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ソードアート・オンライン -Need For Bullet-

作者:鋼鉄の翼
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-Bullet3-狩りの時間だよ

 


 今日もボクは銃を構える。今日の得物は愛銃の『デグチャレフPTRD1941』だ。ソビエト製の14.5mm口径のシングルショット対戦車ライフルだ。 そして特筆すべきは自動排莢機構だろう。 構造的には半自動の対戦車砲に近い。 詳しくはWikipedia先生を見てほしい。 とても面白く良い銃である。 しかし重い。全長2mのこの鉄パイプは15kg以上もある。ボクの装備制限重量が20㎏だからこの子(PTRD)とサブアーム『マテバ6-UNICA』と弾薬やらで装備制限いっぱいいっぱいである。サブアームのマテバも良い銃で

「ミウラ。準備できたか?獲物のご登場だ。」
「オッケー。ちょいと待ってね~」
 インカムで問いかけてきたアコードにそう返し、
「準備オッケーだよ。先輩♪」
「よし。獲物はティーゲル。速度は‥‥80キロくらいでそっちに向かってる。あとこっちで先輩はやめろ。」
 獲物が来たからマテバちゃんの説明はWikipedia先生を見て貰うことにしよう。 これも面白い銃だ。
 さて、PTRDのスコープをのぞき込むと確かにこちらへむけて砂煙をあげながら走ってくる一台の車が見えた。ロシア製の軍用車『ティーゲル』だ。屋根には銃座が取り付けてあり、機銃手が一人、LMG(軽機関銃)らしきものを構えている。
「目標捕捉。アコード。目標のフロントガラスに何かくっつけてある。そっちからは何か見える?」
「少し待て……あぁ。あいつら装甲板をくっつけてやがる。多分カメラ越しに運転してるんだろう。恰好の獲物だな。」
「そうだね。」
 このゲームには弾道予測線なるものが存在する。簡単に言えばここを銃弾が通りますよと教えてくれる便利な線だ。それは弾道上に居るものに赤い半透明の光線として見える。そしてそれは直接目視しなければ表示されない。つまり装甲板の後ろにいる奴には見えない。モニターにもそれは映らないのだ。恰好の獲物とはそういうわけである。
「機銃手が邪魔。お願いできる?」
「任せておけ。」
 スコープ越しに見ていると、数秒のうちに機銃手が頭をぶち抜かれ消えていった。


 ティーゲルに乗ってる人らはというと、仲間が一人やられた割には余裕そうだった。慌てる様子もなく、銃座のハッチを閉める程度だった。きっと10mm以上の装甲板を使ってるのだろう。それだけの厚みがあれば装甲板としては優秀だ。ただし、それは相手が通常の対人ライフルを使ってる場合に限る。 まあ大口径ライフルなんてレア武器に対面する事などレアケースであるし、15mm〜20mm以上の装甲板なら.50口径の狙撃も防ぐことができるだろう。

「まあこの子は50口径以上、14.5mmだからね。恨むならソビエトを恨んでねっ。」


 トリガーガードにあてていた人差し指をそっとトリガーにそえると視界に着弾予測円(バレットサークル)が表示される。これはFPSでよくあるクロスヘアを円状に表示したものだ。ただしこの円は随時大きさが変わる。銃の精度、スキル値やフィールドの風などの要因も大きいが、一番大きな要因は鼓動だ。心臓が一回ドクンと脈打つたびにサークルは大きくなり、そして徐々に収縮する。つまり長距離の敵やヘッドショットを狙おうとするならば鼓動と鼓動の間で狙い打たなければならない。なんとまぁめんどくさい仕様だ。
 獲物との距離がおおよそ400mを切る。ここまでくれば獲物の軍用車はサークルの中からはみ出るくらいに見える。ここまで近づけばもういいだろう。狙いを少し動かしサークルの中心に運転席があるであろう場所を合わせる。ゆっくりと呼吸しサークルの収縮する瞬間を狙う。舌をペロリと出して上唇をなめ、サークルが一番小さくなった瞬間、静かにボクはトリガーを引いた。
 轟音とともに銃弾が放たれ、爆風で舞い上がった砂煙が一瞬視界を遮る。銃弾は一直線に獲物へと飛び、ほぼ狙い通りに突き刺さった。そして装甲板を簡単に貫通し、ゲラゲラと笑っていた運転手、そしてその後ろに座っていたプレイヤーを真っ二つにした。きっと彼らは何が起きたかわからなかっただろう。なぜなら彼らが絶対の自信を持っていた装甲板が撃ち抜かれたのだから。そして、運転手を失った車は、制御を失って岩に激突、停止した。
「やったよ!一発だよ!一発!先輩ちゃんと見てた?」
「ちゃんと見てた。まだ生き残りがいるかもしれない。警戒しろ。あとこっちで先輩って呼ぶのはやめ」
「出てきた!撃っちまーす!」
 チェンバーに次の銃弾を叩き込みボルトを閉鎖。再びスコープをのぞき込んだ時、岩に乗り上げた車の扉が開き、その隙間から人の足が出てくるのが見えた。足が地面につくのとほぼ同時に再びトリガーを引くと足の持ち主は扉ごと吹き飛んだ。 多分バラバラだ。
「ナイスキル。残りが居ないか確認しに行く。ミウラは動くなよ。」
「りょーかい。」
 少しすると倍率を最低に戻したスコープの中にごそごそと動く枯草の塊が見えた。よく見るとそれからは手と足が生えている。ギリースーツを着込んだアコードだ。あの姿では動いていれば妖怪、動いてなければただの小さな草むらに見えるだろう。少し倍率を上げるとその手にはイタリア製機関拳銃『ベレッタM93R』が握られていた。この前ミウラが使っていたのはアコードのM93Rである。車の影でマズルフラッシュが2回光るのが見えた。ご愁傷様である。ミウラはそっと手を合わせてからPTRDをストレージにしまった。代わりにホルスターにしまっていたUNICAを引き抜いた。本当は戦場でメインアームをしまうのはあまり勧められる行為ではないのだが、流石に全長2mもある大砲を持って歩くのはこたえる。





 
「おつかれ~」
「おう。お疲れ。」
 少女がもじゃもじゃの草の塊と話している光景はきっとほかの誰かから見ればとてもシュールなことだろう。
「にしても凄い威力だ。見てみろ。後ろの装甲板まで届いてるぞ。」
 もじゃもじゃアコードに促されて車の中をのぞき込む。なるほど確かに、銃弾はフロント部分の装甲板と運転席の座席に大きな穴をあけて、後ろの装甲板に突き刺さっていた。
「ふっふーん。ボクのPTRD君にはどんな装甲でも無意味!」
「まあそうだな。よし撤収しよう。この車はどうする?」
「置いとけばいいんじゃないかな。きっと取りに来るよ。」
 ボクらにはボクらの車がある。ボクのじゃなくてアコードのだけど。ボクらは近くの廃墟に隠してあったアコードの車『ヘルキャット』に乗り込む。このゲームは銃の名前はほとんど現実のものがついているが、車などは少し違った名前になっている。この車のモデルはダッジ・チャージャーだ。断じて駆逐戦車ではない。
 ヘルキャットのリアピラーにはボクらのスコードロン(ギルド)マークがついている。矢の刺さった髑髏の下でM4とAK47がクロスした海賊旗のようなデザインだ。ボクらのスコードロン『Sagittarius(サジタリウス) 』のマークは、最初は弓と銃がクロスした物だったのだが、ボクらのスコードロンが巷で『海賊』と呼ばれ始めたころからこの海賊旗風のマークに変えたのだ。ボクらが海賊と呼ばれている理由は多分二つだ。一つはボクらの本拠地だ。ボクらの本拠地は乾いた崖に半分埋まるように存在している廃棄された強襲揚陸艦のウェルドックだ。もう一つは……また次の機会に話すことにしよう。
 殺伐とした荒野の中に突然それは現れる。背後の崖と半分同化したような鋼鉄の塊。強襲揚陸艦『Valkyrie(ヴァルキリー)』。右舷艦首付近からアイランド式の艦橋基部にかけて崖に埋まってしまっている。マストには高々とボクらの旗がはためいていた。
 車がヴァルキリーに近づくと艦尾にあるウェルドックの扉がきしむような音を立てながら開いていく。本来はエアクッション揚陸艦などが入ってる空間なのだが、ボクらは本拠地として利用している。
「姉御お帰りなさい!」「お疲れ様です。」艦内に入るといろいろなところから挨拶が飛んでくる。ちなみになぜかボクは「姉御」と呼ばれている。リーダーだからかな?

「よーし!みんな集合!手が離せない人はまぁ……ビデオで流すから聞いてね~!」
 車から降りたボクはトラックの荷台に上り、無線にそう呼びかける。少しするとウェルドックにと人が集まってきた。




「よし!それでは!第‥‥何回だっけか。まあいいや。サジタリウスBoB対策特別会議を始める!」
 ボクの声と同時に背後の壁にサジタリウスのマークが映し出されるが別に今日はプレゼンとかは使わないのでただのかざりだ。
「さて!第三回BoB(バレットオブバレッツ)までのこり数週間!お前ら!準備はできてるかー!」
「「「おおー!」」」
 このゲームには男性プレイヤーが多数なので帰ってくる返事は野太い叫びだ。頼もしいようなうるさいような。
「返事はいいね~!よし!今回初めて参加するメンバーもいると思うからサクッとBoBについて説明しとくね!BoB『バレットオブバレッツ』はこれまで二回開かれてるGGOの公式大会。これまでに2回開催されてるよ。対戦形式は予選はトーナメント式の1on1の個人戦。本戦はみんな入り混じっての個人戦だね。だからやろうと思えば本戦ではチーム戦ができるよ。相方が残ってればだけどね~。ま、復習はこんな感じにして‥‥」
 ここでボクはぐるりとメンバーを見渡す。
「本題はここからだよ!前回!BoB第二回の本戦に進めた人数!ボクとアコードだけだよ!しかもほとんどが初戦敗退……というわけで!今回は特別戦技教導官として薄塩たらこさんを『スリーヘッドアローズ』から引き抜いてきたから!みんなで特訓するよ!」
『薄塩たらこ』の名前にメンバーがざわめく。そうだろう。なぜなら彼はトップスコードロン『スリーヘッドアローズ』の中でもトップクラスの実力をもつプレイヤーなのだから。
「というわけでたらこさん!一言お願いします!」
 ずっとわきに控えていた薄塩たらこさんにマイクを渡すと、彼はうなずいてトラックの荷台に上ってきた。彼はアバターの外見はなんかパッとしないオジサンだが、これでもトップランカーなのだ。
「紹介にあがった薄塩たらこだ。まあ気軽にたらこさんとでも呼んでほしい。リーダー曰くこれからでも間に合う!まあ、BoBで楽しく遊べるくらいにはしてやる!以上。」


「ではよろしくお願いしますね。たらこさん。」
 拍手の中トラックの荷台から降りてきた彼に微笑むと彼は少し照れたようにうなずいた。











 ボクらは気が付かなかった。開け放たれたゲートで陽炎が不自然に揺らめいていたことに。 
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