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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第13話 野獣の狂宴

 翌日。
 百代が早朝に通わさられる様になったから三日目。
 今は3人揃って朝食中だ。
 そして勿論今日もスカサハは居ない。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そんな中で3人は珍しく、静かに箸を進めている。
 そこで百代が大河を見た。

 「・・・・・・・・・(チラッ)」
 「・・・・・・・・・・・・・・・(やっぱり無理だった、ゴメンね)」
 「・・・・・・・・・(ズ~ン)」

 見られた大河はアイコンタクトで、士郎の説得が無理だった事に謝罪をした。
 これによって、百代は心の底で溜息をついた。
 そんなやり取りを一見我関せずと箸を進める士郎だが、アイコンタクトの内容には気づいていた。
 気づいていたが敢えて知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
 そんな風に今日も始まった。
 因みに今朝は、士郎の事が気になって掃除の内容が雑になり五百円だった。


 -Interlude-


 「へ~、昨日は姉さん、元武道四天王の1人と戦ってたのか」
 「そうなの。衛宮先輩のお姉さん的存在の藤村大河さん。すごく強かったわ~。私も一日でも早くあんな風になりたいわ!」

 大和に説明し終えた一子は、勇往邁進と繰り返しながら鍛錬に戻った。
 一子から話を聞いた大和は、自分のファンである女子生徒に囲まれちやほやされて喜んでいる百代を見て言う。

 「それにしては朝あった時の姉さん、不機嫌そうにしてなかったか?」
 「多分、衛宮先輩の説得に失敗したんだと思うわ」
 「説得?」
 「うん。大河さんが言ってたのよ。地力である基礎攻撃力・防御力については、衛宮先輩はお姉様を上回っているって。自分の知る範囲でお姉様の相手をしてる時間に余裕が作れる相手としたら、衛宮先輩位だって」

 大和の疑問に一子は、ダンベルを上下させながら淡々と説明する。
 実際に言わせてもらえば、弓道部副部長と言う立場に加えて仕事・家事もある上、魔術師としての顔もある。単に大河が把握していないだけで、士郎の一日は一般人から見れば結構多忙な方だ。
 しかしそこには注視するはずも無い大和としては信じられなかった。
 自分の姉気分である現武神の規格外なまでの強さは、よく一緒にいる自分達も知る所である。
 そんな圧倒的存在を上回る強者が、同い年にいるなど誰が信じられようか。
 故に、失礼ながらも大和は、その大河さんと言う人が衛宮先輩を贔屓しているだけだと、心中で勝手に結論付けるのだった。
 まぁ、戦闘狂(バトルジャンキー)では無い士郎からすれば、その様に結論付けてくれる勝手さこそ最善であるのだが。
 そして話題のほぼ中心位置にいる当の本人は、可愛い自分のファンに囲まれながら嫌な事を忘れようと努めているが、何方にしても昼休みには嫌でも思い出してしまう。
 何故なら、今日も彼女のカバンの中には士郎お手製の弁当があるのだから。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は今日も、毎週一日だけの家庭科室での料理教室を進行させていたが、それも終わった。
 何時も士郎は見本として多めに作るので毎回余るのだが、今日も例の漏れなかった。
 品によって行く所は異なるが、今日は第一茶道部室で活動している茶道部におすそ分けとしてしに行っていた。
 部室前に着た士郎はドアをノックする。

 「はい?どなた~?」
 「3年の衛宮だk――――」
 『いらっしゃい(ませ)!衛宮(君・先輩)!!』

 全て言い切る前に勢いよくドアが開き、着物を着た女子生徒達が笑顔で出迎えて来る。
 緊急で変わる場合もあるが、士郎の料理教室は前日の放課後などに料理部の部長或いは副部長の携帯にメールが送られる事が通例に成っている。
 それが今では全生徒の常識とまでは行かないが、知る人の間では常識となっていた。
 そしてたまにおすそ分けが来る茶道部員達も知り得ていた立場だったので、士郎の訪ねて来た声に瞬時に反応してドアが開かれたと言うわけだ。
 理由としては、士郎の料理の腕のとんでもなさはそれこそ新入生以外では常識になっているので、料理目当てと言うのもあるだろうがそれだけでは無い。
 茶道部の部員たちの中に『衛宮士郎様愛好会』の会員は居ないモノの、部長、副部長ともに士郎のファンでもあるのもあった。
 勿論ナチュラルに鈍感な士郎はそんな事に気付けないので、料理目当ての反応だと勝手に思っていた。

 「今日は和菓子なんだが、いるか?」
 「勿論頂きます!」
 「ありがとうございます!衛宮先輩!!」

 士郎のおすそ分けに大げさにお礼を言う副部長や部員にも慣れたもので、その勢いに引きはしないが僅かな苦みが混じった笑いをする。苦笑とまでは行かない。
 そんな様子を座ったまま覗ける位置にいたのか、金髪長髪美人のクリスが興味深そうに見ていた。
 勿論視線に鋭い士郎は直に気づく。

 「ん?君は確か先週の金曜日に2-Fに転校して来た・・・」
 「えっと、クリスティアーネ・フリードリヒです。エミヤ先輩でしたか?初めまして」
 「なるほど。3年の衛宮士郎と言う。こちらこそ初めまして。仮入部か?」

 それをタメである茶道部部長に聞いた。

 「見学と言ったところね。日本の文化に多く触れてみたいらしいの」
 「ふむ」

 クリスの事は、噂である程度聞いていたので驚きも感心も無い。ただ――――。

 (日本を誤解した外国人は確かに茶道(こういう)のは好きだろうな)

 と。何となしにそう感じる士郎だった。

 「さて、俺の様はもう済んだから行くよ」
 『もうですか?』

 士郎が茶道部室から出ていくのが名残惜しいのか、女子部員達(と言うか全員女子)が寂しそうな顔を作る。

 「えっ、あっ、いや」

 女性の押しに弱い士郎は、茶道部部員たちの顔を見て困惑する。
 しかしそこで部長が助け舟を出した。

 「ほら貴方たち、衛宮クンを困らせないの!」
 『すいませ~ん』

 茶道部室の頭である鶴の一声により、部員たちは渋々引き下がった。
 しかし、部員達を窘めてくれたと士郎が部長に礼を言ってる後ろで、部員たちは部長に恨めしい視線を送っていた。

 (((((いい子ぶっちゃって、部長の方が口惜しいくせに~)))))

 そんな周りの反応について気づけない以前に士郎の人気度を知らないクリスは、士郎の和菓子を堪能していた。

 「ん~♪この和菓子の味は凄まじい。話に聞いていた以上の味の深みだ・・・!」

 そして勿論クリスの感想など気にしていない士郎は、ドアノブに手を掛ける。

 「それじゃあ、それにお客さんの様だぞ?多分京の奴だ」
 「ん?京・・・?」

 そうして士郎がドアを開くと、丁度ノックをしようとしていた瞬間の京が立ち止まっていた。
 自動ドアでもないのに勝手に開いた事に、少なからず驚いている様だ。

 「な、何かと思えば、士郎さんか」
 「気配で気づいてただけだ。――――それじゃあ、俺は行くから」

 京とドアの間を縫って、士郎は茶道部室から出て行った。


 -Interlude-


 夜。

 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は魔術師姿で夜の街を探索をしていた。
 とはいうモノの、スカサハから最初の報告を聞いてからもうすぐ一週間も経過していようとしているのに、未だに手がかりを殆ど掴めていないのが現状だった。
 スカサハのある事情――――この世界に転移して来てしまった後、彼女にはあらゆる呪いじみた制限がかかったのだ。
 その制限により、最初は衛宮邸の敷地内から一歩たりとも出られないなどの鬱陶しいほどの呪いが幾つもあったが、士郎の協力も含めて時間を掛けて一つ一つ解呪していった結果、かなりの制限を消す事に成功したのだ。
 しかし、未だに解呪できないモノがある。その内の一つが張っている結界からの感知が大幅に遅れるモノだ。
 勿論今も解呪し続けているが、直に解けるモノでは無いのが面倒なモノで、如何してもまだ時間が必要の様なのだ。
 それ以外も重要な制限があるのだが、今は割合させて頂く。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そう言う事情もあり、どうしてもアクションが後手に回ってしまう。
 その為、情報収集や探索も成果が上がりにくいのだ。
 日々の暮らしに表情に表さないモノの、内心では焦っている。

 「このままじゃ―――最悪手遅れになる」

 そんな悪夢を現実化させないために、士郎は毎日スカサハからそれ以上探索しても効果は無いと言う念話を受けるまで続けていた。それこそ睡眠時間も当然の様に削って。
 本当は日中も目立たないように行動しようとしていたが、ほとんど効果は無いぞとのスカサハからの助言を受けて、渋々諦めたのだ。
 そんな焦りをにじませるような顔を作っている所で、魔力の気配を感知する。

 「これは・・・・・・あっちか!」

 そして士郎はその地点へ急行した。


 -Interlude-


 少々時間を遡る。
 人気のない――――いや、故意に一定以上の人数が来ない様に結界を張った雑居ビル群の裏路地に、ある共通点をもった男達10数人ほど居た。
 その光景を、やや上から俯瞰するように見続けている具象奇体は、ガイアの制限がある程度緩んだからか、何とも言えない複雑な思いをしていた。

 『イクラ・・・魔力・・・集メ・・・イッテ・・・コレハナイ・・・』

 その光景は、魔力を集める為にガイアが具象奇体に無理矢理強制させたものであって、決して具象奇体の好みでは無い。
 そしてその光景とは――――。

 「滾るぅ、滾るぞぉおおお!」
 「来いよ、もっともっと来いよ!」
 「ホリホウダイノ、パラダイスダヨォオオオオ!」
 「これが大和きゅんなら、大和きゅぅうううううううんん!!」

 性癖がノーマルの人から見れば、地獄絵図と言っても過言では無い程の光景―――即ち、大衆道世界が溢れんばかりに満ち満ちていた。
 魔術師では無い者から魔力を手に入れるのは、その者の精気を搾取して魔力に変換する必要がある。
 そしてその搾取される者達がどの様な形であれ、気が昂ぶり続けているのが好ましい。
 この光景はそんな状況を作るために行われているのだ。
 とは言っても人間には体力の限界と言うモノがあるので、そこは変換した魔力を僅かに使い、回復に回し続けているので問題は無いとの事だ。
 しかもこの辺はアウトローが溢れており、捜索願もそうそうでない事から女より男の方が良いと言うのが、ガイアから見た合理的判断・・・・・・の様らしい。
 因みに彼らは、具象奇体が召喚したゴーストによって憑りつかれているので、半ば正気では無い。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そして魔力集めに駆り出された具象奇体は、ガイアからの制限が緩くなっているので、感情自体はある程度復帰している理由から、嫌でも見せ続けられている地獄絵図から早く解放されたいと今も願い続けていた。
 そして願いが届いたのか――――と言うか、故意にそう仕向けたので態ととなるが、その結界内に侵入者が現れた。

 「此処が魔力発生源か。――――これは人の声?そこで何をして・・・い・・・・・・る・・・・・・」

 侵入してきたのは、魔術師姿の士郎だ。
 そしてこの地獄絵図を見て呆然と固まってしまった。
 まぁ、当然の反応といっていい。
 魔術師としての探索で急行して来てみれば、大衆道世界に鉢合わせたのだ。
 誰がこんな光景を予想出来た事だろう。
 しかもそれがガイアによる合理的判断によるモノ等と、察せられる筈も無い。
 そして士郎は未だに呆然としているので判らないだろうが、今この結界内(世界)では男を見たら掘れと言うのが、獣同然となっている彼らの只唯一の行動原理だ。
 士郎は彼らを見える位置にいる。
 彼らも視界に入れさえすれば、士郎を認識できる。
 此処までくれば最早これから何が起こるか予想出来よう。
 さらには何人かが士郎と目が合った。つまり――――。

 「この滾りを沈ませろぉおおおおお!!」
 「男、男!男ぉおおおおお!!」
 「ヤッチマオウゼェエエエエエエ!!」
 「大和きゅんじゃないけど、ぺろりと喰うぅううううう!!」
 『オトコォオオオオオオオオオオオオ!!!』
 「っ!」

 新たな獲物を捕えようとする獣たちは、強烈な勢いで士郎に突っ込んで行く。
 その現実に急遽復帰した士郎は、何時もなら無駄なく最小限の動きで躱すところだが、今回に限っては大きく隙を見せないように全力で躱して距離を取った。
 何せ捕まれば何ををされるか解ったモノでは無い。
 だって全員目が狂気に彩られてるんだから・・・!

 「と、ととと投影、開始(トレース、オン)!」

 身の危険を感じ、当身や手刀で気絶させようと試みても厳しいと判断した士郎は、こんな戦闘?で投影魔術を使う事を迷わず選んだ。

 (この状況を打破する剣は――――検索、検索、検索・・・・・・該当アリ!)

 自身の剣の丘に埋没して引き抜いたのは、昆吾の神を祀って作らせたと言う八振りの内の二本だ。
 こんな戦闘で。
 そしてすかさず真名解放に至る。
 こんな戦闘で。

 「悪霊屈服(却邪)!」
 「ォオオオオオオオオ」

 却邪は、悪霊などに憑かれた者達を悉く平伏させた逸話を持つ。
 これにより、士郎に向かって来ていた男たちは悉く平伏した。1人を除いて。

 「魍魎逃避(滅魂)!」
 「ォオオオオオオオオオオ」

 滅魂は、夜にこの剣を持っていると、それを見た魑魅魍魎達は恐れて姿を消したと言う逸話を持つ。
 本当は滅魂だけでよかったと思えるが、士郎としては万全を期した。
 だって身の危険を感じたから。
 そして結果、ここにいる全員からゴーストたちが消えて行った。
 そうなった事で、全員気を失った。1人を除いて。
 たった1人だけ士郎に突っ込んで来る男――――板垣竜兵だ。

 「滾っがほっ!!」

 それを士郎は、何時もより強めに鳩尾に正拳を打ちこむことで、迎撃して気絶させた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・疲れた」

 それがこの下らない戦いを終えた後に、士郎が最初に発した言葉だった。
 だが、魔力が発生していた事も事実なので、ある程度調査しながら警察と病院に連絡した。
 しかし、竜兵だけはこのまま連れ帰っても大丈夫だろうと判断して、板垣家に連れ帰った。
 お姫様抱っこで。
 だって、おんぶで連れ帰ってる途中で意識を取り戻されたら、後ろから襲われるもの。
 だが士郎は気付けなかった。
 この態勢で板垣家へ竜兵を連れ帰ると、それを見た亜美と天から『士郎が男に目覚めて竜兵と恋仲になった!?』と、誤解された。
 そしてその誤解を解くのに、更に疲れる羽目になった。


 -Interlude-


 士郎がそうして気苦労をしている時、具象奇体は先程とは別の地点にいた。
 士郎が投影魔術を行使する前に、とっとと退散していたのだ。
 とは言っても、ガイアの制限による強制だが。

 『・・・・・・フフフ・・・フフ・・・』

 それでも具象奇体は気持ち的に、ほくそ笑んでいた。
 ガイアの強制が緩む日を虎視眈々と待っていて、そして今日遂にその日を迎えたら、今迄とは精度が低く態と魔力が漏れるようなお粗末な結界を張って魔術師に気付かせる目論見に成功したのだ。
 妖術師としてあんなお粗末なものは問題外だが、今の彼女(・・)は兎に角自分を魔力集めに強制させて上で、ある英霊を召喚させて操ろうとしていることが気に入らないのだ。
 兎も角、思惑は一応上手くいった。
 これにより、ガイアに一矢報いれれば御の字と考えているのだ。
 けれど彼女はこうして魔力集めに駆り出されている間もある事が気になっていた。

 (ガイアに遠回しの手順を踏ませるなど、一体誰だ?いや、誰がこんな事(・・・)が出来るのだ?)

 ガイアの世界に干渉する力は世界に応じて違うが、それでも代理人の戦闘力に関連する魔力によるバックアップは相当なモノ。
 それをかなりの制限をするなどと、根源の渦に至った魔法使い達ですら厳しいものだ。
 その正体に彼女は興味が尽きないでいた。 
 

 
後書き
 運命の夜まで、あと一日。

 上から竜兵、変態の橋にて風間を衆道世界に誘うと声を掛けていた変態、ルディ、A-1の弁慶ルート及びA-2の紋白アフタールートで大和に唇型のチョコレートらしきものを送ったE組男子、になります。 
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