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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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任務-ミッション-part3/奴隷商売星人

その頃…。
「商品なら注文通りそちらに届けてやる。洗脳処置も完了済みだ。そちらの命令にはなんでも従うようにできている」
屋敷内に設置されている通信モニター越しに、ボーグ星人は画面の向こうにいるであろう、他文明の星人と話をしていた。会話の内容からして、奴隷商売のことについてに違いない。
『予定日までにその星…「エスメラルダ」、だったか?そちらへ取りに向かわせてもらうぞ』
「御代をお忘れなき用に…」
『もちろんだ。そちらとは仲良くやっていきたいからな。では、そろそろ切るぞ』
通信先の星人はそのまま通信を切り、モニターは屋敷にあるエントランスや食堂、個室…あらゆるエリアの監視映像に切り替わった。
「取引先はブラック星にレイビーク星にブラコ星…やはり他の星人たちにとっても魔法は貴重なサンプルとして注目されているようだな」
「クール星人に感謝せねば。奴らがこの星を見つけてくれたおかげで、我々もこの星に生きる貴重なサンプルの宝庫を手にすることができた」
「この星の権力者たちも…ふ、現金な奴らで助かったよ」
互いに笑いあうボーグ星人とゴドラ星人。自分たちの商売が円滑に進められて喜んでいるのが見える。…奴隷商売などという、人の意思や権利を…誇りを踏みにじるようなことでなければ、誰も彼らを責められはしなかったのだが、彼らにとって他の星に生きる命など商売品の価値しかなかった。
「ん?」
ふと、ゴドラ星人はモニターの方を振り返り、何かに気が付いた。
「侵入者が来たようだぞ」
「ほぅ、意外だな。これほど早く、それもこの場所を見つけ出すことができたとは」
ボーグ星人は動揺するどころか、関心した様子だった。てっきり自分たちの行いに気づくような者がこの星にいるとは思わなかった。いたとしても…力を使わずとも自分たちの用いる『ちょっとした方法』でならば、懐柔することも容易いと思っていた。
「まずは人間の門番共を使って力試しさせるとしようか。ボーグ、構わんか?」
「いいだろう。この星の野蛮人共の見せる余興、楽しむとしようか」
ボーグ星人から許可をもらったゴドラ星人は、モニター前のデスクに設置されたキーボードの、赤いスイッチをプッシュした。


「……」
サイト・ミシェルの二人は星人の監視カメラに映されていた通り、エントランスの扉を開き、屋敷内に侵入した。屋敷内は暗い夜の闇が立ち込めていて、静寂に包まれていた。目立たないようになるべく階段の手すりや棚の影を伝いながら、ミシェルは銃、サイトはウルトラガンを構えて周囲を警戒しながら進んでいく。
「ミシェルさん。どうします?これこういうの初めてだからよくわかんないけど…ただ突っ込んでいくと屋敷の連中に悟られるだろうし…」
サイトが侵攻中、ミシェルはサイトにも突き刺さりそうな鋭い視線を突きつけてきた。
「あの…俺に何か言いたいことでも?」
さっきからやたら自分を睨み付けてくるミシェルに、気まずげにサイトが尋ねる。
「怪しい技術と能力を持ち、平民のくせに陛下からの信頼を勝ち取っている。ミス・ヴァリエールの使い魔だがなんだか知らんが、私は正直、貴様のような怪しいうえに軟弱な男と組みたくはない。隊長命令だから仕方なくここまで連れて行ってやっただけのこと」
「は、はぁ…」
「ここからは私一人で行かせてもらう。お前はここで脱出ルートの確保役として留まれ」
「ちょ…ミシェルさん!?」
信じられない判断を下したミシェルに、サイトは驚かされた。この人は銃士隊の副隊長、つまりアニエスの副官じゃないか。なのに、本人の目が行き届いていないからって、そんな勝手な真似が許されるはずがない。
「一人じゃ危ないですよ!敵はあなたが考えている以上に危険な奴らばかりだ!俺はそんな奴らを何人も知っている!二人で協力した方がいい!」
「だからどうした!そんなもの、この国を誰よりも強く思う私の想いの力で打ち砕いてやる!お前のような戦知らずの青二才など足手まといだ」
「あ、ちょっと!」
手を伸ばしてミシェルを引き留めようとしたが、踵を返した彼女はサイトを無視してそのまま一人で先行してしまった。
「だああもう!かわいくねぇ!」
サイトは頭をかきむしりながら悪態をついた。いや、ミシェルは確かに美人でナイスバディだがいかんせん、アニエスのようにキャラがキツめにできているのがどうも玉に傷だ。
『サイト、一人で行かせたら彼女が危ねぇ。行ってやれ』
「大丈夫、言われなくても行くつもりだ」
ゼロも彼女の行動を機にしたのか、サイトに行くように伝える。当然サイトも見捨てるわけにいかず、彼女の後を追って行くことにした。
1階の階段から見て左の廊下を行くミシェルはようやく一人で行動することができて肩の荷が下りた気持ちになった。
「まったく、隊長は何を考えているんだ。私とあのような小僧を組ませるなど…」
アニエスの意図が読めないミシェルはサイトがいないことをいいことに、彼の前以上に愚痴をこぼしていた。いったいなぜアニエスは自分とあの平民の子供を組ませてきたのだ。
「…いや、今はそんなことはどうでもいい」
ミシェルはサイトのことなど頭の片隅からも追い出すように忘れようとした。
そうだ、自分には何にも代えられない大切な使命がある。その使命を胸に自分はここまで生きてきたのだ。
ミシェルは、今のトリステインの腐敗ぶりについて怒りを覚えていた。
平民と貴族という隔たりは越えられない、同じ貴族同士でありながら自分の方が上の立場だから、またはさらなる富を得るために…権力者が権力を乱用して弱者をいたぶり、殺す。そいつらは自分の罪を闇の中に葬り、人の命と未来を踏みにじって得た富をむさぼって今もどこかで笑い続けていることだろう。しかも、怪獣という恐ろしい存在が出てきても、貴族共は自分たちの我が身かわいさのために他者を蹴落とすこともいとわない。
それが許せなかったし、許されるはずがない。だからこの国は変革の時を迎えなければならない。
だから…私は、たとえどんな闇の中を進むことになろうとも…!
「『あの人』の恩に報いるために…私とあの人の願いでもある、この国に『変革』をもたらさなければ…!」
右手に握りしめていた両刃の剣を握りしめ、決意を口にするミシェル。すると、そんな彼女の覚悟を試すとばかりに、闇の中から彼女に挑戦状を叩き込む者の気配を感じた。
「ッ…来たか…」
これまでミシェルはトリステイン国内で惰眠をむさぼり国を腐らせてきた貴族や犯罪者を、銃士隊副隊長として何人も逮捕・処分を繰り返してきた。今回は果たしてどんな奴らが敵として現れるだろうか。ミシェルは剣を構えなおし、自分を狙う敵の正体を見据える。
しかし、敵は実に意外な連中だった。
「な…!?」
ミシェルは目を見開いた。突然、切り裂く空気が自分の顔をかすった。わざと充てるつもりがなかったのか、彼女の頬に小さな切り傷が入った程度だった。
だが、ミシェルはメイジを相手にしたことが腐るほどある。今のは、風の魔法だ。まさかと思い、闇の中を目を凝らしながら見てみる。
予想通りだった。もちろん…嫌な意味で。
現れたのは、複数名のメイジだ。しかもあの服装…間違いない。
さらわれた魔法学院の生徒たちだ!
学院の生徒たちはミシェルに向かって魔法を放ってきた。今度飛んできたのは、水のメイジが放つ水の波動だ。
「く!」
食らうものか!ミシェルはすぐに身をかがめて回避し、腰に下げていた銃を彼らに向ける。
「ミシェルさん、だめだ!撃つな!」
しかし、追いついてきたサイトが彼女の後ろから声を飛ばしてきた。その声に思わずミシェルが気を取られている隙をついて、今度は火のメイジにいる火球が飛んでくる。サイトはデルフを背中から引き抜き、瞬間的な速度でミシェルの前に立つと、デルフを盾代わりに眼前に掲げる。彼に向かって飛んできた火球は、デルフの刀身に吸い込まれていった。
「ふぅ、大丈夫ですか!?」
「く…」
見下していた相手に助けられたことに感謝よりも屈辱を感じたミシェルだが、サイトはそれに気づかず、ミシェルに魔法を放ってきた学院の生徒たちを見る。思った通り、目が虚ろだ。
「目に生気がない。やっぱり操られてるんだ」
でなければ、こちらに危害を加えるはずがない。
「操られてる?『ギアス』の魔法でも使ってるのか…?」
立ち上がったミシェルが尋ねる。
「いや、たぶん…星人たちが洗脳処置を施したんだ。過去にも俺の故郷でも防衛軍の兵が洗脳されて基地を爆破しようとしたりとか、悪い宇宙人の手先になったことがあるんだ。ここでやられるってことは…たぶん…」
敗北すれば自分たちも同じ目に合うに違いない。それは場合によっては死よりも残酷なことかもしれない。
「とにかく、気絶させましょう。俺が前に出てデルフに魔法を吸収させながら前進しつつ攻撃します。ミシェルさんは俺の後ろから続いて、彼らを気絶させてください!」
サイトがそこまで言ったところで、メイジたちが再びサイトたちに向けて魔法を放って来た。サイトはすぐにデルフを眼前にかざしながら接近し、剣をふるって魔法を掻き消しながら進んでいく。ミシェルは苦々しく思いつつも、サイトの後に続きながら、メイジたちの懐に飛び込み、鍛えた腕によるパンチを彼らに叩き込むことで気絶させていった。
「これで、最後!」
最後の一人はサイトが峰打ちでフィニッシュを決めた。最後のメイジが倒れたところで息を深く吐いた。
「ふぅ、大丈夫ですか!?」
サイトはミシェルのもとに駆け寄り、彼女に怪我がないか尋ねてきた。
「…ふん、まぁ礼は言っておいてやる」
助けられたのにどこか上から目線でミシェルは礼を言ってきた。気まずそうにそっぽを向きながらも礼を言うという、どこかの誰かさんのパターンで見たような素直じゃない返し方に、サイトは思わず苦笑する。
「ひ、人が礼を言ってやったのに笑うとはなんだ!」
「あ、はは…すいません。なんか、うちのご主人様みたいなリアクションだったからつい…まぁ、それよりもさっさと行きましょう。他にも捕まっている連中がいるはずです」
「…そうだな。さっさと行くぞ」
「あ、待ってくださいよ!」
ミシェルはこれ以上時間を取らせるわけにいかないと、サイトをはねのけて今度は自らが前に出て歩き出した。
そこはいくつかよういされた客室前の廊下だった。ここのどこかに、学院の生徒たちが捕まっているのかもしれない。ミシェルが辺りを見渡しながら廊下の壁に設置されている扉たちを見る。
「現状はどうなっている」
すると、ついに第2陣として突入していたアニエスたちが追いついてきた。ミシェルがアニエスの前に一歩前に出て報告に来た。
「先ほど魔法学院の生徒たちが襲いかかったので応戦しました。ですが、全員気絶させております」
「さっき廊下で倒れていた生徒たちが、襲ってきた?」
救助対象から攻撃されたという事実に、アニエスは目を細める。
「洗脳されたんだと思います。だから、俺たちに襲ってきたんですよ」
「なるほど。確かだな?」
アニエスは補足を入れてきたサイトの目を見る。嘘は、言っていないようだ。嘘をついているかどうかは目を見ればわかるが、この少年は目に迷いを宿していない。
「魔法学院の生徒たちはここから現れていました。おそらく、どこかに彼らが固まっている場所へ続く道があるはずです」
「お前たちは気絶させた生徒たちを先に外へ運べ。残りの者は他の生徒たちを探すぞ」
先ほどサイトたちと交戦した生徒たちは数名ほどの銃士隊の隊員たちによって運ばれ、サイトとミシェル、アニエスを含めた居残り組は引き続き、捕まった生徒たちの捜索を続けた。
しばらく探していると、サイトは急に立ち止まった。
「二人とも。こっちから何か聞こえませんか?」
「何?」
振り返ったアニエスとミシェルは、サイトが耳を澄ませている姿勢を見て目を細めた。
「ほら、この部屋から…何か聞こえませんか?」
彼が指差した方角は、小さく半ドア状態のまま放置された、一室の客室の扉だった。不自然に半ドアにされたままの扉に、サイトはなんとなく違和感を覚えた。
『目を凝らしてみろ。何か見えるはずだ』
ゼロの声に導かれるように、サイトはその半ドアの扉の奥を透視する。その目が星のようにギラギラと光り、扉の先を見通してみる。扉の向こうは普通の、客室。普通に客のために用意されたベッドやテーブルが用意されている。しかし………サイトには見えていた。
客室内に設置されたベッドの下に、隠れていたのだ。
下の階へ続く、秘密の階段が。
そこから目を閉じて耳を鋭く済ませてみると、閉じ込められた人たちの声も聞こえてくる。やはりこの先に魔法学院の生徒たちが他にも捕まっているのだ。
(ん…待てよ、この声って…)
聞き覚えのある声がわずかに混ざっていることに気付いたサイト。まだこの時は、捕まっていた人間の中にはギーシュたちも混ざっていたことに気づいていなかった。
「下がってろ。私が先行する」
ミシェルは少し無理矢理にサイトを後ろに下がらせる。彼女はそっと扉を開き、侵入と同時に銃を部屋の中に向ける。
「…はずれか。どうやら当てが外れたようだな」
侵入した部屋に、見たところ変わった者は見られなかった。しかしサイトは、透視したことで見つけたルートが隠されたベッドの傍らに立っていた。ベッドの脇の床に手を触れると、サイトの手に冷たい空気の流れが触れた。
(空気が流れてくる…やはり…)
サイトはデルフを引き抜くと、思い切り振り下し、ベッドを切った。
「お前、何を…!」
驚くミシェルやアニエスだが、その答えを直後に知る。真っ二つに切り裂かれたベッドの中央に、見つけるべきものに繋がるものを見つけた。
ベッドのあった場所の床に、地下へ続く階段が口を開けていたのだ。
「こんなところにあったとは…」
壁に隠し通路があるといったことはよく聞く話だが、ベッドの下という意外な場所に隠し通路への道があったとは考えが及ばなかった。
「さっきここから空気が流れていたのを感じたんです。
行きましょう。一刻も早くみんなを助けないと」
サイトは、いきなり隠し通路を見つけ出したことについてはもう気に留めていなかった。あまりに流れるように行先が見つかっていく状況に戸惑いを覚える二人をよそに、サイトは床の地下通路への道を開くと、下へ続く階段の先へ駆け下りて行った。
奴には、私たちには見えないものが見えている。その腕をヴァリエール嬢は認め、女王も買っているんだ。…もし信頼に値せず、ましてやトリステインに仇なす者ならば、そのときは…

(後ろからでもどこからでも撃ってしまえばいい)

銃弾を新たに装填しながら、ミシェルは心に決めた。
「ミシェル、続け」
「…了解」
アニエスに続いて、ミシェルもサイトの後を追って階段を下りて行った。




「…モンモランシー、もう大丈夫かい?」
「……」
返事はない。でもさっきのように駄々っ子のように泣き叫ぶことはなかった。それだけでもギーシュはほっとすることができた。
「…命を惜しむな…名を惜しめ…か」
「何だい?それ」
ふと、何かを呟いてきたギーシュに、レイナールが耳を傾けてきた。
「僕の父の教えさ。グラモン家の男に恥じない男になれってね。
けど、はは…情けないものだね。父上たちは戦場で人が死ぬさまなんて見続けてきたというのに、僕なんてさっきの惨状を一目見ただけで…はは、はは…」
そこまで言った時のギーシュの表情には、恐怖に支配された自分に対する嘲りがあった。しかしギーシュに限った話じゃない。ここに連れてこられた全員が恐怖していた。一刻も早くこんな場所から逃げ出したいと言葉にしなくても、その顔が語っている。
ギーシュも言っていたが、貴族とは名誉を命よりも重んじ、国のために戦い命をささげることもいとわない者。だが、その条件を満たすような人間などどこにもいなかった。
(サイト…君はやはりこんな時でも、迷うことなく立ち上がったんだな…ルイズを守るために)
自分が知っている人間の中で、サイトが最も頼れる男だと思っている。フーケ事件の時は破壊の杖を使いこなしてゴーレムや怪獣に一矢報いたそうだし、何よりタルブの戦いであの竜の羽衣…もとい、ウルトラホーク3号を乗りこなした時の活躍は目を見張るものがあった。
ふと、頭上を見上げながらマリコルヌが呟く。
「なんだろう…地震?」
彼に限らず、捕まっていた生徒たちも、壁から発せられる振動が気になり始めていた。彼らと、操られたメイジたちの交戦した影響からか、ギーシュたちが捕まっている部屋にも振動が伝わってきた。
「そういえば、さっきから星人たちは僕たちのところに来ていないな…」
レイナールがここしばらくの時間のことを思い出す。星人たちが来なくなってから結構な時間が経った気がする。そしてこの振動…。
「もしかして…」
淡い希望を抱き始めたその時だった。
閉じられた扉がバラバラに切り裂かれる形で開かれ、見覚えのある人物が真っ先にその姿を見せた。
「大丈夫ですか!?」
「さ、サイト!サイトじゃないか!」
デルフを担いだ姿を現したサイトの姿を見て、ギーシュたちは重くなっていた腰を上げた。
「サイト、あなたどうしてここに!?もしかしてあなたも捕まって…!」
「ギーシュにモンモン!お前らも捕まってたのか!」
「だから私はモンモランシーよ!!」
モンモランシーもサイトがここにいるのは、自分たち同様捕まっているのではと思ったが、直後に彼から気に入らないあだ名で呼ばれて憤慨する。
「サイト、生徒たちは無事か!?」
さらにアニエスとミシェルの二人もまた、サイトに追いついて来た。
「な、なんだよ…まぐれでギーシュと互角になってただけの平民じゃないか…」
しかし、ギーシュとモンモランシー以外の魔法学院生徒たちは、助けに来たのがただの平民の集まりだったことに失望した。だがそんなことを言ってる場合ではない。アニエスは閉じ込められていた
「陛下から貴殿らの救出を命じられた銃士隊のものだ。これより貴殿らを外へ避難させる!着いてこい!」
「は、早くしてくれ!もうこんなところにいるのは御免だ!」
生徒の一人が助けが現れたことでもう我慢の限界だったこともあり、懇願するように叫ぶ。サイトとアニエス、ミシェルの三人を先頭に、彼らは屋敷の出口の方へと向かう。
「ま、待ってよみんな…!」
一方でマリコルヌは、ふとっちょな体が災いしたため、すぐに息を切らし、みんなの最後尾の位置でバテバテの状態で走っていた。
「マリコルヌ、早く来るんだ!また捕まってしまうぞ!」
だが彼一人のためにいちいち下限をしている場合じゃない。あいつらがいつ現れ、自分たちを再び捕まえに来るのか分かったものじゃないからだ。

「大事な商品共を」
「逃がすわけにはいかんな」

その声が聞こえたと同時に、アニエスとミシェルが前後の両方向を振り返った。サイトも咄嗟に振りかえって、相手の正体をその目で見る。
「お前は…ボーグ星人にゴドラ星人!?」
入り口側には甲冑の星人、自分たちが進んできた後方には赤ペストを着込んだような模様の星人…間違いない、母からも聞いたことがある侵略星人、それも聞かせた当人が言っていた異星人たちだった。
「ほぅ、お前我々のことを知っていたのか。てっきりこの文明遅れの星には、我々を知っている者はいないと思っていたのだが」
「文明遅れだと…!?貴様、どこまで僕たちをなめれば気が済むんだ!無礼者め…」
ボーグ星人の、明らかに見下した発言に起こった学院の生徒の一人だが、直後にゴドラ星人の手から彼の足もとに向けて一発のエネルギー弾が炸裂する。
「ひ、ひいぃ!」
結局さっきと同じ。威勢がよかったのは最初だけで、ゴドラ星人のわざと外した攻撃に怖気ついて腰を抜かしてしまった。
「バカ、簡単に挑発に乗るから…!」
レイナールは易々と相手の発言に乗ったその同級生に心底呆れ返った。一方で、ゴドラ星人はサイトの姿を見て、何か気が付いたのかボーグ星人に話しかけた。
「…ボーグ、おそらくこいつ、地球人だぞ」
「何だと?地球人?」
目を凝らしながら、ボーグ星人はサイトの姿を再確認する。
「なるほど、確かに地球人だな。だが、なぜこんな星に…」
「理由などどうでもいい。とにかく、この小僧は始末した方がよさそうだ。我々の情報をこの星の下等生物共に知られたら、我らの仕事の障害になりかねん」
「下等生物とは言ってくれる。貴様らが捕まえていた学院の生徒たちはもう我々の保護下にあるんだぞ。人質にすることもできんがどうする気だ?」
ミシェルが不敵に笑みを見せて余裕をあらわにして見せたが、星人たちはこれといってひるむ様子を見せてこなかった。
「我らが商品として確保しておいたそいつらのもとへたどり着くのをなぜ許したと思う?」
「何だと、我々がここにたどり着くのは貴様らの予想通りだったというのか?」
「侵入したシロアリを一網打尽にするために、そいつらを餌にしたのさ。我々の力をもってすれば、貴様らのような下等種族などすぐに始末できるからな!
どうやら貴様ら3人が主力のようだな。見せしめとして商品共の目の前で始末してくれる!」
「そうはさせるか!」
星人の企みなど阻止してくれんと、サイトはデルフを振りかざしてボーグ星人に切りかかった。対するボーグ星人は甲冑のごとき丈夫さを誇る両腕をクロスさせてサイトの斬撃を防ぐ。防がれはしたが、そのままサイトは壁にボーグ星人を押さえつけた。
「背中ががら空きだぞ!」
ゴドラ星人が腕を突き出して光弾をサイトに放とうとすると、バン!と銃声が鳴り響くと同時に、一発の弾丸がゴドラ星人の腕に直撃した。ミシェルが銃で星人を狙い撃ったのだ。
「…小癪な」
「隊長、私が殿を勤めます。先に生徒たちをお連れして外へ行ってください」
「俺もここで足止めします!ギーシュたちを連れて早く行ってください!」
「わかった。二人とも、無理はするなよ」
自分たちの任務はこの星人たちと戦うことではない。たった今救出した生徒たちを外へ逃がすことだ。星人の相手を二人に託し、アニエスはギーシュたちを先に逃がしに外へ向かおうとする。
「そうはさせまいといっただろう?我々の仕事は他人に知られるわけにいかん。全員ここで…死んでもらうぞ」
しかしボーグ星人はそれを見逃さない。奴隷商売に出すための商品たちや、自分たちの行いを知ったものたちを生かしておいただけで後の災いにしかならない。だったら殺すまでだ。奴はリモコンスイッチを取り出し、その装置についていた赤いボタンを押した。
その瞬間…。


ドオオオオオオオン!!!!


鼓膜が破れそうなほどの激しい爆音が張り響いた。しかしルイズのエクスプロージョンと異なる、悪意に満ちた破壊のためだけの爆発。その爆発が、サイトたちを襲った。




ルイズはアニエスの命令で待機させられていた銃士隊の隊員たちと共に待機していた。こうして今っているだけでも、ルイズは待ち焦がれていた。サイトたちが突入してから5分も経たない内にだ。
(…何時まで待たせるのよ)
どの道自分の力を出し惜しむどころか、その前に任務が終わらせることができるのなら、さっさと戻って来てほしいところである。だが、サイトたちはまだ戻ってこない。気づかないうちに彼女は、門の前で腕を組みながらうろうろしている。見るからに落ち着いていない。
(ミス・ヴァリエール、相当待ちきれそうにない様子ね)
その姿があまりに目立ちまくりなのか、銃士隊の隊員の一人が仲間の一人に耳打ちする。
(そうね…どうもあの使い魔の少年が副長と突入してからずっとあの調子)
(もしかして、ヴァリエール様…あの少年が好きなんじゃ)
(えええ嘘!?だってあの男の子私たちと同じ平民でしょ?いくらご主人様だからって、ヴァリエール様って、王質とも姻戚関係にあるヴァリエール家のご令嬢でしょ!?)
(身分違いの恋って奴!?きゃーーー!!)
完全にガールズトーク、それも恋バナだ。アニエスのような堅い態度の女性が隊長を勤めているとはいえ、隊員たちも女性。恋愛に興味はあるのだ。しかも平民と名門貴族の令嬢だなんて、恋愛話においていいネタになる可能性が高いゆえに興味を引かれるのも無理はなかった。
「ちょっとあんたたち!聞こえてるんだけど!」
しかし地獄耳なのか、ルイズは隊員たちの勝手な恋バナに過敏に反応して目を吊り上げる。とはいえ、明らかに恥ずかしさのあまり真っ赤に染まった表情のせいで迫力がない。寧ろ隊員たちから「なんてかわいいんだろう」という評価を受けていたのであった。
が、そのときだった。屋敷が突如、ドゴオオン!!と激しい爆音を上げながら大爆発を引き起こした。
「!?」
無論ルイズたち待機組の皆は唖然としていた。
「サイト!?」
「あ、いけませんヴァリエール様!」
建物が崩れ始めているのだ。それに近づいてはルイズだって危険な目にあってしまう。引きとめようとしたそのとき、瓦礫の下から何者かが這い出てきた。サイトか?と期待を寄せたが、残念ながら違った。それも、出てきてほしくない部類の人物が現れたのだ。
「やれやれ、ボーグめ。派手に爆破させおって」
そいつはゴドラ星人だった。なんだこいつは!?とルイズは思わず足を止めてしまう。すると、ゴドラ星人はルイズを見て、薄ら笑いを浮かべだした。
「噂の虚無の娘だな…」
「!」
初めて会う亜人に、自分が虚無の担い手であることに気づかれていたルイズは驚くしかなかった。
「なんであんたが知ってるのよ!あんた、一体何者!?」
「我々はメイジの生態を知るために、この国のメイジを集めていたが…あの女の言っていた注文の品までここにいたとはな。ちょうどいい。お前も回収しておこうか」
あの女?一体だれのことを言っているのだ。しかし、疑問がわきあがるルイズを他所に、ゴドラ星人はルイズに近づこうとする。
「貴様、そこで止まれ!ヴァリエール嬢に近づくな!」
無論外で待機を命じられていた銃士隊の隊員たちもルイズを守ろうと彼女の前に立ち、銃を向けるが、ゴドラ星人は止まろうとしない。止まる意思がないことを確認した銃士隊の隊員たちは一斉にゴドラ星人に向けて発砲した。しかし、わずか一瞬、ゴドラ星人は残像を残すほどの速さで全ての銃弾を回避してしまう。その速度を武器に、ゴドラ星人が銃士隊の後ろに下がらせられていたルイズの前にあっという間に接近していた。
「ただの人間に用はない。我々の狙いはお前だ」
「っ!」
ゴドラ星人はルイズに手を伸ばし、捕らえようとした。
「そうはさせない」
しかし、その言葉がどこからか聞こえてきたと同時に、ルイズとゴドラ星人の周りを、季節はずれの冷気が襲った。突然発生した冷気に、ゴドラ星人が戸惑いを見せて動きを止める。やがて冷気は霧となり、二人の間を包んでいく。
「この魔法って、もしかして…!」
まさかと思ったルイズは、突然腕を引っ張られ、何かの上に乗せられる。そして、体が浮いていくのを感じた。
霧の中から抜け出すと同時に、その正体を見るルイズだが、予想通りの相手だった。
「タバサにキュルケ!また来てたの!?」
さっきの霧はタバサが発生させたものだったようだ。そして今自分が空を飛んでいるのは、彼女の使い魔シルフィードの瀬に乗っていることによるものだった。
「だって、誰もいない学院にいたって何も面白くないもの。だから暇つぶしに来てやったのよ」
ルイズからの問いに対し、退屈そうに語るキュルケ。
「退屈しのぎでこんなところまできたの?どれだけ暇なのよ…いつもならボーイフレンドたちとお話しているんじゃなかったの?」
「そのフレンドたちもいなかったから退屈してたんじゃない。それにあなた、助けてあげたんだから礼ぐらい言って頂戴」
「そ、そうね…ありがと」
相手がキュルケだから、余計に素直にいえそうになかったが、とりあえず礼を言っておいた。
「ところでダーリンはどうしたの?もしかして…」
キュルケがサイトの名前を出し、ルイズははっとなる。
「そ、そうよ!サイト!タバサ、瓦礫の方に向かって!サイトがあの下にいるかもしれない!」
彼女は爆発した屋敷のほうを指差して、一度地上に降りるように支持を入れたが、地上の方から突然一発の光が自分たちの乗っているシルフィードに向けて飛ばされる。ゴドラ星人が地上から彼女たちに向けて光弾を連射してきたのだ。華麗な動きとスピードで避けていくシルフィード。
「これじゃ…降りられない」
こうも激しく乱射されては、いくらあシルフィードのスピードをもってしても、回避に限界が来てしまう。
あいつさえ邪魔をしなければすぐにサイトの救援に迎えるのに!ルイズは忌々しげに地上で自分たちを狙い打ってくるゴドラ星人を睨みつけた。
 
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