ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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外伝
外伝《絶剣の弟子》⑤
前書き
4ヶ月ぶりの更新です。
次は間を空けないように頑張ります(フラグ)
海の中は薄暗かった。
元々地上が吹雪なので、太陽の光は届きにくい。インプの暗視能力を使うまでも無いが、このまま深度を下げて行くとウンディーネの人達はちゃんと見えるのだろうか。
「それじゃあ泳ごっか。戦闘は極力避けて短時間で海中都市まで行くよ」
「海中都市、ですか?」
「うん。ちょっと遠回りになるけど、海中で行動する時の必須アイテムとかが売ってるんだ。地上ではアルンの中央市場で売ってるけど、値段が倍は高いからね」
戦闘中では活動を支援する魔法が途切れる可能性がある為、必要なものだった。確か飲み込む(使用する)と海中で息が出来るようになるアイテムとか、移動速度が上がるアイテムとかがあった気がする。言われてみれば少々買うのを躊躇う値段だった。
「値段がそんなに安いのはプレイヤーショップだからですか?」
「うん。水の中で使うアイテムとかアイテムの素材は大抵水の中で手に入るから」
水の中の移動は姿勢を真っ直ぐにして足を軽くバタつかせると進む。停止する時は体を起こせば止まるが、それらの切り替えは緩慢にならざるを得ない。また、方向を鋭角に変えるのも難しく緩やかな曲線を描く形になる。水中で必須のアイテムや魔法は主にその辺を補助するものだ。
「そろそろ最初にあの鱗を売って手に入れたユルド分は使いましたしね……」
「そうだね。……うーん、なんだかつい最近のことなのに懐かしいような気がするよ」
「そうですね」
海中の旅は、モンスターとエンカウントする事なく順調に進んでいる。時折シウネーさんにバフをかけて貰いつつ、買い出しの目的地である海中都市へ向かっていった。
海中都市《センシア》
ノーム領の近海の海底にあるが、カテゴリは中立都市である。
海中都市と言ってもプレイヤーの数は少なく、地上の都市の半分程度が常時いる程度で、それも殆どクエスト目的の為流動的だ。ましてやここはアルヴヘイム最北端の厳寒の海。温度演出は割と得意なアミュスフィアが張り切ってプレイヤーを擬似的に凍えさせる。店が出ている中央広場をザッと見渡してもプレイヤー50人も居ない。
「それにしても随分閑散としてますね……」
「私もここは初めて来たけど、他の海中都市より少ないわね」
「ウンディーネ領の海中都市は結構賑わってるぜ。海底に初級ダンジョンとかあるしな」
都市に入るとクエストの情報を仕入れに行く組と買い出し組に分かれた。俺はアスナさんとアルセさんと一緒に中央広場で買い物をしている。海中都市で唯一誤算だったのが、当の道具屋を営むプレイヤーがここには少なかった事だ。ベテラン揃いのこのパーティーでこの都市を訪れたことのあるのはセインさんのみで、セインさんをして予想外だったと言うのだから仕方無いだろう。例えそのアイテムを売ってたのが路地裏の、ボロボロのマントを羽織ったどこぞの商店から隠遁した設定を持つNPCと見紛う程無愛想なプレイヤーだったとしても目的のアイテムは手に入れたので良しとする。
「わざわざ寒い海を潜って来るようなメリットは殆どない訳だし……仕方がないのかもね」
「やっぱりそうですよね……」
魅力と言えばまだクリア実績がない、まさに冷凍保存されたクエストが山のようにあり、クエストのストーリーが好きな一部マニアにとっては魅力的な場所なのかもしれない。
「って言っても、昔はそれなりに賑わってたんだぜ?」
「へー。何か特別なことが?」
「うん。レジェンダリーとかエンシェントクラスの武器とか防具がちょこちょこな」
「それは……」
未だお目にかかったことは無い伝説級武器と古代級武器。それらはALOに1本あるいは、1つのものであり、手に入れたプレイヤーは一躍有名人になることが確約されている。中でもサラマンダーのユージーン将軍とその愛剣《魔剣グラム》は最もポピュラーなものとして知られている。
「例えばどんなものが?」
「んー……武器なら《ミストルティン》とか……ああ、ハンニャのヤツの黒装神器の兜とかここにあったな」
黒装神器というのは分からなかったが、ミストルティンと言えば有名な武器だ。形状は槍または剣、あるいは矢とも言われ、北欧神話の神の一柱、バルドルを殺したアイテムだ。
「……それ、もう無いってことですよね」
「なんだぁ?もうレジェンダリーをご所望か?」
「いや、まあ……手に入るなら」
俺だって男でゲーマーである以上、そういう類の厨二チックなアイテムには憧れる。例え、分不相応だとしても。
「ふふ……ね、ライト君。強い武器が手に入って、それを装備したとしら、今の君と何が変わると思う?」
「え?そうですね……」
強くなる、と答えようとしてどうもそういうことではないような気もした。従来のRPGなら装備を更新すれば、あるいはレベルを上げれば単純に強くなった。プレイヤースキル制のALOではレベルが無いので、主にステータスの向上と言えば装備の更新となる。だが、例え初心者が最強装備を手に入れていきなり強くなれるかと言えば違う。ALOは、いや、VRMMOはそんな温いゲームではない。
「……技量が伴ってなければ、そんな変わらないのではないかと思いますが……上手く言えませんけど」
しばしの黙考の後、そう言うとアスナさんはキョトンとし、アルセさんは盛大に吹き出した。
「あはは、それもそうかもしれないけど……」
「あははははっ!凄いぜお前面白いな!それ素で言ったのか?そうみたいだな!」
アルセさんはもう笑い過ぎて目に涙が滲んでいるレベルの笑いっぷりだ。アスナさんも若干引き気味だ。
「な、何かおかしなこと言いました?」
「えっとね、私が言いたかったのは有名人になって、色々大変かもねってこと。サーバーに1つだけのレアアイテム、それを持つことはライト君が考えてるよりずっと大変なことなの」
「あ、そういう……」
そういうことならさっきの言葉はかなり恥ずかしいことを言ってしまったのではないだろうか。未だ爆笑しているアルセさんもアルセさんだが。
「はー、笑った。腹痛ぇ」
「アルセさん、ちょっと笑い過ぎじゃないですか?」
「いやー、新参者ってのは良いね。あたしらみたいに歪んでなくて。……さ、目的のアイテムも手に入ったし、奴らと合流しようぜ」
これは馬鹿にされてるのか。怒るべきなのか。手をひらひらと振りながら歩きだしたアルセさんを微妙な気持ちで見ながら後へ続いた。
『大海の食人蟲』というクエストで出てくる《The tenfoldcentipede》から採れるのが《海百足の油》だ。
海中都市を出発し、さらに深く潜って行くと、辺りはもう完全な暗闇となった。
すると同時にインプの固有能力である暗視が発動する。視線をフォーカスしたところが明るくなり、海底がはっきり見える。この暗視スキル、便利なのだが視界の端が薄暗かったりと完全では無い。ユウキさんからは、戦闘中は常にターゲットを視界の中心に置くよう事前にレクチャーされていた。とは言っても元より、人間の目も色が正しく認識できる範囲は実は割と狭かったりと似たようなものなので運営に対して文句は言わない。
アバターは大きな泡の中にいる。周囲には薄い空気の膜が球状に張られ、一定の時間で拳ほどの泡が分離し、上にふらふらと上り消えていく。同時に視界端の青いケージが僅かに減少する。これは泡の中の空気残量を表しており、今はまだ4分の3が残ってる。
「もうそろそろボスのテリトリーだよ」
ユウキさんがゆっくりと寄って来てそう言う。この泡は激しい動きをして水との境界面を乱したりすると大きく空気の残量が減る。移動は視線を一定時間固定するとその方向に進むようになっていて、6人はゆっくりと降下中だった。
「……いつもモンスターは見上げるか、一緒の視点かなので、足元を這ってると思うとゾッとしますね」
「まあムカデだしね」
百足、と言っても名前に"10倍の"を表す《tenfold》が入ってるあたり多分足が千本あったりするのだろうが、だからと言って何の慰めにもならない。寧ろ嫌悪感が増すだけだ。
「そう言えば、ユウキさんたちは虫とか大丈夫な人たちなんですか?」
「んー……ボクの場合は好きでも嫌いでも無いけど戦えないって程じゃ無いかな。あ、もしかしてありがちな展開をちょっと期待してる?」
「してません」
わざわざ泡を融合させてから、こっちに迫って来る辺りボス戦でも動じて無いらしい。分かってはいたが。
「おーいそこ。イチャイチャしてないで周囲を目視で確認しろー」
「ーーーーっ⁉︎」
アルセの声が後ろからしてハッとして離れる。否定しようと慌てて振り向けばそこにいたのは「あらあら」というような顔をしたシウネーさんでアルセさんの姿は無い。
「どこに……⁉︎」
「ここだ坊主」
上を見上げればアルセさんが逆さまの体勢で漂っている。
「何でそんなところに……」
「周りを見ろってことだな。ましてやこの暗さじゃまともに見えるのはお前ら2人だけだ。頼むぜ」
そう言うとアルセさんが入る泡が滑らかな動作で曲線を描き離れて行く。泡が静止している状態から舐めからに動くのはかなりコツが必要で、しかも曲線機動はどうやってやっているのかすらよく分からない。
「じゃあそろそろ泡消すわね」
アスナさんとシウネーさんが揃って呪文を唱えるとアバターを包んでいた泡が泡沫となって消滅し、代わりに淡い黄色の燐光が体を包む。
今までとは違い、泡で周りを覆っている訳ではないが呼吸は問題ない。また、仮想の水を周囲に感じるが動く時に違和感はない。
今までのは、脆く壊れやすい上にあまり機動力もない代わりに長時間水中で活動出来るようにする魔法。これは短時間しか効果がないものの、地上とほぼ変わらぬ運動と、時間以外で途中で効果がなくなることは無い魔法だ。
前者は遊覧や索敵、後者は専ら戦闘時に使用される。
魔法を切り替えた途端、場の空気が張り詰めた。時折頬を撫でる水流がなま暖かくなったような気がする。
「来たよ」
セインさんがそう告げながら背から二本の剣を抜刀する。ユウキさんもいつになく真剣な表情で辺りを見回している。
この暗闇の中で目が効くのはユウキさんと俺だけ。自分の役割を果たそうとゆっくりと周囲を見渡す。
けれども辺りは見渡す限りの闇。遂には海底に足が接地した。
「……いませんね」
「うん……」
索敵スキルなどはどうなのかと思い、仲間を見渡してみるが、どうも見つけた様子は無い。水の中なのに冷や汗が垂れる感覚がし、少し気が逸れる。
(極寒の海なのに、少し暑くないか?)
いや寒いことには寒い。ただ、じっとしていると緊張からか汗が垂れてくるような気がするのだ。
(風……じゃなくてもせめて水流くらいあってもいいのに…………?)
そこまで考えた時、何かが引っかかった。そして無意識につぶやく。
「水流……」
「え、なに?」
最初に反応したのは近くにいたユウキさんだった。続いて周りの仲間たちも訝しむようにこちらを見る。
「あ、いや。さっきまで水流があったのになくなってるなって」
「は?水流?そんなもん仮想の海にある訳ねーだろ」
「え?でも……」
「ただでさえ液体環境は不得意分野だってのにそんなことに常時リソース割けなーーー」
「待って」
アルセさんの言葉にセインさんが割り込む。何だよ的な視線を向けるアルセさんを傍目にセインさんが暗視魔法のスペルを唱え、辺りを見回す。目の色が時折変わっているのは索敵スキルとその派生スキルを発動させているからか……
「……いいかい、アルセ。君の言うとおり、仮想の液体環境に水流は無い。この場合、海流となる訳だけど……それが発生する例外が2つある」
「あん?」
「1つは魔法。初級のコモンスペル、もしくは最上位クラスの水属性攻撃魔法には、フィールドの水を操作出来るものがある」
「あ、ああ。そりゃ知ってる」
「もう1つは、水棲モンスターの移動だよ」
「移動……ッ、なるほど」
俺以外の仲間達がハッとなったように身構える。一拍遅れて俺も盾を前に構えて辺りを見渡す。しかし、辺りは当然暗闇しかない。
「ライト、あっち。よく見て」
「え?は、はい」
ユウキさんの指が指した方向にもただひたすら闇が広がっているだけだった。
(……⁉︎いや、違う……なにか、来る⁉︎)
「散開‼︎」
セインさんの言葉が響くと同時に真横へ全力で跳ぶ。水の抵抗ですぐ減速するものの、こちらへ迫って来た巨大なモノとの直接接触は避けられた。
それに押しのけられた水が容赦なく襲ってくる。ただでさえ姿勢が悪かった為、容易に煽られあっという間に上下左右の感覚を失った。
「こっちだよ!」
「うわっ⁉︎」
ユウキさんの声が聞こえ、揉みくちゃにされる俺の腕を捕まえると力強く引っ張られる。しばらく引っ張られると水が引っ掻き回されたエリアから脱したらしく、少し目を回しながらも体勢を立て直すことが出来た。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして!いやー、びっくりしたなー」
下を見ればさっきの巨大なモノーーー大ムカデが何かを追うように海底をものすごいスピードで蠢いている。目線ずらせば、その先にいるのはセインさんだった。水中とは思えない細かな軌跡を描き、猛スピードで追いかけてくる大ムカデをかわしきっている。
「ユウキ、ライト君。大丈夫?」
「はい。何とか」
「アスナとシウネーも大丈夫?」
「私たちは平気です。サポートするので作戦通り始めましょう」
「オッケー。じゃ、ライトついて来て!」
「え、作戦?って、え……⁉︎」
そんなこと聞いてない、と言う前にユウキさんが飛び出し、アスナさんとシウネーさんは魔法の詠唱に入ってしまってる。こうなればもうやるしかない。
「ああもう……!」
足で水を蹴り、その推進力でユウキさんに着いて行く。途中でアスナさんとシウネーさんのバフが掛かり、目に見えて速度が上昇した。
「ライト!5秒後に突進系ソードスキルお願い!」
「っ、はい!」
減速体勢は取らず、慣性に身を任せながらソードスキルを発動する為の姿勢を取る。
「……2、1、今!」
「……はっ‼︎」
突進系ソードスキル《レイジングスパイク》が発動し、この世界にも多少は存在する物理法則を無視した加速が身を包む。目標は大ムカデの無数にある足の1本だった。
加速に合わせて不思議と視界がスローになり、自分の剣が大ムカデの足の節の部分にクリーンヒットしたのが分かる。そして目の前をその部位が通過し、位置がずれたところに後からユウキさんが攻撃を見舞う。
「やぁっ‼︎」
ユウキさんは自前の加速で間合いに入り、2連撃《スネーク・バイド》を放つ。不可視の2連撃が俺がクリーンヒットさせた節の部分に、寸分違わずヒットする。
『シャァァァァァァァッ⁉︎』
すると大ムカデは弾かれたように体を撓ませ、その場で動きを止めた。俺とユウキさんの目の前には断ち切られ、ダメージエフェクトを撒き散らす大ムカデの足が浮かんでいた。
「今のを繰り返して全部切り落とすよ!」
「え……」
そう言うなりユウキさんはまた飛び出していくが、俺はその言葉が信じられなかった。
ーーーいったい何本あるんだ、アレ。
後書き
遅くなり大変申し訳ないです。
思えばこの外伝シリーズも1年経ってしまいました(ドウシテコウナッタ)
何もやってなかった訳じゃないのですよ。コラボのプロットに時間取られてるだけですよ?
アニメにうつつ抜かして更新忘れてたとかじゃないですからね!
はい、と言うわけで今回は戦闘にちょっと足を突っ込んだところでおしまいです。
次回は戦闘シーンと、ちょっとあれこれやるかと思います。久々にヤツらも出てくるかも??
感想書いて頂いた方々。時間がある時に必ずご返信しますのでもう少しお待ちを。そしてまた感想を下さい←
それと、面白い!という感想は具体的にどの辺とか書いて頂けると返し易いので是非お願いします。
それではまた次回……
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