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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第41話 江戸へ

 近藤は土方を送り出した後、大阪城天守閣へ向かった。
その惨状を見のあたりにして近藤は愕然となった。
ただただ呆然としている徳川に味方した大名たちがまるでお通夜のごとく議論も交わさず、肩を落として座り込んでいる。
(これが、俺が、俺たちが必死になってなろうとした武士の姿か)
 近藤は唇をかんだ。が、土方に心の言葉で投げつけた自らの誠を貫くという気持ちをもって、自分を奮い立たせた。
「各々方、しっかりなされませ!!」
近藤の怒声が響き渡ると各大名達は怒られた子供のように体を縮ませ、近藤の方に目を向けた。
(完全に目が死んでる)
無理もない。肝心の総大将が、戦わずして江戸に逃げ帰ってしまったのだから。
が、すでに拳を振り上げてしまったのだ。
「各々方、我らが生き残るには、二つの道がございまする」
 近藤は自分よりも核上の大名達を見下ろしながら仁王立ちのまま言った。
 自分よりも核下の近藤に怒鳴られているいう自尊心があれば怒鳴りかえしてくるだろうと踏んだ近藤の行動だった。
「近藤殿、その道とは?」
 海軍総提督・榎本武揚が近藤に問い詰めた。
(まだ、生きた目をする人もいるのだな)
 近藤は榎本の目をみて、にこりと微笑んだ。
「我らは慶喜公、いや、幕府に忠誠を誓った武士と存じます。なれば、とことん忠義を果たし、薩長軍と戦く抜く道。そして、もう一つは、降伏への道でございます」
 近藤の言葉に大名達はざわめいた。
「なれば、近藤殿はどうするつもりか?」
 榎本は近藤の目を真っ直ぐに見つめた。
「我ら新撰組は勿論、忠義を果たす所存です。幕府あっての我らゆえに」
 近藤は満面の笑顔で答えた。
「どちらを選ぶかは、各々方次第です。降伏の道を辿ったとて、裏切り者と我らは誹謗中傷することはがざりません。ですが、もし、忠義を尽くす方々があれば、我ら新撰組がしんがりを務めましょうぞ」
 近藤はそう言い終わるとあたりを見回した。
「そうまで言われて、引き下がれまいな」
 榎本が立ち上がった。すると、次々に立ち上がる者たちが増えて行った。
「田舎侍に遅れはとらんぞ」
と、罵声を上げるもの。無言で立ち上げるもの、近藤の気持ちが伝わった瞬間だった。
「かたじけない」
 近藤の目に光る物が再び湧き上がった。
「なれば、明日にそなえ、ささやかながら宴を執り行いましょうぞ」
近藤の言葉に皆が大声を上げた。かすかに天守閣が揺れたように近藤は感じるのだった。

 
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