| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

RSリベリオン・セイヴァ―

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

最終話「天女の雫」※修正

 
前書き
ここまでご愛読して頂ぎ誠にありがとうございました! 最後までこの駄文だらけな作品につき合っていただいてありがとうございます!!;つД`)

 

 
「な、何だ! あれは!?」
弥生の変貌を目に、太智と清二は目を見開いた。
「弥生……なのか?」
太智は丸くした目で呆然とする。
「狼……」
弥生は、思い人の名を呟くと、己が身に纏う羽衣を眩く発光させた。その光は強大なエネルギー反応と共に周囲を飲み込んでいく。
「や、やべっ……!?」
清二が慌てた。弥生が羽衣から発するそのエネルギー波は全ての対象において大ダメージを与えるからである。
こうしている間にも太智と清二のRSはシールドエネルギーの半分を切ってしまう。
「清二! 一旦引き上げだ!?」
「あ、ああ……!」
二人のRS装着者は即時撤退を余儀なくし、二人は全速力で逃げると共に専用機持ち達にも通達する。
「お前ら! 今から急いで逃げろ!?」
「どうしたというのだ!?」
ラウラが、そんな太智の慌てように目を険しくさせるが、今の彼は冷静ではない。
「いいから早く撤退しろ!? 強大なエネルギー波に飲み込まれるぞ!?」
「エネルギー波?」
その言葉にラウラも胸騒ぎがした。彼女は太智の指示に従って他の専用機持ちらと共に戦前を離脱した。
そして、残されたのは弥生と、彼女と対峙する福音だけである。しかし、福音は先ほど彼女が発したエネルギー波によって大ダメージを受けていた。それでも、構うことなく彼女に向けて銀の鐘を食らわせるが、再び発した弥生のエネルギー派によって降り注ぐはずの銀の鐘のレーザー弾がエネルギー波に飲み込まれ、そのまま押し寄せる津波のごとく福音を飲み込んでしまった。
福音は、跡形もなく消し飛ばされてしまい、弥生は次のターゲットを定め始めた。
「狼……」
あんな兵器さえなければ、狼は死ぬことはなかった。今、彼女の中にはISに対する果てしない憎しみしかない。そして、この世からISを消し去ることを望んで彼女はこの上空を後にした。

「いったい何が起こった!?」
司令室にて、千冬は突然この近辺の空域に発生した強大なエネルギー反応に気付いた。
「わかりません……しかし、エネルギーの発生源はこの空域を離脱してこちらへ向かっています!」
真耶が叫んだ。
「くぅ……捜索隊の各教員半数は直ちに発生源付近へ急行せよ!」
「だ、ダメです! エネルギー反応によって通信ができません!!」
「くぅ……!」
――こんな時に……!
一夏達が無断で再出撃したことで教員たちで止めに向かうはずであったが、その途中で謎の強大なエネルギーを感知したとは予測もつかない事態であった。

俺が目を覚ました時には、そこは真っ青な世界が広がっていた。頭上の空は透き通るほどの美しい大空が雲と共にどこまでも広がり、足元にはその上空を移すかのように透明な水面が広がっている。
――……ここは?
歩くたびに水面に写る空を歪ませながら、俺は辺りを見渡しながら歩き続けた。
「俺は……」
しかし、歩くたびに俺はなぜこのような場所に立っているのかを思いだした。
「……俺は、舞香に刺されて?」
そう、妹に殺されてこんなところへ来てしまったということだ。だとしたら、ここは天国? いや、出来るの悪い人間がいくところなんて地獄しか言い様がないかな?
――けど……俺はっ!
けど俺は、こんなところで死ぬことはできない。何よりも、弥生や皆が俺の帰りを待っているんだ! こんなところで死んでたまるか!!
「くぅ……出ろ、零!」
だが……零は言うことを聞いてくれない。いや、というよりも零が体内に宿っていないのだ。
「こ、これは……?」
RSの解約は不可能……そうか、やっぱり俺は死んでしまったから、もうRSがあろうがなかろうが意味のないことなのか?
「くそっ……本当に俺は死ねないんだ! いや……生き返せなんて言わない! もう少しだけ……せめて、あと少しだけでもいいから生かせてくれ!!」
膝をつき、誰に言うでもなく俺は叫んだ。
「頼む……出てくれ? 零……」
両手を水面につけ必死で零に頼む。しかし、零のない体へいくら伝えても意味がない。
「ちくしょう……頼む! 零……」
『我が力を望むか……?』
そのとき、俺の耳元から雄々しい男の声が響いてきた。
「だ、誰だ!?」
『問おう……其方は何のためにその力を望む?』
「誰なんだ……?」
『今は、我が問いに答えよ? それで良い……』
今更その声が、閻魔の声だろうが今の俺には関係ない。俺は、本当に自分が力を望む意味をその声に向かって答えた。
「守るためだ……」
『守る……何のために?』
「え……?」
『誰が為、その力を使う?』
「……大切な人の為に、その人の為に俺は戦うんだ!」
『死ぬとわかっていても尚、求めるか?』
「俺の意思は変わらない。ただ、純粋にその人のことが好きだから……好きになっちまったからには彼女を守りたいんだ!」
『その思いが儚く忘れ去られても、愛しき者のために戦い続けるというのか?』
「その娘の笑顔が守られるなら……俺は、戦う! この体がどうなろうと構わない!」
『……』
その声はしばし沈黙を続けた。まるで、唸りながら俺を試しているかのように……
だが、その沈黙もいずれ止み、また新たにこう言い放った。
『……では、その命を試してしんぜよう!』
すると、俺は背後の気配に振り向いた。そこには、ある人物が俺の目の前に現れる。
――弥生!?
そう、そこには巫女装束に身を包む弥生の姿があった。しかし、彼女が俺を見つめている瞳は、いつものような心優しい眼差しではなかった。
「弥生……?」
「……」
だが、弥生は何も答えぬまま腰にさした赤い鞘から真剣を引き抜くとその先を俺に向けだしたのだ。
「ど、どうしたんだ? 弥生!?」
「ッ……!?」
途端に彼女は刀を振りかざして俺に襲い掛かってきた。それを、俺はギリギリ避けるが、反応が遅れて肩を負傷してしまう。
「ぐぅ……」
血が流れ、痛みに堪えながら俺は叫ぶ。
「や、やめろ! 弥生、やめてくれ!?」
どうしてだ? 俺はどんなに叫んでも彼女は構わず俺に襲い掛かってくる。
――くそっ! どうすれば……どうしたらいいんだ!?
こちらには零がない。だから、今は避けるか逃げるしかない、だが、逃げたら逃げたで追いつかれてしまいそうだ。ここは、どうにかして彼女の攻撃を避け続けるしかない。
「くぅ……」
しかし、反射神経の鈍い俺は立て続けに攻撃をくらっていく。このままでは、こんな場所で死んでしまう……
「弥生! やめるんだ!? どうして俺と戦わなくちゃいけないんだ!?」
しかし、どんなに叫んでも彼女にあるのは、俺への殺意だ。
――どうしればいいんだ? どうすれば!?
俺は必死で彼女を説得させる案を考えだす、だが……
「っ……!」
今の彼女の目は普通ではない。俺を見るような目ではなく俺を完全に敵視する殺意に満ちた目なのだ。
「このままだと本当に……!」
「……!」
そして、俺の胸元は彼女の振り下ろされた刀に斬り付けられ、俺はその場に倒れた。
「ぐはぁ……!」
その痛みに耐えることができず。起き上がることができなかった。
「……本当に、このままだと……」
このままだと、本当に俺は死んでしまう。それも、好きな女の子に殺されて……
だが、俺は彼女とは戦いたくない。どうにかしてこの難を切り抜けないか?
――どうすればいいんだよ!?
……やっぱり、俺はここで死ぬんだ。ここで、彼女に殺されるんだ。
――俺が、何をやったんだよ!?
自分への被害妄想を膨らませる。俺は彼女を傷つけたことはない。が、それでも弥生は俺を憎んでいるのだろう……
――けど……
……けど、俺は立ち上がった。そして、目の前に刀を構える彼女に向けて大きく両手を広げる。
――君がどんな形で生きていても、俺は構わない。だから、俺を殺して君が満足を得るなら、それも本望だ……
そうだ。俺は弥生を心から好きでいられる。死ぬのは怖いし、痛みも恐怖に繋がる。けど、それでも彼女がこの先も幸せに生き続けてくれるのであれば、俺は彼女に殺されても構わないんだ……
「……!」
そして、弥生は剣先を向けて俺の胸に飛び込んでくる。そして……
「ぐっ……!?」
俺の胸を彼女の刀が貫通する。血が大量に流れだして足元に写る水面の空が赤く滲んでゆく。
「や、弥生……!」
しかし、俺は震えた両腕でそんな彼女の両肩を抱きしめた。
「っ……!?」
そんな彼女は、俺に肩を抱かれて両目を大きく見開いた。
「お前が俺を殺そうとも構わない……俺は、お前のことが好きだから……
俺は口から血を流しながらも最後にこう告げた。
「……どんな形であれ、最後にお前とこうして会えて、よかった……!」
さらに俺は彼女の肩を強く抱きしめた。
すると、弥生に異変が起こった。彼女の体は眩く光りだすと、そのまま光の粒子となって薄れていく。
「や、弥生……!?」
手を伸ばしても、俺の片手は彼女の体を突き抜けてしまう。
「……」
弥生は、先ほどまでの殺意の目からいつものような優しい眼差へ変わり、その白い片手が俺の頬を優しく撫でた。
そして、彼女は光となって上空へと消えていった……
同時に、俺が先ほどまで負った傷も気が付けば痛みすら残らず消えていたのだ。
『狼よ……其方の思いは我が心にしかと届いた! 行け、そしてこの先も愛する者のために生き続けるのだ!』
「っ!!」
俺は強く頷くと、空に向かって叫ぶ。
「零……展開!」
俺は光に包まれた。

「……!?」
気が付くと、俺は旅館の一室に寝かされていた。
「……」
布団から起き上がると、隣で俺を見守る二人の気配に気付く。
「よう! 気が付いたのか?」
「うむ……無事で何よりだ」
そこには、蒼真と神無が俺を見ていた。
「二人とも……どうしてここに?」
「近くを通りかかった漁船が、お前さんを拾い上げてくれたらしい。そのあと、漁師のオッサン達は危険を承知の上でコッチの陸まで上がって、偶然通りかかった俺たちに助けを求めてきたというわけさ?」
「漁船の……?」
「……密漁船だってさ?」
「え……?」
密漁船、確か最初の作戦で海域に無断で侵入してきたあの国籍不明の!?
「話によれば、アジア諸国から来た漁船らしい。一夏に危ないところを救ってくれた礼としてお前を助けたんだと?」
「……」
俺は黙って彼らの話を聞き続けた。
「……漁をする海域が厳しく制限されていて、貧困な生活に苦しんでいたらしい。この際、悪いと思っていても日本の海域へ仕方なく侵入してしまったそうだ。少しでも質の良い魚を釣って家族を養わせるためにと。後から大変申し訳なかったと、私たちに何度も謝罪したそうだ」
近頃は、各国がISを持たない国々から海域を奪っているというらしい。あの漁師たちもそんな被害者の一人なのだろう。
「……その、漁師さんたちは?」
「なに、リベリオンズの日本支部が無事に保護したよ? お前さんを助けてくれた礼として大量の日本の魚と、謝礼金を渡して、無事に本国へ送りとどける予定さ?」
「そうですか……よかった」
俺は、ホッと胸をなでおろしたが。そんな俺とは違って神無はやや焦っていた。
「だが、落ち着くのはまだ早い。実は、弥生が……」
「弥生が……?」
俺は、二人から弥生のことを聞かされた。内容を聞いて俺は口から言葉が出なかった。
「弥生が!? その……『覚醒』ってなんですか!?」
その問いに神無が答えた。
「……我々、霊術を身に付ける者たちには、体内に秘められた強大な潜在能力を有している。それらは、目の前で起きた悲劇や衝撃によって覚醒され、見たこともない強大な霊力を持って暴走を起こしてしまうのだ……特に、弥生はこれまでの霊術者の中でも特殊で強大な力の持ち主だったのだ……」
「そ、そんな……!?」
「そして現在、弥生は力の限り暴走を続けている。このままでは彼女の身に危険が迫る」
蒼真の言う言葉に俺を目を丸くする。
「どういうことです!?」
「覚醒した潜在能力を使い果たせば……彼女の命は、朽ち果ててしまう」
「……!?」
「私ですら、彼女の強大な力には太刀打ちできない。現に先ほど身内である私が近づこうにも、彼女から伝わるとてつもない悲しみに満ちた霊気が壁を作って触れることすら叶わない」
「どうすればいいんです!?」
「方法は……一か八かだが、最も大切な存在に説得を呼びかけてもらうしかない」
と、蒼真。
――大切な存在……
俺は、そのまま無言で立ちあがった。
「どうした?」
蒼真が問う。
「弥生を助けに行きます!」
「よせ! 其方一人でどうこうできる話ではないのだぞ!? 後は私に任せろ?」
神無に引き留められようとするが、それでも俺は引き下がりはしない。
そして、二人に俺の本当の想いを伝えた。
「……弥生は、俺の大切な人なんです。彼女からして俺が一番かどうかなんて、そんなもん自身は無いです。けど、無謀だって言われても構わない。俺は、何が何でも弥生を助けに行きます!」
「……」
そんな俺の強い決心に蒼真は黙った。すると、彼も立ちあがってこう述べる。
「……行ってきてやれ?」
「蒼真!」
しかし、反対する神無はそんな蒼真の一言に反発する。
「大丈夫だ! お前ならきっと弥生を救える……お前は今まで弥生を何度も助けてきた。今回も絶対に彼女を救えるさ?」
「……はい!」
「狼殿……」
そこへ、神無が俺にゆっくりと頭を下げた。
「……妹を、弥生を頼む」
「はい、行ってきます……」
そして、俺はいざ向かおうと部屋を出ようとするが。
「おっと! 待ちな?」
蒼真が引き留めた。
「どうしたんスか?」
「パンツ一丁のまんまで外へ出るのか?」
「あ……?」
よく見たら、俺の身形はトランクスしか纏っていない。それに神無が先ほどから顔を赤くしている。
「着てきな?」
蒼真が俺に衣類を渡した。それは、ラルフやヴォルフが着ていたあの服と同じものだ。そして、清二と太智の私服でもある。
「……これは?」
「貧困地帯に住んでる連中が着ている服さ? 大抵俺たちもそれを着ている」
「あ、ありがとうございます!」
俺はその場ですぐにその私服へ着替えた。

時刻は深夜。上空には満月が浮かびその月光を背にある一つのシルエットが浮かんだ。覚醒形態となった弥生である。彼女はISにも劣らぬ速度で夜の上空を滑走し、その加速は止まることを知らない。
「くそっ! 下手に近づけやしねぇ……」
数キロ地点から指をくわえて見つめているのが太智たちである。
「このままだと迂闊に近づけない……」
清二はデジタルスコープで弥生の映像を見た。
「……本当に弥生ちゃんなのかよ?」
清二は、あの恐ろしい天女が本当に彼女なのかと信じられずに見ていた。後に蒼真から連絡があってそう聞かされてはいる。現在は専用機持ちと共に数キロ地点から身を隠して待機と言われていたのだ。
「清二、もう一度弥生の状況を……ん?」
ふと、太智のレーダーから狼の反応をキャッチした。
「狼!? アイツ……目を覚ましたのか!?」
太智は驚いて狼が飛んでくる方角を見つめた。すると、そこには両手に零を握りしめて突っ込んでくる狼の姿が見えた。
「狼!」
しかし、彼はこちらに気付くことなくそのまま彼らの前を通過して夜空を駆け抜けていった。そんな彼が向かう先は、あの弥生がさ迷う月光の差し照らす空である。
「待て狼! そっちは危険だ? 戻ってこい!?」
しかし、RSの最高速で突っ走る狼には彼らの声は聞こえず、また太智らも今からでは狼に追いつくことはできない。
「くそっ! 馬鹿野郎が……」
太智は、すぐに蒼真へ連絡を取るが、彼から帰ってきたのは意外な返答である。
『俺が許可した……あいつにやらせてやれ? 責任は全て俺がもとう?』
「……」
不安ではあるが、太智は黙って狼の向かった方向を見つめた。
「太智?」
と、彼の肩に清二が手を添える。
「ああ……そうだな?」
――狼、行って来い!

俺は、前方に見える弥生らしき女性へと突っ込んでいく。
「弥生! 俺だ、目を覚ませ!?」
大声で叫ぶが、彼女は俺へ振り向くなり途端に強いエネルギー波を起こした。
「ぐぅ……!」
その波動に触れれば徐々にシールドが削れてしまう。現に俺のシールドは10近くも削られてしまった。
「これは……!」
神の絶対領域ってやつか? だが、それでも……突き進むのみ!
「弥生!」
再び俺は突っ込んだ。そして強大なエネルギー波に飲み込まれる。徐々にシールドが削られて、ダメージが増していく中で、俺はあの技を叫んだ。
「絶対神速!」
そのまま一気に彼女の元へとたどり着き、その肌に触れようとするが……
「がぁ……!」
更なる強大なエネルギーが俺に押し寄せてこちらへ近づけさせまいとする。俺の絶対神速は彼女の一歩手前で止まってしまった。
ここからは……己自身の力で踏みださなくてはならない。
「や、弥生……」
シールドが削れる中、零も負けじともがき始め、シールドの減少を押えてくれている。そのうちにこの手が彼女に届けば……
「ぐぅ……弥生!」
俺は高エネルギーの中で苦しみながらも、彼女の名を何度も呼び通続けた。
纏う服が引き裂かれ、皮膚から鋭い切り傷が生じ、さらに全身から激しい痛みが襲い掛かる。しかし、それでも俺は彼女へ手を伸ばし続けた。
――俺の思いが伝わらなくてもいい……ただ、お前だけを助けたい!
誰のためではない。自分の信じた大切なもののために……
こんな俺でも、唯一守りたい人のためなら……
どんな苦境でも、必ずその人を……彼女を……
「今度は……俺がお前を信じる!! だから……目を覚ませ!? 弥生!!」
次の瞬間、弥生から生じる高エネルギーの周波は突然途切れた。
「……!?」
弥生は目を大きく見開いて、俺の胸に抱かれた。俺は、もう離さんと彼女を思いきり抱きしめる。
「ろ……狼……君……?」
彼女の震えた弱々しい声は、俺の耳元へ届いた。
「弥生……」
額から血を流しながらも、俺は優しく彼女を見つめた。
そして、彼女の目から大粒の涙が次々に流れ始める。
「私……狼君を傷つけて……こんな、酷いことして……!」
全身傷ついた体と、額から流れる血を見て弥生は涙をこぼした。

「弥生……」
「……でも、こんな私なんかのために来てくれて、本当にありがとう。心の中で、何度も狼君の名前を呼び続けていました」
ただ、目の前で墜落した彼を見て、悲しみと怒りが収まらず心の底に封じていた潜在能力を覚醒してしまった……そんな彼女は、心のどこかで心の痛みに苦しみながら必死で狼に助けを求め続けていたのだ。
「でも……その思いが伝わらなかったら、どうしよって……」
「あの時、弥生は俺を何度も信じてくれた。だから、今度は俺が弥生を信じる番さ? 今まで、俺を支え続けてくれてありがとう。今度は……俺も、お前を支えるから、これからも助け合って、この歪んだ時代を生きて行こう?」
「狼……」
彼女は俺の胸の中でそっと笑んで涙を流した。
「さ、帰ろう? 皆のところへ……」
「はい……!」
弥生の装束は再び光となって元の巫女装束へと戻った。
俺たちは、新たに上る朝日を背に受けて帰還した……

その後、俺たちは皆の歓声に出迎えられながら無事に陸へと降りたった。しかし、そのあとは千冬へ専用機持ちと共に呼び出されるはめとなる……
「作戦は完了……と、言いたいところだが? お前たちは重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文の提出と、懲罰ようのトレーニングも用意してあるから覚悟しろ?」
「あ、あの……織斑先生? そろそろこの辺で……皆疲れていると思いますし?」
と、真耶。
「うむ……まぁ、今回は……よくやった。良く帰ってきた。今日はゆっくり休め?」
「「……?」」
と、専用気持ちは、そんな千冬の隠れた優しさに実感するのだが、俺はそんなことよりも気になることがあった。
「織斑先生!」
俺は問う。
「何だ? 鎖火……」
「……今更ではありますが、何故今回の作戦を我々生徒、それも民間人が受け持つことになったのですか?」
「それ以上、上層部の命令に口をだすな?」
と、彼女はやや怖い顔をして不愛想に答えた。しかし、俺はどうも引き下がることはできない。
――こんなことを、俺たちがやらされなかったら、弥生も……
この任務に巻き込まれなかったら、弥生も潜在能力が覚醒することなどなかったはずだ。
「しかし! A級特命任務を、自分のような成人男性ならともかく、弥生や一夏、他の専用機持ちといった未成年の子供たちにさせて、彼らを危険な目に会わせたのに……それでも上層部やIS委員会の理不尽さに違和感を持たないんですか?」
「よせ……狼?」
太智が俺を止める。
「貴様……そんなに裁判にかけられたいのか?」
千冬の表情が徐々に険しくなる。周囲はこれ以上荒波を立てないでくれと祈るばかりだが、俺はどうしても今回の件には納得がいかなかったのだ。
「……そうです、織斑先生? どうしてですか?」
すると、一夏も俺と同様に言い出てきた。
「……?」
弟までもしゃしゃり出てくるとは、千冬は厄介な顔をする。
「み、皆さん? とりあえず、無事に終わったから良かったじゃないですか?」
と、真耶が場を沈めようとするが、俺はそんな彼女の一言に堪忍袋の緒が切れる。
「無事だと……? ふざけんなっ!! 良くそんな事が言えるな!?」
「ご、ごめんなしゃい……!」
俺の激怒に、真耶は泣きそうになる。
「ほう? 教員に怒鳴るとは、良い度胸だ鎖火……」
千冬は、ゆっくりと歩みでて、俺の胸ぐらを掴んだ。
「そんなに裁きを受けたいのなら、私が直接この場で判決を下してやってもいいんだぞ?」
「裁きを受けるのはどっちだ?」
「貴様……!」
彼女は、俺の胸ぐらを掴む手を強めた。
「鎖火……貴様には夏休み期間の『謹慎処分』を命ずる。外出しようものなら退学と思え!」
「おい……教え子相手に大人げねぇだろ?」
そんな俺たちの元へ一人の男が割って出てきた。蒼真である。
「そ、蒼真……!?」
千冬は顔を赤くすると、咄嗟に俺の胸ぐらから手を話した。
「あ、あの……関係者は立ち入り……」
真耶が注意し様とするが、蒼真はお構いなしだ。
「嬢ちゃんはとっととグループへお戻り?」
と、軽々と言い返した。
「わ、わたしは……!」
顔を赤くする真耶だが、そんな彼女の存在など周囲には気付いていない。
「俺は、こいつら男子生徒共の責任者だ。こいつらの処分は俺が決める。勝手にテメェが決めることは許さん!」
そういうと、彼は二人の教員に証明書を見せた。
「蒼真……なぜお前が!?」
「テメェに話す道理はねぇ。唯一あるのは、今日の日没での告白だけだ……」
そう言うと、蒼真は俺たちへ振り向いた。
「よくやった? んで……危険な任務を押し付けてすまなかった。本来なら福音の破壊はヴォルフとラルフに頼んでたんだが……突然暴走したってからさ?」
小声で俺たちにそう説明した。そして最後はこう大きく言い残た。
「……よし、男子生徒は全員無罪! 疲れただろうし、はやく部屋へ戻って休んどけ。それと、狼?」
蒼真は俺に振り向いた。
「は、はい……」
「……よくやったな? 危険な状況の中、弥生を救ってくれて、本当にありがとう」
「そ、そんな……」
俺はつい顔を赤くした。
「清二、お前も皆の楯になって福音の攻撃を防いでくれたようだな? 本当によく耐えてくれた!」
「あ、ありがとうございます!」
「太智も見事なリーダーシップを発揮してくれてた。本当にありがとな?」
「へへ、いいってことよ?」
「これからも三人で力を合わせてこの先の困難にも突き進んでくれ? お前らは一人一人が勇敢だ。三人揃えば優秀な戦士たちになる。今後は厳しい状況になるかもしれない。力を合わせて絆を深めていけ?」
蒼真は、俺たち三人へ一人づつ褒めながら旅館の門を出て行った。門前には神無がこちらへ御辞儀をし、蒼真と共に帰っていった。
それから、俺たちは蒼真のおかげで厳重な処分につくこともなくなった。
あとは残りの一日を楽しく過ごしておわりってことだ。しかし、戻った後は生徒達にいろいろと質問攻めに会うはめになる。俺たちは口にチャックをしてどうにか黙りとおした。
……それと、舞香のことだが。
この先、彼女が裁判沙汰になることを予想し、どうにか匿ってもらうよう裏政府の人たちに頼んでおいた。そりゃあ、俺を殺そうとしたり、そのせいで弥生もああなっていまった元凶だ。だから、俺は前もってアイツに一発ビンタを与えてやった。
「痛っ……な、なにするのよ!?」
「それかコッチの台詞だ! よくも、弥生を……」
「……」
さすがの舞香も、罪を意識してこちらから視線を逸らした。
「狼君、もういいです……」
と、彼女は微笑んで舞香を許した。
「弥生……」
彼女が許すのなら、俺も許すざるを得ない。俺たちは舞香に背を向けて外へと向かった。
外へ出ようと誘ったのは彼女の方だった。

「……で、僕たちが来たころにはすでに終わってたってことですか?」
夜の砂浜でラルフとヴォルフは蒼真と神無から状況を説明してもらっていた。
「ああ、あの三人はよくやってくれたよ? とくに狼なんて命も省みずに弥生のほうへ突っ込むんだから、正直危なっかしくて世話がやけるぜ?」
と、笑いながら蒼真はあの戦いの詳細を話した。
「……福音のパイロットは?」
ヴォルフが問う。
「ああ、弥生のエネルギー波をもろに喰らっているが、命に別条はない。しばらくすれば元気になるだろう?」
「そう……それを聞いて安心したわ?」
「!?」
そのとき、彼らの背後から一人の女性が歩み寄ってきた。見る限り白人の女性である。
「……ナターシャ・ファイルスか?」
険しい表情でヴォルフは問う。
「ええ……そうよ?」
「生きていたのか……」
「機体を捨ててどうにか……ね?」
「……まずは、礼を言わせてくれないかしら?」
「……?」
「あの子の止めてくれたことに……」
「礼なら、あの三人の坊主たちに言いな?」
「そう……じゃあ、伝えておいてもらえるかしら? これから迎えが来るの」
「そうかい……今度、あったときは戦場だな?」
蒼真は彼女に背を向けた。
「ねぇ? 貴方達は、本当に何者……」
「それは企業秘密ってやつだ……」
と、蒼真は答えた。
「そう……貴方達には興味深いことが多いけど……そろそろ、行くわね?」
ナターシャはそのまま彼らに背を向けて見方が待つ岩場へと向かって行った。
「……さて、僕たちも帰るとするか?
背伸びをするラルフに、ヴォルフは悪戯にこう囁く。
「いいのか? 義妹に顔を見せなくて?」
「ぎ、義妹じゃねぇよ!?」
ラルフは顔を赤くして否定した。しかし、その心のどこかにはシャルロットを思う感情が少なからず芽生えていた。
「そう言うお前も、弟子が恋しがってるぞ?」
蒼真がニヤニヤしながらヴォルフを宥めると、彼もラルフと同じように顔を赤くする。
「あ、あのような奴は弟子ではない!」
「恥ずかしがり屋さん……」
と、ラルフが耳打ちする。
「何を? ラルフ……!」
「まぁまぁ? 海水浴のとき、あの嬢ちゃん達、結構寂しがってたからさ? せめて顔ぐらいは出してやったらどうだ?」
蒼真に言われて、二人は照れながらも旅館の方へ向かった。
「さて……俺は俺でけじめをつけますか?」
一人残った蒼真は千冬のいる崖の方へと向かった。
「蒼真、私も行こう……」
「神無?」
しかし、そんな彼の後ろから神無が現れた。
「私も、見届けたいのだ……」
「……ついてきな?」
二人はそのまま月がかかる崖のほうへと向かって行く。
そこには、なにやら二人の先客の姿が見えた。千冬と、その先には……
――束……
そう、篠ノ之束が居た。二人の女はそのまま月夜を見ながら話し合っている。そんなところへ蒼真は歩み寄った。
「因縁のお揃いだな……?」
と、蒼真が出てきた。
「蒼真……?」
千冬が彼の方へ振り向いた。
「出たな……ゴミ虫」
嫌な目をする束だが、そんな蒼真の後ろには神無の姿も見受けられた。
「へぇ~? 神ちゃんも来たんだ~? 束さんを殺しにぃ?」
「……!」
キリッと神無は束を睨み付けるが、蒼真に「よせ……」と、止められてここはグッと耐えた。
「蒼真……」
千冬は、蒼真を見つめた。
「千冬……」
そして、蒼真も彼女を見つめると、彼女に対してある一言を浴びせた。
「……ここらで、終わりにしよう?」
「……?」
「千冬、俺はここいらでお前との縁を切る。もう、お前は俺の恋人でもなければ友人ですらない。お前も俺に変わる別の男を探すんだな?」
それだけいうと、彼は彼女らへ背を向けると、神無と共に行ってしまった。
「そ、蒼真……!?」
わかっていたと知っていても、千冬は蒼真本人から出た言葉で衝撃を受け、出す言葉を失った。
「待ってくれ……待ってくれ! 蒼真……私が、私が何をしたって言うんだ!?」
「……俺の親父を殺したのはテメェらだろ?」
「……?」
蒼真は振り返って千冬を睨んだ。しかし、彼女からして心当たりはない。彼の父親の戦闘機を撃ち落としたのは事実だがコックピットは狙ってはいない。
「真実は、束へ聞きな?」
「束に……?」
「ちーちゃん、惑わされちゃダメだよ? あの神無って女がワカメを誑かしてんだよ?」
「……!」
千冬は蒼真の隣にいる神無へ睨み付けた。
「貴様ぁ……!」
「……?」
神無も、千冬から伝わる殺気に気付いた。
「彼女に手を出すなら……容赦しないぞ?」
しかし、その倍とも言える蒼真の計り知れない憎悪に満ちた目が千冬を威嚇した。
「そんじゃあな?」
蒼真は、二人を背に神無と共に消えていった。

時を同じくして、俺は弥生に呼びされて夜の岩場へ来た。
「こんなところまで来ないと、二人きりになれないね?」
弥生が俺へ振り返る。
「そうだな?」
「ねぇ、一つ聞いてもいいかな? 狼君」
弥生は、腰を曲げて俺を宥める。
「何だ?」
「ふふ、何だと思う?」
「教えてくれよ?」
笑いながら俺は問う。
「何でしょう! 当ててみて?」
「クイズ形式か……何だろ?」
「ヒントは、私の名前?」
「弥生の?」
「あ、もう答え言っちゃってるよ?」
「え? もう?」
「私のこと……ようやく『弥生』って、呼んでくれたんだね?」
「あ……」
俺はとっさに顔を赤くした。
「そんな、狼君にはご褒美上げる!」
「え?」
「恥ずかしいけど……見て?」
すると、彼女は帯に手を添えてシュルシュルと巫女装束を脱ぎ始めた!
「あ、ちょっと!?」
しかし、彼女が装束の裏に来ていたのは……あの時の赤いストライプのビキニだった。
「あのとき、あまりこの格好でいることができなかったら……でも、今回だけは狼君にだけ見せてあげる……」
「や、弥生……」
「もっと、近くで見て?」
「……」
俺は、彼女に吸い寄せられるかのように歩み寄り、そして俺の両手は彼女の両肩に添えた。
そして、自然と彼女の唇にそっと俺の口元を開けようとする……が!
「みーちゃった♪ みーちゃった♪ 弥生ちんの水着ショット!」
すると、岩場から太智が一眼レフを抱えて飛び出してきた。
「だ、太智!?」
俺は仰天する。
「はっはっは~! 今度こそ……今度こそ! 弥生のビキニショットをこの手に~!!」
だが、太智はシャッターを押そうとしたが、弥生が咄嗟に放った御札がレンズを覆い、暗闇になった。
「あ、こら! こいつ……」
太智がガムテ―プのように引っ付いた御札をレンズから外そうとするが、その隙に弥生は超高速ですぐさま巫女装束に着替えた。
「ノオォ~!! 撮り逃しちまった~!?」
シャッターチャンスが消えて太智が嘆いた。
「こらこら? 太智、もうその辺にしてやれよ?」
呆れて清二も駆けつける。
「弥生め……」
すると、太智は彼女の足元に指をさした。
「あ、弥生! 足元にフナ虫がウジャウジャしてる!?」
「え? きゃっ!」
弥生は太智の嘘に驚いてとっさに俺へ飛びかかり、俺も反射的に彼女を抱き上げてしまった。
お姫様だっこである。
「「あ……」」
俺たちはとっさに真っ赤になって気まずくなった。
「ヒュー! お二人とも、お熱いね~?」
と、ここでまさかのラルフが現れた。
「ら、ラルフ!?」
俺はラルフにも驚いた。
「ほぉ~? カップル成立か?」
さらにヴォルフまでもが……
「どうして二人が!?」
「任務の帰りだ。それよりも、仲がいいな? 二人とも」
「そ、それは……」
そんなとき、さらに二人少女の声が後ろから聞こえてくる。
「あ! ラルフー!!」
「しゃ、シャルロット!?」
ラルフは後ろから抱き付いてくるシャルロットに仰天する。
「んもう! 勝手に居なくならないでよ!?」
「は、離せ! 気持ちわりぃ!!」
そう嫌いな彼女を必死で振りほどこうとするラルフ。
「マスター!!」
と、今度はラウラがヴォルフにラリアットのごとく抱き付いてきた。
「ぐぅ……コラ! ラウラ!?」
「あはは……嵐だね?」
と、苦笑いする清二。
「ケッ! やってられねぇぜ!」
モテない男二人はさっさとこの場を後にした。
「ふ、二人とも!?」
この状況をどうにかしてくれと俺は思う。
「ろ、狼君……?」
「え?」
「しばらく……このままが、いいです」
「……」
……でも、それでも弥生がずっと俺から離れないでいるのはきっと……
「弥生! しっかり掴まってろ?」
「え……きゃっ!」
俺は、弥生を抱き上げたまま旅館へ向かって走りだした。

――しかしここまでは、俺が経験したほんの序章に過ぎない。本当の戦いと冒険はここから始まろうとしていた。それは、長く苦しくも、しかし悔いのない悲運の話だ……
これからも、俺は戦うために走り続ける。大切な人のために!

ある無人島に設けられて施設内。

「世界の影から牙を忍ばせる……『亡国機業』とは、よく言ったものだ?」
一人の青年がそう笑んでいた。素顔は薄暗く良く見えない。
「ゼット……」
そう彼の背後から一人の少女が歩み寄ってきた。その様子はまるで織斑千冬と瓜二つ。
「エム……?」
青年もまた振り返る。
「ゼット……お前は二人目の私だ。ターゲット達と酷似している」
「ほう……?」
青年が振り返り宥めると、少女はそんな彼へナイフを向けた。
「その刃物でどうする? まさか、この僕を殺すっていうのかい?」
「……!」
青年の予想通り、彼女は青年へ襲い掛かるが。その勝敗は一瞬でついた。
青年の足元に彼女のナイフが落ちる。そして彼は少女の顔面を片手で鷲掴んで持ち上げていた。
「調子に乗ってもらっては困るな? 僕も、お前のような欠品には心底呆れていたのだよ?」
「き、貴様ぁ……!?」
「ふん……」
すると、青年は少女を床へ叩き付けると、そのまま馬乗りになって抑え込み、彼女のナイフを拾い上げると、容赦なく彼女の肩へそれを突き刺した。
「ぐぅぁ……!」
「クックック……痛いか? そうか、そうか……」
彼女の肩に刺したナイフをグリグリと抉るように押しこくる。少女は何とも言えない声を上げた。
「これが痛みだ……どうだ? 殺す側から殺される側になる恐怖感は?」
「……してやる……殺してやるぅ! ゼットォ!!」
「まだ、そんな威勢が残っていたのか?」
「必ず……必ずお前をこの手で殺してやるぅ!」
「ああ、いいぞぉ……その憎しみ! 僕への殺意が更なる憎悪となってこの胸の底を爽快に駆け巡る!! さぁ、恨め? そしてもっと、その痛みに苦しめぇ! ハハハハハァー!!」
彼女の体が次々とナイフで突き刺されていく。その痛みと恐怖感に少女こと、エムは地獄のような苦しみを味わう。
「ゼット? エムを玩具にするのは、そこまでにしておきなさい?」
二人の元へ金髪の美女が歩み寄ってきた……
「スコール……この豚は僕のメス人形だ。何をしようと僕の勝手だ!」
「そうはいかないわ? 次期首領となるあなたが、こんなお人形遊びをしていたら恥ずかしい黒歴史になるわよ?」
そんなことを言われ、ゼットはやや抵抗があるものの、しばらくすると渋々と彼女に従った。
「チッ……わかったよ?」
「それじゃあ、ほどほどにしておきなさいね?」
と、スコールという美女はこの場を後にした。
しかし、青年こと、ゼットにしてみれば単に邪魔者が消えたというだけ、彼は引き続きナイフを握ると、エムの纏う衣類をバラバラに切り裂いた。
「……!?」
エムの、やや幼さが残る裸体が露となる。
「何をする気だ……!?」
エムがさらに睨む。だが、ゼットは微笑むばかり。
「言っただろ? お前は僕の『メス人形』だと……」
「……!」
しかし、彼女はとっさに自機のISを展開しようとした。だが、できない。
「!?」
「あんな欠如品は、僕の前では無意味だ。僕の体は、ISを狂わせる電磁波を発生している。自己紹介の時に説明したはずだけど?」
「や、やめ……やめろぉー!!」
エムの悲鳴が部屋中に響いた。
……それから時間が経ち、そこには裸体になるゼットとエムが横たわっていた。エムは、裸体のまま震えている。
「フフフ……エム、お前は最高の『人形』だ……!」
起き上がった彼は、そのまま窓際まで歩くと、窓越しから夜空を宥めた。
ゼットは、月光に照らされてその素顔が露になる。その素顔は、あの「鎖火狼」とまさに酷似していた……
「やっと会えるね? 飛鳥兄さん……いや、今は狼兄さんか……」
 
 

 
後書き
予告

亡国企業戦を主体とした二期を書く前に、ISでもやったOVA的な外伝を書いていこうと思います。
狼たちが夏休みで過ごしたひと時の思い出……

そして、新たに加わる仲間を主役として描いたスピンオフ作品も書く予定です!!
ヒロインは何と! あのモッピーです!!
後に設定画の公開もしようと思います。下手な絵ですけどよかったら暇つぶしに……

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧