ソードアート・オンライン -Need For Bullet-
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-Bullet2-少女の日常
pipipipipipi!!
「うー‥‥うっさい……」
無機質な騒音の原因にチョップを叩き込み黙らせる。 このまま無視することもできるけれど、今日は学校だ。布団を蹴り飛ばしながら起き上がり、カーテンを開ける。 朝日とともに清々しい青空がボクを迎えてくれた。
それに引き換え、部屋の鏡に写っている少女はなんてひどい顔をしているんだ。 褐色に焼けた健康的な少女が少しやつれたような表情で見つめ返していた。 まあ、ボクなんだけど。 汗で張り付いたシャツがスラッとした身体のラインを浮かび上がらせている。
「お風呂‥‥入ろ。」
昨日は散々な目にあった。 大型の生物系ボスが居るとは聞いていたけれど、まさかそいつに食われる事になるとは…… あのヌメヌメとした感触……まさか夢にまで出てくるなんて‥‥うーやだやだ。とっとと忘れてしまおう。
少女入浴中……
「ふあ〜気持ちよかった〜。」
冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出しグビグビと1杯。 やっぱお風呂上がりにはこれが一番だね。
濡れた髪を優しく拭きつつ、ソファーに腰を下ろす。 広い1LDKの部屋は一人暮らしには少し大きい。 親は転勤で中東の……どこだったかに行っている。 少し寂しいけれど、気楽だし特に困ったことも無いから一人暮らしを楽しんでもいる。
『では次のニュースです。 またゲーム中の死亡事故です。』
朝のニュースはVRゲームでの死亡事故を取り上げている。 ゲームに夢中で栄養失調で死ぬ人はたまにいる。 とくに珍しい訳でもない。 こう言っては亡くなった方に悪いけど自業自得だと思う。 自己管理の問題だろうに。 まあテレビはいつものようにゲームは危険だの規制しろだのと煩い。
そんなくだらないニュースを聞き流し、天気予報を求めてチャンネルを回す。
あれ?おかしい。いつもならこの時間にやってるはず‥‥
「あっ」
テレビの左上の時計には8:30の文字。
学校までは自転車で30分。1限は8:35からである。
「やらかした……」
完全なる遅刻である。
一人暮らしはいい事ばかりではないようだ。
終業ベルの音とともに始まる「じゃあね。また明日〜」の大合唱。
ボクもそれに参加し
「あんたは掃除があるでしょうが。」
ようとしたけどダメだった。
「あうぅ。ヤダ〜一人で掃除なんてめんどくさい〜。」
「あんたが遅刻するからでしょ。 あたしも手伝ってあげるから早くやろ。」
「ほんと?!やった!ありがと〜瀬奈!」
土屋瀬奈。彼女はボクの親友でありGGOでの良きバディでもある。高校に入ってからの付き合いだけど、なんだかんだ仲良くなってなんだかんだ話も合うし、それにGGOに誘ってくれたのも瀬奈だ。 瀬奈がいなかったらあの広大な荒れ果てた世界で銃をぶっ放すことは無かっただろう。
そう、フルダイブVRにもう一度手を出すことも。
数年前ある事件があった。SAO事件と呼ばれるそれは日本中に衝撃を与えた。世界初のVRMMORPG ソードアートオンライン。その開発者である茅場明彦が引き起こした史上最悪の集団監禁殺害事件。当時ボクは15歳だった。お小遣いをためて、貯金してきたお年玉もすべて使って手に入れた夢のゲーム機『ナーヴギア』と『SwordArtOnline』。宿題を終わらせて弾む気分で入っていったその世界に、ボクは2年間も閉じ込められた。
「………い…………おーい!もしもし聞こえてますか〜?」
「はうっ!な、なに?」
「なに?じゃないよ。ボーッとしてないで机戻すよ。」
「ああっ!ごめんごめん。」
2年間の仮想空間での生活は苦しかった。 これまでの日常にはない死と隣り合わせの世界。 しかし、そこで得た物もある。 そして楽しくもあったそんな気もする。 死と隣り合わせの時間を楽しいと思えるなんてボクは少しおかしいのかもしれない。 それにお医者さんによればボクは一度死んだらしい。 ゲーム内で死ねばナーヴギアから放たれる高出力マイクロウェーブで死ぬ。 死ぬはずだった。 ボクのナーヴギアは幸運な事に脳を焼くために昇圧した際にCPUが焼けて動作を停止したのだ。 医師たちの懸命な治療でボクは一命を取り留めた。 しばらくは意識は戻らなかったらしい。 そして意識が戻っても身体の一部に麻痺が出るかもしれないと言われていたそうだ。 しかし幸運な事にこうして身体は問題なく動くし、頭もおかしくなってない。運良くボクは生き残り、こうして楽しい毎日を送っている。
「よっしゃー終わったー! いやー疲れた疲れた。」
「6割くらいあたしがやった気がするんだけど?」
瀬奈の口からため息がもれる。ため息ばっかりついてると幸せが逃げてしまうというのに。
「そーかもね〜。瀬奈はこの後暇?」
「あーごめん。今日このあとバイトなんだよね。」
「そっか。ごめんね。手伝って貰っちゃって。」
「いいよ。いいよ。 まこっちはおバカちゃんだからあたしが居ないとね〜!」
「バカじゃないもん! 」
「はいはい。じゃあね〜。」
ひらひらと手を振りながら瀬奈は教室を飛び出していく。……そして数秒後、ガッシャーンという何かが倒れる音と「痛ぁぁぁ!」という瀬奈の叫びが聞こえてきた。 ため息をつくから幸せがにげちゃったのだろう。
さてと、じゃあボクも帰るとしますかね。
平和な日常から、鉄と油の匂いにまみれた銃の世界に。
後書き
読んでくれた方ありがとうございますです!
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