いヒューマンのオッサン。自称永遠の18歳。新人育成係を任されることが多い。
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