俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
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28.むむむ。
前書き
アズの鎖攻撃ってアルカナハートのシャルラッハロートって子にちょっと似てる。意識しては無かったけど影響されてる気がします。そう、つまりアズは聖女だっ(ここから先は神聖文字になっていて解読できない)
(アズさんもそうだけど、ガウル師匠も実は滅茶苦茶凄い人なんじゃ………)
大好きだったおじいちゃん以来の剣術訓練で完膚無きに叩きのめされたベルは、アズと訓練を始めたガウルを見ながらそう思った。
推定レベル7と謳われる『告死天使』の最大の武器である鎖を次々に薙ぎ払い、弾き、隙あらば斬撃や刺突を繰り出すガウル。正面から直視するだけでも恐ろしい鎖をものともせずに突進し、その訓練時間はとっくに8分を越していた。
「ちいッ!ハンデ付きでもまだ届かんか!!」
「といいつつも楽しそうに戦ってるねぇ!」
「へっ……これでも戦いはそれなりに楽しめる方でね!お前と戦れる機会なんてそうそうないから、なおさら自分を試したくなる!!」
避けに徹していれば8分が限界の鎖も、防御や迎撃を込みにすれば戦えるらしい。しかし、それはあくまでアズの鎖を迎撃するだけのステイタスと技量があればの話だ。レベル4というオラリオ内でも上位に位置することは知っていたが、あれだけの攻撃を全ていなす実力と迫力は明らかにベルとは隔絶している。
最終的に飛んできた鎖を踏んで上を飛び越えたあたりから、ベルはもう考えるのを止めた。
「そら、今度は違う鎖で行くぞ!『奪』ッ!」
「その手にはもう引っかからんさ!!」
ベルが避けるしかなかった鎖を、ガウルは自らの『銀の腕』で薙ぎ払って前へ出る。義手であるが故に何の躊躇いもなく取れる戦法だ。義手は冒険者としてはハンデにもなるが、同時に利点にもなりうる。それを熟知した動きだ。
「『奪』は敵の動きや装備を奪う技!毎度毎度隙いあらば手や足を掴んできたからもう目が慣れた!!」
「だからって素手で正確に先端を弾くとは……上手い上手い!流石実践経験豊富なだけはあるよな」
「オーネストほどじゃねえが突破力には自信がある!これでも『団長』なんでね……格上相手も慣れたもんよッ!!」
踏み出したのとほぼ時を同じくして、アズをガウルの刺突が襲う。当たればそのまま首くらいは削がれかねない一撃を、しかしアズは焦りもせずにバックステップで躱しながら笑う。
普通、鎖を弾くのなら義手より剣で弾いた方がリスクは少ない。なのに敢えて素手で弾いた時点でアズにはガウルがリスクを承知で突っ込んでくることが読めていた。
「そんじゃ次は……『囲』だ」
瞬間、コートの隙間から複数の鎖が飛び出して、まるでその一本一本に意志があるかのごとくうねってガウルに殺到する。瞬時に刺突のリーチで届かない事を悟ったガウルは舌打ちしてブレーキをかけ、剣を素早く取りまわして直撃コースの鎖を弾きつつ横にステップして正面を逃れた。
弾かれた鎖が地面を抉り、すぐさまアズの懐へ高速で舞い戻る。鎖の主はまるで布をはためかせて遊ぶようにじゃらりと鎖を弄び、今度は両手を始点に鎖を発射させる。寸でのところで跳躍して攻撃を免れたガウルは舌打ちする。
「ちぃっ、手品師め!物理法則くらいは守ったらどうだこの問題児ッ!」
「だったらこういう手品は如何かなっとぉ!!」
斬り込んできたガウルの剣に対してアズが手を掲げ――ぱちん、と指を鳴らす。
ガキィィィィンッ!!と音を立て、ガウルの押し込む刃が止まった。
一瞬素手で受けとめたように見えて「アズさんも義手なの!?」と思いかけたベルだったが、次の瞬間に目に映った事実に唖然とした。ガウルの刃を止めていたのは、アズの指先に掴まれた道化師の絵柄のトランプカードだった。横のリリは頭を抱えている。
「と……トランプで受けとめてるぅッ!?」
「うわぁ……やっぱりアズ様は人外なんですねぇ……」
「騙されるな二人とも。こいつは『アズの力』じゃねえ、タネも仕掛けもある善良な手品だ」
「あ、バレた?」
へらっと笑いながらアズは素早くトランプを振り抜いて剣を弾き飛ばし、ガウルに回し蹴りを放つ。彼らしくない荒っぽい動き対してガウルも自らの蹴りで対抗し、脚同士が衝突。攻撃の反動を利用した二人はまた間合いを取った。
(あ、アズさん格闘も出来るんだ……!?てっきり鎖に頼り切りなのかなーって思ってたけど、凄い……)
ベルの関心をよそにばさりとコートをはためかせ、アズは自らの使ったカードを掲げる。そこいらの市販品とは比べ物にならないほど洗練されたデザインのトランプは、剣を受けたというのに傷一つない。
「このカード、イロカネっていう特殊金属をトランプ型に加工して『不壊属性』をかけた代物なんだ。ヒマ潰しに作ったはいいけどやっぱり戦いには向かなくて普通にトランプやってるよ」
「相も変わらず金持ちの道楽してるなお前は………製作に幾らかかったか言ってみろ。バカだと叫んでやる!」
「加工が難し過ぎて1枚なんと500万ヴァリス!プラス54枚で2億7000万ヴァリス!!」
「お前どんだけ下らないことに金費やしてんの!?俺の想像以上にバカだったぞ畜生ッ!!」
2億ヴァリス以上というのは、現在のヘスティア・ファミリアのタンス預金額とほぼ同等。ちょっとした屋敷くらいなら購入できる金額だ。ヘスティアが数年間アルバイトしても生活を続けるのが精いっぱいだったことを考えると、アズの金の使い方がどれだけおかしいのか分かる。
本人は貯金額11億ヴァリスくらいと言っているが、実はこうして時々馬鹿なアイテムの作成にドバッと金を注いでるため無駄遣いしなければ間違いなく富豪の類に類する。
「こ、これがおじいちゃんの言っていたオラリオのビッグマネー……!?」
「……の、極めて間違った使い方だ!!」
「というかつまり、アズ様は実戦の最中にそのナイフよりリーチの短いカードでガウル様の斬撃を受け止めたんですか………やっぱり人外じゃないですか!」
「や、これは受け止められるなーって思ったから斬撃と俺の間にカードを滑り込ませて止めたんだよ。ガウルも本気じゃなかったからこそできた真似さ」
「………俺の斬撃を喰らってもカードを取り落さない指の力はどう説明する?」
「そこはそれ、このイロカネに俺の鎖を融かして混ぜたからね。軽くマジックアイテムっていうだけだよ」
「今更気にする事でもないと思っていたが!お前の鎖は一体なんなんだよッ!!」
アズライールと書いて、何でも出来ると読む。なんとなくそう思った3人だった。
= =
ベルは密かに気になっている事があった。
アズは、前から主神ヘスティアの友人(友神ではない)だったそうだ。
そのアズの友達がガウルであり、ガウルの主神もヘスティアと知り合いらしい。
では、リリは?
リリことリリルカ・アーデは唐突にアズが連れてきた女の子だ。可愛いけど、時々彼女に踊らされている気がしてならない。
彼女は冒険者の中でもサポーターという役割をやっているそうだ。サポーターがどういう役割なのか、どういう扱いを受けるのかも一通り本人から説明された。小さな体と背中の大きなバックパックだけで「サポーターかよ」と馬鹿にしたような口調で呟く人も見たし、そのバックパックの影からアズの顔が出た瞬間に顔色を変えて口を押えながらダッシュで逃げるのも目撃した。
彼女に戦闘能力はないに等しいが、冒険者歴は長いので知識は豊富なのでその助言は参考になる。なるのだが……お金を稼がなければいけないサポーターが何故こんな金にならない新人育成に付き合っているのだろう。
自分の前を歩くリリを見る。リリはアズの顔を見上げてお喋りをしていた。
(やっぱり考えられる理由はアレだよなぁ……)
そう、リリはいつもさり気なくアズの近くにいるし、よくお喋りをしている。ガウルやベルにはどこか一線引いているような丁寧な雰囲気があるが、アズ相手のときはその表情がどこか緩んでいる。色恋沙汰とは縁が遠めだったベルでも、リリがアズのことを慕っているかどうかくらいの分別は付く。
「アズ様ー」
「ん?なーに?」
「リリ、そろそろ『改宗』しよっかなーと思ってるんですけど、どう思います?」
「いいんじゃない?リリちゃん今は退屈してるみたいだし、ソーマの所はあんまり楽しいファミリアとは言い難いもんなぁ。あいつ本当に酒造り以外に興味ないから経営は殆どあそこの団長がやってるし……っと、そうなると団長の許可が必要か」
「あ、そっちは大丈夫です。アズ様の名前をちらつかせたら快くOKしてくれると思いますんで。問題はその後、どこのファミリアに行くかなんですよねぇ……」
「リリちゃん向けねぇ………あ、そういえばフィンがいつか酔った拍子に『小人族の嫁が欲しい』とか言ってた気がする。ロキ・ファミリア行ってみる?」
「ヤです」
「………『勇者』のフィンだよ?ロキ・ファミリア団長で優良物件だよー?」
「絶対ヤです。そんな大手に戦闘力皆無のリリが入っても苦労する予感しかしません。あと、自覚ないかもしれませんがアズ様もスペックだけなら優良物件ですよ?競争率も低いですし」
言われたアズはそうか?と首をかしげたが、聞いていたベルは確かに、と納得する。
強くて金持ちですらっとした体格は男として羨ましく思う。何よりアズは優しい。あの死神のような気配さえなければ文句なしにモテるだろう。逆を言えば、死神の恐怖さえ克服してしまえばそこに残るのは優良物件なのだ。
しかし、リリとアズが結婚するというのはイメージしにくい。年齢はそんなに離れていないらしいが、二人がくっつくと言われると「養子縁組」の4文字がどうしても頭をよぎるほど体格差がありすぎる。
「まぁ俺のことは置いておいて、何ならヘスヘス………というかベルのファミリアにでもお世話になるか?将来性は無きにしも非ず、だぜ。なぁベルくんや?」
「……えっ!?あ、ええと……入団希望はいつでも受け付けてると思います。確かにリリが来てくれるんなら心強いなぁ。ヘスティア様も本格的にファミリアの経営はしたことがないって言ってたし」
「ふぅん………会ったことはありませんが、アズ様とゆかりの深い神なら確かに入りやすくはありますね」
『改宗』も楽ではない。そもそも新人がファミリアに入るのだって一苦労なのだから、誰かのオファーも無しに他の神に鞍替えなんてもっと難しい話だ。そういう意味ではバックに金持ちのいる新参ファミリアというのは将来性もある程度あって人手も飢えている筈だ。
今すぐにとは言わないが、選択肢としては十分アリ。そう判断したリリは密かに転職リストにヘスティア・ファミリアの名を書き加えた。
「そういえばガウルの所も一人ファミリアだよな。そっちはどうなんだ?」
「新ファミリアかぁ……メジェド様はファミリアを集めてないからどうなんだろう。本人に聞いてみないと……」
『むむ……たしかに私はファミリアを集めていない………ガウルは特別なんだぞ』
「へぇ、そうなんですか。貴方が面と向かってそういう事言うの珍しいです…………ね?」
くぐもった中性的な声に何気なく返答したガウルの足がピタリと止まる。
アズ以外の全員が全く気付かぬうちに、ガウルの真横に――白くて巨大な頭巾で『全身』を隠した不審者がいた。
「どわぁぁぁぁぁぁぁッ!?めっ、めめめめ……メジェド様ぁッ!?い、いつからそこに!?」
『ついさっき……むむ』
「ええっ!?こ、この形容しがたい白頭巾さんがガウル師匠の主神様ぁっ!?」
「このオバケのプータロウみたいな変なのがガウル様の主神様ぁっ!?」
(相変わらず銀○のエリザ○スみてぇな恰好してるなぁ)
失礼大爆発なことを口にする二人だが、驚くのも無理はない。
頭から膝の辺りまでを綺麗に真っ白い頭巾で隠すそのいでたちは不審者そのもの。エジプトチックな形の二つ眼以外に何も装飾品が無いそのシンプルさと正体不明っぷりたるや凄まじく、膝から下の美脚だけが生身で見えている部分な上に手を出す穴すらないという徹底ぶり。
リリの言うとおり、手作りオバケコスチュームみたいな変なのとしか形容できない。言ってはなんだが傍から見たら何の生物か問いたくなる。
(……時にガウル。メジェドってどうやってメシ食ってるの?)
(実は俺も見たことがない……一応食べてはいるみたいだけど)
アズも謎だらけだが、この神はもっと謎だらけ。子供たちに形容しがたいとかなんとか言われたメジェドは若干不満だったらしく、頭巾の中からくぐもった声が漏れる。
『むむむむ………初対面からとんでもなく失礼な子供たちだ。ガウル、我が軍門の団長としてなにか言ってやるのだ』
「え?あ、はい。………お前らーーーっ!!こんなんでもメジェド様は俺の命の恩人なんだぞ!!」
『………こんなんでも、は余計なんじゃないか……むむむむ』
自分の眷属からも変だと言われたのが堪えたのか、メジェドはしなっと項垂れてしまった。首や腰の存在を感じさせない滑らかな曲がりっぷりはどこか軟体動物を思わせるが、脚は人間だし人型なんだろう。多分。
『悲しい……私のこだわりのオーダーメイドで決めた格好がファミリアにまで酷評されて、かなしみのナイル川が頬を伝う……むーむーむー……』
「ああっ、メジェド様がむーむー言っている!これはメジェド様が悲しんでいる時の声だ!!」
「そんな判別方法!?いや、確かにさっきから「む」が多いけど!!」
「す、すいませんメジェド様……またクッキー作ってあげますから機嫌直してください。メジェド様の大好きなチョコチップクッキーですよー!」
「ガウル師匠クッキー作るの!?似合わない……滅茶苦茶似合わない!!」
『むむむむ、む……本当か?チョコで挟んでチョコをコーティングしてスプレーチョコをたっぷりまぶしたビターチョコクッキーを作ってくれるのか?』
「そんだけまぶしておいてビター要求なんですか!?」
「俺の不格好なクッキーでよければ腕によりをかけて作ります!」
『むむむ、むむ………ガウルがどうしてもというのなら、いいだろう。むむっ!』
「単純っ!!子供みたいに単純っ!!」
ベル、怒涛のツッコミ連打を出すもメジェド・ファミリアこれをガンスルーである。
メジェドはガウルの餌釣りに引っかかって機嫌を良くしたのか背筋をピンと伸ばす。とりあえず機嫌は直ったらしいが、表情が読めないのでいちいち不気味だ。
この街に数いる変な神様たちのなかでもメジェドは間違いなく一番変な神様だ、とベルは確信した。……少年はまだ知らない。その言動でメジェド以上に有名な変神がいることを。
『むむ、今日はとても機嫌がいいので私はホームへ帰るよ。ガウルも友や後輩と過ごすのもいいが、たまには早く帰ってくるといい……キミにはいつも期待しているよ、むむ』
「ちなみに俺もメジェドがいつかその頭巾を脱ぐ瞬間を期待してるんだけど」
『生憎とその予定はないよ、アズライール・チェンバレット。だがもしもその姿を晒すとしたら………』
頭巾の所為で目背は不明だが、心なしかメジェドの気がガウルに向いてる感じの雰囲気を感じる。
『………い、いや。何でもないぞ、むむむむ。もう帰る。むむ』
「ばいばーい。あ、ガウルはそんなに長く付き合わせる気はないから安心してくれ」
『それは朗報だ。むっむっむっむっ』
(………それはひょっとして笑っているんですか?)
小刻みに震えるメジェドを見てリリはそう推測するが、事実を確認する前にメジェドはスキップしながら帰ってしまった。
あの服装でするスキップは、想像を絶するほどにシュールだった。
「…………か、変わった主神様ですね」
「正直、俺もそう思う。でもいい神なんだ……どこからともなく俺の右腕を確保してきたし」
「謎だ……そもそも、あの神様は男なんですか?女なんですか?」
「ぶっちゃけ誰も知らないんだよねー、オーネストも知らないらしい。これもう分っかんねぇな」
この世の事は大体知っているオーネストさえ知らないとなると、最早それは人知を超えた領域。メジェドの性別とは人が踏み込んではいけない禁断の知恵なのだ。真実を解放する手がかりは、あの神の唯一のファミリアであるガウルの手にかかっているのかもしれない。
= =
ギルドという組織は、ギルド長であるロイマンを中心として活動方針を決定している。
しかし、そのギルド長には絶対的なルールが存在する。
それは、ある神の意向を必ず組織運営に反映させることだ。
「――ウラノス様。ロイマン・マルディール、ただいま到着いたしました」
ギルド地下――大祈祷場に、その神はいつも鎮座している。
「うむ……表の仕事、ご苦労であった」
賢者という言葉が良く似合うだけの英知を湛えた瞳に、老いて尚威厳を失わせぬ威厳と皺。地上に君臨しながらも決してファミリアを作ることなく過ごすこの神こそが、ギルドの創設者、ウラノスだった。
「いつも忙しい所を抜け出させてすまんな」
「いえいえ、貴方様の役割に比べれば大したことではありませぬよ。この街は、ウラノス様の祈祷なしには成り立たぬ場所ですから」
「それでも、だ。お主を深夜のヤケ喰い癖がつくほど苦労させてしまっておる事は、心苦しいとさえ思っておる」
「ははっ、それこそお気になさらずともよいことです。運動不足なのは私の落ち度ですから」
そう言って自分の腹を軽く叩いたロイマンは、そのでっぷり太った顔を引き締める。
「して、何用ですか?定期報告や会議にはまだ早ようございますが……もしや天界で何か動きが?」
「いや、天界ではない……そう、天界で動きが無かったことこそが真の問題とも言えるか」
「………?」
ロイマンは話が見えずに眉を顰めた。
現在、天界では多くの神々が地上に降臨した所為で魂の選定作業が激務化している。そのため天界から来るメッセージと言ったら「また神が地上に降りた!!」か、もしくは「なに、ルールを破った神!?即刻送還せよ!仕事やらせるから!!」の二択と化している。
しかし、ウラノスは言葉を濁し、婉曲な物言いをした。
そのような反応をする理由を、神ならぬロイマンは一つくらいしか思い浮かばない
「もしや、魂の選定作業に支障をきたすほど神が不足してきた、とか?」
「いや……そうではない。すまぬ、最初から説明すべきだったな……」
ロイマンには、ウラノスがどこか焦燥に駆られているように見えた。地上で何が起きようと中立を貫き続けてきたウラノスが、動揺している。それほど深刻な事態が発生したとすれば、暫く定時退社は出来そうにない。
「して、何が起きたのです?」
「うむ………かつて天界にてロキが暴れていたように、天界の神も決して一枚岩ではない。中には地上に降りる事を危険視されている神もいる。だから、要注意の神は天界の神が監視しているのだ」
いったん言葉を区切ったウラノスは、天井を仰ぐ。
「その一人が、いなくなった」
「……天界から地上に君臨したということ、でしょうか」
「違うな……天界の神も監視していたのだ。ずっとそこにいるものだと思っておったし、善性の神であるが故に魂の選定作業も真面目にこなしておった。……違うな。『今もこなしておる』と言った方が正確だろう」
「今もこなしているのに、いない?」
「ああ。監視していた神は、正体が露見した今も真面目に天界で働いておる。だがな……『監視が始まった時には既にそれは別の神だった』のだ」
言葉遊びのようにも感じるその言葉を、ロイマンは頭をフル回転させて考える。そして考え抜いた末に、ひとつの推論を導いた。
「替え玉……でしょうか」
「天界に残った者たちも迂闊よな……人間の言い方をすれば『役所仕事』よ。忙しさにかまけて事実確認を怠った結果、数百年以上も気付かぬままだったそうだ」
深いため息を吐いたウラノス。もしも彼がまだ天界にいれば、直ぐに事態に気付けたはずだ。だが、力ある神々の多くが地上に降り立った今、天界には最早余裕などない。今までは地上の平穏を乱すであろう神も、事前に連絡さえあれば何かしらの対策を立てられていた。しかし、今回のこれは致命的に遅すぎた。
「………神の中にも、人間で言う双子や兄弟のように容姿が似ている者は存在する。『その神』は、自らと容姿がそっくりな一人の神を言いくるめて自分の身代わりを要求し、自身は天界のだれにも気づかれることなく地上へと降臨した……奴は監視が始まる前に替え玉を用意し、誰にも気づかれぬように地上を監視し続け、入念な降臨計画を整え……100年近く前に地上へ降りた」
「何の、ためにでしょうか」
「分からぬ。分からぬが、ひとつだけ確かなことがある」
重苦しい空気を纏ったウラノスは、ロイマンが今までに見たことがないほど険しい顔で、告げる。
「あ奴は退屈で降りるような存在ではない。それでも地上へ降臨したという事は………何らかの『終末』を告げるつもりであろう」
その言葉は、大いなる不吉を予言せし神託。
人も、神も、男も女も老いも若いも清濁併せ呑みまんとする巨大な嵐が、音もなくオラリオに近づいていた。
「……時にウラノス様。地上に降りた神一柱――メジェド様は誰もその素顔を見せたことがないと聞きます。かの神には謎も多い……まさかあの方が『その神』とすり替わってオラリオに侵入しているということは――」
「ないな。あんなみょうちくりんな格好で平然と暮らしてしている神など地上と天界を探してもあの神しかおらん。大体、あれの謎が多いのは昔からだ」
「………はぁ」
ロイマンとしてはかの神は割と謎が多いので「繋がった」と思ったのだが、気のせいだったらしい。
後書き
申し訳程度のラスボスの影。
そしてロイマンさんのキャラ改変に誰も突っ込んでくれない不思議。
アンリマユ「ラスボス……つまり、出番か!!」
アズ「や、アンタ企画段階でありきたりすぎるって理由で弾かれてるから。あと作中で善性の神だって言ってたじゃん」
アンリマユ「 (´・ω・`) 」
ヤハウェ「ならば私の出番か!?善性ですごい強いぞ!」
アズ「あんたが出たらメガテンになるから却下、だそうです」
ヤハウェ「 (´・ω・`) 」
とりあえず、この二人は出番ないですわ。
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