男は今日も迷宮へと潜る
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第五話
────
「おお、マサよ!死んでしまうとは情けない!」
自分と椅子しか見えない空間。
どっからともなく響く声
見覚え、聞き覚えがある。
「いやぁ。一度言ってみたかったんだよね!この台詞!」
「普通だったら言う場面が存在しないし!」
HAHAHAと鼻につく笑い声。
ウザイ野朗だ。人のことを見世物にした挙句笑いの種にするとは。
「まぁそんなかっかしないでくれって!僕と君の仲だろう?」
「出会って一日だがね!HAHAHA!」
手が出せないのがもどかしい。
もし触れられたならボコボコにしてたろうに。
「さて、本題だ」
「まず一つ目。君モンスターに殺されたときは再生にちょっと時間がかかるようにしといたから」
「ほら、ちょっとした縛りって奴?でも自殺やモンスター以外の他殺は今まで通りだと思ってくれていいよ!」
「そんで二つ目。薄々気づいてはいるだろうけど、威力不足!心配だよねぇ?」
「かといって、いちいち50calやRPG持ち歩くわけにもいかんよね・・・・・・」
「そこで!ステイタスの上昇に伴ってある程度威力が向上するようになります!」
「でも、そんな分かりやすいもんでもないけどね。岩の塊の化け物を拳銃で殺したりは出来ないんで、そこんとこよろしくぅ!」
「とりあえずはこんなとこかな。それじゃ、また!」
バツンという音。
再びマサの視界は闇に閉ざされた。
────
目が覚める。
薄明るい洞窟の中だ。先ほどと同じ位置だろう。
少年は無事だったのだろうか。と考えフロアを一通り見てはみた。
何も無かったのであの状況をどうにか切り抜けたのだろう。
とりあえずは──
「ニコチンも切れたし。戻るとしますか・・・・・・」
「おっちゃん疲れた!あんな大物出るなんて知らんわ普通・・・・・・」
愚痴と悪態を吐きながらもと来た道を辿り出す。
しばらくすると人の気配。
ここで会うのも何かの縁。とんでもないのが出たことを教えておこう。
「・・・・・・。」
「────っ」
思わず声が詰まる。
腰まで伸びる黄金に匹敵するような金髪。
蒼い軽装鎧に包まれたしなやかで華奢な体。
その上に乗るいたいけな童顔。
女神のような少女のその美しさに思考停止、咥えタバコの煙で我に返る。
「・・・・・・あの、何か?」
「────、あ、ああ、いや。とんでもない化け物が出たもんで」
「探索するならご用心を、ってな具合でさぁ。そいじゃ、自分は戻りますので」
少女が何かを言う前に退散。
ああいった手合いは何かと厄介な場合が多い。
綺麗なバラには棘があり、触らぬ神に祟りは無しだ。
少女を呼ぶ仲間の声と思われるのに背を向けて。
マサは足早に上の階層を目指した。
────
「──っていうことがあったんだ」
「牛頭の巨人って・・・・・・ミノタウロスじゃないですか!?」
「良く無事でしたね・・・・・・あれ、五階層なんかに居ていいものじゃないですよ?」
「あぁ、体質がなければ即死だったかなぁ」
「むぅ。無茶しないでくださいよ」
「だいじょぶだいじょぶ。融通が利くってのは知ってるだろ?」
「そうですけど・・・・・・」
外には夜の帳が降り、遠くから大通りの喧騒が聞こえてくる。
あばら家の中のベッドにうつ伏せになったマサとそれに跨るイシュタム。
現在【ステイタス】の更新中である。
「ここをこうして・・・・・・っと。はい!終了です!」
「ほいほい。ありがとさん」
「さてさて。どんなもんですかねぇ」
【ステイタス】が書き写された紙を受け取り目を通す。
魔力と敏捷と器用がギリギリH、他が低めのIと言った具合。
スキルも魔法も何もないまま。
正直言って微妙である。
「まぁ・・・・・・こんなもんだろうねぇ。銃しか使ってないし」
「さて、寝るとしますか。明日も早いし」
「昨日と同じで俺は床、嬢ちゃんはベッドな」
「え、でも──」
「良いんだよ。神様と添い寝なんて恐れ多いぜ?」
「むぅー・・・・・・」
イシュタムの顔が膨れる。昨日は添い寝を提案されたが丁重に断った。
自分はロリコンではないし、こんなオヤジと添い寝というのもあれだろう。
「ほいじゃおやすみさん」
「・・・・・・マサさんの馬鹿」
聞こえない、聞こえない。
夜は静かに更けて行く。
────
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