逆襲のアムロ
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29話 ギレンの遺産 2.21
前書き
*頑張って誤字、脱字を直します(> <)
取りあえず載せました
* ズム・シテイ 政庁付近 2.21 10:30
マ・クベは無人と化した首都を一人闊歩していた。
一応はマーサ、マ・クベ、フロンタルの部下達によって倒れていた人を回収し、核融合炉へ運ばれていった。
「この首都の人民はどうしようないぐらいにギレンに陶酔し切っていた。今更鞍替えしろなど、しかも国体を持たぬものになど、従うはずもない」
マ・クベはマーサの判断を是とした。
自分自身もこのズム・シテイに眠る人達と同類であることも知っていた。
「(だから私はここにきたのだからな・・・)」
ギレンは絶対統治者だった。そのため肉親すら葬り去った。
感情というものは天才と呼ばれた頭脳持ってしても計り知れなく、そんな論理的でないものを鼻から相手にする気がなかった。
その代わり研究されていたものがあった。クローン技術である。付随してフラナガン機関もでき、数値で表せることのできる部下を作りあげることに躍起していた。
マ・クベは無粋と思った。人の心は操りきれないからこそ、またそれを操れた時こそ人は面白いのだと。
ギレンは確かに人心の支配、統制に成功していたものの一人だったが、当人が不服だった。
ニュータイプと呼ばれる感情の干渉物の実験は数値として表現できることにギレンは魅力に感じた。
マ・クベはいびつなオブジェのような造形の政庁に足を踏み入れた。
しばらく通路を進み、何もない壁のところで立ち止まった。
「(ここか・・・)」
マ・クベは壁を無造作に触り始めた。
すると感触に違和感を感じる部分があった。
マ・クベはポケットより銀のジオンのエンブレムを翳した。
すると壁にフッと通路が生まれた。
マ・クベはその通路に足を踏み入れていった。
通路の奥には階段があった。
どれだけ降りただろうと思ったとき、再び認証ドアがマ・クベの前に立ち憚った。
「(さて・・・キシリア様から頂いたキーコードが使えるか・・・)」
マ・クベはドアの傍にある認証コード入力端末にパスコードを入れた。
すると難なくその扉は開かれた。
マ・クベは足を踏み入れると、そこはゼウスとどうようにドーム型の大きな部屋があった。
違う所と言えば、研究施設のようなものだった。
周り見渡すと、機械と人が入るサイズの生体培養カプセルが多くあり、小さいものもあった。
マ・クベがゆっくりとした足並みでカプセルを見て回った。
検体の番号がそれぞれのカプセルの下に打たれており、生体カプセルで培養されている人型のほとんどが金髪の少年、そして少女だった。
マ・クベは中央のデスクの上に紙媒体の資料が無造作に投げられているのを見つけた。
それを手に取り読んだ。
「・・・ギレンの遺伝子と優秀な女性の卵子を掛け合わせているのか。しかも2人の女性のみを理論上の成功数値と期待して」
マ・クベはそれをデスクの上に投げた。マ・クベの目的のものはこれではなかった。
キシリアが生前述べていたことを思い出し、ここへやって来ていた。
「マ・クベよ。あのフロンタルという者は得体が知れない。私の情報機関が兄ギレンがある研究をしていることを突きとめている。そのものの個体情報を兄に流す」
マ・クベはキシリアから言われたことが妙に引っかかっていた。
マ・クベ自身、社会の見識は大企業の元締めに適うぐらいのものを持っていた。自負、自意識はしてはいないが、その彼がこの今の時流に物凄い違和感を感じていた。
「(かの者の個体がクローン化されても、それで彼に何ができる訳でもないが、何も分からないよりは良い・・・)」
マ・クベは上部デッキにある検体カプセルを見て回った。
するとある所から金髪の少年から青年に変わっていた。
マ・クベはその顔を見比べ、まるで違うということでこれが目的の検体だと悟った。
「これか・・・。これのデータは」
マ・クベは傍にある資料を探し始めた。そしてその者の実験試料が見つかった。
*検体1 検体の生体稼働後、直後錯乱し自壊。
*検体2 検体の生体稼働後、無心のまま、学習も出来ず自壊。
*検体3 検体の生体稼働後、目すら見開くこともせず自壊。
・・・
マ・クベはこの施設のレベルの高さを知っていた。
生体稼働後の学習や自活が99%成功をしている。例えどんな素体でも。その残り1%未満の物がフロンタルに当たるのかと。
「要因とすれば・・・」
マ・クベはこの素体の欠点を調べているはずだと考えて調べた。
するとある一つの見解が資料に殴り書きされていた。
(・・・人外。遺伝子データに未登録。創られたもの・・・)
「・・・」
マ・クベは目を閉じ瞑想した。
遺伝子レベルの問題でフロンタル検体のクローンが作成できない理由はデータにないから。
材料を揃えても作り方を知らないか、知っている作り方では材料が足りないかのいずれかだとマ・クベは考察した。
「・・・後者が妥当か。この殴り書きと合わせると、フロンタルは人造物か・・・」
いわゆるアンドロイドと同等なものを人の遺伝子と同様の生成で作ろうとしたことがそもそもの破綻の原因だった、そう推理した。その直後、マ・クベの耳にコツコツと靴の音が背後から聞こえてきた。
「(・・・奴か)」
マ・クベはため息を付き、近づいてくる人物に敢えて目を合わせなかった。
その人物がマ・クベに語り掛けてきた。
「君らの勤勉さには感服する。私を調べていたとはね」
「常人の感覚、そしてある程度の指導者ならば、君の脅威を感じない者はいないだろう」
「成程。さすがに異質に見えた訳だな。私も自分自身を知らない。研究して頂けて何よりだ」
マ・クベはフロンタルの自己不明な発言に気になっていた。
「自分を知らないとは・・・。君は物心付いたときどうしていたのかね」
フロンタルは腕を組み悩んでいた。
「・・・無人のシャトルバスの中、1人で居た。しかし身動きが取れない程、私は瀕死だった。そこが私の記憶の始まりだ」
「・・・」
「しかし自分を知らない。代わりに欲求と源泉から溢れるようなアイデアが私に備わっていた。サイアム・ビストに偶然拾われて、身体検査をした。すると私の体は可笑しかったらしい」
フロンタルが含み笑いを始めた。マ・クベはその様子を黙ってみていた。
「遺伝子レベルの障害があると。それは人類が見たことの無い、生成したことがない領域だそうだ。何故生命活動が続けられるか不明な程、私の体は既に死に体らしい」
「しかし、貴公は私の眼前に居る」
「そうですな。精神が生きる術を与えてくれていたようだと医者が匙を投げたのだ。サイアムは物好きでな。私の話を聞いては楽しそうだった。彼は私の願いの手伝いをしようと提案を持ちかけてきた。その為、私は今ここに居る」
フロンタルは傍にある鉄柵を腕で掴み、捻じ曲げた。
「筋組織らほとんどが機械制御。サイアムは自活できない私に肉体を与えた。それでも意識が飛ぶときがある。その為にあらゆる投薬で脳を騙してきていた」
マ・クベは嘲笑した。
「つまりは放っておいても人類の危機は去るということか。なんと無念な事だフロンタルよ」
「そのためのパンドラボックスでもあるのだよマ・クベさん」
フロンタルは不敵な笑いで返した。マ・クベは真顔になった。
「・・・サイコ・フレームが貴公に何をもたらすというのかね?」
フロンタルは自分の指をこめかみに当てて話した。
「ココだ。脳を強制的に操れるシステム、究極の催眠療法だ。これは投薬を凌ぐ効果をもたらしてくれる。現にズム・シテイ、そしてギレンを無力化した」
「成程。貴公の弱点は読めた」
「ほう、ぜひ聞きたいな」
マ・クベは表情を変えず、後ろに腕を組み歩き始めた。
「やはりその肉体だ。パンドラボックスの怨念さえ消えればお前も終わる」
「フッフッフッフ・・・確かにそうです。しかしアレを壊す術を貴方達は知らない」
「・・・世界の負の結晶とは真恐れ入る。それを打ち勝つ希望がそれを阻止するだろう」
フロンタルは高らかに笑った。
「ハッハッハッハ、冷徹極まるマ・クベさんも遂にヒロイックになった訳だ。リアルじゃないな。そんな根拠もない期待をするとは・・・」
「根拠はある」
「・・・」
フロンタルは笑いを止めた。そしてマ・クベは鋭い視線でフロンタルを見据えた。
「私やキシリア様、一介の統治者クラスの傑物は時代の異質感を感じ取っていた。長い戦争の中で多大な犠牲を人類は強いられながらも、とてつもない進化を遂げている」
「・・・なんでしょうか?それは」
「貴公も良く知っているサイコミュの実用化と進化だ。貴公の前に必ず立ち憚るであろう。貴公もまたそれを乗り越えなければ野望など叶わぬ夢想だ」
フロンタルはその場でマ・クベの答えを考えていた。
自分は自分の大願成就の為に技術提供を惜しまなかった。そのお蔭で願いも間近に迫ったが、自分への脅威については余りに無関心だった。
「・・・あのモビルスーツ。あんなのがこの先出てくるとなると厄介だ」
シャリアの覚醒により、シナンジュが損傷した。その時の力はフロンタルを驚愕させた。
人の意思力は凄まじいものだと実感した。
マ・クベもその映像を見ていた。フロンタルが危うく撃墜されそうになった。
その事実が確かに存在する限り、パンドラボックスとフロンタルに死角があった。
マ・クベは目を伏して一人語っていた。
「結局、ギレン総帥もキシリア様も貴公には勝てなかった。ギレン総帥に殺されたキシリア様はギレン総帥より下だからな。人心掌握の最たるギレン閣下が負の思念体である貴公に敗北した。その理由は統治者で解決できる問題ではないからだ」
マ・クベは傍にある椅子にそっと腰を下ろした。
「さて、マーサのことを手伝うにしても貴公と同行となると人類が滅ぶな」
フロンタルはマ・クベは事態を悟っていることを自覚した。そして敢えて質問を投げかけた。
「では、どうするかね?」
「無論見届けるつもりだ。ここはもう誰もいないからな。ただし・・・」
「ただし?」
「この実験体達を連れていく。貴公の素体は無理としても他は使えるからな」
マ・クベは資料を漁り始めた。フロンタルはそれ以上は聞かなかった。
何かあろうが返す刀で屠れば良い、そう思っていた。ゼウスとそのシステムをフロンタルが掌握するまではフロンタルと言えどマ・クベを粛正する気はなかった。マーサの不興を買う恐れがある。それでは計画が延びてしまう。
ゼウスを構築するように促すに至る道筋を付けたのも、フロンタルによる数々の張り巡らした糸が引っかかった成果だった。この時代のこの戦争に生きる野心多き亡者たちに餌を与えることで、たまたまギレンが食いついた。マーサをいう不幸な女を輿に乗せて、順調に行っていたがここにきて予想外だったのが、自身の体だった。体を騙すにも限度がある。
シロッコは使命感持って行動を移していることは聞いていた。それに間に合うように動くことができれば自身の大願も叶うと思っていた。コインの出目がどう出るかはその時考え、シロッコが言う荒療治で人類が覚醒するか、または絶望に陥れられるか、どちらにせよパンドラボックスには役立つ。
例え100%でなくても、地球圏を破壊しつくせるだろうとフロンタルは踏んでいた。
フロンタルには完全なる破壊願望しか存在していなかった。しかも一挙に。
フロンタルはマ・クベを残し、研究施設を後にした。
マ・クベは気配だけを見送り、自分を嘲笑った。
「・・・フッ、私は何をしたいのか分からなくなっているな。一定の成功と一定の忠義、一定の遠望を見てしまった私は人生などつまらんものだと自覚してしまった」
では何故生き続けているのか?と自分に問いかけた時、トルストイの哲学の問いを考えた。
「人は何故生きるのか、だ。その答えを知ってから死ぬとしようか・・・」
人は究極な意義を求めようとすると、根本に立ち返るものだとマ・クベは思った。
それはきっとフロンタルも同義なのだろうと。
* ア・バオア・クー宙域 シロッコ艦隊 旗艦ドゴス・ギア
サラミス、マゼラン、アレキサンドリアと数多くの艦が犇めく中、それを凌駕する大型戦艦が悠々と星の海を巡行していた。
艦橋ではシロッコが立ったままで、後ろではおどおどしているジェリドが居た。
「ちゅ・・・中将・・・。ジオンの勢力圏ですが・・・」
シロッコの傍にいるメシアが仮面の下からクスッと笑った。シロッコはジェリドの狼狽えに叱咤した。
「ジェリド君!君は選別されたものだ。私の行動に失敗はない。それには裏付けがあるのだ」
「裏付けですか・・・」
「メシアがジオンは最早存在しないと悟っている」
「なっ!」
「私はメシアと会話ができる。彼女の能力はケタ違いだ。その彼女の力がジオンの消滅を示唆した」
ジェリドは唸っていた。理屈で分からない事を今までも体験してきたのだが、根拠がなさすぎる。
確かに自身の感性でもこの世界の危険を感知しているが、未だ対岸の火事の様な感覚でしかない。
「シャアとアムロ、そしてこのメシアでは既に世界を救いきれない状態になってしまっている。遡及性ある行動を私が礎になって世界の道標になるしかないのは前から話していたことだ」
「・・・ジオンの事はよくわかりませんが、端折り我々は何をするのですか?」
その質問にシロッコは答えた。
「ア・バオア・クーを地球へ落とす」
「!!」
「それと同時に各宇宙要塞の占拠とその小惑星を爆破破壊する」
「な・・・なんですと・・・」
「元々、あんな拠点があるから戦争など幅を持たせてはバカなことを考えるのだ。それを扇動する地球に休んでもらう」
質量ある隕石が地球を攻撃した際には天変地異クラスの災害に見舞われ、もはや死の星と化す。
スペースノイドの完全なる自立だ。しかし、資源も乏しい宇宙空間で一体どれだけの犠牲者が出るかは想定できない。
歴史上最大の悪行となるだろうとジェリドは息を飲んだ。それについてジェリドは反対しなかった。シロッコに付いて行くときに約束したからだった。しかし、他の将兵、カクリコンやエマはそうではない。
「中将・・・。皆が付いてきますか?」
「皆には了解は取ってある。寧ろ、この部隊の皆が地球にしがみつくことない自立派閥者で構成されている。私の選別した将兵に狼狽える者はいない」
「カクリコン、エマも知っているのですか?」
「彼らはお前から伝えるのだな。但し強いることはせんでよい」
「しかし・・・バスク中将が艦隊を持っています。彼らがいる限り、ルナツーやソロモンは抜けません」
「彼らはエゥーゴとの決戦前でこちらの動きなど関知していない。ダカール議会で決着を付けるために地球軌道圏内で布陣している。バスクのお抱えのほとんどだ。それにシャアのネオ・ジオンとサイド1からのロンド・ベル、そして月と地球からのエゥーゴ、カラバが集結して成り行き次第という様相を見せている」
「今回の議会でカタを付けると」
シロッコは軽く頷き、艦長席へ腰を下ろした。
「連邦は長い戦争で宇宙に住む者の要求を悉く跳ね返すつもりだ。そして移民計画を一からやり直す。サイドに住まう者達を強制的に従わせる。飲まないものは粛正される。その為のバスクの大艦隊だ。彼が全ての従わないサイドを破壊しつくす手筈だ」
すると、斥候から戻ってきたマウアー・ファラオ少尉が艦橋に入って来た。
「将軍。ア・バオア・クーの進路は本当にクリアでした。まるで墓場の様な雰囲気です」
「そうか、ごくろう」
マウアーはジェリドの隣まで歩み寄り、腕を組んできた。
「なあに、怖い話をしているのかな~?」
マウアーは悪戯っぽい仕草でジェリドに話し掛けた。ジェリドはシロッコの手前、その腕について怒った。
「マウアー!上官の前だぞ。公私を弁えろ!」
「はあ~い」
マウアーは少しふて腐れてジェリドから離れた。
マウアー・ファラオ少尉は地球で補充された新兵であった。教育役としてジェリドが指名され、手解きをするうちにマウアーはジェリドの男気に惚れていた。その様子にシロッコはクスクスと笑っていた。
「すみません。良く言い聞かせますので・・・」
「いや・・・、それぐらい和やかなことがあってもいいだろう。さて、このままコリニーの思惑で事が運ぶと、人類は過去最大の閉塞感に見舞われるだろう。それを止めるエゥーゴに助力する訳でもないが、我々も違う視点より彼らを攻めることが大事になってきたわけだ」
「・・・八方塞がりの様な体ですな」
「そうだ。奴らも大悪事を、我々も同様なことを敢行しようとしている。我々の行為は連邦の息の根を止めるに相応しい行動になる。彼らは地球有ってのことだからな」
そして、艦橋に更にカクリコン、エマ、サラと入って来た。
「よう、ジェリド。モビルスーツ隊のスタンバイOKだ。将軍が都合したメッサーラを主軸ですぐにでも出かけられるぞ」
ドゴス・ギアを旗艦とするシロッコ艦隊の主力は可変系MSのメッサーラ・カスタムだった。規格をコンパクトにかつムーバブルフレームを最大限に活用してとても扱いやすく安価に仕上がった。その為、強度の部分ではメッサーラより劣る部分があった。勿論サイコフレーム搭載機だが、その利用はかのνガンダムと同様なコックピット周囲に限定した。。
他にも索敵隠密仕様でボリノーク・サマーン、重火器長距離、対戦艦仕様でパラス・アテネ、そして近接戦闘仕様のシロッコの愛機ジ・Oも搭載されている。シロッコは勿論ポリノーク・サマーン、パラス・アテネ、そしてジ・Oも日々改善を重ねていた。
シロッコは艦隊に向けて、士気向上とこれからの事を説明する為に演説のマイクを手に取った。
「・・・艦隊で日々労苦を共にしている諸君。パプテマス・シロッコ中将である。貴官らの決意には敬意を表すにあたり、その決意を揺るぎないものにする為に今ここで事の成り行きを説明する」
ジェリドはシロッコが自分へ語った事を大体述べるつもりだと思った。確かにこんな八方塞がりな事態で人類を救うには誰かが礎にならなければならない。しかし、その結論を述べるつもりはきっとないだろうと思った。
「連邦議会が招集され、ある決断を政府がすることになる。それは世論を無視した極めて愚かな行為だ。彼らは宇宙に住む者たちを切り捨て、一から立て直すつもりだ。しかも自分らの意のままに。我々は断固戦わなければならない。しかしエゥーゴには付かない。何故なら彼らもまた連邦政体に根付く半端ものだからだ」
アアレクサンドリア級の巡洋艦の艦長席でシーマが足を組んでシロッコの演説を見入っていた。
「・・・シロッコよ。見せてくれるねえ。ようやくあたしに死に場所を与えてくれるのか」
そう呟くシーマに傍にいた副官のデトローフ・コッセルが息を飲んだ。
「(段々・・・悪くなっている・・・)」
この頃のシーマは精神的に頗る病んでいた。シロッコの調整で彼女の心の均衡が保たれていた。
そして常に死地を求めるようになっていた。
「我々は宇宙に住む者の怨念を持って、連邦政府に鉄槌を喰らわす。今の政体を崩し、溜飲を下げ、人類がようやく新たなステージへと立つ時が来たのだ。連邦という籠から巣立つため、地球に依存するティターンズ、エゥーゴを倒すため、地球にア・バオア・クーをぶつける」
兵士達にざわめきが起こった。シロッコは話しを続けた。
「この戦争の勝者が今の連邦内であってはならない。政体は変わらない。連邦は敗者にならなければならない。人類が連邦を倒し、人類の革新の為!皆の力を私に貸して欲しい」
兵士らから「そうだ!連邦政府が体たらくだからこんな事態になっているんだ!」「政府を倒し、地球依存から解放するぞ!」など様々な歓声が上がっていた。
「諸君。私は常在戦場、陣頭に立ち、君らを導くことを確約する。成功の暁には君らが新しい世界を創るのだ。私はそれを期待している。以上だ」
シロッコは通信による演説を終えた。案の定ジェリドの思った通り、フロンタルの件は伏せられた。
通信士より「もうすぐア・バオア・クーに接舷します」との報告が入った。
ジェリドは気が付かなかったが、確かに肉眼でもア・バオア・クーを見ることが出来た。
「よし、最高の質量兵器だ。ア・バオア・クーを中央部で2分割して一つは地球へ、もう一つはルナツーへぶつける。そして、無力化し占拠。シーマ艦隊はソロモンの占拠だ。2個のブラフが防がれても最後にこのア・バオア・クーで仕留める。各自、事を的確に進める様に」
シロッコの号令で艦隊がそれぞれ動き出した。ルナツーとア・バオア・クーとの距離は地球の裏側にある。ア・バオア・クー程の質量がルナツーで貫く。残存艦艇らの被害と混乱が相当だと想定した作戦。
ソロモンは元々、手薄で1個艦隊で石ころの核パルスエンジンに火は入れられる。
次いで、ルナツーも同様に出来れば、3方位による隕石作戦となる。
コロニーよりも質量や比重の大きさが桁違いな石ころはあらゆるコロニーレーザーなども
問題としない。
進路がティターンズ勢力圏故に信号も掴まれながらも余り怪しまれることもない。彼らの神経は全てエゥーゴ、そして全てのコロニーに向いている為であった
。
カクリコンがジェリドに何か掴み切れないような表情で話し掛けた来た。
「なあジェリド?」
「なんだ」
「オレたちは結局悪役のまま終わるのかな?」
「お前の人相的にそんなもんだろ」
「茶化すな。市民弾圧から地球潰し・・・。救われないなオレら」
するとエマが割って話してきた。
「あら、カクリコンは何に救われたかったの?」
「いや、少しは正義の味方してみたいなあとか、善行詰んでないからさ。こりゃ地獄に堕ちるなってね。軍隊って敵から市民を守ったりするじゃない?真逆なことをして報われるよりは報いを受けるな・・・」
「因果応報ね・・・。大した人生送っていないし、これからも大したことできそうもないし。いいんじゃない、人類の敵っていうのも」
「おいおいエマ・・・本気で言っているのか?」
「全ては泡沫・・・夢想の中で私たちは燃え尽きる。正義の味方って中々難しいけど、無名よりは悪名の方が映えるわよ」
エマの達観した言い回しにカクリコンはお手上げだった。
「参った・・・。救われたいなんて意味不明な想いはただの甘えみたいだな。大人の言うことじゃない」
「そうねえ。そう思うことがナンセンスだと思うわ。大人子供って括りに囚われる事無く、課せられた役目を演じてみるのも一興よ」
「地球潰しをか?」
「そう。何でも先駆者は変人扱いされてきたから、何が本当に人類の為なのか?そんなことは誰にも分かる訳が無い」
ジェリドがエマの言葉に頷いて話し出した。
「だから、絶え間なく動き続ける必要がある。どのショックで世界が変革するか?このままではただ衰退しかない。それを常に考えていかなければならない」
「ふーむ。そんなスケールの事をオレら考えないといけないのか?無茶だろ・・・」
「確かにな。しかし置かれている状況が、一生飼い殺しの番犬のままか、ユートピア創造という苦行に挑むかだ」
「私は番犬なんて嫌よ。繋がれるなんて趣味じゃないし」
「オレもだな。嫌な事を取り払うために地球を潰すか・・・」
「ああ。結果そうなっただけだ。あんまり罪悪感なんて考え過ぎるな。その昔恐竜が滅んだのも隕石による災害だと推測がある」
ジェリドが故事を持ちだした。それにカクリコンがキョトンとした。
「そうなのか?」
「あくまで推測だ。それが仮に人為的でも、我々も自然の一部。地球に隕石が落ちてしまっても、それは自然な事なんだ」
エマはジェリドの論法に笑った。
「アッハッハッハ・・・ジェリドはとんだペテン師ね。それならあんまり気が病まないわ」
「確かにな。オレらはあくまで観測者だ。この事でみんなの反響に期待しよう」
その話を黙って聞いていたシロッコは瞑想し、彼らは生き残るようにと祈った。
* 月 フォン・ブラウン市 アナハイム工場 2.29
アムロとシャアはテムに呼ばれ、工場に来ていた。
両者ともスーツ姿で軍人というイメージを取り除いていた。
「ここも色々目があるからな」
アムロは工場内通路をテムとの待ち合わせの格納庫へシャアと共に歩いていた。
「君のお父さんは何故私までも?」
「さあな。ただオクトバーがなんか企んでいたのは聞いていた。君のことを少し話題に上がっていてな」
「私の話?」
「君の百式を作ったナガノ博士にオクトバーが色々ダメだししたらしい。100年安心設計も時代錯誤だと。それでナガノ博士は親父の下へ赴き、シャア専用のカスタム機を都合したらしい。ベースはギラ・ドーガらしいが・・・」
「そうか。百式も先の戦いで修理不能になっていたからな。丁度いい」
2人は目的の格納庫のドアへ辿り着いた。するとそのドアが勝手に開き、中からオクトバーが迎えに出てきていた。
「お疲れ様ですアムロさん、シャアさん」
オクトバーが2人に握手を求めてきたので、2人とも交わした。
「ところでオクトバーさん。親父は?」
「ああ・・・、あちらです」
オクトバーが指を指すとテムがそこに立っていた。技術スタッフにあれやこれやと指示を出していた。
その傍にはスタッフが今も整備している白い巨体があった。アムロがテムに声を掛けるとテムが気が付いてニンマリと笑った。
「どうだアムロ!このガンダムは」
「ああ、とてもきれいだな」
アムロはまさかまたこのガンダムを見ることになるとはと感慨深かった。
「アレックスのデザインをほぼ引き継ぎながらも各所をサイコフレームで設計した最高傑作。RX-93νガンダムだ」
そうテムがアムロに伝えると、アムロはその隣の深紅の機体を見て唖然とした。
「な・・・なんでこんなのが並んでいる!」
アムロの驚きにテムが高らかに笑った。
「ハッハッハッハ・・・。最早隠すこともないだろう。ジオン仕様の機体もアナハイムはノウハウがある。というよりもナガノくんがシャアの起源から立ち返って作ったのだよ。彼は赤い彗星だと。ナガノくんは多忙でね、この場に居ないが宜しく言っておいてくれと言っていたよ」
アムロの隣にいたシャアが満足そうな顔をしていた。
「この赤いのが私のだな。ギラ・ドーガの性能には感服した」
「ああ、こいつはそれを凌駕する性能だ。仕様としてはこのνガンダムと遜色ない。元々、ジオンで作ってあった試作機ヤクト・ドーガのバージョンを上げたものでもあるからな。MSN-04サザビーだ」
アムロはかのアクシズでの戦いを思い出していた。
忌まわしいシャアのモビルスーツだが、それが共闘する。これ程心強いものは無いと。
「ありがとう親父。これでエゥーゴとティターンズの戦いが終わらせることができる」
「そうだな。スペースノイドの自立をより強固なものにできるだろう。抑止力、防衛力としてはこのような機体は大事だ」
テムはアムロとシャアを見て頷いていた。
「・・・かの赤いのと一緒に息子が並ぶとは、時代も変わったな」
テムの言にアムロもそう思った。交じり合うことがあるはずがない両者がこの時代で見事に重なり合っている。前は何がまずかったのか、それを思い返してもアムロにはよくわからなかった。
シャアはテムの言に対して、感想を漏らしていた。
「・・・私は過去に囚われていた人間でした。しかし周囲の環境の変化が私の頑ななところを取り除いてくれました。ご子息にも大変助けられました。彼との出会いは私にとってかけがえのないものだったのは確かです」
アムロはシャアの飾らない言葉に衝撃を受けた。成程、人との交わりの大切さはそういうことなんだと。
以前の世界のシャアは頑なだったのだ。あまりに型にはまり過ぎていた。今のシャアはとてもフレキシブルだ。ガルマと共に融和と協調、時には武力でと様々な手段を上手くバランス良く用いる。自殺願望、自己陶酔とはまるで無縁だ。
テムは腰に手をやり伸びをした。それから2人に両機のテストプログラムを伝えた。
「それじゃあテストといこうか。このまま納品する訳にはいかないからな」
「ああ、宜しく」
「レイ博士、宜しくお願い致します」
そう言って、3人は格納庫のドアからテムの研究室へ足を運んでいった。
その出ていく姿をオクトバーは見送っていた。
「・・・連邦とジオンのエース同士がタッグを組むなんて無双だな」
そうオクトバーは含み笑いをして、テムの代わりに整備班に指示を出していた。
* 地球 パリ市内 3.4
カイはホテルの一室にてガエルと会合していた。
この会談自体も隠密だった。
ミハルが紅茶を入れて、カイとガエルに給仕した。
「ありがとう」
ガエルがミハルにお礼を述べると、ミハルは「どういたしまして」と答えた。
カイは単刀直入に話し掛けた。
「で、ガエルさん。私に何の御用で?」
ガエルはカイの目を真っすぐ見据えて話し始めた。
「・・・主人のサイアムより、あるものを連邦議会へ持ち込んで発表して欲しい。その為のパイプを取り次いでもらいたい」
「その代物は?」
「真の連邦憲章です」
カイの眉が吊り上がった。
「真の?今あるものとどう違うのか?」
「最後の条文が連邦政府が現状の連邦政府の在り方を否定し、世界は選択を迫られるでしょう」
「・・・文章でか。今の態勢が変わるとは思えんが・・・」
「ええ、変わるとは思えません。ただ人類に道標を持たせることができます。連邦政体打倒も肯定されます」
カイは腕を組んだ。これは唯の演劇、オペラの様な代物らしいとカイは思った。このジョークに付き合ってくれそうな暇な重鎮が一人だけ心当たりがあった。
「・・・ゴップ議長だな」
「は?」
「中立派のゴップだ。彼ならそんなイタズラに付き合ってくれるだろう。取り次いでやる」
ガエルはカイの話に少し間を置いた。主人の命は絶対だ。果たせない時は死で報いるが、果たせないことが死んでも死にきれない程ガエルは忠臣だった。ガエルは主人の言葉を思い出した。「カイ・シデンにジョン・バウアーを取り次いでもらう」という言葉を。
「・・・カイさん、私は主人よりバウアー氏に取り次いでもらうように言われております。それで議会に持ち込めると」
「あー、バウアーはダメだ。彼も黒幕ながら中立気取りだが、損得勘定してしまう。ゴップはその点長年巣窟に住みつき、考えが突き抜けている。そして何より議会で一番融通が利く。バウアーやコリニーがダメと言えない人物だ。彼が面白いと思えばそれで事が済む」
ガエルはカイの話を黙って聞いていた。主人の読みが甘かったのか?主人も人である限りは誤りはあるだろうとガエルは考えた。ここはガエルの決断に掛かっていた。主人へ連絡する程最早時間は無かった。
ガエルは決断した。主人の最終的な望みはあの憲章の議会公開。
「分かりました。カイさんに任せます。まずは憲章を運び入れるにルート確保からゴップ議長通じて宜しくお願い致します」
カイは頷き、紅茶を互いに一気に飲み干した。
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