男は今日も迷宮へと潜る
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第七話
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『マジかよ!?』
『あいつ【ロキ・ファミリア】の凶狼だぞ・・・・・・』
『死んだな、あのおっさん』
酒場の至る所から囁き声。
やはり相手はとんでもない物だったらしい。
視界の端ではイシュタムが、「いいぞ!もっとやれ!」とはしゃいでいるのが見える。
やっぱり厄ネタだったじゃないか、我が神よ。
「おい、今お前なんて言った?」
「一回だけなら聞かなかったことにしてやる。お前は今なんて言った?」
「いや、だからね?酒が不味くなんだって。だから黙れってこと」
「あ゛?頭湧いてんのか?おっさんよぉ?」
「喧嘩売ってんなら買うぞ!?なあ、おい!」
犬耳男が立ち上がる。
以外とがたいが良い。
鍛えられつつも絞られているその体はまるでプロの格闘家のようだ。
「おいおい、そんないきり立つなって。発情期か?あんちゃん」
「なら去勢することをお勧めするぜ?躾のなってねぇ犬もこれでイチコロってな具合よ」
「──っ!テメェ!」
胸倉を掴まれる。おお、こわいこわい。
浮かぶ青筋が良く見える。どうやら相当ご立腹のようだ。
「おいおい、落ち着けって。そんながっつくと女の子に怖がられちゃうぜ?」
「あー・・・・・・犬だから人の言葉わからんよなぁ。ほら、シット!シッ──」
犬耳男の手首を掴み、肘を支点にぐっと一ひねり。
瞬間。犬耳男の体は宙を舞い、椅子を巻き込んで着地。
やってて良かった合気道。正直ここまで上手くいくのは想定外だが。
「──っと。躾のなってない犬はこれだから嫌なんだ」
「公共の福祉ってもんをを学ばせるべきだな゛っ」
ふわりと浮遊感。直後、ガラスを突き破る感覚。
その後首で接地。ゴキリと快音。
頬と首が非常に痛い。
「よぉぉく判った。お前は俺が殺す。誰がなんと言おうと殺す!」
「おい、やめろ!ベート!」
「うるせぇ!」
折れた首を手で戻す。
酒場の入り口には仲間の制止を振り切った犬耳男。
今にも自分を殺さんと殺気を振りまきながら、こちらへと歩み寄ってくる。
バックにはイシュタムを含めたギャラリー付だ。
距離は凡そ10メートル。さて、どう料理した物か。
「おーおーおー。威勢のいいわんちゃんだなー。おっかねぇなー」
「おっちゃんちびっちゃいそう。」
「・・・・・・ブッ殺す!!」
ほんの一瞬、その間瞬き一つほど。
空いた距離は詰められ、眼前には怒り狂った犬耳男。
咄嗟の事に体が追いつくわけも無く、無様に蹴り飛ばされた。
起き上がる前に迫り来る追撃。肉の裂ける音、砕ける骨。
一方的な暴力がそこにはあった。
その後ベートの攻撃はそれに留まらず、マサが動かなくなるまで執拗に続いた。
────
『何だよ・・・・・・やっぱり口だけだったじゃねぇか』
『正しく瞬殺だったなぁ・・・・・・』
数分後。
ギャラリーから漏れる嘆息。
そこには息を荒くして佇む犬耳男、ベート。
その足元にはマサが転がっている。
息はあるものの四肢はあらぬ方向へひしゃげ、その顔は醜く膨れ上がっていた。
「・・・・・・っ。クソがっ!」
勝敗は明らかである。
虫の息のマサに背を向け歩き出すベート。行く先には仲間達。
しかし、その様子が少しおかしい。
何かを指差し、なにやら叫んでいる。
指し示す先はベートの後ろ。
ベートが振り向くとそこには──
「いやぁ、効くねぇ。痛ぇのなんの。」
咥えタバコのしたり顔。
完全に無傷のマサが立っていた。
「っ!?嘘だ──」
「はい。ざーんねーん」
バチリバチリと鋭い音が響き渡る。
それと同時にベートの体は大きく仰け反った。
「がっ──!?」
「強いねぇ、あんちゃん。素手で手やら足やら折られるのは久しぶりだわ」
「ただ、びっくりして動きとめちゃあいい的よな」
ベートに押し付けるは懐から出したスタンガン。
スラムの悪いお友達にも人気な高電圧仕様。
「・・・・・・まぁ、吹っかけた俺もあれだけど」
「酒は呑んでも飲まれるなってことで、今日は一つ」
崩れ落ちるベート。
それを尻目にマサはゆっくりと酒場へ戻っていった。
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