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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第15話 VS血斧王

 冬馬達は士郎に救い上げられてから、毎日が幸せに満ちた平穏の中で生きて来た。
 自分たちのために怒ってくれた士郎の真剣中の真剣な顔など、あれ以来見て来なかった。
 先程までは。

 「それが士郎さんの魔術師としての戦闘装飾ですか」

 冬馬達の目の前には和服の上に赤い外套に赤いフードを被る士郎がいた。
 腰には二本の日本刀を掛けており、これから本当に戦いに行くのだと嫌でも理解させられた。

 「ああ、そうだ。師匠、3人を頼みます」
 「任せておけ。だからお前も気を抜くなよ」

 3人の後ろに立つスカサハは、士郎の真剣な顔に同じく真剣な顔で返した。
 それをある疑問を持った準がスカサハに聞く。

 「アルバさんは行かないんですか?」
 「師匠は行かない(・・・・)んじゃない。行けない(・・・・)理由があるんだ」

 スカサハの未だに解呪しきれていない制限の内、重要なモノが幾つかあった。
 そしてそのうちの一つが、サーヴァントと言う殻に当てはめられた英霊や神霊との戦闘、殺し合いである。
 彼方から近づこうと此方から近づこうと、まるで反発する様に、令呪により無理矢理移動させられる様にサーヴァント達から離れて行ってしまうのだ。
 無論、遠距離からの投擲や射撃も必ず(・・)外れてしまうのだ。
 これはシャドウサーヴァントを討伐しようとした時に偶然判明した事で、それ以来これも最重要事項として解呪中なのだが、これも時間を必要とするのだった。
 とは言え、それを説明する訳にもいかないが、士郎の真剣な眼差しにより相応の訳があるのだと察せられた準は、スカサハへ謝罪する。

 「すいません」
 「いやかまわん。お前の疑問も尤もだしな」
 「誤解も解けた事だし行くよ。小雪、お前も大人しく留守番していてくれ」

 そう言って士郎は小雪の頭を優しく撫でる。
 しかし小雪は一層不安になった。

 「シロ兄、絶対帰ってくるよね?ボクちゃんと留守番してるから!シロ兄の・・・この皆の家、絶対守ってるから!!」
 「ああ、約束する。俺は絶対戻って来るって」

 士郎は、本心と笑顔で小雪を安心させる。
 そうして士郎は夜闇の中に跳躍して行った。
 全てを守る正義の味方には成れなかった。だがだからこそ今は、せめて自分の手の届く範囲の者達を守り切って見せると言う信念を以て、士郎は戦場へ赴いて行った。


 -Interlude-


 士郎が家を出た頃、百代は大急ぎで身支度をして部屋を出た。
 しかし――――。

 「こんな夜更けに何所に行く気じゃ?モモ」

 百代は門を一々潜ろうと言う選択肢は取らずに、塀を乗り越えて行こうと庭に出ようとした処に同じく鉄心が居た。
 何故鉄心が先回りしているかの理由は、スカサハからの携帯の連絡により百代を見張っていてくれと頼まれたのだ。
 と言っても5秒前の事だった。
 けれど、近所迷惑どころでは無い先程の轟音にスカサハからの忠告。
 嫌でも事態は急を要すると理解させられた鉄心は、瞬時に携帯を切ると同時に今この場に来たのだ。 最初は気配を消そうかとも考えたが、部屋の外からでも感じ取れるほどの百代の気の昂ぶりに溜息をついてから、必要ないと判断して堂々と立ちはだかる様に佇んでいた。 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 しかし百代は応えない。
 答えに窮したわけでは無い。
 単に答える気が無いだけ。
 百代の思いは既に決まっているのだから。
 そんな百代に鉄心も意を介さずに質問を続ける。

 「如何したんじゃ?答えんか。こんな夜更けに顕現の参・毘沙門天(何所に行く気じゃ)!!」

 鉄心の方から火ぶたを切ったかと思うが、それは違う。
 百代の方が鉄心の質問の途中で駆けだそうとしていたのだ。
 それを読み取った鉄心の先制攻撃。
 川神流奥義の一つ、顕現の参・毘沙門天。
 0.001秒の一瞬の間に、闘気によって具現化した毘沙門天の巨大な足のより、百代を押し潰す――――いや、巨大な足の下には百代の姿はなかった。
 百代は鉄心の目の前にいたのだから。

 「川神流――――」
 「むぅ!?」
 「――――無双正拳突きぃいい!」
 「ぐぬっ!」

 百代の拳は鉄心の顎にクリーンヒットさせて、脳震盪を起こさせた。
 普通のアッパーでは鉄心の脳を揺さぶるなど出来ないので、この選択を百代は取った。
 しかも脳震盪を起こせば時間稼ぎにもなるし、冷静な判断が出来ないからと画策した様だ。
 狙い通り脳震盪によりふらつく鉄心に、百代は畳掛けずに川神院の塀を超える。

 「ま、不味い・・・」

 状況の拙さに鉄心は、ふらつく体を何とか立て直そうと試みながら焦る。
 百代を他に止められるものはルーだけだが、今は先ほどの轟音により近所の住民たちの不安を取り除き落ち着かせようと、多くの修行僧を連れ出して出払っていた。
 自身の失態に凹みながらも、極力早く体勢をを整えて追跡しようと努めるしかなかった。


 -Interlude-


 同時刻。
 藤村組本部である藤村邸でも川神院の修行僧達と同じように、冬木市内の住民たちを落ち着かせようと藤村組のNO.2である雷画の実子であり若頭こと、藤村嵐臥(らんが)が組員を率いて市内に出回っていた。
 未だ藤村組の頂点である雷画は、日本に古くから居る退魔の一族出身のNO.3の石蕗和成と、ある魔術師の家系から絶縁を言い渡されたNO.4の吉岡利信の、2人を集めていた。

 「嵐臥に同行させずにお前たちを残したわけ、分かっておろうな?」
 「勿論です、総組長」
 「若の援護と支援ですね?」

 雷画の質問に間髪入れずに答える2人。
 その内の1人である石蕗和成に向かって、雷画は頭を掻きながら面倒くさそうに言う。

 「そうだが、士郎の事をいい加減“若”と呼ぶのは止してやれ」
 「総組長の言う通りだぜ石蕗和成(カズ)。士郎はがらじゃないから止めてくれって、何時も言ってんじゃねぇか!」
 「善処いたします。それと吉岡、お前もその名で呼ぶのをいい加減改めろ・・・!」

 NO.3とNo.4と言っても、2人の間に格差はほとんどない。
 表向きの武術家としての実力も、裏側での退魔師と魔術使いの戦闘力と、相当な修羅場を踏んできた濃厚さも大体同じ位だった。
 それ故に、こんな軽口を叩け合えるのだった。

 「お前が士郎の奴の“若”呼ばわりを卒業できたら止めてやるよ!ま、今迄総組長に何度も言われて止められた事が無かったお前に、出来ればの話だがな、カズ!」
 「貴様・・・!!」

 軽口を叩き合えるが、2人はある種の犬猿の仲。
 顔を合わせて口を開けば何時でもこうなる。
 それが例え緊急時であり、雷画の目の前であろうとも。

 「お前達こそいい加減にせんかッッ!!時と場を弁えられんのか、馬鹿共が!殺し合うのも、優劣付け合うのも“今”を乗り切ってからせんかッッッ!!!」

 部下の醜態に堪忍袋の緒が切れた雷画は、怒気と闘気を込めて2人を藤村邸からたたき出す様に吹っ飛ばした。
 藤村邸の敷地外に放り出された2人は、そこで漸く頭を冷やしてそのまま現地に向かう事を選んだ。 だって、今戻ったらガチで切り殺されそうだし。


 -Interlude-


 少し遅れて九鬼極東本部。
 そこには九鬼従者部隊の序列永久欠番と二位と三位の3人の老執事達が、ある部屋に集まっていた。

 「コイツは・・・英霊だと!?」

 現地に飛ばしたマープルの使い魔に付けた映像カメラにより、映し出された動画には山中の中腹にて見た目からでも容易に解る程の荒々しい英霊が見て取れた。

 「映像も確かだ。認めがたいが受け入れなければならないね」
 「未だ魔術師の特定が済んでいないと言うのに、天は余程我々人に試練を与えたいようですな」
 「だがそんな泣き言など言ってられんだろう。打って出るしかあるまい」

 九鬼の一族と他数名以外には、ただでさえ普段から威圧的にふるまっているヒュームの周りに漂うオーラが、決意と覚悟を持ったためにいっそうに凝縮された。
 それはまるで、殺気を纏っているかの様だった。
 一般人はもとより、それなりの実力者程度でも怯えさせかねないほどのオーラだった。
 そんな剣呑さを露わにしているヒュームへクラウディオが声を掛ける。

 「待ってください、ヒューム。私も同行します」
 「無謀が過ぎるぞ?魔術師相手なら兎も角、相手が英霊では話にならん」

 クラウディオが戦闘に応用できる魔術は、せいぜい変化と言う名の身体強化と、武器である鋼糸に魔力を纏わせるくらいである。
 そして魔術も神秘も魂魄の年月の積み重ねが重要で、クラウディオは魔術師としては平凡よりも少し上位でしかない。そんな彼の魔力を纏わせた武器程度では、座にまで祭り上げられた英霊に触れた瞬間に、纏わせた程度の魔力は必然的に弾け飛んでしまうのだ。
 その上で攻撃を喰らう事に成れば、もっても二回の攻撃で殺されるのが落ちだろう。

 「自分の力不足は重々承知しています。ですからサポートに徹していくのでお願いします」
 「チッ、お前ともあろう奴が蛮勇に走ると言うのか」
 「今がその時であると覚悟したまでです」

 いつも冷静沈着で自分の分を弁えている旧知の完璧執事と目を合わせたヒュームは、珍しく深いため息をつく。

 「マープル、コイツが無茶無謀に走ったら――――」
 「――――言われずとも使い魔を張り付けて、強制退場させるよ」

 ヒュームと同じく溜息をつきながら呆れる口調でマープルが言った。

 「私はそこまで信用がないのでしょうか?」
 「「当然だ(ろ)」」

 声を揃えるマープルとヒューム。
 窮地であるから互いの事は大抵知っている。
 クラウディオは先に説明した通り基本的に冷静沈着だが、いざ腹を据えると無理無茶無謀な事を今まで何度もしてきたのだ。
 それを知っている2人にとって、()のクラウディオはまるで信用ならないのだった。

 「ささ、ゆっくりしている暇はありませんよ?行きましょう、ヒューム」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 平時の戦闘時はクラウディオがヒュームを促す事など無い。
 これだけでも頭痛を起きた時の様に、頭を押さえたい気持ちに駆られたヒュームだった。


 -Interlude-


 「この辺りだな」

 現地付近に誰よりも早く到達した士郎は、気配を隠しながら奇声と轟音を起こしている場所へ慎重に目指す。

 「アレか。・・・・・・予測は出来ていたが、やはりバーサーカー」
 「グゥオオオオオオオオ!!」

 クレーター付近の木々をなぎ倒しながら、暴れまわりながらも徐々に移動していた。

 「これ以上暴れられても周りが荒れ地になるだけだな。ここは手早く終わらせよう」

 士郎の片手には何時の間にか黒塗りの洋弓が握られていた。
 そしてもう片方は虚空にて弓を引き絞る体勢を取る。

 「I am the bone of my sword(我が骨子は捻じり狂う)――――っ!」

 士郎や英霊エミヤと特有の詠唱後、空いている手に尖端がドリル状になっている投影品を顕現させた時と同時にそれは起きた。
 自分に完全に背を向けていたはずのバーサーカーが突如として後ろ――――つまり、凶暴化した眼光をぎらつかせながら此方に振り向いたのだ。
 これには士郎も僅かに動揺して驚いた。
 生前の戦場で輝かしい武勲を上げてきた英霊なら直感などを働かせて気付く事もあるだろうが、この英霊は通常の七騎の内、最も直感に縁がない、或いは直感を働かせられなくなるクラスのサーヴァント、狂戦士(バーサーカー)である。
 そんな英霊が、それなりの距離があり尚且つ完全に視界に入っていない自分へと一切の間違いなど無く向くなどと、驚かない筈がない。
 とは言え、士郎のやることに変わりはない。
 既に準備は整っており、後は真名解放と同時に矢を解き放つだけ。

 「――――偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)!?」

 しかし解き放たれた直前に、バーサーカーは自身の持つ盾を士郎の解き放つ贋作改造宝具目掛けて、投げつけて来たのだ。
 とはいえ偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)のランクはAだ。
 それを盾で防ぐとなれば、英霊自体が手に持って使いつつ踏ん張らなければ防ぎきれないモノだ。
 故にその程度では止められず、宝具に当たった瞬間バーサーカーのラウンドシールドは砕け散った。
 けれど若干だが速度と威力も落ち、時間稼ぎにもなってしまった。
 その間にどす黒い斧に禍々しいオーラをため込んでいたようで、威力と速度の落ちた偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)に向けて跳躍しつつ、体全体で回転しながら叩き落とした。

 「オォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 その様はまるで、生前の嘗てに王位に就くために兄弟たちを皆殺しにした血斧王さながらだ。
 故にこの宝具の名は血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)である。
 宝具と宝具のぶつかり合いにより、衝撃波と共に広範囲の土煙が舞い上がる。
 その中で士郎は経験則としてその土煙の中から脱出し、即座に自分の方に向いていたバーサーカーとは逆側から投影した黒鍵をバーサーカーがいるであろう地点に投擲した。

 「・・・・・・これでハッキリする筈だ」

 士郎の視力はこの世界に来てからさらに強化されているので、土煙の様な常人では視界が役に立たない状況の中ですらもよく見えるのだ。
 故に士郎はバーサーカーが今も直、背を向けていると分かった上で投擲したのだ。
 そしてバーサーカーは、土煙の中で自身の宝具の発動による反動で動きを鈍くしている所、ある指示――――具象奇体たるバーサーカーの妻のグンヒルドが、ガイアによって強制される命令に無理矢理従わされた上で、またも振り向いてから宝具である斧――――血啜の獣斧で撃ち落とした。
 バーサーカーの剛腕たるや、今の威力により土煙はすっかり晴れた。
 そして今の光景を見た士郎は確信する。

 (バーサーカーのあの動きはあり得ない!――――つまるところ、何かの支援か指示若しくは両方の加護を受けてるな)

 士郎も、古今東西全ての英霊のスキルや宝具などを知識として修めているワケでは無いのでハッキリとは言えないが、今現在対峙しているバーサーカーの狂化ランクは低くないと見える。
 バーサーカーであるにも拘らず、普通の意思疎通が可能な程ステータスの底上げには期待できないが、スキルに直感がある場合がある。しかし高すぎればそれは無い。
 ただ、サーヴァントによっては狂化と言う精神状況下でも洗練された動きを見せる英霊もいる。
 その英霊は、士郎のパートナーであったアルトリア・ペンドラゴン(セイバー)の生前の配下である湖の騎士、サー・ランスロット。
 彼の英霊には『無窮の武練』と言うスキルがある。このスキルを持つ英霊は一つの時代に置いて、自身の武練を無双にまで到達させた英雄のみが獲得しえるモノで、心技体の完全なる合一によりいかなる精神状況でも十全の武芸を発揮できる、武において真の英雄のみに許された称号でもある。
 しかしこのスキルは、直感の様な死角からの攻撃には咄嗟に行動しずらい。
 事実、第四次聖杯戦争時に不意打ち気味な征服王の戦車の蹂躙走法や、英雄王の宝剣の射出攻撃には反応出来なかったのだ。
 兎に角、バーサーカーには許されない動きを見せる場合、それらの可能性や味方がいると考えた方が良いのだが、ガイアがバーサーカーに逐一指示できる訳がないなら、何らかの加護の元だと考えるしかないのだった。

 (さて、こうなると厄介だが如何するか)

 士郎は何時バーサーカーに近づかれても言い様に、足を気で強化させながら様子を窺っていた。
 そんな時、あらぬ方向から士郎とバーサーカーの両者にとって、不意打ち気味に間に入って来た人物が来た。
 その人物とは――――。


 -Interlude-


 百代は、鉄心の妨害を振り切って衝撃音が感じられた地点に向かっていると、向かう先の地点の上空に赤黒いオーラが立ち上ったのが見えた直後に、最初の衝撃音以上の轟音が鳴り響いて来た。
 百代の勘が囁いている。
 これは地面を殴った衝撃では無く、強者同士の技のぶつかり合いだと。
 百代としては一番乗りできなかった事に軽い苛立ちを覚えたが、しかしそれも直に喜悦に変化する。

 「・・・最低1人増えた。――――つまり楽しみが倍になった様なモノだな!」

 彼女の楽しそうな笑顔には狂気が孕んでいるように見えるが、その姿は見間違いなく欲しい玩具をほぼ目の前にした子供の様な無邪気さだった。
 これにより彼女はさらに急ぐ。急ぐ理由は勿論、強者への餓えでもあるが、前回も乱入しようとした処で取り逃がしたのだ。今回こそはと、百代の必死さは何時もの倍以上だ。

 「そらッッ!!」

 百代は現地さらに近づくと、想いきり跳躍して向く敵が有ろう周辺の上空に来た。
 そこで降りて探そうと思ったが、如何やら探す必要もなさそうだった。

 「ハハ、やってるな!」

 木々がなぎ倒されている場所から、中々の風圧が空まで上がって来た。
 無論、自分たちの居場所は此処だぞと言ってるような目印を、百代が放っておく筈が無い。
 上記の事は、如何考えても百代の勝手な捉え方に過ぎないが。
 そうして自分に都合のいい風に勝手に受け取った百代は、躊躇なくその地点に飛び降りた。
 そして図らずも、百代は両者の間の地点に着地した。

 「へぇ~、お前達がこの騒動の首謀者か!」

 百代は両者を値踏みするように見る。
 その上でのパッと見の感想を言う。

 「なんでお前たち仮装したまま戦ってるんだ?ハロウィンはまだまだ先だぞ?」

 百代はマイペースにその場の空気など知った事も無く、口を開いた。
 確かに客観的に見れば、バーサーカーの格好も士郎の魔術使いとしての戦闘装飾も仮装やコスプレと指摘されても仕方がなかった。

 「さっきからダンマリしてるが、戦ってるんなら私も混ぜてくれよ、いや混ぜろ!」
 「・・・・・・・・・」

 百代の発言に士郎と言えば、開いた口が塞がらない気持ちでいた。
 ガイアの代理人の目を偽るアクセサリー型の特製の礼装を渡して対策を取っていた百代が、自分から乱入してくるとは夢にも思わなかったからだ。
 その上、発言が戦闘衝動丸出しの言葉故、士郎は頭を抱えたい気持ちに陥った。
 そんな風に士郎が悟られない様悩んでいると、百代とは別の当事者が彼女を凝視しながら呟く。

 「・・・・・・ダ」
 「あん?」
 「・・・ダ。・・・・・・血ダ・・・血ダ血ダ、血血血血血血血、血ヲ寄コセェエエエエエエ!!」

 咆哮しながら百代に狙い定めて突進していくバーサーカー。
 勿論突進だけでなく、百代を捕えたバーサーカーは躊躇なく斧を凄い勢いで振り下ろした。

 「ハハ!」

 それを百代は笑いながら躱す。
 勿論躱されてもバーサーカーの攻撃は続く。
 振り上げ振り下ろし横に薙ぐようにするなど、百代を亡き者にするために乱暴に斧を振っていく。
 斧を振る度に大気は悲鳴を上げたり、地面はダンダンと抉れた跡が増えていく。
 勿論斧の豪快な攻撃が止まないと言う事は、百代は未だ生きているのは勿論、掠りもしていない。

 「その巨体とそのパワーで大した速度だが、当たらなければ意味がない。――――今度は私の番だ!」

 バーサーカーの連続攻撃を躱す仕切るために距離を一旦離した百代は、今度は自身が突進した。
 百代から見て、このコスプレイヤーの実力は間違いなくマスタークラス。
 とは言え、その中で上位なのか下位なのか判らないのが現状だ。
 そして百代は尻上がりだ。戦闘をより長く楽しむ為、戦闘欲を満たす為、彼女は無意識的に最初は自身に制限を掛けて戦っていくため、最初の一撃は洗礼とも言うべき小手調べだ。

 「ウォオオオオオオオ!」
 「フッ」

 バーサーカーの斧の乱舞を掻い潜り懐に入ると、小手調べとは言え、今迄多くの挑戦者達を返り討ちにしてきた一撃を叩き込む。

 「――――川神流無双正拳突き!」

 百代の拳は真っすぐにバーサーカーの鳩尾に突き刺さる――――筈だった。

 「・・・・・・な!?」

 いや、確かに突き刺さっているが、突き刺さっていると言うよりは食い込んでいる。
 しかし腕を突き刺している本人は、自分の腕の周りから何の感触も感じないのだ。
 残像にしても人の虚像や揺らぎなどから闘気を感じるのだが、それすらない。

 (こんなのまるで・・・――――って」

 そこで百代は、自分の頭上で金属と金属がぶつかり合う音に促されたようで、気付いた。
 目の前の男が、禍々しい斧で自分に振り下ろそうとしてくる事に。
 躱そうとも思ったがそれはもう手遅れ。そして、斧は百代の右肩目掛けて振り下ろされた。

 「川神!!」

 それを止めようと思い、止めきれなかった士郎の叫びが空しく虚空に響き渡った。 
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