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赤い帽子

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2部分:第二章


第二章

「何でしょうか」
「君はこの事件の犯人がわかっているのかね」
「おおよそのところは」
 やはりここでも冷静に言葉を返してきたのだった。
「察しがついております」
「そうなのか」
「はい」
 まるで何ともないといった感じだった。署長はそこに彼の自信を感じたがそれ以上に何か得体の知れない不気味なものも感じたのであった。丁度この事件のようにだ。
「すぐに犯人を断定し事件を解決させてみせます」
「わかった」
 署長はそこまで聞いて断を下した。そうして彼に言うのだった。
「それでは君に任せよう。ただ」
「ただ?」
 署長としても事件を解決させなければならない。ここには警察官としての責任感と事件が起こり続けることでの報道によって自らがパッシングを受けることを恐れたのと二つの理由があった。彼としては事件に対して保健をかける必要があったのである。
「君はあくまで個人で動いてくれ給え」
「私個人でですか」
「そうだ。捜査チームはそのまま捜査を続ける」
 彼を別働隊としたのである。流石に彼に全て一任するわけにはいかなかったのだ。
「それでいいなら任せるが」
「それではそれで構いません」
 白衣の男はそれを受けて平然として述べた。それはまるでそもそも彼には感情といったものがないかのような言葉の返しであった。
「では私はこれで」
「それでいいのだな」
「ええ」
 念を押す署長にもそう答えるだけであった。
「事件が解決すればそれに越したことはありません」
「そうか。それなら」
「はい。では」
 そこまで言うとすっと席を立つのであった。
「私はこれで。早速捜査に取り掛かります」
「おい、もうなのか」
 あまりにも性急かつ無愛想な様子に副署長は思わず声をあげた。
「幾ら何でもそれは」
「いや、いい」
 だが署長が副署長を制止した。彼にも思うところがあるようであった。
「今言ったまでだ。彼がやることには口を出さない」
「左様ですか」
「うむ、それでは頼むぞ」
「わかりました」
 男はそのまますうっと部屋を後にした。誰もがその様子に目を顰めさせているが全く気にはしていないようであった。副署長はそんな彼を見てまだ口の中であれこれと言うのであった。
「一体全体。何を考えているのか」
「彼には彼の考えがあるのだろう」
 しかし署長はそれでも彼を庇うのであった。
「ここは任せておけ」
「しかしですね」
 それでも生真面目な副署長はまだ不満を露わにさせていた。
「あの態度はあまりにも」
「確かに好ましいものではない」
 それは署長も同じものを感じていた。
「しかしだ。あえて単独行動を許している」
「彼の能力を信じてですか」
「正直あそこまで僅かの間に調べあげたのは凄いことだ」
 彼はそれは正当に評価していたのだ。そうしたものを認められるということでこの署長もただ署長になったのではないことがわかる。
「だとしたらその力に賭けてみよう」
「左様ですか」
「そうだ。我々は我々でやる」
 そのうえでまた言う。
「それでいいな」
「わかりました。それでは」
 これで副署長も納得した。署長はそんな彼の顔を見ながらまた言う。
「それにしても。確かに奇怪な事件だな」
「そうですね。おそらくはただの通り魔ではありません」
 それは副署長もわかった。そう捉えるにはあまりにも不可思議だからだ。そもそもそれだけ古い斧を侠気に使うということが不可思議であった。
「何でしょう、すると」
「それも調べていこう。彼はそれもわかっているようだがな」
「おかしな話ですがね」
 副署長にしてみせばそうであった。
「千年前からだの何なのと。有り得ないことです」
「人ならばな」
 署長は何故かここでふと異形の存在の気配を感じた。
「そうなるが」
 そう呟くのであった。白衣の男は彼等がそんな話をしている間にもう自室に戻っていた。そこは署内にある研究室であった。様々な解剖の標本やフラスコ、実験に関する本や解剖結果の写真等がある。事件現場や犯行現場の写真ファイルもある。そうした極めて不気味な雰囲気の部屋の中に一人で入っているのであった。
「さて」
 彼は自分の机に座った。その上には一冊の本があった。
「私の考えが正しければ」
 見ればそれは古い本である。少なくとも医学や犯罪に関するものではない。彼はそれをゆっくりと開いたのである。
 それだけで埃が起こる。紙ではなく布か何かの本であった。それだけでかなり古い本であるのがわかる。所々破れたり虫食いまである。
 
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