逆襲のアムロ
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28話 グレミーの岐路 2.23
前書き
あんまり話は進行しておりませんが、
どうぞ。。。
* サイド2・サイド6 境界宙域ミンドラ艦橋 2.23
シャアの反撃、並びネオジオンの設立により、グレミー軍は徐々に前線を押し込まれていった。
グレミーはサイド6に残してある本隊を呼び寄せ、決戦を挑んだ。
当初はグレミー優勢だったが、ブライトが運搬し、旧ゼナ派、シャアの部下たちが操るギラ・ドーガが
少数精鋭を文字の如く表現していた。
「これ以上は進軍させるわけにはいかない。ここで撃退する」
グレミーは艦橋で演説し、サイド6に展開していた全てのエンドラを結集させた。
それに搭載してあるモビルスーツで向かってくるアクシズの部隊へ防衛ラインを敷いた。
多少の連戦も苦にしないギラ・ドーガの性能はそれに劣るグレミー軍を後手に後手にと回していった。シャアの百式もグレミー軍のガサやバウを次々と戦闘不能に追い込んでいった。
「なるべく撃墜は避けよ。元は同胞だ。ラルとアポリー、ロベルト、ジーン。お前たちは天底から回り込んで、退路を断て。デニムはスレンダーと私が撃ち損ねた機体の処理だ」
「了解です」
「大佐頼みます」
アポリー達はブライトが運搬してきたギラ・ドーガに乗り、その機体性能を存分に発揮していた。
それに加え、全ての操縦者が7年前より活躍していた熟練者。その技量もあってシャアの部隊は1機たりとも撃墜されていない。
そんなシャアの精鋭部隊の危惧するところは連戦による補給の問題だった。
快進撃もこの一戦で終わり、アクシズの安全を確保できるシャアは考えていた。
グレミーもバウに搭乗し、前線で指揮を取っていた。
「怯むな!バウ部隊、ガサ、ガ・ソウム部隊共に押し返せ」
グレミーの傍にビーチャの乗るゲーマルクが寄ってきた。
「グレミー!ダメだ。敵の機体性能、技量に差が有り過ぎる。このゲーマルクでもやっとだ」
グレミーは唸っていた。才能がモノを言わす時代に来ていたと思っていた。経験がそれを埋めると。経験というものは遥かに優れていた。
「・・・ある天才と呼ばれた科学者が言っていた。1%の才能さえ有ればよいと」
グレミーがそう忌々しく呟き、戦況を眺めては各隊へ指示出しをしていた。
ジュドーとプルツーの部隊は天底から回り込む敵部隊を牽制すべく、その宙域に部隊を動かしていた。
ジュドーはZZをプルツーはグレミーの切り札と呼べる大型モビルスーツ、クィンマンサに搭乗していた。
向かってくるギラ・ドーガは7機、内一機は青い色で塗装されていた。
「青い巨星だぞ、ジュドー!」
「分かってる。ジオンのエースだ。油断するなよ」
ジュドーはビームライフルを放った。ギラ・ドーガは避けるため散開した。その動きにプルツーが大型とは思わせない程の機動性を見せ、1機のギラ・ドーガの背後に回っていた。
「もらったー!」
既にサーベルを構えていたプルツーはジーンの乗るギラ・ドーガを頭上より打ち下ろしていた。
「なっ!やらせるかよ!」
ジーンは横に捻らせ、紙一重でプルツーの攻撃を避け切った。
「避けられた!」
プルツーは驚いたが、その空振った攻撃した腕をジーンの避けた方向へしならせた。
それにジーンのギラ・ドーガは両腕で掴み抑えた。
「ぐぐっ・・・」
ジーンのコックピット内に衝撃が伝わった。クィンマンサとギラ・ドーガの機体のスケール差には大きな違いがあった。その受けた衝撃で、ギラ・ドーガの両腕の機能が失われた。
「ちい・・・まさかこの衝撃で使えなくなるとは・・・」
ジーンはそれでもその掴みを解く。
「これも受けきるのか!」
プルツーは敵の新型の性能に驚いた。ジーンが即座に後方へ下がると、ランバ・ラルと他のギラ・ドーガらがプルツーの背後より実弾攻撃を仕掛けてきた。その数発がクィン・マンサに当たっていた。
「うわあっ・・・っく・・・ちくしょう」
プルツーが唸り、クイン・マンサを反転させてファンネル、各部メガ粒子砲を放った。
ランバ・ラルが攻撃してきたクィン・マンサに各モビルスーツへ指示を出した。
「敵の攻撃は距離がある。当たるなよ」
ランバ・ラルの言う通り、距離があるためメガ粒子砲は各機とも当たらなかった。しかしそれが陽動による本命のファンネル攻撃に各機対応が遅れ、ギラ・ドーガが小破する機体が出た。
「サイコミュを活用しろ。今の技術ならば技量によってはフィードバックされて反応できるぞ」
この頃のサイコミュの技術はフロンタルシステムのパンドラボックスと同様に意識の汲み上げが安易になり、通常の人でも作用ができるようになっていた。
しかし、それは本当のニュータイプと呼ばれるものとは程遠いのでファンネルの様な遠隔兵器の利用まではいかない。せめて自己防衛になるぐらいの代物までしか技術では達成することができなかった。
サイコ・フィールドまで発することのできるニュータイプとなると並のサイコフレーム搭載機でも中々太刀打ちはできない。それでも戦い方によっては何とかなったりする。
例えば、それを打ち負かす程の火力をぶつける。一瞬でも凌駕する集中力で攻撃する。または敵の集中力が途切れるほどの攻撃をする。
ランバ・ラルはクィンマンサへ接近戦を仕掛けた。ビーム・アックスでクィンマンサの左肩を攻撃したが、見えない斥力により軽く弾かれた。
「やはりサイコ・フィールドか。雰囲気はあったからな」
ランバ・ラルはスーッと精神を統一させて、この機体の肩を壊すと念じて再び攻撃を仕掛けた。
その気迫にプルツーが悪寒を感じた。
「(何だ・・・やられる!)」
プルツーはサーベルでランバ・ラルのギラ・ドーガに応戦をしたが、その動きが大振り過ぎて難なく避けられてしまった。
「取った!」
ランバ・ラルを叫び、クィン・マンサの左腕を切りつけた。クィン・マンサの左腕の一部が爆発した。
「きゃあ!」
プルツーが悲鳴を上げ、反射的に後方へ機体を下げた。
ランバ・ラルは追撃をかけたがその刹那、ジュドーのZZがランバ・ラルのギラ・ドーガに肉薄していた。
「青い巨星さん。がら空きだぜ」
ジュドーはサーベルでランバ・ラルの脇を打ち抜こうとしたが、それをランバ・ラルはアックスで振り向かずに受け止めた。
「何ィー!」
ジュドーは驚愕した。後ろに目が付いているのかと思った。
「フン!ヒヨっこが。お前などアムロの様な実戦を知るニュータイプとは程遠い」
「アムロ・レイと・・・。そんなに違うのか!」
「ああ、違う。アムロもシャア大佐も、お前たちとは全く違う。子供の遊びとは違うのだ」
ランバ・ラルの気迫がジュドーを圧倒した。ジュドーは近距離でライフルを数発放ち、ランバ・ラルを牽制し後退させた。そして損傷したクィン・マンサへ近づいた。
「大丈夫かプルツー」
「ああ・・・問題ない」
そうプルツーが言っていたが、この宙域の制空権は明らかにランバ・ラルの方に分が有り過ぎた。
それは2人とも直感で分かっていた。
一方のランバ・ラルも状況を理解し、アポリー達に「近接戦闘は避けて、狙撃による攻撃で敵を殲滅させる」という手法で徹底させた。
こうなるとジュドー達は数に勝る敵の弾幕に成す術がない。その距離が徐々に詰められてきている。
「どうする、ジュドー!」
「分かってる!ええい、一旦後退だ」
「でも、退路が断たれるよ!」
「グレミーは既に行動を起こしている。全部隊を徐々に後方へ下げている」
「元々はこれもその時間稼ぎか・・・。わかったよジュドー」
ジュドーとプルツーはありったけのメガ粒子砲をランバ・ラル隊へ放った。
ただの目くらましだったが、それに当たる訳にもいかなかったので回避行動を取った。
「ん?敵が逃げるぞ!」
ランバ・ラルは各隊に伝達した。しかし、ロベルトが各ギラ・ドーガの燃料について示唆してきた。
「隊長、私も含めて動き過ぎました」
ランバ・ラルは自身の燃料ゲージを見ては苦虫を潰した様な顔をした。
「・・・連戦連勝が響いたか。確かにな、私のも燃料ゲージがギリギリだ。あ奴らの動きに対応する為には燃費が悪い相手だな」
ランバ・ラルは一息付いて、各ギラ・ドーガへ帰投を促した。
「取りあえずは一定の成果を得た。敵の後背を脅かし、一方的なアクシズ寄りな前線問題も解消された。サダラーンに戻るぞ」
ランバ・ラルはふとある考えが浮かんでいた。グレミーの動きであった。
グレミーの作戦が負けてもただでは転ばない。縦深陣の様な体で反撃の機会を狙っていたのではとランバ・ラルは考えた。
「最新鋭で勝ち過ぎた我々の士気を利用しての補給線の限界を狙ったのか・・・」
ランバ・ラルはシャアの部隊に無線で警鐘を鳴らした。
「後は大佐の手腕のみだな。まあ、気づかない大佐ではないとは思うが・・・」
一方のシャアは数で凌駕されながらも、性能で圧倒している百式を縦横無尽に戦場を掛けていた。
その動きにグレミーが固唾を飲んで見守っていた。
「(もうそろそろだな・・・)」
シャアは自身の燃料ゲージを見た。これ以上の戦闘は旗艦への帰投できるかギリギリだった。
「ここまでか・・・。各自牽制しながら後退せよ」
シャアは自身の部隊の活動限界を読んでいた。しかしそれはグレミーも同様だった。
シャアの攻撃が弱まったところで、グレミーは一転攻勢に出た。
「今だ!各隊、後退する敵に逆撃を与えろ!」
グレミー自身のバウも発進させて、後退する百式、ギラ・ドーガに向けて部隊が鶴翼陣形の状態で急速に包囲網を築き上げようとしていた。
「(まずい!)」
シャアは直感で隊の迅速な撤退を促した。殿は自身が務めたため、百式のみが容易く捕捉された。
「ええい!」
回り囲むガサ、ガ・ソウムらに集中砲火を百式に目がけて浴びせられた。
百式のバイオセンサーがシャアの感応波を受け取り、それらを紙一重で躱しながらガサらを撃墜していった。
「こちらがやられてしまう。命を取られるならば已む得まい」
今まで撃墜を避けた攻撃だったが、グレミーの攻撃は百式の撃墜だったため、シャアは向かってくる全てのモビルスーツを撃墜していった。
8機目のモビルスーツを撃破した時点で、シャアの後背にビーチャの乗るゲーマルクが迫っていた。
「貰ったぜ!金色ー!」
ゲーマルクのビームサーベルを百式に目がけて振り下ろした。
「なっ!」
シャアは余りの猛攻にビーチャの存在を気付き遅れた。
シャアは百式の右腕一本を犠牲にしてその攻撃を避け切った。
その後もシャアへの攻撃が続く。今度はグレミーのバウのライフルが百式の左足を撃ち抜いていた。
「後ろもか。まだできるはずだ」
シャアはビーチャのゲーマルクへバルカンで攻撃した。
「ハハッ、そんなおもちゃでビーチャ様に勝てるかよ!」
ビーチャが侮った瞬間に、シャアは後方のグレミーへバックしたまま突進した。
「何!」
後ろ向きで来る百式の動きに虚を突かれたグレミーだったが、唯の暴挙だと理解して百式に目がけてライフルを放った。
「(当たれよ)」
シャアはそう念じて、グレミーの射撃を体を捻らせて避けた。その射撃は丁度射線上にあったビーチャへ直撃した。
「何!うわあっ」
グレミーの一撃がビーチャのゲーマルクのメインカメラを撃ち抜いた。
グレミーは憤り、百式に改めて攻撃した。周囲のガサたちも百式に殺到する。
シャアは次の行動を取ろうとしたとき、アラームが鳴った。
「なっ!パワーダウンだと!」
燃料ゲージが尽きかけていた。
最早万事休すかと思った時、百式を取り囲む敵機が次々と撃墜されていった。
シャアは索敵モニターを見た。すると友軍の信号をキャッチできた。
「フフ・・・どうやら助かったようだ」
グレミーも索敵モニターと望遠カメラを通じて新手を確認し、追撃を諦めた。
「どうやらここまでのようだ」
百式を取り囲むモビルスーツはキュベレイと青いリゲルグによって撃ち落とされていた。
キュベレイが被弾した百式に近寄った。
「大丈夫かしら、大佐」
「ああ、無事だハマーン。あのリゲルグは?」
「ガトー少佐よ。ラルさんから無線が入って駆け付けたの」
「そうか。いささか調子に乗り過ぎたようだ。まだまだ若いな私も・・・」
「でも、大した戦果だわ。私ではここまではいかない」
「私には優秀な仲間がいる。彼らを信じて、彼らに助けられて今ここに居れる」
「そう・・・。私はそういう者が居なかった」
「君はマハラジャ提督のご息女だ。こうやってキュベレイを操っては私を助けることができた。君なら私以上にやれるさ」
「大佐よりも?」
「ああ。君には私と違った人を惹きつける魅力を感じる。まあ発展途上だから焦る必要もないさ」
「もっと大佐と早く会っていれば良かったなあ~」
ハマーンは少しふて腐れていた。音声だけながら、その様子にシャアは笑っていた。
「ハッハッハッハ。私にはナナイがいるからな。済まないなハマーン」
「いいよ。人類の半分は男性だし。大佐よりいい男、沢山いるさ」
「フフ、そうだな。さて帰ろうか」
ハマーンはガス欠な百式を抱えて、サダラーンへ帰投していった。
* サイド6宙域 ミンドラ艦橋
決戦を仕掛けながらも、手痛く敗走したグレミーはサイド6宙域まで戻っていた。
それから本国へ連絡を取ったが通信士から本国のズム・シテイとの通信が途絶していることを告げられた。
「・・・本国と連絡が取れないだと」
通信士からの連絡にグレミーが怪訝な顔をした。傍にいたジュドーがグレミーの肩を叩いた。
「なあグレミー、嫌な予感がする。そのサイド3の方向からだ」
グレミーは振り返り、ジュドー見た。
「どういうことだ?」
「何とも表現難しいけど、サイド3方面からの意識がまるで絶望しか感じない。行くと死ぬぞ」
グレミーはジュドーのニュータイプ能力を高く買っていた。そのジュドーが感じる直感をグレミーは無視はしなかった。グレミーはスッとジュドーの傍を通り、艦長席に座った。
「わかった。ジュドーの意見を是とする。通信は3時間に1回打て」
席の傍に立っているプルツーが質問した。
「これはどういうことなのか?」
「一つは我々を切り捨てたこと、一つはギレン総帥の失脚、最後はギレン総帥が鬼籍に入ったかだ」
「なっ!」
プルツーが動揺した。グレミーがそれを見て補足した。
「ジュドーの直感でサイド3には死の危険が迫るほどの威圧感があると。それを汲むと一番最後が適当かもしれない。すべての検討にせよ、当てはまれば我々はサイド3には近づくことは自殺行為かもしれない」
「じゃあどうするのさ。補給は?拠点は?ボスは?」
グレミーはプルツーを見た。そしてジュドーや周りのクルーにも視線を向けた
グレミーの判断を皆が待っていた。
「(さて・・・、一応は自活はこの制圧したコロニーの数バンチの食料プラントで補えるが、政治体制を整えねば唯の愚連隊だ。体勢が整うまでは箝口令を敷いて対応するかどうか・・・)」
グレミーは当面の方針を決断すると、ブリッジの皆に伝えた。
「まずは・・・、予測でしかないがジオンはサイド3にある。ギレン総帥の消息不明だが、今のところ旗頭を変える理由はない。戦闘の士気に関わることは明白だが、我が軍はアクシズの戦力と比べればまだ優勢だ。サイド3への偵察を怠らず、我が部隊の恒久的に自活しうる経済圏を確立するように目指す。元々、これが目標だったからな」
グレミー軍の全てはグレミーへの忠誠を誓っていた為、彼の覇道に付いてくる者がほとんどだった。それをギレンは敢えて放置していたのは前話の通りだった。
「アクシズとの当面の戦闘は行わない。ただ、向こうから小突いてきたら叩きのめす。その間にこのサイド6の全てを掌握し、月、ア・バオア・クーと繋げ、サイド3を手に入れる」
ブリッジクルーが皆感嘆を漏らした。「やっと我々が地球圏に帰れる日が来たんだ!」「グレミー様やりましょう!」等、アステロイドベルトでの不毛な日々を過ごしてきた者達の士気が高まっていた。
グレミーはそれを手で制して、当面の険しい事情を彼らに伝えた。
「このサイド6は元々、得体の知れない経済特区だ。バンチも我々が制したものの10,20倍見当もある。その支持を取り付けるには様々な搦め手で攻めていかなければならないだろう。彼らの弱みを見つけ、利をみせる必要がある」
グレミーがそう述べると、負傷したイーノがエルに抱えられながらブリッジに入って来た。
「・・・ブリッジでの話はイヤホンでずーっと聞いていたよ。交渉事ならば、僕が最適だろう」
「イーノ!余り動くと体に悪いって医者に言われたろ」
エルが心配そうにイーノに話し掛けた。イーノはエルに微笑んで、
再びグレミーに伝えた。
「僕がやるよ。任せてくれグレミー」
「・・・」
グレミーは暫く考えた。確かにビーチャ達の中では適任だが、経験と若さが足りなすぎる。それを裏付ける根拠をイーノに尋ねた。
「イーノ。君が言うには何は当てがあるのかな?」
「勿論だ。モンドと僕は無駄に休んでいた訳じゃないさ。ジオンの名前、グレミーの威光を借りて、伝手を探し出したのさ」
「それは誰だ?」
「アナハイム・エレクトロニクスの技術士官、メッチャー・ムチャさ。アナハイムの節操の無さは世間が知る所、社内でも黙認している。稼ぎになるとちらつかせれば簡単に食いついてきた」
「ふむ・・・。早速搦め手だな。わかった、君たちに任そう。パイプを作れば補給にも役立つ」
「了解だ。早速モンドと打ち合わせてくるよ」
イーノはエルに抱えられて、再び医務室へと戻っていった。
相当な痛みなのか顔を顰めながらだった。
グレミーは艦長席に体を沈みこませた。
まるでこれから押し寄せてくる重責の圧力に耐えるような実感だと当人は感じていた。
「(やれやれ・・・、まだ何も事を成していないにも関わらずこのプレッシャーか。ギレン総帥の偉大さとその労苦に感服してしまう)」
グレミーは空を見上げて、クスクスと笑っていた。
それをジュドーが見て、心配そうに声を掛けた。
「大丈夫かグレミー?」
グレミーは我に返って、真顔になった。ジュドーに心を読まれたらしいと感じた。
「ああ、大丈夫だ。前向きなことだから期待して進んでいこう。少し前までは覇権をと思っていたが、統治者たる者はそれなりの資質を求められると書物で学んだ」
「そうか・・・」
「私は私の野望を貫徹するには、部隊の望郷の念、地球圏回帰とこれから統治を目指すサイド6圏の気持ちを全て汲み取らなければならないだろう。これは政治だ」
「・・・オレたちでできることは協力する。政治主導できるのはお前しかいない。お前がオレたちをどん底から救ってくれたんだ。それが偽善であったとしても、みんながお前の作る景色で幸福がもたらされるならばな」
「フッ、結果論だな。ジュドーやビーチャ、プル・・・道具に使えると当初は思っていたが、道具という考えでは私の目指す統治は実現できないと知ったまでだ。人や時代は日々進化していく上でそれに追随することは必然だった」
「最近はどうだグレミー?偽善なのかどうなのか」
グレミーはジュドーの問いかけに苦笑した。
「地球圏に来て4年か・・・。経験が私を大分成長させてくれたよ。お前たちが居なければ私は何も成せない、そしてこれからもだ。どんな批判や非難も若輩の身として素直に受け入れていける柔軟さこそが大事だと理解できた」
「大きいな」
ジュドーが感心した。自分らの年頃は感受性豊かだ。その中で少年がどのように成長、変化して青年となっていくか、これからの人生の岐路というべきところにグレミーやジュドーらは差し掛かっていた。
その中で代表たるグレミーが人として大きく感じることはジュドーを安堵させた。
「ジオン・ダイクンの提唱したこと、ギレン総帥が紡いだ宇宙での民の自活・進化の意識。残された者達はそれを引き継いでいかなければならない」
「そうだな。オレらジャンク屋無勢が偉そうなことは何も言えないが、最下層のひとたちはどうしても這い上がれないんだ。何でかは上が悪いからとしか言えない。元々の移民政策なんかも邪魔なひとたちを宇宙に棄てたと酷いことを聞くし言われている。そんな宇宙のゴミの希望がお前なんだグレミー」
ジュドーのストレートな言い回しにグレミーは笑った。
「ハハハッ、私はリサイクルショップの店長らしい」
「そうだ。お前のエゴはオレらにとってはとてもエコなんだよ」
「成程な。私もゴミでその親分だが優秀な資源として活用できるよう努力しよう」
ジュドーはふと思案顔をした。少し間を置き、グレミーに話し掛けた。
「・・・また素人な考えだがいいか?」
「なんだ?」
「塵も積もれば山となるというだろ?社会は基本ピラミット構造だ。それを利用すれば、サイドの掌握も苦なことはない気がするが・・・」
ジュドーの考えを聞いたグレミーは的を射た様な満足そうな顔をした。
「うん。支持層を末端から集めていくとしよう。我々がトップダウンのような形でやるにはパイプもないし、稚拙だ。時間が掛かるが確実だ」
ジュドーは頷いた。しばらくグレミーとジュドーはサイド6の掌握について話し合いをした。
既に掌握してある数バンチコロニーのプラント事業に付いて艦橋クルーにも手伝ってもらい、資料を取りまとめていた。
数時間後、艦橋に機体整備を終えたプルツーが入って来た。
「えらくイーノがきつそうだったな。医務室と通信室とエルに支えてもらいながらも往復していたぞ」
「プルツー、クィン・マンサは大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。海賊でも暴徒でもいつでも鎮圧に出掛けられるぞ」
プルツーはグレミーの問いかけに両手の平を返して返事した。
すると、グレミーはプルツーにタブレット端末を手渡した。
「なんだこれは?」
「これからの作戦指示書だ」
プルツーは端末を開くと、怪訝な顔をした。
「・・・私に農業をやれと」
「そうだ。プラントの造成上でクィン・マンサの機動性能を活かし、コロニー内で農業だ。第一次産業をおろそかにしてはならない。パンとサーカスという言葉を知っているか?」
「知らない」
「愚民政策の例えだが、我々は自他ともに認めるほどの世間的な愚民だ。そして末端の人たちが人口の多数派である」
「そうだな」
「彼らは明日の食事の心配をする。それが心配ないような状態をもたらすものがいたら・・・」
「そいつに従事するだろうな」
「そういうことだ。かなり非効率な手法だが、一挙に成果が出る。いかなる経済特区でも、実働部隊はいつの時代も末端だ。目標は労働組合との接触だ」
グレミーが大まかな概要を述べると、ジュドーがモノの例えで表現した。
「つまりなプルツー、ボヤを大火事にしてやるのさ」
「それでプラントの作成か。了解した」
プルツーはその計画書を持ち、艦橋を後にした。
ジュドーはプルツーを見送ると、グレミーに話し掛けた。
「なあ、うまくいくかな?」
「・・・我々は進むしかない。後ろ盾もなく、地道にいくしかない。これは正攻法だ。ならば危険なことはない。亀の様な歩みでも結果は出せると言い切れよう」
ジュドーは顔を指で掻いて「そうだな」と一言でジュドーも艦橋を出ていった。
グレミーは椅子の肘掛に腕を置いて足を組み、再度計画書を見直した。
「(私は経験がなさすぎる。ギレンの懐刀、腹心という威光でメッチャーは喰らいついてきたとしか考えられない。イーノも気付いているだろうが敢えて利用したのだろうな。ギレンは開戦当初から人心をある程度掌握していた。私もそれに倣わなければ、この先躓くだろうな)」
グレミーは傍に居た女性士官に紅茶を注文した。
それを飲みながら、制圧していたサイド6の1つのコロニーへゆっくりと入港するところを席から眺めていた。
「ミンドラ、コロニーに入港します」
コロニーの管制官と通信をしている通信士より艦橋に連絡をもたらされた。
グレミーはため息をついていた。
「(皆が不安だろう。舵取りがこんなビギナーだからな。士気があるうちに地に足着いた施策を示せねば・・・)」
焦りたかった。しかし何を選べるわけでもない。もがくということはこの事を言うのかとグレミーはかつてない悩みに苦しんでいた。
「(ハッタリで通していくしかない。大丈夫、自分がしっかりしていれば!)」
グレミーは自分を奮起させて席を座り直し、姿勢を正した。
「入港後、コロニー内のプラント事業者と連絡を取る。並び職安もだ。これから忙しくなるぞ」
グレミーは自身の覇道成就の為、今一歩踏み出したのであった。
しかし、とっかかりが王道であったことをグレミーは知る由もなかった。
・・・
グレミーはサイド6、シャアはアクシズ。
エゥーゴはサイド1と地球の半分。
ティターンズはソロモン、ルナツー、サイド4、7と地球圏、地球の半分。
各勢力とも未だ抜けて均衡を崩すには至らず、混迷を深めていく。
未曽有の危機をジュドーはその一番近くにいて肌で感じていた。
* サイド3宙域 ゼウス内 司令部
ギレンの居た豪奢なドーム型の空間にマーサとフロンタル、マ・クベが立っていた。
ここが球体型要塞ゼウスの司令部広間であった。
マーサは近衛士官に全てのスタッフの身体認証登録の確認をしていた。
「これでサイコ・ウェーブの干渉を受けなくても大丈夫です」
近衛士官の一人がマーサに報告を挙げた。
「そう、ありがと。ニュータイプの干渉波など得体が知れないから感じたくもないわ」
マーサは吐き捨てる様に言った。フロンタルはクスクス笑っていた。
「何が可笑しいの?」
マーサは不服そうにフロンタルに尋ねた。フロンタルは手を挙げて謝罪した。
「いえ、申し訳ありません。普通の方の反応です。しかし人体兵器としては有効であります。こう認証を受けることで、スタッフ含め、ミズ・カーバインもこのゼウスシステムの干渉からは離れられますから」
フロンタルは近卒に命令させて、ズム・シテイのリアルタイム映像を流した。
そこには大人も子供も全て地面に倒れていた。
「これは私のパンドラボックスとゼウスシステムの統合による成果です。退行催眠と申しましょうか。この干渉波を受けたものは全てこのように無力化できます。他にも色々できるはずです」
「成程。これがあれば世界は思うがままね。パンドラボックスはあくまで蛇口。このビストが、この私が拵えたゼウスの力がなければアウトプットが不可能なんだからね」
「フフフ・・・仰る通りです。私だけでは遠く及びません」
「あら?殊勝だねえ。何か思うところがあるんじゃなくて?」
「いえ、私ははなから何も思いませんし、感じもしません」
フロンタルの本音だった。フロンタルはただ自分とは別の何かが自分を動かしている、そう感じていた。フロンタルの自我や自意識などフロンタルには持ち合わせていなかった。
「フン、つまらない男ね」
「恐縮です」
フロンタルはマーサにお辞儀をして、1歩下がった。
マ・クベが代わりにマーサに歩み寄って話し掛けた。
「ミズ・カーバイン・・・」
「何かしら?」
「ズム・シテイに降りて少し調べ物をしたいのだが、許可願えるか?」
マーサは興味が無かった。マ・クベはジオンの軍人であったため、その本国の土地には聖地としての感情があるのだろうとマーサは考えた。
「いいわよ。行ってらっしゃい。まだゼウスのテストは始まったばかりだから、始動には月単位で掛かるわ。その間暇でしょうから」
マーサはマ・クベの出番は地球圏に脅威をもたらす時に発揮されると想定していた。
マ・クベは一礼して、広間を後にしていった。
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