遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ターン41 鉄砲水と流離の浮雲
前書き
アモンの口調がいまだにピンときません。
あとジムに出番あげたいのでお願いですから化石融合ください。
これ冗談抜きでお願いします、このままだと主席で留学生としてはるばるやって来たのに肝心のデッキが【岩石族+アリゲーター】か【岩石族統一】になっちゃう……前者は構築もコンセプトもよくわかんないし、後者は油断するとすぐ【岩石コアキメイル】に引っ張られそうだし結束で打点上げて力任せに殴り倒すオンリーの、強いのは間違いないけど架空デュエルには映えないパターンになりそうで書き出すのが怖いです。
前回のあらすじ:オブライエンに続きヨハンにたいしても絶賛敗北二連敗な主人公。もっとがんばれ。
次の日。朝になると既にオブライエンの姿はなく、寝かしておいた枕元には完璧な日本語で礼を言う手紙が置いてあった。すごいなあ、外人なのに読み書き喋りの全部ぺらっぺらなんて。僕なんて日本語で手いっぱいで英語すらまともにできないのに……っと、今は僕の学力は関係ない。ないったらない。
そして他の2人、ヨハンと十代も一晩寝たらだいぶマシな気分になったらしく、酒飲んだ次の朝の親父みたいに疲れ切った顔で次の日にはどうにか復活していた。
……朝食は1人で6人前ぐらい馬鹿食いされたけど、それで元気になったならまあ安いものだ。そう思わないとやっていけない。僕?ダークシグナーって、生前と比べてエネルギーの最大値が跳ね上がるのよ。だからちょっとやそっと吸われても……まあ多少面食らったのは間違いないけど、でもまだまだ平気だ。
「でもチャクチャルさん、これではっきりしたね。これ絶対ロクなもんじゃないわ」
『そうだな。いくらデュエリストでも、あのレベルを多用すれば命に関わる』
「ご飯食べて元気になれるなら問題ないけど、そのたびにあんなに食べるんじゃうちの食費が跳ね上がる」
『えっ』
「なに?」
『……あ、いや、そっちなのか。まあ私にとってはなんでもいいが』
妙に歯切れの悪いチャクチャルさんを一瞥し、今日の授業を受けに行った。
そして放課後。明らかにおかしい、というかどうも周りと話が合わないことがわかる。昨日のうちに生徒の大半はデスデュエルを一度終わらせたらしいのだが、どうも僕の知ってるデスデュエルと話が合わない。皆確かにエネルギーを吸われる感じこそしたものの、精々ちょっとふらつく程度で十代のように気絶してぶっ倒れたなんてことはないらしいのだ。まさか十代とオブライエンが普通よりはるかに虚弱体質だったなんて馬鹿な話があり得るはずがないし、この話を鵜呑みにするなら昨日のあの時間だけデスベルトの吸収率が格段に上がっていたことになる。
「誰が何のために、かね。僕にはさっぱり分かんないよ」
『どうだろうな。ただ我々地縛神は、本来ならばあの地上絵から解き放たれるためには大量の……あー、人間のエネルギーを必要とする。いつぞやの三幻魔の時も、復活の際に世界中のカードからエネルギーが吸い取られていた。似たようなことが起きていなければいいが』
「うーん。下手に考えるより、片っ端から動いてみたほうがいいのかもね」
なんとはなしの不安を感じながらも、それをどうすることもできずにただ突っ立っていることしかできない。なんて、センチな気分は僕好みじゃないけれど。もっと楽しいことを考えよう、そう、例えばあそこで剣山の尻に噛みつこうとしているワニの観察のような。
………えっ?
「うわああああっ!?なんだドン、何するんだドン!?」
「け、剣山ー!?」
違和感が生まれるより先に噛みついていたワニ……この学校にワニなんて1匹しかいない、ジム・クロコダイル・クックのワニだ。
「ソーリー、ソーリー!やめるんだ、カレン!」
「痛いドン!放すザウルス!」
わーわーと騒ぐ剣山からなかなか放れようとしないカレンをどうにか引き離し、ジムが定位置らしい自分の背中に括り付ける。
「うう……自分のワニなんだから、ちゃんと自分で管理するザウルス!」
「ソーリー、実はイエスタデイから彼女の落ち着きがなくってね。だが、その理由はもうわかってる」
「ま、まさか昨日あげたマドレーヌ……」
「ああ、君が遊野清明か。センキューベリーマッチ、あれはとてもグッドテイストだったよ。カレンも喜んでいたし、今度買いに行かせてもらう。だが、それは原因じゃないんだ。これを見てくれ」
そう言ってジムが取り出したのは、何やら四角い機械。その何かを計測するらしいメーターの針はレッドゾーン、限界ぎりぎりまで触れていた。
「これは、電波を察知することができる機械なんだ。それがこんなに反応しているということは、つまり今この学園のどこかで強い電波が発生している。カレンのような爬虫類は、電波の影響を受けると狂暴性が増すからまさかとは思ったんだが、現にこの装置が反応しているということはそうなんだろう」
「へー……それって、最近になってからなのかね。それとも、実はこの島はずっと電波を出してる島だとか?」
「いや、それはないな。俺たちがこのアカデミアに来たときはまだ、カレンも落ち着いていた。つまり、イエスタデイの夜から急にこの電波がどこかから発生しているんだ」
「な、なるほど……?」
あ、これ十代何言われてるのか半分以上わかってないな。
「だから、今からこの電波の発生源を特定しに行こうと思っているんだが、一緒に来るかい?」
「俺は行くぜ、面白そうだしな。ヨハンも来るよな?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ僕たちも……」
「出発ザウルス!」
「んー、じゃあ気を付けてねー」
手を振って見送ろうとすると、なぜかジムとヨハン以外の全員の顔が固まった。
「あ、あれ?どったの皆」
「いやいや清明、お前も一緒に行こうぜ?」
「清明先輩なら絶対我先に駈け出すと思ったドン」
「どんなイメージなの……まあ行きたいのはやまやまだけど、僕店番してなきゃだし」
「えー、いいじゃんかよ。お前も気になるだろ?デスデュエルの被害者なんだから」
「だから、さ」
ヨハンの言葉に、ついぼそっと呟く。小さな声のつもりだったが、ジムにはどうやら聞こえてしまったらしい。
「え?なるほど、じゃあ俺たちでこの電波の謎を突き止めにゴーだ」
「行ってらっしゃい、土産話は楽しみにしてるよ」
適当に誤魔化して、皆に背を向けて歩きだす。呼び止められたらどうしようかと思ったけど、幸いにも誰も止めには来なかった。多分ジムが何か察してくれたから、そのおかげもあるだろう。
さて、ここからは僕も一人で動かさせてもらおう。葵ちゃん、今日は店行けないから怒るだろうなあ。
「……それで、また俺のところに来たのか」
現在僕がいるのは、オブライエンの部屋。机の上に積まれたいくつかの大皿からは、オブライエンがさっきまで昨日大量に吸われたカロリーを食事から補給しようとしていたことがわかる。今朝はいつの間にかいなくなってたけど、さすがに影響なしとはいかなかったわけか。
「何度言われようと、お前に教えるようなことは何もない」
「別に、突っ込んだ話が聞けるだなんて期待してないよ。ただ1つ、前提条件として確認したいことがあるだけで」
「……何?」
ここで追い出すんじゃなくて聞き返してきたあたり、どうやら話を聞いてくれる気はあるらしい。少しは気を許してくれたのかね。
「デスデュエルって、元々はオブライエンのいたウエスト校でプロフェッサー・コブラが始めたことなんだってね」
「ああ、そうだ」
「それって、やっぱりおかしくない?だったらなんで経験者のオブライエンが1回でぶっ倒れたりするのさ。それとも何、ウエスト校ってのは生徒が毎日デュエルするたびに保健室と外を行ったり来たりするような場所なわけ?」
やや嫌味を混ぜつつ言い切り、オブライエンの目をできるだけまっすぐに見つめる。たっぷり30秒は沈黙が続いたが、やがて言葉を選びつつオブライエンが口を開いた。
「俺の口から言えることは、1つだけだ。確かに昨日のデスデュエルは、この俺も経験したことがないようなものだった」
「ふんふん」
「悪いがこれ以上は何も喋らん、用がないなら出て行ってくれ」
ここで一度作戦タイム。僕はこの手の駆け引きは僕はあまり好きじゃないので、心理戦の専門家にテレパシーを飛ばして意見を仰ぐ。
「(どうしようチャクチャルさん、もうひと押しすべきかな)」
『いや。これ以上押しても頑なになるだけで何も出てこないだろうから、ここは一度退けばいい。それに、今追いかければまだ間に合う』
「え?……まあいいや、じゃあね」
部屋を出る前に一度振り返ったが、オブライエンは既にこっちを見ていなかった。しかしよくわからない、オブライエンの話ぶりからするとやっぱり昨夜は何かがおかしかったことになる。今このデュエルアカデミアで、何が起きようとしているんだろうか。ユーノがいれば相談ができたんだろうけど、あいにく斎王戦の直前に会って以降彼の姿は一度も見ていない。まさか勝手に成仏したなんてことはないと思いたいけど、ともあれユーノの助けはないものとして考えたほうがいいだろう。
そんなことを考えながら扉を開けると、たまたま歩いていた留学生……アモン・ガラムの後姿が見えた。せっかくなので挨拶程度はと声をかけようとしたら、チャクチャルさんが割り込んできた。
『ストップマスター、この男だ。先ほどから部屋の前をうろうろして、マスターの話を盗み聞いていた』
「(気づいてたんなら教えてよ……)」
『余計なことに気を使わせることもないと思ってな。あの時は情報収集に集中してほしかった』
そうやって話しているうちに、こちらの様子に気づくことなくアモンがどこかへ歩いていった。チャクチャルさんからそうと教えてもらってなかったら、ついさっきまで盗み聞きをしていたなんてわからないほど堂々とした態度だ。
それにしても、盗み聞きか。こうなるとアモンもアモンでなんか怪しいから、今日はこっちを追いかけてみようかな。
「鬼が出るか蛇が出るか、尾行と洒落込ませてもらいますかね、っと」
できる限り足音と気配を殺しながらそっと後ろにつき、見失わないようこっそりとアモンの背中を見ながら追いかける。しばらくそうしているうちになぜか学校を離れて森の中に入っていったが、どうやら適当に散歩しているわけでもないらしいことはすぐにわかった。明らかにアモンには何か目的地があって、迷いなくそこに向かっている。
さらに歩き続けるうちに、遠くからかすかに十代たちの声が聞こえてきた。ふむ、怪電波の探知をしてるジムと同じような場所に迷いなく向かっているアモン……いよいよもって怪しい。するとその声が向こうにも聞こえたのか、いきなり前を歩くアモンが全力で走り出した。
「しまっ……!もう、なんだってのさ!」
声を殺して毒づき、木の枝などを踏んで音を立てないよう気を付けながら僕もその方向に走る。木の間を通り、足元の小石を乗り越えて。
「あらー……や、やっほー」
「やあ。こんなところで奇遇だね」
こちらを真っ直ぐ見据えて仁王立ちするアモンと目が合った。いつからかは知らないが、完全に尾行がばれていたらしい。一見にこやかに見えるアモンだが、その目は全く笑っていない。
「少々時間がないから単刀直入に聞かせてもらうが、一体なぜ追いかけてきたのか、教えてもらおうか」
「えっと……」
どうするのが一番いいだろう。まず1つ目の選択肢としては、包み隠さず正直に話すこと。これはアモンがこの電波の件を何らかの理由から追いかけているのであれば、単純にお互いの味方が増えることになるというメリットがある。ただしこの選択は、もしもアモンがこの電波の原因である場合は彼と敵対するきっかけを自分から作り出すことになってしまい、僕の身に……いや、下手をすると十代たちにまで危険が及ぶ可能性がある。もう1つはまあ、しらばっくれるなり逃げるなり。だけどそんなもんが通用するとは思えないし、ここはひとつさりげない会話から情報を拾えるかどうかやってみよう。
「今日はいい天気だね」
外した、アモンったらくすりともしてくれないんだもん。大体いい天気ってなんなのさ今日はがっつり曇り空だよコンチクショウ。そういやその昔小学生のころ理科の授業で晴れと曇りの違いは空を見上げて見える範囲の6割だったか7割だったかが雲に覆われているかどうかって習ったけどさ、たまたま僕の年のその授業の日はなんか6割5分ぐらいが雲に覆われたものすっごい微妙な日だったのね。それで教室内でこれは晴れなんじゃないか派と曇りの日扱いでいいだろう派が長々と争いをしてたんだけどさ、普通先生ってそこは中立で貫いてくれるんじゃないのかな?僕らのその時の先生は気が利かなかったのかなんなのか、空見て一言『今日は晴れですね』ときたもんだ。そのせいでもう大変だった、僕をはじめとした曇りの日派はその日1日中晴れ派から激しい弾圧を受けて人間扱いすらされなかったわ給食のカレーもなんか少なめに盛られるわ散々だったよ。そういうところあるからあの先生もう30代も後半だってのにいまだに独身だったんだね、間違いないざまーみろ。
っと、なんだか話がずれにずれまくった。アモンの目はますます鋭く冷たくなり、これもう僕無事で帰れるのかなとかそういうレベルにまで周りの空気はなっている。
「それで?」
「はい、白状します……」
結局、諦めて正直に喋ることにした。昨日経験したオブライエンと十代の、そしてヨハンと僕のデュエルのこと。たった今ジムを中心に十代たちが怪電波を探して森の中をうろつきまくっていること。あとは特にないや。
話をじっと聞いた後、しばらく何か考え込むアモン。このまま逃げ切れないかとも一瞬思ったけれど、そんなことしたら余計ややこしくなりそうだったので即やめた。
「ふーん……これは案外、利用できるかもな」
「え?」
「とりあえず僕とデュエルを行おう」
「は、え!?ちょ、話ちゃんと聞いてた!?吸われちゃうよ、下手するとその場で気絶するよ!?」
「これでも鍛えてあるんでね。それにこのデスベルトの、そしてデスデュエルの仕組みを理解するにはとにかく自分で体験してみるのが一番良さそうだ」
いきなりわけのわからないことを真顔で言い出すアモン。慌てて止めようとするも、軽く流されてしまった。それでもさらに粘ろうとするが、ちょっと悪そうな笑顔を浮かべてさらに先手を打ってきやがった。
「おや、デュエルアカデミア本校の生徒は売られたデュエルもまともに買わないのかい?」
「ぐ。……わーったよ、やればいいんでしょうやれば」
安い挑発なのはわかってるけど、僕だけでなくこのアカデミア全体を馬鹿にされたとあっちゃあやっぱり黙ってられない。わかりやすいなあ、僕も。
「そのかわり、やるからには勝たせてもらうからね。それじゃあ、デュエルと洒落込もうか!」
「「デュエル!」」
先攻は僕。いまだこのデッキの進むべき道は見えてこないけれど……それでも、僕にできるのはこの子たちを信じて戦い抜くことだけだ。ちなみにこれは恰好つけた言い方で、もっとざっくり言うとただ単になんも思いつかないから現実逃避してるだけだったりする。
「出て来い、ハンマー・シャークッ!」
ハンマー・シャーク 攻1700
頭部がハンマーの形をした鮫が、僕の呼びかけに応えてその姿を現す。いつもならばその効果を使ってさらに展開をするところだけど……珍しいことに、僕の手札には現在レベル3以下の水属性モンスターがいない。
「さらにカードを2枚セット。これでターンエンド」
攻撃力がそこそこ高いアタッカー1体に、伏せカードが2枚。とはいえ実はそのうち1枚は今使えないカードをブラフにしただけだけど。でもそんなこと黙ってればわからない、ここでどう出てくるかを、まずはじっくり見させてもらおう。
「1つ忠告しておこう。熱くなるだけでは、僕にデュエルには勝てない。僕のターン、ドロー。いいカードを引いた、永続魔法発動!雲魔物のスコール!」
もくもくと雨雲が上空に広がると突然鼻先に冷たいものが当たった気がして、思わず手でぬぐってしまった。もちろんその手が軽く濡れていた……なんてことはなく、ただのソリッドビジョンの投影に過ぎない。
「この効果は今にわかる。雲魔物-アシッド・クラウドを召喚!」
緑色の雲がどこからともなく湧きあがり、少しずつ寄り集まって人のような形になる。やがてその顔、それも目に当たる部分に意志の光が宿り、どうやらこれがモンスターらしいと気づいた。
「攻撃力、500……?」
「アシッド・クラウドの効果発動。このカードの召喚に成功した時、フィールドの雲魔物の数だけ自身にフォッグカウンターを置くことができる。僕のフィールドには雲魔物が1体、よってカウンターが1つ乗る」
雲魔物-アシッド・クラウド 攻500(0)→(1)
「カードを1枚セット。これで、ターンエンドだ」
「え?」
攻撃力500のモンスターを囮にして強力な伏せカードをセットする戦術、なんだろうか。ここまであからさまに罠だと、攻撃していいものかどうかわからなくなってくるな。
「どうした?これでターンエンド、と言ったんだ。アシッド・クラウドのことは煮るなり焼くなり、好きにするがいい」
清明 LP4000 手札:2
モンスター:ハンマー・シャーク(攻)
魔法・罠:2(伏せ)
アモン LP4000 手札:3
モンスター:雲魔物-アシッド・クラウド(攻)
魔法・罠:雲魔物のスコール
1(伏せ)
「うー……えーい、お望み通りぶん殴る!僕のターン、ドロー!」
今引いたカードは、これか。まあいいや、できれば初手に来てほしかったけど。
「グレイドル・コブラを召喚!さらに自分フィールドに水属性モンスターが存在することで、手札のサイレント・アングラーを自身の効果により特殊召喚!」
ピンク色の毒蛇と、チョウチンアンコウ型の魚モンスターがハンマー・シャークの隣に並び立つ。攻撃力500のアシッド・クラウドをうまく倒してダイレクトアタックすることができれば、こんな小さな攻撃力でも累計ダメージはかなりのものになる。
グレイドル・コブラ 攻1000
サイレント・アングラー 攻800
「これで良し!サイレント・アングラーでアシッド・クラウドに攻撃!」
サイレント・アングラー 攻800→雲魔物-アシッド・クラウド 攻500
提灯を光らせての体当たりを受け、緑色の雲があっけなく四散する。やった、と言おうとしたのもつかの間、ちぎれたはずの雲が再び流れて寄り集まり、何事もなかったかのように元の形に戻ってのけた。
「言い忘れたが、僕の雲魔物はそのほとんどがある共通効果を持っている。雲魔物は守備表示の時自壊するデメリットを持つかわりに、戦闘によって破壊されない」
「だけど、攻撃力はこっちの方が上。せめてダメージだけでも……」
「いや、それは無理だね。僕は今の攻撃宣言時に永続トラップ、スピリットバリアを発動していた。このカードの効果により、僕はモンスターが存在する限り戦闘ダメージを受け付けない」
「ぐ……」
今の1ターンだけでも、アモンのデッキのコンセプトの基礎がわかってきた。戦闘破壊耐性を持つ雲魔物を攻撃表示で場に並べることで戦線を維持し、当然発生するダメージはスピリットバリアでカット。シンプルながらに厄介な戦術だけど、問題は次だ。先ほどから全く使われていないフォッグカウンター、あれは一体何の意味があるんだろう?
「これ以上することはないから、これでターンエンド」
「ならば僕のターン、ドロー。このスタンバイフェイズに雲魔物のスコールの効果が発動、フィールドに存在するモンスター全てにフォッグカウンターを1つ乗せる!」
雲魔物-アシッド・クラウド (1)→(2)
ハンマー・シャーク (0)→(1)
グレイドル・コブラ (0)→(1)
サイレント・アングラー (0)→(1)
天から降り注ぐソリッドビジョンの水の粒が、モンスターたちの体を濡らしていく。今のスタンバイフェイズでフォッグカウンターの数だけなら一気に増えたけど、これが一体どうなるというんだろうか。
「さらに雲魔物-キロスタスを召喚する。キロスタスもアシッド・クラウドと同じく、召喚時に自身にカウンターを乗せる能力を持つ。今は雲魔物が2体いるため、乗るカウンター数も2つになるがな」
緑色で薄気味悪いアシッド・クラウドとは違い、なんだかモコモコした白い雲の体にぱっちりした目を持つ、新たなる雲魔物が召喚された。
雲魔物-キロスタス 攻900 (0)→(2)
「どちらから使ってもいいが……まずはアシッド・クラウドのモンスター効果を発動。このカードに乗ったフォッグカウンターを2つ取り除くことで、魔法または罠を1枚破壊することができる。こちらから見て右の伏せカードを破壊する!」
雲魔物-アシッド・クラウド (2)→(0)
アシッド・クラウドが両腕を振り上げると、僕の伏せカードだけをめがけて局地的に雨が降る。アシッドの名のごとく降りしきる酸性雨が、僕の本命の伏せカード……ポセイドン・ウェーブをグズグズに溶かしてしまった。できればブラフを狙ってほしかったけど、それを顔に出すわけにはいかない。
「次はキロスタスの効果発動、このカードはアシッド・クラウドと対になる効果を持ち、自身のフォッグカウンター2つをコストにモンスター1体を破壊する。攻撃力のあるハンマー・シャークも厄介だが……それ以上に、グレイドルの恐ろしさについては僕も聞いている。グレイドル・コブラを破壊しよう」
雲魔物-キロスタス (2)→(0)
キロスタスが謎の踊りを踊ると、その周りにもっと小さなキロスタスが2体現れる。そのチビキロスタスがコブラに体当たりを仕掛け、ぶつかった瞬間にいきなり爆発した。そしてコブラは戦闘またはトラップの効果破壊に対応して寄生を行えるモンスター、モンスター効果には手も足も出ない。
「バトルだ。キロスタスでサイレント・アングラーを攻撃!」
キロスタスの攻撃力はわずか900……だが、アングラーの攻撃力はそれよりも低い800しかない。こんな時のためのポセイドン・ウェーブもピンポイントで撃ちぬかれてしまっては、その攻撃を止める手段はない。
雲魔物-キロスタス 攻900→サイレント・アングラー 攻800(破壊)
清明 LP4000→3900
「まだまだ、この程度!」
「カードをセット。僕はこれで、このターンを終えよう」
清明 LP3900 手札:1
モンスター:ハンマー・シャーク(攻・1)
魔法・罠:1(伏せ)
アモン LP4000 手札:2
モンスター:雲魔物-アシッド・クラウド(攻)
雲魔物-キロスタス(攻)
魔法・罠:雲魔物のスコール
スピリットバリア
1(伏せ)
「僕のターン、ドロー!」
とにかく、厄介なのは雲魔物のスコールとスピリットバリアだ。せめてそのどちらかさえなければ相手の除去より速く攻撃力の低い雲魔物をサンドバッグにできるし、あるいは効果発動のためのフォッグカウンターを乗せられなくすることができる。
「そのためには、お前の力を借りるしかないね!ハンマー・シャークをリリースして、氷帝メビウスをアドバンス召喚!メビウスはアドバンス召喚された時に、魔法・罠カードを2枚まで破壊できる!スコールとスピリットバリアの両方を凍らせて壊しちゃえ、フリーズ・バースト!」
「くっ……!」
終始ペースを握られっぱなしだったこのデュエルにおいて、今のメビウス召喚が反撃の狼煙となったと言っても言い過ぎではないだろう。戦術の要と防御の要をいっぺんに潰されたのはさすがに痛手だったらしく、今日見る限り初めてアモンの表情が歪む。
「反撃開始、ってね。戦闘破壊はできなくても、この冷たさは受けてもらう!アシッド・クラウドを貫け、アイス・ランス!」
横に伸ばしたメビウスの右腕が、肘のあたりから凍り付いていく。やがて肘から先が完全に氷に覆われ、その先端は鋭くとがりまさに腕そのものが巨大な氷の槍のようになる。青いマントをなびかせてメビウスが走り、その右腕で緑色の雲を突き刺しにいった。だがその寸前アシッド・クラウドの姿がいきなり霧散し、その全てがキロスタスの体に吸い込まれていく。
「攻撃前に消えた?」
「その通り。速攻魔法、フォッグ・コントロールを発動したのさ。このカードは自分フィールドの雲魔物1体をリリースすることで、モンスター1体にフォッグカウンターを3つ乗せる。アシッド・クラウドは今、キロスタスの1部となった」
雲魔物-キロスタス (0)→(3)
前言撤回。まさか除去を喰らっても最低限の立て直しができるような準備ができていたなんて、オブライエンといいヨハンといい、なんでこんなにデュエリストレベル高いのさ。どうも3年になってから、常に対戦相手に一歩先を行かれてばかりな気がする。
いや、ここで弱気になってたら勝てる勝負も勝てなくなる!
「次のターンの破壊効果は止められない……だったらせめて、一撃だけでも!改めてキロスタスに攻撃、アイス・ランス!」
氷帝メビウス 攻2400→雲魔物-キロスタス 攻900
アモン LP4000→2500
「僕の手にトラップカードはない……ごめんメビウス、これでターンエンド」
「ふむ。多少驚いたことは認めるが、この程度は誤差の範囲内だ。ドロー、キロスタスの効果を発動。氷帝メビウスを破壊する」
雲魔物-キロスタス(3)→(1)
またもやミニサイズのキロスタス2体がメビウスに特攻を仕掛け、氷を操る帝と言えどもなすすべなく破壊されてしまう。
「そして雲魔物-タービュランスを召喚する。このカードもまた、召喚時に自身にフォッグカウンターを乗せる」
雲魔物-タービュランス 攻800 (0)→(2)
「タービュランスはフォッグカウンターを1つ使い、デッキまたは墓地からこのカードを特殊召喚できる。デッキに眠る雲魔物-スモークボールを特殊召喚!」
渦を巻く雲の巨人がぐっと力を入れて気張り、その頭のてっぺんの穴から暴風を吐き出しはじめる。するとその上昇気流に乗って、小さな小さな雲の子供がパタパタと短い手足で懸命にバランスを取りながら吐き出された。
雲魔物-タービュランス(2)→(1)→(0)
雲魔物-スモークボール 攻200
雲魔物-スモークボール 攻200
「バトルだ、全てのモンスターでダイレクトアタック!」
雲魔物-スモークボール 攻200→清明(直接攻撃)
清明 LP3900→3700
雲魔物-スモークボール 攻200→清明(直接攻撃)
清明 LP3700→3500
雲魔物-タービュランス 攻800→清明(直接攻撃)
清明 LP3500→2700
雲魔物-キロスタス 攻900→清明(直接攻撃)
清明 LP2700→1800
「ちまちまちまちまと……!」
実際4体もダイレクトアタックを喰らったのにまだライフがこれだけ残っているというのは、かなり異様な事態ではある。とはいえこんな憎まれ口を叩きつつも、今の僕がピンチなのは僕自身が一番よくわかっている。アモンのデッキは決定打こそ欠けるものの、プレイングで堅実に場を固めつつフォッグカウンターから生まれるアドバンテージで押し切るデッキなんだろう。そしてそのプレイングが、火力のない雲魔物を主席にまで引き上げた最大の武器だ。さっきメビウスでスコールだけでも割っておいて助かった、あれ以上やられたら本気で立て直せなくなるところだった。
だけど、まだ手がないわけじゃない。スモークボールはこれまで出てきた雲魔物の中でも特に攻撃力が低い、次のターンでそこをつけばダメージを稼げる。こうなったら多少のアドバンテージは度外視して、僕のデッキよりさらに低いあの攻撃力と言う弱点を生かしてダメージレースに持ち込む。やられる前にやる、それしかない。
「魔法カード、馬の骨の対価を発動。自分フィールドの通常モンスター1体をリリースし、デッキから2枚ドローする。スモークボール1体を墓地へ。さらに魔法カード、宝札雲を発動。カードをセットしてターンエンド……だがこの瞬間に宝札雲の効果が適用され、僕がこのターン同名雲魔物を2体特殊召喚したためにカードを2枚ドローすることができる」
清明 LP1800 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
アモン LP2500 手札:3
モンスター:雲魔物-キロスタス(攻・1)
雲魔物-タービュランス(攻)
雲魔物-スモークボール(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「僕のターン、ドロー!……このカードで繋いでみせる!2体目のグレイドル・コブラを召喚、そしてスモークボールに攻撃!」
グレイドル・コブラ 攻1000
空から降りてくる雲にたいして立ちはだかるのは、地面から湧き上がる銀色の水たまりから生まれる大蛇。その毒牙が唸り、最も小さくて弱く、またなんの耐性も持ちえない通常モンスターのスモークボールを一噛みで噛み千切らんと迫る。
だがその牙も届く寸前、決して小さくはないコブラの体ごとふっと僕の目の前から消えてしまった。スモークボールの前にぽっかりと開いた次元の裂け目に飲み込まれ、この世界から消えてしまったのだ。
「そんな単調な攻撃は通さない。トラップ発動、次元幽閉!このカードにより、攻撃モンスターはゲームから除外される」
「コブラが……だとしても、僕のすることに変わりはないね。カードをセットして、ターンエンド!」
「ふっ、随分と熱くなっているようだが……熱くなるだけでは、デュエルには勝てない。僕のターン、ドロー!」
今アモンは、悩んでいるはずだ。確かにアモンの場に存在するモンスターの攻撃力合計は1900と僕の残りライフを上回ってはいるが、その数値はたかだか100に過ぎない。つまり、僕の伏せカードがもし何らかの形で攻撃を妨害する、あるいはダメージを軽減するものだった場合このまま攻撃しても僕のライフは当然、残る。かといってさらに攻撃のできるモンスターを展開しようとしても、やはりこの伏せカードが枷となる。
当然僕が伏せたのはそのどちらかだ。さあ、危険を冒してモンスターを増やすか、危険を冒して攻撃するか。ふたつにひとつ、どちらを選ぶか見せてもらおうじゃないの。
「ここは攻撃だ。3体のモンスターでダイレクトアタック!」
「惜しい、命拾いしたね?トラップ発動、波紋のバリア-ウェーブ・フォース!」
僕の全身をぐるりと取り囲むように水の壁が包み込み、そのまま攻撃してきた雲魔物たちの連撃を受けた部分に波紋が走る。次の瞬間、3体の雲魔物はすべて吹き飛ばされた。
「ウェーブ・フォースは直接攻撃宣言時にのみ発動できて、その効果は相手モンスター全てをデッキバウンスするのさ!」
通常召喚でさらにデッキバウンス対象のアタッカーを増やしてくれたらありがたかったけどね、そうそううまくはいかないか。プレイングセンスだけじゃなく、デュエリストとしての勘まで優れていると見える。どんなルートを使ったのかかは知らないけど怪電波とデスデュエルについてもすでに当たりをつけていたみたいだし、こういう勘のいい知性派は本当に厄介だ。
そして今も、自分のモンスターをいっぺんに失ったというのにまるで慌てた様子がない。どこまで想定内なのかまるで読み切れない、そんな底知れなさがある。
「やはり、攻撃宣言をトリガーとするカードだったか。僕はこのターン、まだモンスターを召喚していない。雲魔物-ゴースト・フォッグを守備表示で場に出し、さらに2枚目の雲魔物のスコールを発動。これでターンエンドだ」
雲魔物-ゴースト・フォッグ 守0
清明 LP1800 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
アモン LP2500 手札:1
モンスター:雲魔物-ゴースト・フォッグ(守)
魔法・罠:雲魔物のスコール
「僕のターン!」
今引いたカードは……このカードか、悪くない。こうなってみるとさっきのアシッド・クラウドでこのブラフがスルーされたのも悪いことばかりじゃない。
「リバースカードオープン、サルベージ!この効果により墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスター2体、グレイドル・コブラとサイレント・アングラーを手札に回収する!そしてサイレント・アングラーを召喚!」
サイレント・アングラー 攻800
「攻撃力の低い方をわざわざ出すのか?」
「繋ぎだからね。水属性モンスターのアングラーをリリースして、このカードを手札から特殊召喚!出てきて、シャークラーケン!」
シャークラーケン 攻2400
半上級モンスターのスペックを持ちながらも召喚権を使わずに場に出せるモンスター、シャークラーケン。タイダルのいない今の僕のデッキにとっては凄く貴重な、パッと出せる自前のアタッカーだ。守備力0のゴースト・フォッグを倒すだけなら別にアングラーのままでもよかっただろうが、これまでの流れで考えるときっと何かあのカードにも効果があるだろう。ならば突破力の高いシャークラーケンで押し切る方がいいと考えたのだ。
「シャークラーケンでゴースト・フォッグに攻撃!」
シャークラーケン 攻2400→雲魔物-ゴースト・フォッグ 守0(破壊)
シャークラーケン (0)→(6)
「な、なんだってのさ!?」
なよなよした雲を一撃で粉砕した、と思ったら、なにやらシャークラーケンの様子がおかしい。その全身に薄い雲のかけらがまとわりつき、いつまで経っても消えようとしない。
「ゴースト・フォッグの効果発動。このカードが戦闘破壊された時、そのモンスターのレベルの数だけフォッグカウンターを好きなモンスターに乗せることができる。もっとも、今フィールドに存在するのはシャークラーケンだけだがね」
またまた前言撤回。しまった。これ完っ全に裏目だ。大人しくアングラーで攻撃してからメイン2でシャークラーケンにチェンジさせておけば、あるいはシャークラーケンに拘らずにコブラで攻め込んでいれば……いや、もうこうなった以上、反省は後ですればいい。落ち着け落ち着け、これまでの雲魔物のパターンを見るに、フォッグカウンターを使って何かするモンスターは常に自身に乗ったカウンターをコストにしていた。そうだ、僕の場に存在するシャークラーケンにカウンターが乗ったからって、何も恐れることはない。これはただのはったり、こけおどしに過ぎない。
「ターンエンド!」
「ふふふ。先ほども言ったことだが、熱くなるだけではデュエルに勝つことはできない。それを証明してみせようか。スタンバイフェイズに雲魔物のスコールの効果により、フォッグカウンターが1つ追加される」
シャークラーケン (6)→(7)
「それがどうしたって?」
「永続魔法、召喚雲を発動。このカードは1ターンに1度、自分フィールドにモンスターが存在しない時手札か墓地からレベル4以下の雲魔物を特殊召喚できる。ただし、墓地から特殊召喚した場合このカードが自壊するデメリットがあるが。だがもはやそのデメリットも関係ない、墓地からアシッド・クラウドを蘇生する!」
雲魔物-アシッド・クラウド 攻500
またもや現れた、緑色の雲。僕のフィールドに伏せカードのない今、あのカードを出す意味はなさそうなものだけど。その疑問は、すぐにふり払われた。
「アシッド・クラウドをリリースし、アドバンス召喚!出でよ、雲魔物-ニンバスマン!」
これまでよりもひときわ大きい雲が寄せ集まり、頭と腕と足がなんとか識別できる程度の人型に変化していく。だが何よりも恐ろしいのは、その巨大さだ。これまでの雲魔物が精々人間サイズだったというのに、このモンスターは身の丈5メートルは軽く超している。しかもその状態から、さらに体が一回り二回りと巨大化しつつあるのだ。
「ニンバスマンは通常時、攻撃力を1000しか持たないモンスターだ。だがこのカードはアドバンス召喚時、リリースした水属性モンスター1体につき1つのフォッグカウンターを自身に乗せる」
雲魔物-ニンバスマン (0)→(1)
アモンの説明が続く中よく見ると、シャークラーケンにまとわりつく雲の切れ端が徐々にニンバスマンに吸い取られていくのが見えた。そしてその雲を取り込み、ニンバスマンが更なる巨大化を遂げる。
「そしてニンバスマンの攻撃力は、フィールドに存在するフォッグカウンター1つにつき500ポイント上昇する。自身に1つ、そしてシャークラーケンに7つ。そのカウンター全てが、ニンバスマンの攻撃力を上昇させる」
雲魔物-ニンバスマン 攻1000→5000
「く……!」
してやられた。これまでのパターンから正直、例えシャークラーケンのミスが響くとしてもまさか次のターンで終わるようなことはないだろうなんて甘い期待がどこかにあったことは否めない。攻撃力1000以下のモンスターばかり出してきていたのに、ここぞという局面にこんな火力の切り札を隠し持っていたなんて。
超高速でライフを削りつつこちらの手の内を読み切り一手先の行動を仕掛けてきたオブライエンや、精霊との絆と自らのデッキを限界まで信じ抜くことでシンプルではあるが攻略しがたい強さを見せつけたヨハンへとはまた違う、常にこちらの行動を上から見下ろしてくるくせにこちらからはその動きを捉えきれず、こちらの油断をついてその表情を一変させる……まさにそのデッキと同じく雲のようなアモンの強さは、認めざるを得なかった。
「バトルだ、ニンバスマンでシャークラーケンに攻撃!ダウンパワーシャワー!」
雲魔物-ニンバスマン 攻5000→シャークラーケン 攻2400(破壊)
清明 LP1800→0
「さて、デュエルが終わったわけだが……来たか!」
「またか!」
ソリッドビジョンによるたくさんの雲が消え、それと連動するようにデスベルトが光を放つ。ちょっと立ちくらみがしたので大人しく座り込んで調子を整えていると、アモンが苦しそうに息を吐きながら地面にうずくまった。
しかし十代ですらデスデュエル終了後はしばらく意識がなかったことを考えると、その場で気絶してないあたりアモンも相当体を鍛えてあるのだろう。オブライエンといいアモンといい、服の上からでも筋肉がよくわかるプロフェッサー・コブラといい、そんなに鍛えてアスリートにでもなるつもりなんだろうか。それともどこかの兵隊とか……いや、そこまでいくのは考えすぎかな。
「なる、ほど……貴重なデータが取れた、な」
「よくわかんないけど、おめでとさん。あー、だるい……」
お互いに座り込んでいる間に、何か服の後ろをちょいちょいと引っ張られるような感覚がしたので振り返る。そこにいたのはうさぎちゃんこと幽鬼うさぎの精霊。だけどその手に持つ鎌にはカードイラストと違い、先端部分に串刺しになった機械が付いていた。相変わらず押し黙ったまま、それを見せつけるように突き出してくる。
「えっと、くれるの?」
『……』
どうやら正解だったらしく、ほんの少しだけ表情を明るくしてこくこくと頷いてからその機械を鎌の一振りで足元に落とすうさぎちゃん。このレンズからいって、恐らくこれは監視カメラだろう。わざわざ色まで塗って目立たなくしてあるところを見るに、相当慎重に仕掛けてあったに違いない。実際、僕もこんなのがすぐ近くにあるなんて全く気付かなかった。1人だけそれに気づいたこの子が、こっそり抜け出して刈り取ってきてくれたのだろう。
しかし監視カメラねえ。オベリスクブルー女子寮に仕掛けるんならいい悪いはともかくとしてわからんでもないけど、こんな森の中に仕込んで何を撮る気だったんだろう。ただ雨に濡れたような跡もなければ目立った汚れもついていないことを見ると、かなり最近のもの……具体的には、まだ設置から1か月と経ってないだろう。つまり、あのプロフェッサー・コブラが来てデスデュエルが始まる直前のあたりだ。健康に関わるようなデスデュエルの時点で薄々感づいてはいたけど、ここまで条件が重なるといよいよもって怪しい。
そんなことを考えながら完全に壊れて使い物にならないそれを見つめていると、アモンにも気づかれてしまった。
「……それは?」
「ぼくもわかんないけど、監視カメラだとさ。この森の中に仕込んであったらしいけど……少なくともこれは、もう使い物にはならないね」
「そうか。すまないが、それを貸してくれないか?何が撮影されているか、誰が仕掛けたものなのか、ガラム財閥の技術ならばデータの復元や情報の送信先が割り出せるかもしれない」
「はいよ。僕が持っててもしょうがないし」
ぽいっと投げ渡したのを座り込んだままキャッチし、いやに大事そうに抱えるアモン。渡しておいてなんだけど、何か変なこと企んでなければいいけど。
いや、どうもこれまでの様子を見る限りでは、アモンもこのデスデュエルの被害者だ。どうせ僕が持っていても役には立たないこのカメラ、あげちゃっても問題ないだろう。
「じゃ、僕は帰るよ。立てる?」
「なんとかな……と言いたいところだが。ここでしばらくの間、雲でも眺めてから戻ることにしよう」
「そう?」
聞き返すが、すでに返事はなかった。寝転がって目をつぶっているところを見ると、体力減少による疲れが効いて眠ってしまったのかもしれない。まあ昼寝のひとつやふたつでそうそう風邪ひくこともないだろうし、放っておけばいいだろう。
後書き
もっとがんばれなかった。
ここまで来たらジム戦もやりたいけど、多分ないです。すまないジム、非力な私を許してくれ。
連載終了までに化石融合が来たら最優先で出番作ります、いやほんと。
ページ上へ戻る