クラディールに憑依しました 外伝
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お店を開きました
「姉ちゃん。キッチンの片付け終わったよ? 白の姉ちゃんは?」
「此処に居るぞ、今二人を奥で寝かせてきた所だ、さっきの事は忘れてるから、
キミも無口なNPCで通してくれ、ちょっとした拍子で記憶が戻ってしまうかもしれないからな」
「うん。了解した」
「さて、コーヒーが冷める前にいただこうか、二人が無事クラディールと合流できた事を祝おう」
全員合流してテーブルに着く、俺が血盟騎士団の白、白メイド、白ドレス、黒メイドと妙な色調になったな。
此処にキリトとアスナを呼んだとしても白四、黒二か、シリカとリズを混ぜると更に白が増えるな、リズは赤一人か。
「おい、戻ってくるんだ」
「あぁ、悪い、少し現実逃避してた」
「現実逃避って、ボクたちから逃げてたの?」
「いや、そういう意味じゃなくてな、お前達と会うのはもっと先だと思ってたからな」
「あはは。あの領域にあるデータは全部読んじゃったからね、ボクたちもこんなに早く会えるとは思っていなかったんだ」
黒いメイドが白のドレスに視線を向ける。
「わたしも飛ばされた先があそこになるとは思わなかったぞ、まぁ、それで二人を此処に呼べたんだから、ある意味では運が良い」
「俺としては、お偉いさんが良く許可したよなって感じなんだが…………」
「攻略に関わらないならある程度の事は多めに見て貰えるそうだ。スーパーアカウントの空きが足りなかったから、
わたしとユウ君だけがこっちに来れた」
「親御さんはどうしてる?」
「二人でのんびりしてるんじゃないかな?
ボクたちと居る時間はたっぷり味わったから、残りの時間は二人でゆっくりするって言ってたし」
「…………そうか」
穏やかに暮らして貰えれば良いのだが。
「ほら、暗い顔をするな、キミは褒められる事をしたんだ、批難されてる訳じゃない」
「………………俺は機会を作った、それに乗ったのはお前達だ。良いか悪いかなんて俺が決める事じゃない。
――――――解っては居るんだけどな」
「そうだな、こう言う物は言葉にするよりも態度で示した方が良いだろう」
白のドレスが二人に合図を送る――――何やら事前に打ち合わせをしていた様だ。
「わたしが見届け人になろう。この二人とケッコンすると良い」
「…………SAOに重婚システムはねぇよ」
「大丈夫だ、システムならわたしが弄る! 確かNPCに対する功績が上がれば重婚はむしろ普通の認識として通るはずだ!」
「アイテムストレージが共有されるだろうが! この二人からアイテム供給を受けたら攻略に関わらないって条件に反するだろ」
「そこは何とかする!」
「此処のデータは後で他所に渡るんだから、面倒な手間増やすな、やるなら崩壊前にやれ、崩壊前に!」
「――――――それは、崩壊前ならわたし達とケッコンしてくれるのかッ!?」
「………………正直な話、俺がそこまで辿り着けるか判らん。今は安全マージンを稼げてるが、この先どうなるかまでは、な」
「――――ちゃんとクリアして、ボクたちに会いに来るんだよね?」
「…………期待はするな。俺だって何時幸運の女神に愛想尽かされるか分かったもんじゃないからな」
「大丈夫! クラディールの周りは幸運の女神が沢山居るからさ、絶対にクリアしてボクたちに会いに来てよ!」
…………幸運の女神ね、変態須郷の婚約者明日奈。キリトが居なければ迷いの森で消滅してたシリカ。
キリトが居たせいかは知らないが、ぶっちぎりで不幸のサチ。生まれて直に感染した紺野さん家の幼女二人。
剣の素材取りに行って迂闊に姿を晒し、穴に落とされるリズ、こっちもキリトが関わってるけど、死亡フラグは山ほどあった。
そして何より、SAOなんてデスゲームに囚われてる時点で、此処に幸運の女神なんて居ないんじゃね?
「またキミは変な事を考えているな? そろそろあの二人が目を覚ます頃合だぞ、上手く誤魔化してくれよ?」
「あぁ、もうそんなに経ったか――――ところで、この店のNPCは他に居るのか? お前達だけで回すのは難しくないか?」
「それなら大丈夫、ボクたちが鍛え上げたNPCを向こうから持って来てるから、お手伝いメイドには困らないよ!」
黒いメイドがメニューを操作すると五体のメイドが現れ、指示を待つ様に待機していた。
「君達はオープンテラスの準備を始めて、準備が出来たらお客さんを入れよう」
黒いメイドの指示に従い、五体のメイドたちは次々と散らばり作業に取り掛かって行った。
「それでは、わたしたちもキッチンの奥に引っ込むとするか――――――あぁ、そうだ、一つだけ今直ぐ決めてくれ」
「ん? 何だ?」
「もちろん。この店の名前だ」
「あぁ、そう言えば何も話し合っていなかったな、では適当に決めさせて貰おう」
「ふむ。どんな名前にするんだ?」
まぁ、勿体振る必要も無いだろう。
「暁の春風」
………………
…………
……
「う、う~? ピナ何処~?」
「…………あれ? 此処は何処なの?」
シリカとリズが目を擦りながら奥の部屋から起きて来た。
「もう夕方だぞ、よく寝てられるな?」
「え!? 夕方っ!?」
「あたし、何時の間にか寝ちゃってたんですね――――――此処は何処でしたっけ?」
「俺が買った倉庫兼店だよ、店の準備中に退屈して寝落ちしたの忘れたのか?」
「――――嘘!? 今日はあたしの家を探すって、依頼されたオーダーを無理して終わらせたのに…………もう日没?」
「張り切り過ぎて疲れに気付かなかったんじゃないのか? また次の休み作って頑張って探すんだな。
…………眠気覚ましにコーヒーでも飲むか? 開店サービスだ」
俺の合図に合わせて、白と黒のメイドがトレイを持ってテーブルにカップを用意する。
「――――あれ? クラディールさん? このNPCどこかで見たことがある様な気がするんですけど? どこでしたっけ?」
「あたしも、何か見た事ある様な? 何かとんでもない様な?」
「ウチの白餡と黒餡に何か文句があるなら聞くぞ?」
即興で思い付いたネーミングに白と黒のメイドが目だけを動かし、抗議の視線を俺に向けてくる。
「白餡さんと黒餡さん、ですか…………」
「物凄い適当な名前ね、もう少し良いのは無かったの? こんなに可愛いのに」
「じゃあ、白がアムールで黒がクラージュ」
お、今度は気に入られた様だな、二人とも無表情だがご機嫌なのが何となく解る。
「まぁ、あんたのネーミングにしてはまともね、それで良いんじゃない?」
「よろしくお願いしますね、アムールさん。クラージュさん」
笑顔で挨拶をするシリカをアムールがじっと見詰める。
――――さっきの事まだ引き摺ってるのか。
「シリカ、アムールがお前の事を気に入ったみたいだぞ、仲良くしてやってくれ」
「はい! もちろんです!」
「………………むー。やっぱりクラージュをどこかで見たような気がするんだけど――――思い出せない」
「まぁ、思い出せる時に思い出すだろ、さっさとコーヒーを飲め、冷めちまうぞ」
「そうね、考えたって仕方ないか、そういえばアスナ達は?」
「さっき連絡取れたが、戻ってこれたら見に来るそうだ、今日は無理だろうな」
「今頃何処で何してるんだか」
「さあな、人の恋路を邪魔したって何一つ良い事無いからな」
「アスナのあれって、恋愛と言うよりは出来の悪い弟の面倒を見る姉に近くない?」
「あいつお兄ちゃん子ぽいからな、世話の焼ける弟が欲しかったんじゃないか?」
「そんなの判るんだ?」
「性格から判らないか? 一人っ子だともっとズケズケと我侭口にするぞ? 自分第一、我を褒め称えよってな」
「流石にアスナはそんな性格じゃないわね」
「弟とか下の姉妹が居ると、もっとお淑やかだったり、男に世話焼いたりするのに飽きてるからな。
キリトに対する態度を見てると、自分も構って欲しいけど世話を焼きたいって感じだし。
上に兄とかが居て、可愛がられてたんだろ、それで自分も下の姉妹か弟が欲しいからシリカとかに優しく接してるんだと思うぞ?」
「じゃあ、サチとかに対する態度って…………」
「姉も欲しいんじゃね? ま、本人に確認してみないことには何とも言えないけどな」
――――今日も色々あったが、俺達の日常は非常識ながらも継続していく。
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