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学園黙示録ガンサバイバーウォーズ

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第十話

「何もここに集まってくることないじゃないの」

「お前がまともに動けないんだ。仕方ないだろ」

俺達は、今後の事について話し合うべきで集合したわけだ。

なお、集まった場所は宮本に割り振られた場所となっている。ハンビーの屋根から飛ばされて、コンクリートに叩き付けられた宮本は、骨は折れておらず、軽い打ち身ですんではいるが、鞠川先生の判断で、まだ安静している事が必要との事だ。

宮本はベッドでうつ伏せ状態で、殆ど裸といってもいい格好で不満を呟くが、それを小室に最もらしい事を言われて、不満げな表情はするが、その場で黙ってしまう。

「それで、どういう話しなの?」

鞠川先生が、高城に話の本題を聞く。

「アタシたちが、これからも先も仲間でいるかどうかよ」

周りの空気が固まる。

周りの表情によって反応は様々だ。毒島、平野、タカトさんは、来るべき時が来たといった表情で、小室や宮本は、動揺が隠せず戸惑い、鞠川先生は誰よりも驚きの表情であった。

まだ、状況をよくつかめていないありすちゃんは、首を傾げて、?マークを浮かべているだけだった。まあ、低学年の小学生には難しい話だからな。

「仲間って……」

「当然だな。我々は今、より大きく結束の強い集団に合流した形になっている」

「そう。選択肢は二つきり!飲み込まれるか?」

「分かれるか……でも、別れる必要なんてあるのか?」

小室が疑問に思い問いかける。

小室の疑問に答えるように、バルコニーに出て外の現状を見せる。

「ここで周りを見渡せばいいわ!それで分からなければ……アタシのこと名前で呼ぶ権利はナシよ!!」

高城の発せられる雰囲気と言葉に、小室に続くように他の面々もバルコニーに出て外の状況を確認する。まあ、誰の目から見てもわかりやすいように、状況は最悪だ。


「酷くなる一方だな……」

「だな」

この屋敷に続く道は、バリケードによって封鎖されており<奴ら>の侵入は防いではいるが、それより先は地獄といっていい程に<奴ら>であふれかえっている。昨日の派手な銃撃戦で<奴ら>を引き寄せた事も原因だろうと推測する。

「手際いいよな。親父さん。右翼の偉い人だけの事はあるよ。お袋さんもすごいし」

「軍隊でも、ここまで見事な統率は出来ないよな。同士組織の人間だけならまだしも、民間人も入れてこれだけの事をやるんだかな」

「その点に関しては私も同意するよ。この短期間で必要な物資を確保するだけでなく、多くの人々を保護して統率して、安全地帯を素早く構築している。これだけの事を……」

小室、俺、タカトさんが高城の両親を褒めるように言ったが、途中で言葉が途切れる。高城が、何かを必死に抑えるようにしている。

それは怒りだ。今にも爆発してぶちまけそうな表情を高城はしている。

「ええ、凄いわ。それが自慢だった、今だってそう。これだけの事を一日かそこいらで……」

高城は今にも泣きそうだ。悲しみ、怒りが入り混じった自分でも制御できない、心情を爆発させそうな感じだ。

「でも……それが出来るなら」

「高城……」

「名前で呼びなさいよ!」

高城はヒステリーを起こしている。普段は理論派の高城が、ここまで感情を爆発させるという事は、それだけ本人にとって我慢できないことが起きたか、それとも両親との接触で何かのたかが外れたのか?それは分からないが、ここは基本的に高城を知らない俺より小室に任せた方がいいと判断した。

俺より、幼いころより高城を知っている小室の方が適任だろうとの判断だ。


「ご両親を悪く思っちゃいけない。こういう時だし、大変だったのは皆、同じだし」

「いかにもママが言いそうなセリフね!」

「おい、高城」

「分かってる、分かってるわ!私の親は最高!!妙な事が起きたと分かった途端に行動を起こして、屋敷と部下とその家族を守った!凄い、凄いわ、本当に凄い!」


高城は心の奥底から叫ぶ。その光景に周りは固まる。

俺達の中で、高城は確かに高飛車だが、それでも理性的でどんな最悪な状況でも冷静に分析して感情論をださないという認識していただけに、まわりは黙ってしまう。それでも高城は叫び続ける。両親も一人娘の高城の事を忘れたわけではなく、諦めたわけではない。むしろ、一番に安否を心配した。だけど……


「生き残っているはずがないから、即座に諦めたなんて!」


そういう事だ。確かに、高城の両親は、娘を心配した。だけど、この最悪な状況で、生き残る可能性はゼロだと判断したのだ。人が沢山に密集している学校で、あんな騒ぎが起きれば生き残る可能性がゼロだから、身近に存在する部下と、その家族達の生命を優先したのだ。

つまりは、9を救い1を切り捨てる。第三者の目から見れば、高城の両親の行動は、被害を最小限に抑えて、助かった人間からすれば「よくやった」と絶賛されるだろう。だけど、犠牲となった1からすれば、冗談ではないと思うだろう。

しかも、その1の犠牲の所に、信頼して尊敬していた両親に認識されてしまった時の高城の心情は……考えるまでもない。高城の心情は、裏切り、失望、絶望等の負の感情で支配されただろう。誰もが高城の言葉を聞いて動き出せない。

これだけの事を聞かされて、高城の言った事だけを信じるなら、高城の怒りも納得が出来ると判断する人間もいるかも知れない。だけど一人だけ、高城に反論した。

「やめろ、沙耶!」

小室だ。小室が高城の胸倉を掴んで、彼女の爪先が浮くくらいに掴んで掴みあげている。小室の行動に、ここにいる皆が驚く。

「あ……何よいきなり。でもようやく」

「お前だけじゃない!同じなんだ!みんな同じなんだ!!」

小室も何ともいえない表情で高城に叫ぶ。

「親が無事だと分かっているだけ、お前はマシだ……マシなんだ」

小室はそう呟く。

ここにいる誰もが知り合いの安否を気にしている。携帯を使うにも、使用者が多い為に繋がらないのだ。

特に、地元に両親がいる小室と宮本も心情は、より複雑なはずだ。早く両親の安全を確認したいと思っているはずだ。俺は両親が他県にいるため、ある程度は割り切る事にしている。俺も一応は、この世界で世話してくれた両親に恩義があるため、連絡を入れたが、携帯はつながらなかった。

平野と毒島の両親は海外に出張。鞠川先生の両親は既に他界している。俺も含めて連絡手段がないため、ある程度は区切りをつけているが、小室達は違う。

歩いて直ぐにでも実家にたどり着けるのに<奴ら>がいるせいで、それも実行に移せない。近いのに道のりが遠いという事もあり、小室と宮本の心情も焦りでいっぱいだろう。

「……わかったわ。わかったから離して」

「悪かった」

小室も高城から手を放す。高城も普段の表情を取り戻した。高飛車で高圧的だが、冷静に状態を分析する知力派の高城がもとに戻った。

「ええ、本当にね。でもいいわ。さ、本題に入らないと。アタシ達は……」

ようやく本題に入ろうとした時だ。

外から車の音が聞こえてくる。先頭にセダンタイプの車に、必要な物資を積んでいると思われるトラックと、燃料を搭載しているタンクローリーに、護衛と思われる左右にバイクが配置されている。そして一台の車の所に出迎えるように、右翼団体の隊員さん達が整列していた。そこには、高城の母親もドレスを着て出迎えだ。

それより。高城のお袋さん。あれで本当に高校生の娘を持った母親なのかと思うくらいに、若い美女だ。

まあ、そんな事は置いとく。小室や高城からも聞いたが、高城の家が右翼団体の本部みたいなのだから、これから出迎える人間も、想像しやすいな。


「あれは?」

「そう。この県の国粋右翼の首領!正邪の割合を自分だけで決めてきた男!」

そしてついに車から出てきて正体を現す。高城の父は、右翼の首領というよりは生粋の旧日本帝国軍人……いや、どちらかと言えば武人といった空気を身に纏っている。

あれだけの肝っ玉が座った右翼の隊員を率いるだけはあると、納得してしまうようなオーラを感じる。

「アタシのパパ!!」

ーーー。


高城の親父さんが屋敷に戻って初めにやった事は、屋敷に避難してきた人々に対する警告だ。フォークリフトに乗っけられている檻の中に<奴ら>となった憂国一心会のメンバーと思われる男性がいた。高城の親父さんの演説は、<奴ら>となった男は友であり、救助活動の最中にかまれて<奴ら>となったと人々に説明する。

<奴ら>と化したかつての友を檻からだす。そして、高城の親父さんは<奴ら>の仲間となってしまったかつての友を自らの手で、日本刀で一刀両断して、処刑した。

その処刑の一部始終を、俺達は最後まで見た。タカトさんは、娘には刺激が強い事を判断して、首を跳ねるシーンを見せないようにしていた。

「……これこそが、我々のいまのだ!!素晴らしい友、愛する家族、恋人だったものでも、ためらわずに倒さねばならない!!生き残りたくば……戦え!!」

そうして演説は締めくくられる。だが、そのかつての友を<奴ら>と化しても躊躇なく首を跳ねる光景と、現在の状況を分からせる一つ一つの信念が籠った言葉に、人々は何を思ったのだろうか?

あるものは、現実を拒否するのか?それともより一層に覚悟を決めるのか?捉え方は様々だろうが、それでもまだ、人々は立ち尽くしている。高城の親父さんの言葉を他の人が言っても現実味は薄いが、あの人が言うからこそ、現実味のある言葉に昇華される。

だからこそ、立ち尽くして誰も彼もが考えているのだ。あの人が言った事は現実だと……中には現実を否定する人間もいるだろうが、それでも印象に残った演説であることには変わりはない。



高城の親父さんの言葉には、俺もある意味考えさせられる。俺も生き残りたい一心で、銃を取り<奴ら>と対峙して、必要であれば生きた人間も殺した。生き残る為に仕方がないと割り切ってはいるが、果たして俺はどっちが自分の本心なのか分からない。

生き残りたいと思う気持ちは強いのも事実だが、この狂った世界を楽しんでいるのもまた事実だ。いつ死ぬか分からないこの殺伐とした世界を、俺は楽しんでいるのだ。デスバレットの能力を受け継いで、その高い技能を生かせる環境に身を置いた自分に酔いしれているのだ。

だからこそわからない。俺の本心はいったい……どっち何だと。


「田中先輩もそう思いますよね!!」

お、何か平野が必死な形相でこっちを見て訴えてくる。少し自分の世界に入り込んでいたから話を聞いてなかったわ。

「刀や木刀といった近接武器は効率が悪いですよね!」

「状況によるだろ。<奴ら>が相手の場合は特に……」

俺の言葉に平野は言葉を詰まらせる。話を聞いてなかったから状況をあんまり理解してないが、どうやら武器の優劣に対する話のようだな。

「昨日みたいな戦闘なら銃は確かに効率的だけど、歩いて行動する場合は<奴ら>と遭遇して撃っての連続だと<奴ら>に囲まれて食われるのがオチだな。状況によっては刀や木刀が良い場合もある……まあ、要するに。武器の優劣なんて関係ないし、人によっては得手不得手があるわけだから適材適所ってところだ」

この面子で長所と短所がはっきり分かれている。近接戦闘に特化しているのは毒島と宮本。射撃なら俺と平野といった具合だ。俺も最低限の近接戦は出来るけど、近接戦の本職である毒島と宮本にはかなわないし、毒島も宮本も射撃に関して言えば得意というわけではない。

平野も近接戦は苦手だが、射撃の腕はこの面子の中ではレベルが高い。

「そういう事だ。私は近接戦なら自信はあるが、銃を扱うとなると素人だ。私は平野君の射撃の腕を信用しているよ」

「僕も平野の銃の腕は凄いと思ってるよ!僕なんて、平野や田中先輩みたいに銃を上手く扱える自信なんてないし、近接戦も得意って訳でもないんだからさ!」

毒島と小室の言葉に反応して、先ほどまで険しい表情をしていた平野の表情が元に戻り、安心したような表情になった。

「そ、そうですよね。僕は肉弾戦は無理ですけど、銃は扱えます。人によっては得手不得手があるのに、何をムキになって……」

「誰にだって感情任せになっちまう時はあるさ。それにさっきまで自称天才美少女が同じ状況になっちまっただろ」

「誰が『自称』よ!!私は本当に天才なのよ!そこを間違えないで、軍オタ2号!!」

2号って俺の事で、1号は……まあ平野だろうな。小室達はプ、と笑い出した。どうやら高城の親父さんの演説と行動によって張り詰めた空気になっていたのだろう。

「はいはい。じゃあ本題に入りましょう。今度こそ方針を決めるわよ!」

高城に注目が集まる。そう、高城の親父さんの演説の前に話し合った議題。別れるか?それとも飲み込まれるか?この二つの案は、今後の自分達の行動を左右する重要な分岐点だ。

「勝手だと思うけど、僕は親を探したい。」

小室は自分の目的を伝える。この屋敷にも十分に設備が整っているが、いつまでも電気・ガス・水道が機能しているか分からない。それに都市部であるこの地域にいつまでもいては、いずれは<奴ら>に囲まれて逃げ道がなくなる。そうならないように、早くて明日……遅くても2、3日で保護した一般市民も入れて、逃げる準備を進めるだろう。

その間に、小室と宮本は親を見つけると言った。期限が過ぎれば、その時はその時だとも伝える。


「すまないけど小室君。私は、娘と一緒にここに残らせてもらえないか」

ありすちゃんを抱いてそう呟いたのは、ありすちゃんのお父さんであるタカトさんだ。


「見知らずの私達をここまで連れてきてくれたのには感謝していよ。だけど、私は娘の命を最優先にしたいんだ」


「気にしないでください。これは僕と麗の都合ですから……」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫。僕も麗も親を見つけたらすぐに戻ってくるから。」

「そうそう、大丈夫よありすちゃん」

「うん!」

小室と宮本は安心させるように、優しい口調でありすちゃんに言う。

タカトさんの反応は普通だろう。誰も好き好んで危険地帯に自ら行こうとは思わない。誰だって歩いている地点が地雷原だと分かれば歩くの拒否するのと同じ理由だ。ここは、確かに救助した一般市民たちが不安材料になるが、高城の親父さんの組織は、右翼団体と言うよりは軍隊みたいに統率がはっきりとしているため、組織としての機能は現在のところ失われていない。あのような高潔の人物が長である組織なら、安全であるとタカトさんが判断するのも理解は出来る。

こうして、俺達のグループの方針は決まった。近所に住んでいる親の安全を確認して、無事であれば高城の屋敷に戻り、合流して共に行動する。もし、小室と宮本が期限を過ぎれば、非常な手段だが、二人と共に行動した人間を見捨てるという方針となった。



 
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