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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第80話 裏切りの母国




 それは、物心付いた時からだった。


 まるで、自分が自分じゃない、と感じる事が多くあった。
 いや、表現としては少し違う。

 そう、……頭の中(・・・)何か(・・)がいるのではないか? と感じる様になったのだ。

 だけど、不思議と そう感じても、決して不気味だったり、恐怖を感じたり、そういった類は無かった。
 ……この様々な争いが続く広大な世界の中でも、なぜかは判らないが安心感さえも感じられる様になったのだ。

 その()の存在をはっきりと認識出来る様になったのが、《とある世界》でだった。声に耳を傾けた。そして、一歩先にある死の危険。死線。超えれば死。命の危険があると告げられても尚、……守る(・・)為に、立ち上がった。躊躇などせずに、踏み越えた。

 その先で待っていたのは、死ではなかった。――……絶望の中に照らす光だった。

 その世界ででは、当時 迷い込んだら最後。……生存率を考えたら、0%と言えるだろう。いや、今現在でも、言える様な状況にあったと言うのにも関わらず、その力を体現する事によって、生還を果たす事が出来た。


 その力を、彼は《神威》だと言っていた。



 《神》


 
 神の中の頂点。
 その存在は、この世界の全て。
 全知全能とも言えるだろう、この世の全てを司っている存在。一般的に、神を崇めているのがAL教である。そして、頂点を軸とし、更に下位へと続いていく。つまり、神の中にも階級と言う物は存在するのだ。


 そして、神威は、如何なる神をも畏れる。神の威を借る程の力とされているそうだ。


 その事実は 全ては終わった後に、知らされた事だったが……、それ(・・)を 初めて体現した時、確かに死を感じた。嘗てない程、死を感じた。

 冷たくなる身体。まるで 己が氷で出来ているかの様に感じる程だった。
 意識は、その凍てつく冷気と共に混濁してゆき、やがて消失した。まだ、倒れていられない。しなければならない事、守らなければならない人も傍にいたのにも関わらず、己の強さや意志の強さ、全てが関係ない。問答無用で世界から意識を遮断された。

 そう、今回と全く同じ事だった。




――相も変わらぬ、な。……主は。



 そう、意識が沈んでも、遮断されたとしても、この声だけは聞こえる。時空を、次元を超えて、伝わってくる。だから、この場所は世界とは隔絶された空間だと、無意識下で認識した。元いた世界とも時間の法則すらが違う事も、認識する事が出来た。


――己の命がいらん、と言うのか? 命は尽きれば全て アレ(・・)に還る。主も例外なくだ。……成り立ちに異常とも言える現象があり、様々な運命が巡り合わさったからがこそ、主がこの世に誕生したのだ。主、そして その父。――それも異常とも言える。その奇跡が 三度も続くとは思えん。


 声は 続く。

 この声の主は、いつも心配をしてくれている。口調は、高尚……悪く言えば遥か彼方、天よりも高い所から、見下ろしているイメージさえ感じる。
 だが、その真意は……誰よりも優しいのだ。この声は、その事実を決して認めないだろうけれど、彼には感じる。それだけで良いと思った。


 だから、何を言われても、最後には判ってくれる事は 何処か、自分でも判っていた。


「……そう、オレは変わらない。これまでも、そして、これからも……、な」


 思いの全てをぶつけても、受け止めてくれるから。


「確かに、思う所はあった。優先順位を 自分のなかでも作ろうとしていた。――だが、オレには、もう無理だ。あの日、カスタムで 全て(・・)を見たあの時。そして、妹と母を救おうとした(・・・・・・)、あの時」


 思い返す。混濁をし、沈んでいると言うのに、この声が聞こえる時は、はっきりと鮮明に浮かぶ。それは、悲しい記憶でもあるが、自分の中での戒めとしているのだ。


――……もう、二度と失わない為に。


「――オレは、命を捨てる気はない。だが、それでも 失うくらいなら、何度でも命を賭ける。――……命を使う事で 守れるなら、躊躇わない」


 今、浮かび上がるのは、志津香の姿だった。


 彼女は、忘れ形見だ。


 自分にとってのもう1人の父親と母親。その娘。

 兄妹だといえば、きっと志津香は怒るだろう。『自分の方が姉だ!』と、彼女は怒るだろう。だから、兄妹とは少し違う。姉弟とも違う。別に子供ではないから、どちらでも良い。と思うが、志津香もそれも認めない、と何処かで思った。

 だが、それでも家族だ。

 ……だから、想っているのは間違いなかった。彼女を見る目が、他の者達とは違う事も、自覚している。贔屓をしている訳ではない。
 
 例え、あの場所にいたのが、他の仲間、誰であっても、恐らく自分は同じ行動を取ったと思う。

 ……人外である魔人と、圧倒的な実力を持つ魔人と、相対している姿を見れば……仕方がない。

 志津香は 魔人を相手にして、傷つき、それでも戦い続けている。その姿を見て、ユーリは 奮い立った。


『我を呼ぶ事はもう出来ないと心得よ』


 そう、言われた言葉も 全て忘却の彼方だった。
 魔人サテラと相対した時の様な力。あの力を全て使う事は叶わなかった、が。それでも 限りなく近い力を、神威の力を身の内に宿した。全面全てを見に任せる神威は、その力は勿論 身体能力も向上する。

 いや、向上、などとは言えない。

 強くなれば、なる程 相手の強さと言うものが判ってくる。それは、その者の強さが、戦闘力が身の内から外へと、現れる、それを感じ取る事が出来るからだ。

 あの力は、また違う。――次元が、違う。戦闘力そのものが表面に現れる様な事はない。

 仮に この状態で才能限界値を測ってもらうとすれば、人間のレベル屋、いや、例え最高位のレベルを司る神であっても測る事は出来ないだろう。
 いや、それも違う。正確には、レベル屋にも、レベル神にも、その片鱗は掴む事が出来ている。ただ、それはあやふやなもので、通常では有り得ない程、変動しているのだ。だから……、誰もが有り得ないモノ、と認識している。

 そう、《不明レベル値》 と言う形で、現れているのだ。


――主は、考えた事があるのか?


 声は続いた。その声は、少しだけ 先程のものとは違った。
 
「……考え……?」

 ただ、言っている意味がよく判らなかったから、聞き返していた。
 判っていない事を、見越しているかの様に 声あ続いた。核心に触れる所を直ぐに。
 

――親愛なる者、愛しき者、力なくとも、懸命に生きようとする者。人間達。……それらを、慈愛を以て 己を犠牲にし、護った所で、残された者達の事を、主は考えた事があるか?

「………っ」

 それを訊いて、ユーリから言葉が出てこないのは言うまでもない事だった。

 自己犠牲。

 今までの事を考えたら、自分にその気が無いとは思っていても、他人からみれば、説得力が無い、と言えるものだ。過去の戦いの中でも、命を張った。使った事はあるのだから。

 だけど、本真では それは決して好む所ではない。

 何故なら、残された者の悲しみを、痛みを知っているから。それは、誰よりも、知っているのだから。


――確かに、救う事は出来るだろう。が、主が死ねば 真の意味での安寧は訪れない。形だけの倖せ、それは 時と共に 霧散する。――同じく、時が痛みと悲しみを溶かすかも知れぬ、が。その程度で、あの者(・・・)あの者達(・・・・)が、時間程度で癒えるとは思えないのでな。それ程までに、だからな。


 それは、威圧感のある声ではない。
 これまでのどの時よりも、感情が強く篭っている、と感じた。

 そして 上手く、言葉が出せなかった時。


――主は、あの男(・・・)に宜しくと頼まれた。そして、あの()の献身さに免じ、今回は、貸しだ。


 視界が、目の前に突如 光が差した。一粒の光はやがて 大きく広がっていく。


――……目を、覚ませ。


 その言葉を最後に、広がり続けた光は軈て、見える範囲、全てを包み込んだのだった。
 



















 瞼の裏に 光が差すのが判る。
 そして、温かみも同時に感じられる。そこから、夜が明け光に包まれているのだろうか? と何処かで思えたが、全身を包み込んでくれる温もりは、太陽の光とは、また違う何かを感じられた。それを確認したかった、……だが、異常なまでに瞼が重く、開く事が出来なかった。それは、瞼を縫い付けられているのではないか? と思える程だった。身体の節々にも鈍い痛みがあるのを感じ、まるで動けなかった。

 動けなかったのだが、感じる温もりが……、まるで 身体を癒してくれているかの様に、痛みを拭ってくれていた。それでも瞼を開ける事は叶わなかったが……。

 無限にすら感じる時間。浮遊しているかの様に感じていた時間。

 軈て、包んでいた温もりが身体から離れていくのを感じた。


「―――ぅ……」


 そして、声が聞こえてきた。
 光の中で、何かを呼ぶような声。


「ゆ―――ッ」


 軈て、声の距離がどんどん近くなる。
 その内容も、距離が近くなるにつれて、はっきりと判る様になってきた。それに追従する様に、縫い付けられていたのが嘘の様に、緩やかに開く事が出来た。

「………っ」
「ゆぅ……!」

 目の前にいるのは……。

「しづ、か」
「そ、そう。わたし、わたし、だよ……っ も、もう……しんぱい、しんぱい、かけて……」

 目の前にいるのは、志津香だった。
 いつも強気で、気丈に振る舞う少女の両眼には 涙が溢れていて、朱く染まっている。目を腫らしている様子が見て取れる。

「どう、した……? いつもの、志津香じゃない、な……」
「ば、ばかっ! だから……ゆぅが、しんぱいを、かけるから……っ」
「はは……。そう、だったな」

 ユーリは、ゆっくりと身体を起こした。
 先程まで感じていた感覚。全身を、身体の中を まるで棘付きの虫が這いずり回っているかの様に、続く痛みがまるで無くなっていた。

 力の代償は、覚悟をしていた筈なのだが、普通に動く分には、問題は無さそうだ。そして、普通(・・)に 戦う分にも、恐らく大丈夫だろう。


――……今回は貸しだ。


 もう 全てを思い出す事は出来ない。泡のように消えていき、朧げになってしまっているが、確かに頭の中に残る声の内容。
 
 彼が 力を貸してくれたのだろう、と判った。そして、志津香が……。

「ありがとう。志津香。……守ってくれた、な」
「っ……」

 志津香は、ユーリのその言葉を訊いて僅かに俯く。顔を直視する事が出来ない。
 間違いなく、顔が赤くなってしまっているから。――それが、止められないから。顔を見たら尚更だ。熱源をずっと目の前に当てられているも同然だから。

 そして、何よりも嬉しかった。

 ずっと、ずっと……、ユーリは守ってくれた。守られ続けた。カスタムの事件の時も、カスタムでの防衛戦の時も。……今回の戦争でも。何度、守られたか判らない。貸し借りを言えば、返しきれない程だった。
 多分、その想いは皆が持っている事だろう。目の前の彼には、沢山、沢山もらっているから。それを少しでも返す事が出来た事が 志津香は嬉しかったのだ。

 ただ、その過程だけは……、自分の心の内に秘めるつもりだが。

「そ、それより!!」

 志津香は、想いを勢いで振り払うように 話題を変えた。

「全部、全部話して! ゆぅが倒れる前に、言ってたわよね!? 『オレの持病』だって! もう、隠し事、しないで。そんな危ないのがあるなら、絶対に無理なんか、させないから! 黙ってる、話さない、って言うんなら 全員に通達して 否応なく 対処するからね!」

 ずいっ! と志津香は ユーリに顔を近づけながら、そういった。かなりの剣幕だったから、まだ病み上がりと言っていいユーリ、本調子ではないユーリだったのだが、思わず仰け反ってしまった。

「それに! ゆぅが倒れた時 私に。……違う、まるで頭の中に直接話してくる様な《声》についても話して! それ、知らない、なんて言わないわよね?」
「っ……!?」

 その事については、ユーリは驚いていた。

 あの声(・・・)が他者にも訊こえた事についてを。

「ゆ、ゆぅ?」

 志津香は、自分で驚かせる? 威圧する? ように言っていた事を自覚していたのに、ユーリの反応に少しだけ逆に驚きを見せていた。

「志津香、あの声が訊こえたのか? ……訊いた、のか?」
「え、……ええ。だ、だって ゆぅを助ける事が出来たのも……その、声のお陰、だったし」
「そう、なのか……」

 驚きをみせていたのだが、ユーリは徐々にだが、穏やかな表情に変わっていった。

 その顔の意味は、志津香には判らない。だが、それでも 赤くなってしまう(見惚れてしまう)のは相変わらずだった。折角ごまかそうとしていたのだけれど、無駄に終わってしまったのだから。

「……なら、話さない訳にはいかない、か。……そうだな」

 ユーリは、目を閉じると……ゆっくりと開いて話を始めた。

 あの声について。自分の知る事を話す為に。

 だが、《最後の一線》だけは――……、まだ話せない。


 あの声は、物心つく時から聞こえていたと言う事。その正体については まだ正確には知らない、判らないが、()の類であると言う事。そして、人知を超えた存在であるという事。

「オレの親父から、《受け継がれた》と言うのが正しいかもしれないがな」
「ゆぅの…… お父様?」
「ああ。オレの親は4人。4人の両親がいる。……内、3人は志津香も知っていると思うが、親父の事は、知らない筈だからな」
「……うん」

 志津香は、ユーリの言う『4人の両親』と言う意味は直ぐに判った。

 自分自身の親も、そこに含まれていると言う事が。確かに、期間は凄く短かったけれど、ユーリにとっては親も同然だった。その事が嬉しくも思えたのだ。

「敢えて、呼ぶとすれば《神威》」
「かむ、い?」
「ああ。カミサマ、の神に、脅威の威。その二つを繋げた造語だ。オレの《リ・ラーリング》の様に、技能として 呼ぶとすれば そうなるかな。そう、オレは呼んでいるよ。……彼の名かどうかは判らないが」

 軽く笑いながら続けるユーリ。

 あの声を感じる事が出来るのは、特別な者だけだと言う事は訊いていたから。だけど、志津香であれば、納得をする事は出来ていた。志津香は 自分にとって間違いなく特別だから。


 そして、神威に関して答えられる事、重要な所はただ1つだけ。話すべき所はそこだけ。

 それは、明らかに人外の力。様々な力を超越した力、だと言う事。それは、魔人をも圧倒し、威圧させる。戦意を喪失させる程のモノだと言う事。その核心は、自分、ユーリ・ローランドではなく、全く別の存在だと言う事。

 そして、その力を 極めて脆く、脆弱でもある人間である自分の身に窶す事の意味を。

「――……持病、と言ったんだったな。似たようなモノだな。あの力を乱用すると、身がもたない。そう言う意味だった。アレを使いこなすだけの器が、技量が、オレに備わってないのに、半ば無理矢理に纏ったから、その反動だ。その力は、志津香も見ての通りだ。アイゼルを追い返した。……多分、アイゼルも本能的に、何かを察したんだと思う。……サテラは 思い知るのが遅かったが」

 ユーリは苦笑いをしながらそう言っていた。
 だけど、志津香は笑えなかった。

「っ! そ、そんな無茶をして……っ、そ、それでゆぅが死んじゃったら、どうするつもり、だったのよっ!」

 志津香の言葉を訊いて、ユーリは また軽く笑った。
 そして、帰ってくる返事は 志津香もよく知っている言葉だった。

「オレがまだ、死んでいないから(・・・・・・・・)だ」
「ぁっ……」

 ユーリの言葉は 志津香がアイゼルに向けて言った言葉と同じだったからだ。
 
「戦える力があるのに、……抗う力があるのに、それを使わず 死ぬのも、死なせるのも御免なんだ。それに、確かにその代償で死ぬかもしれなかった。最後、倒れる瞬間……は、流石に保っているのが無理だった。……寧ろ諦めかけていたかもしれない。が、その瞬間までは、無理だとか思いたくなかった。これはずっと自分で、決めたんだ」
 
 ユーリの言葉は、志津香にとって 戦う理由。あの強大な魔人と相対して、決して退かない理由そのものだった。ユーリの背中を見続けて、思い馳せた事だった。
 
「――失うのだけは……御免なんだ。だから 自分の力を、あの力を使っても、出来る限界まで引き出す。 それで、守れるのなら、戦えるのなら、迷わずその選択をする。それに――」

 ユーリは、志津香の目を見て、笑った。

「無茶したら、ちゃんと守ってくれる。背中を任せられる人が、オレの傍にはいるから、な? 志津香や、仲間達。……沢山、いるよ。ありがたい事だ。志津香、ありがとう」
「ば、バカっ! 私が……、私達が、どれだけ あんたから。……ゆぅから、どれだけ もらった、っておもってるのよ。返しきれるなんて、思ってないんだからっ。――い、一生、掛けたって」

 それは、遠まわしに 『一生掛けても』と告白をしている気分だったが、当の本人がそう受け止めたかはまた、別の話だった。

「――……オレは、これからも きっと無茶をする。……だけど、死ぬ気はない。最後の一線。そこを超える事はない」
「……絶対、超えさせないわよ」
「ああ。……だな。これからも……」

 ユーリは、ゆっくりと拳を突き出した。

「よろしく頼むよ。志津香」
「皆まで言わないで。……当たり前、でしょ。こっちこそ……」

 志津香は、ユーリの拳に答える様に、自分の拳を押し当てた。



 そして、穏やかに信頼を確かめ合って終われる。


 確かに 志津香にはまだ 頬の熱が篭っているが、それでもまだ上々な方、よく隠せられた方だだろう。方や全く感じてない、勘付いてなさそうなユーリには、正直、志津香にはくる(・・)モノがあるのは確かなのだが、それでもまだ良い。
 人には言えない事を、ユーリにする(・・)事が出来た事で、一歩も二歩もリード? 出来たと何処かで満足気味だった。

 この戦争でもそうだが、沢山の想い人が周囲にどんどん集まってきて……、驚愕の事実(かなみから訊いたアニス事件?)を訊いて、正直凄く焦っていた。

 今回の件、正直、戦争中だと言うのに不謹慎だとは思えるけど 色んな意味で、近づく事は出来たと思う。マリアが作ったと言うあみだくじ機械?の時もあった。正直、『……余計なことを!』と思ったけれど、結果とすれば、……志津香にとっては良かったのだ。勿論、あの板の内容通りの内容をした訳ではないが……。それに近しい事(・・・・)は志津香はする事が出来た。

 だが……、ユーリの言葉で再び熱を持ってしまう事になる。

「だが、本当に助かったよ。志津香。……あれを癒す方法は 神魔法でも不可能だと訊いていたから。……一体どうやったんだ? その辺も、彼から訊いたのか?」
「っっ!!?」

 そう、ユーリが疑問に思った事は、自分自身を快復させた事について、だった。
 あの声は、確かに志津香の事を言っていた。
 
「以前、……志津香には言ったが、サテラと相対した時 完全体で神威を使った。あの時は まだ大丈夫だったんだが、短期間で二度目は無茶だったみたいなんだ。二度目は無い、と忠告もされた。――志津香がいたから、としか思えなくてな」
「そ、それは……」

 志津香は、ユーリの言葉を訊いて、口ごもる。
 ユーリは知らないみたいなんだ。あの声が教えてくれた救う方法を。安易に話して良い様な内容ではない、と冷静に考えられるのであれば、言える。

 何せ、冷静になって、顔が赤く燃え上がる様に熱くなる事を只管我慢して、思い返せば……あの時は、志津香自身も正直危なかった。
 
 生気とは、即ち生きている、生きる為のエネルギーだ。
 
 それを分け与える為 己に降りかかるリスクも大だ。あの声が、神威が忠告をしてくれたが ユーリを助ける為に、まるでリスクの事は考えてなかった。
 安易に取れる様な事ではない。死ぬ危険性だってあるからだ。

「――志津香も、危なかったんじゃないのか?」
「っ……」

 ユーリの一言を訊いて、『こう言う時だけは鋭い』と思わずにはいられなかった。

「私は……そ、その、大丈夫」
「そうか? だが……何をしたんだ?」
「え、えと……そ、その……っ」

 追求をしてくるユーリ。
 それは、自分の事を心配して言ってくれている事だから、強引に言わない、終わらせる様な事が出来なかった……と言うのは、完全な志津香のいいわけである。
 ユーリに自分がした事を正直に言って、その勢いで想いを……、以前の時のではなく、心の内を、とも思ったのだ。だが、恥ずかしさが相余って 中々決断を下す事が出来ない。

「その……ゆ、ゆぅ……」

 だけど、言おう、言おうと、喉から出かかっていたその時だった。



『ここだよっ!!』
『ほ、ほんと? ヒトミちゃん!?』
『ユーリがいるってんなら、志津香だっているだろ?』
『うんっ。お姉ちゃんもきっと。私、判るからっ!』



 外が騒がしくなってきた。それも1人や2人ではない。




『ユーリさんっっ!!!! 志津香(さん)っ!!!』
「お兄ちゃんっっ!!! お姉ちゃんっ!!」
「だいじょーぶかぁー? ユーリー、し~づかー!」
「お楽しみ中、しっつれ~いっ♪」
「大丈夫ですか? ユーリ。志津香さん」




 これは、本当に、『何という事でしょう!』と驚いてしまう程、絶妙なタイミングだった。
 
 一体、いつの間にここまでの人数が、この古びた小屋にまで来たのだろうか? と疑問に浮かべる程……、と志津香は思ってない。今は彼女は完全にトリップしかけているからだ。

 今の現状が非常に不味い……と言う事だけは、トリップした頭では、奇跡だと思える速度で理解出来た。


 殆どユーリに接近している。腰をかけた状態ではあるが、後ろから見れば、……密着して、所謂キスをしている? とも思われても不思議じゃない。

『…………』

 この場に現れて、完全に固まってしまっているのは、志津香だけじゃない。
 まず、完全に 固まっているのは、かなみ、メナド、トマト、ラン、優希。


「あ、あはは……よ、よかっ……ぅ……ぅぅ…… お、おにい、ちゃん。おねえ、ちゃん」

 そして、少しだけ驚いていたものの、笑顔と泣き顔が含まれたヒトミ。沢山いなければ、間違いなく突撃。ユーリと志津香に飛びついていたことだろう。


「はっはー こーんな事だろうと思ってたケド、いい瞬間ゲットぉ~♪ いやー酒の肴だわ。これで一ヶ月は持つわね~~♪」
「お? 付き合うぜー。美味い酒、持ってくよ! いやぁ、マジで美味くなるだろうよ!」
「ふふふ。本当にお2人とも無事で良かったです。それに、正妻は、やはりですか。――予想の範囲内です」

 完全に、ニヤニヤ《こんな顔 ⇒ ( ̄∀ ̄)》 
 としているのが、この展開をある程度予想? していたであろうロゼとミリ。相変わらず、恐ろしいまでの勘である。そして、その後ろでいるのは、真知子。彼女も何処か納得した様子で、微笑んでいた。


「回復をしておきます」

 表情に出さず、神魔法。離れていても問題ない広範囲で、2人同時に 更にこの場の皆にも効果のある《回復の雨》を使用。そして、『無事で良かったです』とマイペース。だが、内心では自分でも判ってない心境の変化が少なからずあって、よく判らない、と少し混乱してる、クルックー。


「こらぁぁぁ貴様ぁぁぁ!!! 下僕の分際で、戦争サボった上に、オレ様の志津香と寝るとはどういう猟犬だぁぁぁ!!!!!」
「ら、ランス様……その、りょうけん、の字が違うと思いますが……、で、でも…… 本当に……」
「……ったく、バカ野郎。心配ばっか、かけやがって………」


 更に言えば、そのすぐ後ろ辺で、憤慨をしているのが、ランス、そして ランスの傍にいて、2人が無事である事にホっとしつつ……、自分もランスと当てはめて、うっとりとしているのが、シィル。そして、その後ろでランスの次位に憤慨をしているフェリス。


「志津香……ユーリさん……、本当に、本当に……無事で良かった………」

 何時もであれば、これみよがしに からかう輪に入るであろうマリア。今回ばかりは 無事だったことが嬉しくて、嬉しくて……。もしヒトミ達がいなかったら、自分が抱きつきに行こうとしてたが、必死に我慢をしていた。




「ち、ちがっっ……!!!!!」



 完全にやばい瞬間を見られてしまった志津香は、慌てて弁解、と言う名の言い訳をしようとするのだが、ミリからは『言い訳なんかして、いいわけ?』 と寒い事を言われ、ロゼからは、『ユーリの《モノ》、どんな具合だった?』 とか 言われ。
 固まっていた女性陣達も次第に復活した様で、、特に一番声が大きい? トマトを筆頭に盛大な質問攻撃雨霰。かなみに至っては、本当に涙目。嬉し泣きなのか、それとも悔し泣きなのか……。


 怒っていたランスも、突入できない程のモノであり、威圧されて、物理的にも、この場から 追い出されてしまったりして……。



 つまり、収集が中々つかなかった、つける事事態が不可能だと思える程に、混沌(カオス)だったと言う事。



 そんな中でも、ユーリはいつも通りマイペース。


「皆無事で良かったよ……」


 と、笑顔だった。
 確かに、決戦の最中だったから、と言えば間違いないから。誰も欠けていない事を安堵していた様だ。



「はぁ~、私も、幻獣さんも頑張ったのに~、やっぱ ヒトミちゃんのほーが、はやかったみたいー」

 いつも通りなユーリを見て、一先ず安心したり、更に 少し遅れて来たミルも混じって、まだまだお子様な癖に、過激な単語を言いながら(意味分からず) ユーリと志津香に言ったりして また カオスになったり……と、

 志津香にとっては、使徒達と戦った事よりも、アイゼルと戦った時よりも、……ユーリを助けた時よりも、疲れてしまった事は言うまでもない事だった。























~リーザス城内部 ヘルマン軍 司令総本部~


 違う意味で、激震が走っているのは、ヘルマン側だった。
 今、丁度伝令兵から 届いたのだ。今回の一戦、ホッホ峽での一戦、そして……ジオの町の現状についてを。

「な――――、なんだと!?!?」

 パットンは、玉座から勢いよく立ち上がる。今回はハンティが傍にいる為、リーザスの女達を使った狂乱の宴などは出来なかった。もしも……彼女達が傍にいれば、その太い腕で振り払いかねなかった為、彼女達にとっては僥倖だと言えるだろう。

 そして、その一報に驚きを隠す事が出来ないのは、そばにいたハンティも同じだった。

「……負けた、と言うの? トーマが?」

 そう、ジオの町が落ちた、つまり敗戦した、と言う事実。
 それに驚きを隠せられない。パットン程ではないが、ハンティも信じられない様子だったのだ。

「将軍御当人はご無事ですが……、本隊はオクまで撤退したとの事です」
「そう、か……」

 ハンティは、少しだけ、ホッとしていた。
 信頼出来る友達を失う。その苦しみは彼女もよく知っている。特に、トーマは 親友だと言っていい彼女を看取った男だから。……信頼、の二文字では表せられない程、の関係なのだから。

 そして、更に確信がいった。トーマと言う 人類最強の称号を冠している豪の男を退けた解放軍側に、あの男(・・・)がいる、と言う事を。

「何をしているのだ! トーマのヤツ……!!」

 トーマが死んだ訳ではない、と言う事を訊いて、多少ほっとしたのは、パットンも同じだったが、それ以上に憤慨が湧き出ていた。握る拳にも力が過剰に入る。
 トーマの実力は十分すぎる程、知っているのだ。だから、負けるはずが無い、とさえ思っていた。……つまり、本気でやらなかった、と パットンは判断したのだ。

「………ッ!! ノス、ノスは! どうした! 魔人どもは、何をしている!!」

 声を上げ、周囲を見渡すが、そこにはローブに包まれた老魔人の存在はなかった。

「ぐ、ぐぬぬ……! この大事な時に……!!」
「い、いかがなさいますか…… 解放軍との兵力差も……」

 伝令兵の不用意な一言に、パットンの両眼がかっと見開かれた。

「解放軍だと!? なんだ、その呼称は! 敵はリーザスの残党に過ぎんだろうが!!」
「は、ははっ!! 申し訳ございません!」

 声を荒らげ、多少なり発散できたのだろうか、パットンは 肩で息をしつつ、冷静に頭を使う事が出来た。

「……とにかく、トーマには無理に仕掛けるな、と言っておけ。本国からの援軍を待って行動を……」
「援軍、だって?」

 パットンの指示を訊いて、ハンティがそれを遮った。

「パットン、お前…… そんなものを当てにしてたの?」
「……どういう事だ、ハンティ。転送魔法陣で、援軍を送れ、と親父に使いも出した筈だぞ!」
「………………」

 ハンティの沈黙は、深く……そして、重いものだった。
 それを見たパットンは 表情を更に強ばせた。

「何故、何故黙るんだ…… ま、まさか……届いていない、と言うのか……?」

 本来の快活な気性とは裏腹に、ハンティは躊躇い、そして口篭ってしまう。だが、それでもパットンの縋る様な視線には耐えかねたのだろうか、ゆっくりと口を開いた。

「……きやしないよ。援軍なんて」
「な…………!?」

 その形のない、落雷に撃たれて、パットンの頭の中は真っ白になった。その一撃は、修行時代、ハンティに撃たれた雷よりも遥かに、内部に撃ちつけるものだった。

 だが、それを認めたくないのだろう。パットンは声を荒らげた。

「ッ、ど、どういう事だ! バラオ山脈を超える好機だろうが!」

 そう、リーザスの豊かな国土は 厳しい気候のヘルマンにとって、長年欲し続け、そして手に入らなかった念願のモノ、云わば宝物と言っていい程なのだ。

 だが、ハンティの言葉は覆らなかった。

「……評議員は、援軍の要請を多数決で棄却。ハズク皇帝も その決定を承認したよ」

 ハンティのその言葉の内容を、核心部分を 読み取る事が、パットンには出来た。

 そう、宝物と言っていい。国と言う大きな、どんな袋にも、箱にも 収める事は不可能な大きさの宝物を手中に入れる事より……、邪魔者(・・・)の抹殺を優先した、と言う事。

 ヘルマン評議会の多数派と皇帝の決定は、そう言う事、つまり、それを表明した、と言う他ならない。

「ば、馬鹿な……、そこまで、そこまで……、殺したい、と言うのか……? 親父、までも……!」

 よろり、と身体が崩れてしまった。
 玉座が、虚しく 一時の主を受け止めた。

 それは、想像の範疇から外れる程に徹底した悪意。

 皇子であるパットンの太い喉笛をも締め付けるかの様だった。

「………皇帝は、パメラとシーラが大事なんだ。パメラに言われれば頷くし、シーラを女帝にするためには……」
「が、っ……! お、皇子は私だけなんだぞ! 私が、妾腹だから……、お袋が、妾だからか!? だから、最初から、玉座を……!!」

 激情が先走ってしまい、言葉が上手く形にならない。暗い目の前をみるのに、耐え切れなくなってしまい、分厚い掌で顔を覆った。

「奴らは……、親父は……、お、オレ、オレを……っ……!」
「……パットン」

 いつもであれば、ハンティも パットンに喝を入れるだろう。

『皇帝になる男が、この程度で取り乱すな!!』

 と叱りつけるだろう。
 だが、ハンティはこの時ばかりは、言葉を見つけられなかった。
 最後まで、言わないつもりだった。……パットンが 援軍を最後の最後まで当てにして、いた。それを希望に見ていた事から、もう言ってしまうしか無かった。



――誰からも愛される皇子になる様に……。


 
 それは、30年程前だと言うのに……つい、先日の事の様に ハンティの脳裏には思い浮かべられる。その為に、最後の友の約束だったから、彼女なりに頑張ったつもりだった。

 こんなパットンの顔を見たかった訳でも、みせたかった訳でもない。



 ハンティは、何も言えず、痛ましげな目で 養い子であるパットンをただ、見つめるのだった。







~リーザス城 ????????~


 謁見の間での悲観を知る事もなく、その意思もなく……ただ 恐ろしいまでに集中をしている男がそこにはいた。

「……………」

 巨大な姿。その大きさはパットンと比べても見送れしない。だが、威圧感だけは類を見ない。――厄災、と称してもおかしくない程の物を携えた男――魔人ノスである。

 ノスは城内のとある部屋に、言葉もなく佇んでいた。だが、その集中力だけは、見るだけで判る。いや、見てしまえば、ただの人間であれば、気絶をしてしまうだろう。

 ローブの奥にある手が本棚の奥へと伸びる。

 物音1つしない部屋の中、かたり、かたり、と小さな物音がたっては消える。

「………………」

 そして、その手を翳し、何かに触れようとした――――刹那。

「ぬ…………」

 鈍く光る何かが、魔人の手を鋭く弾いた。

「……やはり、駄目か。あれこれ試しては見たが……」

 唸る様に呟くと、ノスは手を引いた。ここで、遂に集中を解いた。

「やはり、聖武具……、そして 王族の血、か」

 焦燥を、僅かにだが滲ませ、ノスは一瞥を残して、踵を返した。






~リーザス城内 牢獄~



 牢獄内では、狂乱の宴はまだ続いていた。いや、永遠に続くのだろう。
 王女であるリアを責めているのは、魔人でなければ、ヘルマン側でもない。

 リーザス側から、ヘルマンへと寝返った。リアに個人的な恨みを持つ者だからだ。

「んぐぁっ! あ、あが、あがががががが!!」

 電気責めがただ只管、機械的につづけられていた。
 それは、失禁しても、失神しても、泣き叫んでも変わらない。

「で、でんげき、どめ゛ どめでぐだ……!」

 失神出来ない絶妙な手加減で、苦しみを延々とつづけられたリアの心は完全に折れた、と言っていいだろう。それでも、ランスの名を言わないのは、最早偶然としか言えない程、消耗しているのだった。ただただ、終わる事だけを願っていた。

「ふふっ、あはは! 滑稽な姿ね。リア! 王女ともあろう方が情けないわね。みっともなく声を荒らげた上に、失禁までするなんて。ま、後は焼印でもしてやろうかな、と思ったんだけど、生憎だったけど、ヘルマン印の焼印ができなくて。それでも……うふふ、きっと 素敵な化粧になるわね。ヘルマンの印がつけられた、リーザス王女なんて……」

 サヤの表情は狂気に彩られている。
 ここまで、犯したと言うのに 人間としての慈愛の欠片も持ち合わせていない様だ。ただただ、自分の願望のままに、リアを汚し、犯し続けた結果なのだ。

「あら? もう私の声なんて、聞こえてないのかしら?」

 残念、と言わんばかりに、そうつぶやくサヤ。

 だが、それでも拷問の手を緩める事はなかった。


「んぐぅっ、がぁっ あ、ぁぁ、あぐっ 、り、りあ、りあさまっ、あ、あああ、ああああっ!」
「はぁっ、はぁっ、マリス、さま。素敵、素敵です……も、もう、限界です。で、出ますよ!」

 マリスを相手にしているのは、サヤが最初に用意した薬で強化した男たちではなく、寝返ったリーザス兵士の2人だった。心を折る為に、リーザス兵士を使ったのだ。だが、それでも マリスの意思までを折る事は叶わなかった、……ただ只管にリアの事だけを、案じるだけだった。

 当初、考えていた、思っていた事。かなみや、ユーリのこと。リアであれば、ランスの事。……もう、考えられなくなってしまっていた。

 ただ、声が届くお互いの声を元に、マリスはリアを呼び続け、リアはただただ、泣き叫ぶ事しか出来なかった。





 そして、責め続けたサヤの方も疲弊した様で、ひといきをつく為、牢獄の外へと向かった。そこには、たまたまサテラが来ていた為、現状報告をしていたのだ。

 魔人とはいえ、この機会を作ってくれた相手故に、感謝をしていたフシがある。

「サテラ様。これ以上は 比喩抜きで死んでしまいますが、どうなされますか?」
「……………」
「サテラ様?」
「……っ なんだ?」
「ああ、申し訳ありません。お考え中にお声をお掛けして……。リア王女とマリスの事です」
「あ、ああ。殺さない程度にしておけ。(……あの女も、ユーリの仲間の可能性が、……っだ、だけど……もう、手遅れ……だ、だが、サテラはっ……っっ)っ~~~~ う、うがっっ!!」
「っっ!? ど、どうしました??」

 サテラは私情と目的の狭間で苛んでいる。 
 だから、八つ当たり、と称して 牢屋の堅牢な石壁を自前の鞭で砕いては、イシスとシーザーに直させ、それを繰り返していたのだ。

 ただの人間から見れば、恐ろしいまでの一撃だから、それだけみたら萎縮してしまうのも仕方がない。

 そんな時、ゆらりと音もなく現れたのはノス。

「サテラ」
「………」
「サテラ」
「っっ、あ、ああ。ノスか。どうした?」

 ノスが来た事で、多少は 気を取り戻したサテラ。シーザー達に後片付けを命じて、ノスの方を向いた。

「……王族の血は必要だ、と伝えた筈だが?」
「あ、ああ。サテラ、うっかりしてた。……伝えれてなかったみたいだ」
「……気を抜くのは 頂けんな。()の為に必要な事、なのだぞ」
「わ、解ってる。ホーネットの為、だからな。………(ユーリも、ユーリに来てもらう事も、ホーネットの為になる!! 絶対そうだ!!)」

 何やら、気合を入れ直していたサテラを見て、ノスは ため息を吐きつつも、とりあえずは不問とした様だ。

「……それで、どうする? サテラの力が、もうちょっと……もうちょっとでも戻れば、今度こそ、聖武具、取ってくるが」
「うむ。だが、それには及ばぬ」
「え……?」
「奴らに手を出す必要はない」
「そ、そうか?? (ノスも、判ったのか? ユーリが、必要だってことが判ったっ!?)」

 サテラは間違った方に解釈しかけていたのだが……、間違いである事にすぐに気づく。

「聖武具を持って、こちら側へと来ているのだ。……ここまで来た以上、その途中で邪魔が入る方が 困る段階だ」
「なる程(……それもそうか……、ユーリのこと、知らない筈だし……)……つまり、おびき寄せる、と言うコトだな!」
「そうだ。(ほぅ……サテラにしては、頭が回ったな。負け傷を負った為 必ず異論を挟むと思ったが……)」

 ノスは、ゆっくりと踵を返した。

「おい、そろそろ嬲るのは終わりだ。……死なない程度に治療しておけ」
「っ……は、はい」

 正直、複雑だったサヤだが、魔人に逆らって百害あって一利なしなのは間違いない。自分の命など、木ノ葉よりも軽く散る事など、判りきっているのだから。

 だが、裏を返せば、――死ななければ、何をしても良い。 と言う事。

 サヤはそう 判断したのだった。



 そして、妙に張り切るサテラを置いて、ノスは軽く笑う。


―――……ノスはサテラにはなんの期待もしていないのだ。


 そう、真なる目的は サテラは勿論、アイゼルにも伝えていなかった。

「(所詮は、ホーネットの飼い犬。……その域を出る事はないだろう。……我真なる主を前に、何かを言おうものなら、すぐにでも……)ふ。無用、か。かの御方を眼前に、抗う様な真似は出来ぬ。サテラ、アイゼル。間違いなく、な」

 ノスは、静かにつぶやくと、そのまま 来た道を音もなく引き返していった。
































~人物紹介~



□ ハズク・ヘルマン (半ゲスト)


 ヘルマン共和国第45代皇帝。
 今回のリーザス進撃の首謀者であるパットン・ヘルマンの実父。后には早くに死なれた為、妾相手に生まれたのがパットンであり、唯一の男子だったのだが、その後、後妻となるパメラと後の宰相となる男の策略にはまり、パットンに失望し、 そのパメラとの間に生まれたシーラに溺愛。
 今回、パットンに手を貸さなかった本当の理由は、パメラとその男にあるのは 事実であるが、パットンはそれを認めたくなかった。


名前(ハズク) FLATソフト作品「うたてめぐり」より



□ パメラ・ヘルマン

Lv1/7
技能 ―

 ヘルマン帝国皇太后。45代皇帝の後妻である。
 皇帝とは親子程歳が離れているが、皇帝に望まれる形で嫁ぐ事になった。そこから、軈て歯車が狂っていき、当時はまだ、一文官の地位だった男に付け込まれ続け、そして ヘルマンを滅亡への道を突き進もうとするのは、まだ先の話


□ シーラ・ヘルマン

 ヘルマン共和国の皇女。
 後に重大な人物となる為、ここでの詳しい説明は割愛する。真に、パットンの事を心配し、慕っていた数少ない人物の1人であり、大きな運命、歴史の歯車に導かれ、誘われる。

 

 ここで明言をしておく。

――その指には、本人にも見えない赤い糸が指に結ばっており、そして幾つもの糸と絡まり合いながら、とある男へと向かっているのだった。


 
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