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おぢばにおかえり

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第二十一話 授業中その七

「そうですね」
「けれど人気あるじゃない」
「ですね。そういえば」
「胸が大きいのは確かに素晴らしい、けれど胸が小さいことも大きいのと同じ位素晴らしい」
 高井先輩の御言葉ですけれど何か凄く。どっかの色男が言ったような言葉です。
「こうも言うわね。夏は痩せた娘、冬は太った娘」
 完全にどっかの色男です。けれどこれってどっかで聞いたような。
「ちょっと潤ちゃん」
「何?」
「それってモーツァルトじゃない」
「あっ、わかった?」
「わかるわよ」
 佐野先輩が仰います。先輩は吹奏楽部です。
「吹奏楽部だとモーツアルトのこともよく勉強することになるから」
「確かコシ=ファン=トゥッテだったかしら」
「ドン=ジョヴァンニよ」
 話が急にインテリめいたものになってきました。
「それはね」
「ああ、そうだったの」
「カタログの歌でしょ、確か」
 私にはわからないお話です。どうも吹奏楽をやっているとこうしたことにも詳しくなるみたいです。私も吹奏楽部ですけれどここまではまだ達していません。
「それだとドン=ジョヴァンニよ」
「ふうん」
「あのキャラクター凄いのよ」
 先輩は高井先輩だけでなく私にも言ってきました。
「物凄い女好きでね」
「そんなに凄いんですか」
「もう何千人もの女の人に手を出しているのよ」
 何千人って。漫画みたいです。
「スペインじゃ千何人とか。途方もない数なんだから」
「最低ですね」
 私はそんな人、大嫌いです。だから今の言葉にも出ました。
「そんなに女の人をとっかえひっかえなんて。酷過ぎます」
「けれどオペラの中じゃどうしてか誰も誘惑できないのよ」
「そうなんですか」
「いいところまでいっても結局失敗するのよ」
 それってナンパ師としては駄目なんじゃないでしょうか。本当に何千人もの人と遊べたなんて思えないのですけれど実際はどうなんでしょうか。
「それで最後は悔い改めるように迫られて」
「それでどうなるんですか?」
「それを拒んで地獄行き」
 今までのほこりがそうなったってことですね。これはすぐにわかりました。
「後は登場人物が一斉に歌って終わりなのよ」
「地獄行きですか」
「ええ。地獄ではどうなったかわからないわ」
 天理教には地獄って考えはないです。ですからこれは私にとっては今一つピンとは来ませんでした。そんなものかしら、って思っただけで。
「とりあえずそんなお話よ」
「成程、それにしても」
 私はここまで聞いて。その夏だの冬だのって言葉をまた聞きました。
「無節操ですね。夏に痩せた人、冬に太った人って」
「これを胸に置き換えてみて」
「夏は小さい胸、冬は大きい胸ですか?」
「そういうことよ。つまり」
「人それぞれの好みですか」
「ドン=ジョヴァンニはかなり極端だけれどね」
 極端っていうか誰でもいいってことじゃないでしょうか。中にはそんなとんでもない人もいるんだっていうことはわかっていたつもりですけれど。
「そういうものよ。だからちっちも」
「胸が小さくても、ですか」
「そういうことよ。別に気にすることないわよ」
「はあ」
「全体のスタイルは凄くいいんだから」
 またこう言われました。
「気にしない気にしない」
「そういえば佐野って」
 ここで高井先輩が佐野先輩に声をかけます。
「何?」
「地元で海とか行くわよね」
「うん、行くけれど」
 高井先輩の質問に答えられています。 
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