役職?召喚魔術師ですがなにか?
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魔物と君との間に割って入る
私、大元 剛は転生者である。
ある日突然、神様にあって特典をもらい、転生した先はダンまちの世界。
神様から貰った特典は俺が記憶している遊戯王のカードを具現化し、使役する力。
それと千年アイテム。
両親?居ないよ。もう死んだ。
故郷?もうないよ?地図上から消え去った。
原因?オラリオの奴等が攻めてきたからだけど?
別に復讐とかは望んでないし、生きていければソレでいいかなとは思ってる。
まぁ襲ってくるものなら返り討ちにするんだけども。
そんなわけで俺は現在、オラリオで生活している。
この世界では冒険者が存在し、天界から暇潰しに降りてきた神どもに恩恵を刻まれ、身体能力にブーストを掛けて、日々ダンジョンに潜っていく奴等が大半の町である。
故に俺もそれに習おうとしたのだが、ファミリアに入れてくれる所は無いし、恩恵が無いとダンジョンにさえ入れてもらえない。
だから俺は―――
「不法侵入しておりますー」
いや、簡単だよ?
光化学迷彩アーマーを使って門番を素通り。
そのまま侵入できるわけなんだよ。
「ファイヤーボール」
『グギィッ!?』
何か犬の顔した二足歩行の獣を焼き払う。
遊戯王マジ便利。正直負ける気がしない。
そもそもの話、この世界において遊戯王の魔法、罠はカードのイラストと自分のイメージを合わせたものになっている。
例えば先程使ったファイヤーボール。
イラストでは三つの火球が降ってくる感じだが、俺のイメージで何発も連射出来るようになるのだ。
当然魔力を使うが、言い換えれば魔力が続く限り連射ができると言うことだ。
「もっと奥に行ってみようかな?」
そこらに落ちている紫の石の欠片、魔石を広い集め、異次元空間にしまいこむ。
これもまた、除外する効果を持つ魔法だが、戻すのは任意にしているため、金ぴかさんの宝具箱と同じようなものになっている。因みに使っているのは封印の黄金櫃。
「ここが4階層だから……取り合えず10階層位に行ってみるか」
俺は足軽に奥へと進んでいくのだった。
「逃げろ!早く!」
とある男がパーティー全体に指示を出す。
彼らはアストレア・ファミリアの冒険者達で、つい先程怪物進呈をされたばかりであった。
団長である男の指示でアストレアファミリアは踵を返し逃げようとするが、突然の事で防具をパージしたり、荷物を破棄する時間も必要ですぐに走り出すは出来ない。
初めから全力で走ってきた、敵対するファミリアの幹部達がすぐさま追いつき、アストレアファミリアのサポーター達をバッグごと蹴り飛ばした。
蹴られたサポーターが倒れた時、通路にガラスの割れる音が反響した。
蹴飛ばされたサポーターはうめき声をあげる。
「あぐっ」
ガラスの割れる音はバッグに入っていたポーション類が割れる音だった。
団員が蹴り倒されたサポーターを起こしてバッグを確認するも、一つ残らず割れている様子だった。
「ちくしょう!」
アストレアファミリア団長はサポーターを見捨てる事は出来ないと判断し、振り向いて怪物を相対した。
その次の瞬間、怪物の投げた手斧が運悪く団長の腹部へ突き刺さった。
撤退のためにフルプレートの防具をパージしたのが斧の刺さった原因だったのだ。
それによってアストレアファミリアに動揺が走る。それを好機と見たか怪物達は各々、自分の得物を手に襲いかかる。
アンブッシュ気味の攻勢であり、更に防具をパージしたことも相まってアストレアファミリアの殆どが重傷を負うか、ダメージを受けた。
「うッ…」
「団長っ!」
「リュー、危ない!」
ヒューマンの少女もまた重傷を受ける。団長の重傷に動揺するエルフの少女に対するアンブッシュを身代わりに受けての事だった。
「あぐっ」
ヒューマンの少女が呻く。傷から鮮血がドクドクと漏れた。
「ルウ!」
エルフの少女はヒューマンの少女の名を呼び、気が動転したままポーションを探し、そして先程全て割れてしまっている事を思い出して絶望した。
何とかしようにも出来ることが考え付かないエルフの少女。
その間にも怪物のパレードは距離を詰めてくる。エルフの少女はそれを見て自らを鼓舞するために吠える。
「あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!」
目の前には怪物。怪物。怪物。美しいエルフの少女が鬼神の如き凄惨な表情を作り、それらをたった一人捌いていた。
「リュー!もういい!逃げてッ!」
「そうだ!お前だけでも逃げろッ!」
リューと呼ばれた少女の唯一無二の大親友であるヒューマンの少女、ルウの悲痛な声が狭い通路に木霊する。続いて彼女らと同じアストレアファミリアに所属している仲間たちが口々に逃げろと言う。
五体満足なのはリューだけだった。他のメンバーは殆どが致命傷と言って差し支えないダメージにあえいでいた。
複数の敵対ファミリアによる怪物進呈。三方向から複数の怪物のパレードが合流した様は言葉で表現できないほどの地獄絵図だった。
「リュー!!」
団長である大男が叫ぶ。その呼びかけに込められた意図に気付いてリューは頭を振る。
「嫌ですッッ!」
リューのヒステリックな声が響いた。それを受けて腹部に斧が刺さったまま戦って満身創痍の団長が立ち上がる。
「団長…?団長!やめてください!もう動けない程ダメージを受けているはずです!」
「なんのこれ…しきッ!…カフッ」
大男が吐血する。腹部へ刺さったままの手斧を抜いて、腹の筋肉に力を込めて止血する。苦悶に呻きながらも大男は歩みを止めなかった。リューの前に出ようとする。彼が生きているのは一重に膨大な経験値エクセリアによって作りかえられた彼自身の鋼の肉体によるものである。
「ここは私が引きつけます!歩けるのならどうか…、お願いですから皆さん逃げてください…!」
「分かってるんだろうッ?」
団長が吠える。
「っ…!」
リューは団長の鬼のような迫力に言葉を詰まらせる。団長は続けて言った。
「もう俺たちは上層まで走るほどの余力はないッ。サポーターのバッグに入っていた備蓄のハイポーションは怪物進呈の時に全て割られたッ」
「やめて…!やめてッ!!」
耳を塞ごうとするリューに団長が檄を飛ばす。
「聞けッ!」
「あぁぁ……あ…」
「五体満足なのはお前だけだ。…ゴホッ。頼むリュー。お前だけでも逃げてくれ…!」
聞きたくない聞きたくない。リューが小声でつぶやく。
「そうよリュー!ここは私たちが死守するわ!命に代えてでもねッ!」
ルウが負傷した片足を引きずりながら立ち上がって言う。
頭が真っ白になった。背中を向ける。団長に怪物が襲いかかるのが見えた。景色がスローモーションのように流れる。
走れ!走れ!!
他のパーティに泣きつくんだ。ポーションを分けてもらって、助力を乞うんだ。絶対に皆んなを助ける。
(本当に助けられるのだろうか?)
(無理じゃないのか)
(出来るわけがないだろう?)
負の感情がふつふつと湧き上がる。
「うるさいッ!!!」
かぶりを振る。喝を入れる。この角を曲がれば仲間たちは見えなくなる。
(このまま…見捨てるしかないのか…?)
崩れ落ちそうになるのを太ももを殴って必死で堪える。突然、天井の一角が崩れ落ちた。。
「ぐほぇっ!?」
武器も持っていない、赤髪の軽装な少年が、天井に空いた穴から落ちてきた。
「ぐほぇっ!?」
痛い。
打ち付けた尻を擦りながら、俺は立ち上がる。
「まさか落とし穴があるとは―――ん?」
顔をあげると、そこには目に涙をためた少女がいた。
いや待て、何でそんな泣いてんの?もしかしてぶつかった?
「っ!貴方はポーションをお持ちだろうか!?持っていたら譲ってほしい!頼む!」
「うえ!?」
何かを思い出したのか、少女が俺の肩をつかんで揺すってくる。
「うぐあぁああ!!」
「っ!?」
「団長!」
前方から悲鳴が聞こえ、そちらへ視線を向ければ怪物の大群に襲われている団体がいた。
「やっべ!」
ソレを見た瞬間に俺は飛び出した。
恐らく何処かのファミリアで、更には絶体絶命のこの状況。
さっきの少女がポーションを求めたところから見て、壊滅寸前であることがまるわかりだ。
「魔法、強制転移!」
今にも放り下ろされる斧の対象にいる男と俺の位置を入れ換え、俺が斧の一撃を受ける。
”ザグッ”
切り裂く、と言うよりも砕かれるような感覚が、俺の肩にのし掛かり、その直後に激痛が走った。
「ぐおあぁぁぁ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?
正直嘗めてた!嘗めてましたダンジョン!嘗めてごめんなさいダンジョン!
これからは慢心せずに精一杯―――
「殲滅する…!」
―――ぶち殺すことを誓ってやる。
「魔法、非常食!」
その言葉の直後、俺の手のひらに乾パンの入った筒が現れる。
この乾パン一枚一枚にかなりの回復効果が付与されているため、劣化番の仙豆だと思うのが簡単だ。
「はぐっ」
中から6枚ほどつかんで口のなかに放り込む。
乾いた食感と甘味のある味わいが口に広がり、俺の傷は完全に塞がっていた。
「アンタ等、これ食って下がってろ!」
乾パンの筒を後ろにいる人達に放り投げ、俺は怪物たちを見据える。
ざっと数えて40~60体はいる。目測で図ってレベルが4~6程だろう。
モンスターは5匹までなんだぞ!と言っても聞いてくれないのがこの世界であるため、個人的なルール違反を殲滅しよう―――
「魔法、古のルール。続いて召喚、青眼の白龍!」
―――社長の嫁でなっ!
『ガアァァァァ!!』
俺の目の前に召喚の魔方陣が出現し、光輝く白い龍が姿を現す。
初めて海馬がコイツを召喚したときの感動がわかる…。
カッケーーー!
「嘘…」
「ドラゴン…だと…!?」
後ろでは乾パン食って回復したパーティーの方々が、ブルーアイズを見て目を丸くしていた。
「殲滅しろ!魔法、滅びの爆裂疾風弾!!」
ブルーアイズが吐き出した一閃の光が、敵を全て埋めつくし、爆発を起こした。
後に残ったのはそこらじゅうに落ちている魔石と、数々のドロップ品。
そして巨大なクレーターだけだった。
「よぉし、戻っていいぞブルーアイズ」
『グァルゥ…』
またね、と言うように青眼の白龍は光に包まれて姿を消した。
「さて…」
俺は団体様の方へと向き直り、笑顔を向ける。
全員が乾パンを食べたようで、傷は塞がり、立っている者もちらほらいる。
しかし―――
「ひっ――――」
―――どうやら怯えられているようだった。
「あー…」
しかしながら俺にもやらなきゃ行けないことくらいはある。
これを聞かないとどうしようもないことくらい想像に容易いのだ。
「取り合えず」
「「「…」」」
緊張が走る。
大方何を要求されるか、金か、女か、そんな考えが横切るアストレア・ファミリアの一同だったが、それは次の瞬間に杞憂に終わった。
「帰り道教えてください」
「「「………」」」
その時、只でさえ静かだった空間が、更に静かになった気がした。
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