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戦国異伝

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第二百四十二話 淡路からその三

 軍勢は静かに、だが速く進んだ。気配を殺しそのうえで。
 魔界衆の軍勢はこの時屋島の陸と海にいた、その海にはだった。
 多くの船があった、その船の中の一隻にだった。
 老人がいてだ、周りにいる魔界衆の棟梁達に話した。
「よい船が集まった」
「はい、例え織田信長の軍勢でも」
「この数の水軍に急襲されれば」
「妖術を使ったうえで」
「そうすればですな」
「うむ、負けることはない」
 間違いなく、というのだ。
「急襲し妖術も使えば」
「ですな、織田の軍勢が来れば」
「あの者達を急襲し」
「そして一気に倒す」
「そうしますな」
「そうするぞ、まさにな」
 こう言ってだった、そしてだった。
 彼等は屋島に陣を置き織田の軍勢を待っていた、しかし。
 物見等はだ、出してはいるがだった。
 特に多くなくだ、信長も軍勢を屋島に向けながら言うのだった。
「物見がおってもな」
「特にですな」
「多くないですな」
「そうですな」
「忍の者もいますが」
「それでも」
「うむ、久助の甲賀者と半蔵の伊賀者で充分対することが出来ておる」
 魔界衆の物見の者達をというのだ。
「一人残らず始末出来ておる」
「はい、確かに」
 その甲賀者達を率いる半蔵が答えた。
「あの者達の物見は決して多くなく」
「我等に気付いてもな」
「対することが出来ております」
「やはりあの者達は戦はじゃ」
 それ自体はというのだ。
「さしてな」
「上手ではありませぬな」
「うむ、物見も多くなく全て倒すことが出来ておる」
 そしてだ、軍勢の動きを相手に察することをさせていないというのだ。
「よいことじゃ」
「では」
「うむ、屋島には夜に向かいじゃ」
 そしてというのだ。
「あの者達を潰すぞ」
「それでは」
「水軍もじゃ」 
 海を見た、そこには水軍もいた。
「あの者達も使ってな」
「攻めましょうぞ」
「一気に攻めて破るぞ」
 その夜にというのだ。
「よいな」
「さすれば」
「しかし、屋島ですが」
 柴田も言って来た。
「そこで夜襲というのは」
「屋島だからじゃな」
「はい、那須与一殿の」
「弓じゃな」
「それの場ですが」 
 平家物語でもあるだ、それの話をするのだった。
「それはですな」
「ないな」 
 そうだとだ、信長も言う。
「間違いなくな」
「当時とは戦の作法が違いますし」
「しかもじゃ」
 それにとだ、信長はさらに言った。
「あの連中にそんな作法はない」
「左様ですか」
「あの連中に作法は関係ないわ」
「そうした雅はですか」
「ない連中じゃ」
 全く以てというのだ。
「那須与一殿のその弓の話はわしも好きじゃがな」
「それでもですな」
「今回はこちらが奇襲するしな」
「その作法の縁もない相手」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「その話はな」
「屋島といえど」
「ない」
 信長は正面を向きつつ柴田に断言した。 
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