魔界転生(幕末編)
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第42話 完全復活
京都御所、蛤御門前。
かつて禁門の変と言われ長州藩と幕府軍が激しく激突し、多くの長州藩士が亡くなった場所である。
その長州藩士の恨みと怨念が渦巻く場所に一人の男が立っていた。
その姿は、今でいう牧師の姿であるが、胸には逆さ十字のロザリオをさげ、腰には刀をさしている。
その男は周りの様子をうかがうような仕草もなく、ただただその場に立っていた。
しばらくたったであろうか。
もう一人、同じ姿をしてはいるが、その男は網傘を目深にかぶり、その男へと近づいていった。
「実体をとりもどしたのですな」
先に御門にいた男が、近づいてきた男に話しかけた。
「はい、こうして姿を持った形でお目にかかるのは初めてですなぁ、武市半平太殿」
目深にかぶった網傘の男はにやりと笑った。
少し見えるその唇は、人の生き血をすすった後のように真っ赤だった。
「あなた様に直に会えて光栄ですぞ、天草四朗時貞殿」
武市もまたにやりと笑った。
そう、もう一人の男は、天草四朗時貞本人なのだ。が、何故、実体を取り戻したのであろうか。
それは、坂本龍馬のせいでもあった。
龍馬を転生すべく、共に三途の川へと落ちた天草は渡し船の妖怪と戦い生還したときから実体をもつことが出来たのである。が、その後、まんまと龍馬に逃走されてしまったのである。
それを思うと腸が煮えくりかえる。天草は龍馬探索のために京にとどまっていたのだった。
「天草殿、心中を察しますが、お気にめすことはありますまい」
武市は天草の心中を察していた。
「ですが、武市殿。あの男は、坂本は我らの恩を仇で返し行く方知れずになっているのですぞ」
天草はその真っ赤な唇を歪めた。
「天草殿、あの男は、そういう男なのです。何を考えているのか全く見当がつかない。が、いざとなったときの決断力は相当な者。それが、坂本龍馬という男なのです」
武市は懐かしそうに語った。
武市とて龍馬に裏切られた一人である。
土佐勤王党。
龍馬もその一員だった。が、龍馬は江戸から帰ると早急に勤王党をさっさと脱退し、勝へ弟子入りしてしまった。もし、龍馬が勤王党にいたとしたならば、自分の片腕になっていたのかもしれないと思うと、武市にとって口惜しかった。
「で、ですが、武市殿」
天草が言い終わる前に武市は手の平を前に出し、言葉を遮った。
「龍馬はいずれ我らの前に現れるでしょ。が、その前に天草殿にはある男を転生させておいてもらいたいのです」
武市は、自らの親指を差し出した。
「ほぉ、それはどのような者なのですか?」
天草は再びにやりと笑った。
「これより新政府軍は旧幕府軍の残党の追撃線に入るとの事。そして、その中に我らの目的人物がおります」
武市の目もまた真っ赤に光っているとうだった。
「その男の名は、新撰組局長・近藤勇」
「な、なんと、新撰組の局長を魔界に落としますか」
(なんと面白い事か。今や幕府軍には新撰組しか救いがない。その局長を魔界に落とすとは)
天草は笑いをこらえた。
「こちらに参れ」
武市は一人の女を呼び寄せた。
「これにおる女は、近藤の妻の遠い親戚にあたる女。この女を天草殿に預けまする。これを使い近藤を魔界へ」
女の背を押すと女はよろめいて倒れそうになった。
その女は何故か生気が抜けているように夢見心地のような感じであった。
「承知した。見事、近藤を転生させましょう。が、武市殿はいかがするのか?」
天草は武市の動向を探った。
「拙者はひとまず先に江戸へ参る所存」
武市は空を見上げつぶやいた。
「な、なんと、江戸へ」
網傘で見えない天草の目が光った。
「ええ、江戸の状況を把握したのち、もう一人転生させまする」
武市は天草を見つめた。
「その時は共に」
「承知!!」
武市は天草と女を置き江戸へと歩みを進みた。
(ははははは、ついに我が日の本の中心へ進撃するか)
天草は狂笑した。
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