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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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任務-ミッション-part2/絶望の牢獄

トリスタニアに到着したルイズたちは城でアンリエッタとひとまず別れた後、トリスタニアの城内にある応接室にて待機中だった銃士隊副隊長ミシェルと合流した。
「陛下の護送、お疲れ様でした隊長」
「うむ」
敬礼して隊長を出迎えるミシェル。
「ミシェル、私がいない間に何か異常はなかったか?」
「問題ありません。ですが、また数件ほど魔法学院の生徒が行方不明になったとの報告がありました」
「こうしちゃいられないな。アニエスさん、ジャンバードに急ぎましょう。あれのレーダー使えば、星人の居場所はおそらく突き止められるはずだ」
また被害者が出たと聞き、サイトはできるだけ早く行った方がいいと思い、アニエスをせかすように言った。だが、サイトはミシェルからどういうわけか睨めつけられた。
「…隊長。またこのような少年に頼るのですか?」
「ミシェル。何か不満でもあるのか」
「以前から思っていたのですが私は正直、このどこぞの馬の骨とも取れない小僧に背中を預けられません。そもそも、どうしてこんな少年たちを陛下が頼られているのか理解に苦しみます」
「あんた、私たちを侮辱しているの!?」
自分のことも含まれていることも含まれ、かつ個人的な面も含めて問題こそあるが誇れる使い魔でもあるサイトを侮蔑されている。ルイズはそれに気づきミシェルを睨み付けた。しかしミシェルは毅然とした態度でルイズたちを逆に睨み返した。
「あなたがたにどんな事情があるかは知らないが、本当の命の取り合いを経験したことのない者が、これからの任務のお役にたてるとはにわかに信じがたい」
完全に侮られている。しかし無理もないところもある。なにせサイトもルイズも、つい最近になって戦いに身を投じたばかりの、まだ未熟な若者だ。しかも、これから戦う敵は、ミシェルもこれまでのハルケギニアでは未確認とされている存在であることは知っている。故に、熟練の戦士であるミシェルから見ればこの二人ば抜擢されたことがあまりに不思議でもあったし、不満だった。
「ミシェル、彼らは女王陛下が自らの意思で抜擢なされたのだ。口を慎め」
「ですが…」
「くどいぞ。それに…この後すぐからこの二人には力を借りることになったのだぞ。これは隊長である私の決定でもあり、女王陛下が私を信頼したうえでの判断だ」
「…」
アニエスの言葉に押し黙ったミシェルだが、その表情は決して納得がいったものではなかった。ルイズも殺気と変わらない鋭い視線をミシェルに向けていた。あまりにギスギスした空気にサイトとハルナは居辛さを痛感する。
「ルイズ、もういいだろ」
「サイト、あんた悔しくないの!?この女に好き放題言われて!」
「けど、この人の言いたいことは俺にもわかるよ。ルイズもこの人の立場になって考えてみろよ。俺たちみたいな奴を簡単に信頼できると思うか?」
「それは……!」
サイトの言葉で、なんとか冷静になって考えると、ルイズもミシェルの言い分の意味が分かってきた。それ以上何も言わなくなった。
「ミシェルさん、無理に俺たちのことを信じようとはしなくていいです。けど、騙されたと思って着いて来てもらえますか?」
「…ふん」
サイトから同行を促され、一同はいったん王立アカデミーの敷地内にて保管されているジャンバードへ急いだ。

ルイズやアニエスに与えられていた権限のおかげもあって、彼らはなんなくジャンバードへ足を運ぶことができた。
そんな彼らを、見ている者がいた。
(チビルイズがどうしてここに?それに、あの子について言ってる連中は確か…)
ルイズの姉にして、アカデミーの研究員でもあったエレオノールだった。アカデミーのエントランスにて、人ごみの中から妹の姿を遠くから見つけた。
ルイズが彼女自身とは無縁であるはずのこのアカデミーになぜ立ち寄ってきたのかが気がかりだった。それに最近陛下直々にシュヴァリエの称号を与えられた、アニエスとかいう女もいる。平民ごときが貴族の称号を得る、貴族としての気位がルイズ以上に高いエレオノールにとって許しがたいこと。アニエスたち銃士隊のことも快く思っていない。そんな気に入らない連中とつるんでいる妹の意図が読み取れなかった。
(あの機体はあの妙な平民の男が調べていたはず。でもあのチビルイズと成り上がり風情が…)
それに、ルイズの傍らには他にも、あの不思議な男と同じ黒い髪と黒い目の男女二人組がいる。見たところあの男とさほど変わらない若さだ。目に映る光景に隠れた真実がますます読めない。エレオノールはシュウの時と同様、後をつけてみることにした。



その頃…さらわれた魔法学院の生徒たちは…
地下の牢獄に閉じ込められた彼らは静かにしていた。いずれここから出してもらえる。そんな希望的観測を抱きながら、彼らはここから出られるときを待ち続けた。迂闊に騒いでも殺されてしまうだけで何の得にもならないというレイナールの指摘で、全員出してもらうまでは大人しくすることにした。
その時、扉が再び開かれ、さっき同学生たちを無残に殺した星人が姿を見せた。
「出ろ。そこの5人からだ」
適当に目に入った5人の男女の生徒を指さし、手招きする。しかしそれを不満に思ったのか、違う男子生徒が口を挟んできた。
「おい!先に僕らを出してくれよ!僕の家はそいつらよりも上の上流階級なんだぞ!」
「何言ってんだ貴様!誤解を招くようなこと言うな!」
「なんだよ!先に出してもらえるからっていい気になりやがって!」
つまり、自分を先に助けろと言っているのだ。どちらにせよ、自分が助かることばかりを考えて周りのことを一切考えようともしていない。人間が自分の生存本能に従い、生き抜こうとするのは決して間違いではないのだが、そのために他者に犠牲を強いることは結局褒められたことではない。また騒ぎ始めた生徒たちに、星人は苛立ちを募らせ、天井に向けて銃を発砲する。
「きゃあ!!」「ひぃ!?」
「…騒ぐなと言わなかったか。黙って我々の指示に従え、屑ども」
突き刺さる視線に、誰もが押し黙るしかなかった。星人は彼らを鼻で笑いながら、自分が指名した生徒たちを引き連れて行った。
「くそお…我々は始祖の祝福を受けている貴族なんだぞ!なんだってこんな目に…」
「…順番が来るのを待つしかないわね。正直、屈辱だけど……次に会ったら、この屈辱を倍にして返してやる!」
「何言ってるんだ!あいつに魔法が効かなかったじゃないか!」
「さっきのはまぐれだろ!何かしらのマジックアイテムでも使ったに違いない!」
「止せよ。そんなに騒いだらまだあいつが僕たちを殺しに来るぞ!」
話を聞き入れられなかったその男子生徒は壁を蹴って苛立ちを吐き出し、別の女子生徒が星人に対して毒を吐きながらもその生徒をなだめた。しかし星人に魔法が効かなかったから逆らうべきじゃない、魔法が効かないように見えたのは何かの間違いだと主張する者が続出した。
「なぁ、何か気にならないかい?」
ふと、レイナールが口を開いた。
「なんだよぉレイナール…」
まだ怯えきっているのが抜け切れないマリコルヌがレイナールを見る。
「あの怪人…星人は、数人ずつここから出して、僕たちに何を求めているのかそれがわからない。こんな回りくどいやり方を僕たちに強いてまでいったい何を企んでるんだ?」
頭の中でいくつもの憶測を立ててみるも、未知なる異形の種族とは初遭遇であることや、自分たちに彼ら異星人に関する知識がないこともあって、特に何も見えてこない。
「ん?」
モンモランシーは、自分の肩に小さな何かがのっかったことに気付き、自分の右肩に顔を向ける。そこには、一匹の小さな蛙…彼女の使い魔であるロビンが彼女の肩に乗っていた。
「ロビン!よかった…あなた、無事だったのね」
指先で蛙を愛おしそうに撫でるモンモランシー。蛙嫌いなルイズから見れば信じられない光景だろう。
「そっか…あの変な怪人がかけてきた黒い水が私にかかった時、あなたも来ていたのね」
「ゲコッ」
「それは、モンモランシーの使い魔か。あぁ…そういえばヴェルダンデは今どうしているのだろうか」
モンモランシーとその使い魔の蛙を見て、ギーシュは自分の使い魔は今どうしているのだろうかと思う。溺愛していただけあって心配だった。
「そうだ!モンモランシー、ちょっと耳を貸してくれ」
「え?」
すると、何か思いついたのかレイナールは耳を貸すようモンモランシーに手招きした。
「ちょっと待ちたまえレイナール。彼女のナイトである僕の前で、僕のモンモランシーに内緒ごとかい?」
「あのな…色事ばっかのお前と一緒にしないでくれ」
自分の恋人の耳元でささやく行為がギーシュの嫉妬心に少し火をつけたらしい。が、レイナールはギーシュと違って女性問題を起こすようなことはしない。女性付き合いは健全なものを理想としていた。モットも当たり前のことなのだが。モンモランシーも、こんな軽いシチュで僅かな嫉妬を抱くのなら、浮気などしないでほしいものだと心の中でつぶやく。が、その一方でようやくギーシュがこんな一面を自分に対して抱いてくれたことについても、内心でちょっと嬉しがっていたりしたのは内緒だ。
「…で、レイナール。何を思いついたの。言ってみて」
言われた通り、彼女はレイナールの言葉に耳を傾け、レイナールは彼女の耳元で思いついた策を明かした。
「おそらくあの星人とやらはまたここに来るはずだ。
使い魔は主の目となり耳となる。ロビンを使ってあいつらの情報を探らせるんだ。そうすればあいつらの目的がわかるし、僕たちがここから脱出するためにとるべき行動も見えてくる」
「おぉ、なるほどその手があったか!」
それをいつぞやのルイズたちとアンリエッタのやり取りの時のように盗み聞きしていたギーシュが思わず大声を出してしまう。
「ギーシュ、声が大きいよ…しぃ!」
空気を読んでいたのか、マリコルヌが人差し指を口の前で立てながらギーシュに黙るように警告した。
「いいアイデアね、レイナール!どこぞのグラモン家の四男とは大違い」
「そ、そんな…」
さらりと辛辣な一言をギーシュに言うが、モンモランシーは無視して指先にロビンを座らせ、命じる。
「ロビン、次に扉が開いたら、すぐに廊下に出て、奴の後を追って。あいつらが私たちに何を求めているのかそれを確かめるのよ」
ロビンは主からの命令に「ゲコッ」と答えた。
すると、再び部屋の扉が開かれ、さっきの星人が姿を見せる。しかし、先ほど奴が連れて行った学院の生徒の姿がない。
「次はそこの二人だ。来い」
次も入り口付近にいた二人の生徒を指名し、選ばれた二人の生徒はようやく解放されると思って立ち上がり、星人に着いて行った。
「…今よ、行ってらっしゃい」
ロビンはモンモランシーからのGo宣言を受け、直ちに床の上を急ぎ足で跳ねながら進んでいった。そしてロビンが去ると同時に、扉は自動で閉じられ、ロックされた。
「大丈夫かなぁ…」
ロビンはいくらモンモランシーの使い魔といっても、所詮は蛙だ。踏み潰されたりしてしまえば終わりだ。マリコルヌは不安を口にする。
「これしかもう僕たちに残された道はないんだ。モンモランシー、頼むよ」
「わかってるわ。正直こんな面倒事は御免こうむりたいけど、ここで死ぬまで暮らすよりはずっとまし。だったらやるしかないわ」
ルイズの惚れ薬を解毒するためにラグドリアン湖へ行くときも、水の精霊とのやりとりでヘマをしたパターンを恐れたこともあるし、モンモランシーは戦場で命を散らすことが名誉だと主張する貴族の男たちの主張は理解できないタチだった。だから命と隣り合わせになるようなことは絶対に避けたかったのだが、ここでじっとし続けるのも同じくらい嫌だったから、やる気を出さざるを得ないのだ。
(頼んだわよ、ロビン…)
モンモランシーは目を閉じる。その瞼の下に映る景色は、すでに廊下に出ているロビンのものになっていた。



「ふぅ、お姉さまと鉢合わせしなくてよかったわ」
ルイズがぽつりと独り言をつぶやいた。
ジャンバードに到着したサイトたちは、コクピットに急いだ。サイトにはガンダールヴのルーンがあるおかげで、ある程度の操作方法は手に取るように理解することができた。
「ジャンバードがあってよかった。こいつがなかったら、さらわれた学院の皆の生体反応を正確に追うことなんてできなかった。助けるのがもし遅れると思うと…ぞっとするよ」
サイトは操作しながら呟いた。以前はアンリエッタの身に起きた事件をこのジャンバードのサーチシステムのおかげでいち早く気付くことができた。もしこれがなかったら、場合によってはアンリエッタはアルビオンの…レコンキスタの陰に隠れた邪悪な者たちの魔の手に落ちていたかもしれない。それを、もとはレコンキスタの手に落ちたこの乗り物のおかげで窮地を脱することができたなんて、奇妙な皮肉さを覚えた。
さっそく起動させると、画面にトリスタニア周辺地図が表示された。
「生体堪能…探知開始」
サイトが捜査を続けると、トリスタニアの位置を示す現在位置から東の方角、魔法学院から少し北の方角にある位置に、奇妙な反応を探知した。
「場所は……モット伯爵の屋敷跡か」
「モット伯爵の…!?でもあそこは…」
ルイズとサイトは、モット伯爵の屋敷には覚えがある。シエスタが妾として伯爵に招かれたのがきっかけとなって来訪したことがある。しかし、ノスフェルの攻撃で伯爵は殺され、屋敷も破壊されたはずだ。
「ああ。伯爵の屋敷が怪獣の襲撃で崩壊したことは知っているようだな。その事件の後、新しい領主を招き入れるために一流の建築業者とメイジたちを使って屋敷を立て直したのだ。すでに新しい貴族がお住まいになっている。だがこの流れだと…」
「その新しい領主も黒のようですね。モット伯爵も女相手の手癖の悪さは私も聞き及んでいましたが、今度はそれ以上だ」
ミシェルが苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら言った。
「あそこに、捕まった人たちが…」
人間を誘拐する異星人に対して、サイトやハルナは思うところがあり過ぎた。人間を実験動物扱いする。その屈辱と痛みを受けた者としては無視しきれない。
「………」
ミシェルは疑わしげにサイトの後姿を見やる。事情を知らない者から見れば当然の反応だった。ルイズが召喚した人間の使い魔で、当別な能力を持つ。たとえば、今のようにハルケギニアの文明で作られたとは思えない代物の使用方法を理解できること…だがこればかりはいくらなんでも度が過ぎている気がしてならなかった。
「こうしている間も時間が惜しいな。我々と共に現場へ」
「はい!」
「それとミス・ハルナ…だったか。隊員を一人置いておく。お前はここで待っていろ」
「…はい」
やはりハルナは任務の現場にまで同行させるわけにいかなかった。彼女は先頭に関してはからきしだから仕方ない。
「すぐに戻るよ。ルイズたちと一緒に」
「うん、気を付けてね…」
ハルナの心配そうな視線を背中に受けながら、そのまま急ぎ足でサイトたちは、かつて貴族の下卑た気まぐれから起きた騒動の現場となったモット伯爵領の新屋敷前へと急ぐことになった。
馬に乗り、全力で向かっていく彼女たちを、エレオノールは密かに見ていた。
(チビルイズ、一体何をしているの?最近やたら景気のよさそうな内容の手紙を送ってきてるけど…今あの者たちとかかわっていることと何か関係があるのかしら)
怪しい。何かがある。妹が何か自分たちから見てもあまりに手に余りそうなことをしていると見たエレオノールは、今はひとまず踵を返し、アカデミーへ戻って行った。
(近いうちに、あの子と話をした方がよさそうね…)


モンモランシーの意思に従い、ロビンはなるべく目立たないように廊下の隅を通ったり、廊下に飾られていた花瓶や棚の陰に隠れたりしながら、主の同級生たちを連れて行くボーグ星人の後をつけて行った。ボーグ星人はすでに人間の、軍服の男の姿に戻っていた。
廊下をしばらく歩いてると、星人はある一室の扉を開く。その部屋はSF映画に登場する何かしらの実験室のようであり、どこかペガ星人の円盤を似通っているともとられるだろう。部屋にはボーグ星人とは違う、別の異星人がいた。全身が白と黒の模様、そして体には赤いベストのような模様を刻みこんだ異星人だった。
「次が来たか。早く乗せてくれ」
「そう慌てるな、『ゴドラ星』の者よ。この取引は俺もチャラにはしたくない。せっかくの儲け話なのだからな」
その星人も、かつてセブンと戦ったことのある種族、『反重力宇宙人ゴドラ星人』だった。同法がセブンに倒されたことがあるという共通点はあるものの、それだけでは共闘する理由にはならない。にもかかわらず、彼らは確かに協定を結んでいた。
「『魔法』とか言うものを使う種族…ふん、非科学的だが、だからこそ貴重だな」
「おい、どういうことだ?いったい俺たちに何をさせる気だ?」
連れてこられた生徒の一人が、嫌な予感を抱いてボーグ星人に尋ねる。
「何、そこのベッドに座ってもらうだけでいい。だが、さっきも言ったが…」
ボーグ星人は質問してきた生徒の首元に手を置いてきた。その言葉の先を、連れてこられた二人の生徒はすぐに理解する。
「そ…そういえば、私たたちより先に来た生徒はどうしたの?もうここから出したの?」
「…あぁ。出してやったよ。約束は守るともさ」
女子生徒に質問されたボーグ星人の代わりに、ゴドラ星人が答える。確かに姿が見当たらない。かといって殺されて士隊となって転がっているなど、そのような残酷な光景がここにあるわけではない。けど、人をあんな形で誘拐するような奴らだ。信用に欠ける。かといって逆らえば命はないと脅されている。貴族らしく戦場で華々しく散るなんて格好をつけられる勇気もない彼らに、命を懸けて戦うなどできるはずもない。
星人たちに促され、促されるがまま二人の生徒たちは用意されていた特殊なベッドの上に寝かされる。二人がベッドに寝たところで、星人は壁に欠けられていたレバーを下した。すると、ベッドに取り付けられていた装置が動き出す。それは地球の大きな病院にあるガン検診用のベッドに取り付けられた部位にも似ている。
しかし…恐ろしい出来事がその直後に起こることとなった。

バチチチチチチ!!!

「ぎゃああああああ!!」「いやあああああ!!」
突然二人が乗せられているベッドに電流がほとばしり始め、ベッドに寝かされた二人の生徒はその影響で苦しみ始めた。必死にもがき始める二人は、すぐに逃げ出そうとしたが、瞬時に二人の体を固定するベルトが彼らの体に自動で巻きつかれ、逃亡を阻止してしまった。星人たちにとって、この程度のことなど想定の内だったのだ。
ベッドの傍らの機械の画面に、地球やハルケギニアとは異なる文字と思われる数値が目にもとまらぬ速さで連続表示されていった。
「スペクトル数値…350…さっき計測したメイジよりも魔力値が高い。それに対してこっちは200。低いな」
モニターを見ながらゴドラ星人が呟く。
「数値の高いこいつは戦闘員候補だな。すぐに洗脳処置を施すぞ。だがもう一人の女は…奴隷市場行きだな。売り物部屋に連行する」
「「!?」」
直後に飛んできたボーグ星人の信じられない言葉を聞いて、ベッドに拘束された二人の女神開かれた。
「ふ、ふざけるな…!!僕たちをここから出すんじゃ…」
「…ああ、約束は守るといったよ。だが…それが君たちの考えている通りの意味とは違ったようだな。ふふふふふ…」
そう、奴らは確かに約束していた。そしてそれを守っていた。『用が済めばここから出す』という約束を。しかし…それは『そのまま施設の外に出す』という意味ではなかった。『自分たちの都合のいい存在』に作り変えてしまった後、自分たちに都合のいい兵士に育てるなり、奴隷として売りさばくつもりだったのだ。それが結果としてここから出してもらうことでもあるというだけのことだった。
「当然だろう?貴様らをこのままおとなしく返すとでも思ったか?」
「いや、…いや!!奴隷になんてけがらわしい!早く私を開放して!お父様たちが黙っていないわよ!!」
嘲笑うゴドラ星人。拘束された女子生徒は嫌がっていた。平民よりもさらに下賤な立場にある。そう認知している存在に、選ばれし貴族の出である自分がなるなんて冗談じゃなかった。しかし、言い返すようにボーグ星人が少女に言った。
「我々のような得体のしれない者に攫われ、奴隷に落とされるような奴を、貴様の親は助けてくれるのか?寧ろ目の上のたんこぶ、一族の恥だろうな…」
その言葉を聞いて、女子生徒は絶句した。
そう、こんなどこぞの誰とも知れない奴らに誘拐され奴隷に落とされる。彼女たちの親が子に対する愛情が強ければ怒り、助けに向かったりするだろう。だがこの国は貴族としての誇りやプライド、名誉を先行しすぎているところもある。故に不祥事を働いた子はもちろんだが、何者かも知られていない賊にやられた我が子を、死を憐れみ悲しむどころか、弱者だの家の恥と罵るということもあるのだ。女子生徒のこの絶望感からすると、彼女の親は命よりも名を惜しむタイプであるため、どうやら星人の言った通りになる可能性があると見られた。
「はははは!!何、安心したまえ。君を買い取りたがっている連中は君を重宝してくれるよ」
何の慰みもない、寧ろ罵りともいえる悪辣な言葉を吐いて星人たちは笑い出した。すでに自分と一緒に実験にかけられた男子生徒はすでに物言わぬ状態だった。やがて、女子生徒は希望を失ったように、自分もまたその目から光を失っていった。
ロビンはその光景を隠れたまま静かに見届けていた。ボーグ星人が再び部屋を出るところで、自分も見つからないように息をひそめながら部屋を後にした。


馬を走らせてしばらくたった頃。
既に時間は真夜中だった。
サイト・ルイズ・アニエス・ミシェル…そして銃士隊の隊員数名は事件の現場にたどり着いた。建て直されたと聞いていたときはきっと前と全く異なる姿となる予感がしていたが、そうでもなかった。噴水や庭に植えられた木々の配置、屋敷の形…以前サイトが来訪したときとまったく同じだった。
「おい君たち。ここは…ぬ!」
「何をする…ぐ…ぅ」
当然見張りの門番がいたのだが、彼らはすばやく自分たちの懐に飛び込んできた銃士隊の隊員たちに取り押さえられ、意識を手放した。
「隊長、屋敷の周囲の見張りは全員拘束しました」
「そうか。ご苦労。そのまま奴らを監視しろ」
「はっ!」
アニエスの指示のもと、気絶させられた屋敷の兵たちは銃士隊の隊員たちによって全員拘束された。
「またここに用があるなんて思わなかったわね…」
ルイズは屋敷の外観を眺めながら呟く。以前はシエスタ一人、それも別に怪獣や星人が現れるような事態が起きていたことがはっきりとわかっていたわけではない。
(そういや…ここ、いつぶりになるかな?ゼロ)
かつてシエスタを己の妾…慰み者として無理やり引き取ったモット伯爵の屋敷は、アニエスが話していた通り、新しい屋敷に立て直されていた。当時、ゼロと意見が合わなかったがために、望んだとおりのサイズになれず小さい体でノスフェルに挑み、そこを今は行方不明のあいつに…シュウの変身したウルトラマンネクサスに救われた。
『もうチビトラだなんて言わせねぇ。さっさと宇宙の悪をぶっ潰して、学院のぼっちゃんたちを連れ帰ってやろうぜ』
『おぅ!』
二人は他者には聞こえない会話を交わしあって気合を入れた。
「全員、私の話に耳を傾けろ」
アニエスがこの場にいる全員に向けて命じると、集まった全員がアニエスに注目した。
「これから我々は屋敷に潜入し、内部に囚われている魔法学院の生徒たちを救援する。各隊員を複数のメンバーに分けて突入するぞ。メンバーは…私とセリア、ティリー、それに………」
メンバーを発表していく中、ルイズは当然自分はサイトについていくと考えていた。しかし、現実はそうはいかなかった。
「サイトはミシェルと組んでもらう。ヴァリエール嬢はここで待機してもらう」
「えぇ!?どうしてよ!」
自分とサイトが同じチームでの同行許可を下されなかったことにルイズは耳を疑った。アニエスはすぐに、サイトと組ませてもらえず待機組に配置された理由を明かした。
「当然だ、ミス・ヴァリエール。あなたは陛下の女官で、大切な方だ。無暗に最前列に出して、万が一のことがあったら陛下に申し訳が立ちませぬ」
「でも、私だって魔法を使って戦うことはできるわ!」
「…ミス・ヴァリエール。あなたのその魔法の特性は私もすでに知っております。だからこそ、その力をそうたやすく煩わせることはできません。
それに、あなたの爆発魔法は屋内で使うには危険すぎます。屋内の爆発は天井崩落を招きます」
彼女も虚無魔法のことはアンリエッタから信頼も置かされていることもあり聞き及んでいる。あらゆる系統魔法の上のランクに当たる伝説の系統魔法・虚無。その破壊力はあらゆる敵を葬ることが可能かもしれないが、今の自分たちの任務は魔法学院の生徒の救援だ。つまり生徒たちを安全に救出し、ここから脱出させることこそが成功だ。敵を倒しに行くわけではない。
「て、手加減すればいいんでしょ!?」
「今息を詰まらせましたね?その時点、不可能である可能性が見えます。そのような不確定要素が含まれている以上、お連れするわけにいきません。ここで我々の帰還をお待ちください」
正直ここにきて連れて行けません、など抜かしてきたアニエスの下した命令には不満だらけだ。しかも自分が使う虚無についても、…確かに自分でも手加減できる威力を放てるかといわれると『大丈夫だ』と自信持っていうことはできない。でもここにきて置いて行かれるということがあまりに不服すぎた。
「ミス・ヴァリエール。私がここで敢えてあなたに置いていく判断を下したのは、あなたを決して侮っているわけではありません。いきなり最初から全戦力を出すわけにいかないからです。万が一私たちが戻れなかったときの保険のためであること…。それにあなたの魔法は最後の切り札です。あなたの力が必要となったその時まで、その力は温存してください」
「……」
「そんな顔すんなってルイズ…大丈夫だ。俺がカタをつけに行く。な、デルフ?」
サイトは屈託のない穏やかな笑みを見せ、背中に背負っている相棒にも話を振る。
「おうよ。娘っ子、そこの隊長さんたちの言うとおり、今は精神力をためることに集中しな。おおっぴろにお前さんの切り札を出すもんじゃねぇ。最後まで取っておいてこそ切り札なんだ」
「…わかったわよ。…でもサイト、戻ってこなかったらお仕置きだからね」
デルフからの忠告を止めに、ルイズは大人しく待つことにした。
「ま、待ってください隊長!わ、私がこの少年と組むのですか!?」
一方で、ミシェルはサイトを連れて行くという言葉に信じられないといった様子だった。
「さっきも文句を言っていたが…やはり不満か?」
「…いえ、それが隊長の命令ならば」
部下二人ならともかく、こんな年下の少年を連れて行くということがどうしても気が乗らない。だがすでにアニエスから言い負かされたこともあるし、何より隊長命令だ。逆らうわけにいかなかったミシェルは大人しく命令を聞くことにした。
「では、我々はこの屋敷の包囲に入る。その後、先遣隊の支援役として突入部隊を編成し魔法学院生徒の救助を開始する」
「「「了解!」」」
かくして、サイトと銃士隊たちの合同救出任務は開始された。
「サイト…」
先に突入していくサイトとミシェルを見て、ルイズは大丈夫だろうかと不安を募らせる。
「サイトもこれまで陛下のために尽くしてくれた身ですが、まだ私としても信頼に足る存在かどうか測りかねてます。それを見極めるためにも敢えてあの二人で組ませたのです」
「サイトを試すってわけ?」
「はい」
まだサイトの実力については測りきれていないところがあるし、自分たちトリステイン人の人知の及ばないことをやってのけることについて、アニエスらはまだサイトに信頼を寄せきれなかった。だから敢えて、少々不和な空気を漂わせる二人を組ませることでサイトの力を試してみることにしたのだ。しかも今回の相手は、サイトの話だと…この世界の種族ではないらしい。奴らを相手にサイトがミシェルと共にどのように戦うのかを確かめることで、彼を見極めてみることにした。
「それで万が一のことがあったらどうするのよ!」
「無論手遅れにならないよう、私も自ら部下を率いて出向くつもりです」
これは危険の伴う賭けでもある。だから自分も当然、前に出て二人を援護するつもりだった。
「そういう意味じゃなくて!」
しかし、ルイズは声を上げて否定を入れてきた。アニエスはルイズの否定に対して疑問を抱いた。二人の命の危険を心配したからじゃないのか?
「あのバカ犬がミシェルに発情して襲ってこないかが心配なのよ…」
…そっちか、とアニエスはため息を漏らした。確かにサイトが年頃の少年らしくすけべな一面があることはアニエスも知っている。何せ、時折アンリエッタの胸元をちらりと見ているのをアニエスも知っているからだ。いちいち視線を向けるなと言ってもキリがないので、敢えて何も言っていない。
「…ミシェルはああ見えてしっかり鍛えた身です。ただの痴漢ごときに遅れはとりませんよ」
「そう、なら安心したわ」
そんなことで安心されても…と、アニエスは自分でも似合わない突っ込みを入れたくなった。
まぁ最も、ルイズが二人の…サイトの身の安全を気にしていたのは紛れもない事実だった。
(後で追いつくから、それまで死んだりとか、ミシェルに欲情とかしないでよね…)


「なんだってぇ!?」
星人たちは自分たちを特殊なベッドに拘束し、精神力や系統魔法のレベルを計測する。そのうち利用できそうな奴は兵士として洗脳、無能ならば奴隷市場へ売り飛ばす。
ロビンの目を通して星人たちの悪質な企みの一端を探ったモンモランシーから、そのことを知ったギーシュたちは思わず声を上げてしまった。
「ど、どのみち僕たちはろくでもない結末を迎えるってこと!?うわああ!!なんだよあいつら!!人に希望を持たせておいて!!」
マリコルヌは星人への怒りもそうだが、それ以上にどのみち自分たちにはバッドエンドしか待ち受けていないことを悟るしかなかった。
「おいマリコルヌ!声が大きすぎる!」
レイナールが恐怖するマリコルヌを注意したが、すでに遅かった。
「おい!それどういうことだよギーシュ!」
「僕たち、どのみちここから出られないってことなのか!?」
しまった…とレイナールやモンモランシーは顔を覆った。死の恐怖か、転落人生への恐怖。その両方がここにいる魔法学院の生徒全員の心を支配した。
「冗談じゃないわ!なんで私たちが奴隷になんかならないといけないのよ!」
「でも、奴らに従わないと殺されてしまう…」
「だからって、あんな不遜な輩に従ったところで同じことだろ!」
待っていても、星人たちの洗脳を受けて奴隷となるか星人の手駒となるか。抵抗したところで、無残に殺される。
誰も彼もが、絶望するしかなかった。もはや過去の罪で下りの中で怯える囚人たちのようだ。誰も希望を抱いた眼をしていない。迫りくる絶望が彼らを恐怖させる。
「もぅ…魔法学院に戻って次の学期の準備に取り掛かるはずだったのに、どうしてこうなるのよぉ…」
モンモランシーに至ってはついにこらえきれず泣き出していた。魔法学院にふつうに戻っていたはずなのに、別に悪いことをしていたわけでもないのに(惚れ薬のことはもう忘れた)、突然こんな場所に連れてこられ、しかも同学生の死にざまを見せつけられるなど、自分がどうしてこんな目に合わなければならないのか訳が分からない。
「も、モンモランシー…どうか元気を出しておくれ!そ、そうだ!この花をプレゼントしよう!君を思って選んできたんだ!!受け取ってくれ!」
ギーシュは恋人の笑顔を取り戻そうと、どこからか取り出した花を彼女に与える。これでいつものように笑顔を見せてほしいと思ったのだが(これはもちろんギーシュの認識違い)、対するモンモランシーはギーシュから差し出された花束を乱暴に振り払い、花びらが無残にも周囲に散って行った。
「花なんかでいったい何ができるのよ!!このバカ!!」
そもそも花を見ただけで元気が出るような状況ではない。その程度で笑顔を取り戻せるほどモンモランシーたちは単純ではなかった。
「やだよぉ…もう帰りたいよぉ…」
つい先日まで、平民と貴族の間には絶対的な差があること、自分たちこそが頂点に立っているとばかり思っていた学院の生徒たちは、完全に先日まで保ち続けていた威勢の良さを失った。
「…うぅ…」
何もできないし、こんな場所から出ていくこともできない。しかも、この部屋を監視している者は、自分たちの知っているオーク鬼やトロルとは異なる存在…それも平気で人間を殺せる奴だ。冷酷にして残忍。祖国を裏切ったワルド並みかもしれない。そう思うと、いつもの余裕こいた態度を保つことができず、情けなく足をがたがたと震えさせることしかできなかった。
(サイト…僕はどうすればいいんだぁ~~!!)
恐らくこのような常識外れの事態に関してもっとも態勢があるであろう親友の姿を求めたくなった。しかしここに彼は居ない。

頼りになる存在は、ここにはいない…。

ギーシュたちは、己の無力さを呪いながら己の不幸を痛感することしかできなかった。

深い絶望が、この国の未来を担うはずの魔法学院の生徒たちの心を覆い尽くした。



 
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