されど世界を幸せに踊りたい
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第2話
人一人いない砂漠の大地。茶色の肌をさらすデリラ山脈の麓近く。そのある場所で突如爆発が起きる。その場所には、二人の男が立っていた。
ウルムン人民共和国に潜入したヤザワとガユスだ。後方には乗ってきた車。彼等の周りには、魔杖剣等の咒式装備で武装した男達。だが、どの人間もきちんとした装備ではないようだ。
「着ているものはただの服か」
ガユスは苦虫を噛み潰したようの表情で、周りの死体を見る。
「魔杖剣も安物です。テロ屋かただの野盗でしょうか」
ヤザワは特に何の感情も浮かべずに居た。切り殺した相手に、何の感慨も抱いていないようだ。
唯一息があった男が、倒れ伏しながらも二人に憎悪の言葉をぶつけた。
「خارجی ها به من! من که غارت ثروت از ما! هر گوشت خوار آفت اژدها از بیابان!」
その言葉に反応したガユスが、返答を返した。
「می گویند هر چیزی ضربه و جو در زمان به طور ناگهانی」
「از آنجا که شما بچه ها سرقت شد ! فقط ما پس گرفتن است!」
眉の辺りの皺をさらに深くさせながら、ガユスは大きなため息を吐く。
ヤザワは尚も呪いの言葉を、ぶつけようとする男に向かう。
「何を言っているのか全く分かりません。皇国語かヒナギを話してください」
倒れ伏す男の顔を足蹴にして、魔杖刀を振りかざす。
「話せないなら死ね」
どこまでも感情を感じさせない、冷たい言葉を吐いて、男の首を切り落とした。
そのまま振り向いて、ガユスと目を合わせた。
「相変わらずめんどくさい性格してますね。襲ってきたから殺す。でいいじゃないですか」
「俺はお前と違って、相手を想う良心が残っているんだ。ほんのひと匙程な」
ガユスの台詞に、ヤザワは失笑を返した。
「戦闘に主義主張なんて何の意味もないでしょうに」
「お前はそれでいいだろうがな」
頭を振ることで、ガユスは思考を切り替えた。
後ろに立っている車の元へ、彼は先に戻った。遅れたヤザワも直ぐに車に乗り込む。
車は二人を乗せて走り出す。
「しかしウルムンは聞いてた通り治安が悪いですね」
「ドーチェッタの独裁政治。それに反発する多数の反政府組織。テロに弾圧。発展するはずもないだろうが」
暇なのだろう。車の中で二人は無駄な会話を重ねていく。
外には砂漠の砂に交じって、野ざらしの死体が流れる。幾人の死体も風景に溶け込んでいた。
「発展途上国に在りがちな理由ですね」
「本当に、よくある話だ」一度ため息を吐いて話を続ける。「そもそもドーチェッタは民主主義によっ
て選ばれた立派な代表だった。何故、独裁など」
「簡単な話でしょう。ウルムンは国という名の多民族の寄り合いにすぎない。違う民族では同朋意識が薄い。ウルムンという国を守るために、多い数の民族の為に、少数の民族を犠牲にするしかない」
ヤザワは車から見える死体交じりを風景を見ていない。ただどこか遠くを見るような眼をしていた。
「ヒナギもこうなり掛けていました。剣聖ノブツナ殿や指南役セキシュウサイ殿などの力により統一政権を樹立したことで、他の国とも対等に話せる段階まで押し上げることができたのです」
其の目は祖国を見ているのだろうか。
「そうでなければ、強国の搾取に会い、最悪祖国は土地を切り取られていたことでしょう」
「その代わり、お前みたいな武士達が外に流れることになったわけか」
言の葉の刃がヤザワに突き刺さる。彼は不快そうに顔を顰めた。
「否定はしませんよ。お家お取りつぶしや戦が無くなった事で、拙者達は外の世界に逃げるしかありませんでした」
「誰もが幸せになることは決してあり得ない。というわけか」
「そういうわけですよ」
車の前方に視線を移しながらヤザワの話が続く。
「だからこそ、この国の不運や貧困は彼等自身の問題でしかありません。拙者たちが思い悩むことでもないのです」
ヤザワのどこまでも冷たい理論だった。
くだらない雑談も終わる。車の前方に山脈の地肌とそれを囲む村が見えてきた。
「あそこが目的地の」
「ああ。デリラ山脈の麓だ」
数分もしないうちに村の入り口に差し掛かる。
そこで武装した二人の男が門番をしていた。車の前に立ちはだかる二人。その真ん前で車は止まる。
「死の山であるデリラ山脈に何の用だ」
車の横で武装した男が、二人を問いただした。余計なことをしたらすぐに吹き飛ばす、といわんばかりに、魔杖剣を構えている。
二人は目を合わせ、すぐに男に向き直った。
ヤザワがガユスを指さした。
「ドーモ。こちら生物学者のガユシ氏です。私は護衛のヤレルです」
「ドーモ。デリラ山脈の毒虫に固有の生態をした物が居ると聞きましてね。その調査に参りました」
最初から決めていた口説を始めた。
笑みを崩さない二人を、武装した男は硬い表情のままねめつける。
しかし、腰の刀に手を置いたままのヤザワに視線を送ると、一歩下がった。相手が自身ではかなわない、高位咒式士であることに気付いたのだろう。
「我々の仲間が、デリラ山脈で行方不明になっている。もし見かけたら救助願いたい。無論報酬は出す」
「了解しました。見かけたら、助けておきますよ」
門番が横にひいて、入り口が通れるようになった。車を走らせて、デリラ山脈を登っていく。
二人が去ったあと、門番の一人がヤザワ達を交渉をした男に話しかけた。
「ナバロ。いいのか?」
「ああ。手が足りない現状では、例えよそ者でも使うべきだ」
男はヤザワ達が去った方向を見ている。
「レメディウスにナリシア。無事でいてくれ」
彼の言葉は虚空に消えていくのだった。
ヤザワとガユスは二人でデリラ山脈を登っている。ヤザワは普段の装備ともう一つ、呪符の張られた鞄を背負っていた。
車が走れない難所が続き、歩き疲れ始めていた。
所々で群れた毒虫が襲い掛かって来ていた。
今もそうだ。近くの穴から、毒々しい色合いをした蟲達が現れ、ヤザワ達に向かっていく。
「ガーユースー」
ヤザワは疲弊した声を伸ばしながら、ガユスを呼んだ。
「その呼び方をやめろ。力が抜けるだろうが」
魔杖短剣〈贖罪者マグナス〉を抜いて、咒式を発動。
化学錬成系第二階位|蟲壊殺(ムドア)で生まれた白色の煙である非有機リン系殺虫剤であるピレスロイド系化学物質のd―テトラメリンが虫達を覆う。昆虫類の神経細胞上の受容体に作用し、脱分極を生じさせる神経毒が毒虫達を殺した。
薬きょうを拾い、ガユスはため息を吐いた。
「おい。今どのへんだ」
「おかしいですね。この辺のはずなのですが」
地図を取り出したヤザワが現在地と合わせていく。取り出した携帯端末を操作していた。
周りを見渡して木々一本見えない殺伐した光景に、再度ガユスはため息を吐く。
「大丈夫です。わかりましたから。拙者は詳しいのです!」
「何に詳しいのか」
歩き出すヤザワを追って、ガユスは足を動かしていく。
数分もしないうちに洞窟が大きな口を開いていた。だが、彼らはその近くの大岩の影で足を止めていた。
何せ傷だらけの男女がそこで倒れていたのだった。
「行き倒れですか」
手を合わせようとするヤザワの頭をガユスが引っ叩く。
「馬鹿野郎! まだ息があるだろうが!」
ガユスは懐から治療用の咒符を取り出して、倒れ伏す二人の男女に張っていく。
ヤザワも仕方なさそうに、背負っている鞄から食料と飲み物を取り出す。
「どうやら長い間食べていないようですね。いきなり固形物を食べると胃がびっくりするので粥を作りますね」
「ああ。まったく。持って来た治療用の呪符を使い切ってしまいそうだ」
行き倒れの男女を救うため、二人は全力で行動していく。
傷だらけの男を見たガユスが驚愕の声を上げた。
「おい! この男、咒式博士のレメディウスだ! 」
「ラズエル咒式総合社の跡取りの! 彼の咒式理論を書いた本は拙者も持っています。なぜ彼がこんなところに」
困惑交じりの視線をガユスとヤザワは交わらせた。
「そういえば、レメディウス博士はウルムンの反体制組織曙光の戦線に誘拐されたと新聞に書かれていたな」
「ということは、麓の村で会った彼等は…………」
「曙光の戦線の一員で間違いないだろう」
あまりの面倒ごとにガユスは天を仰いだ。ヤザワは粥の調理を始めていく。
「取りあえずの事情は、レメディウス博士から聞きましょう」
「そうだな」
何度目かわからない大きなため息を吐いて、ガユスは応急処置を続けていくのだった。
後書き
結構ノープランだけど頑張りたいです。
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