白夜が防御力に手向けたRSだったおかげで、一夏はどうにか一命をとりとめることができた。
しかし、意識は不明のまま布団に寝かされている。
*
「本作戦は……引き続き継続させるようにですか?」
真耶は、不安げに千冬へ訪ねた。
「ああ、上層部や委員会からはそうするようにとな? それに、まだ目標はこの近辺に滞在しているとの情報だ……」
だが、そんなことよりも千冬は、自分の決断によって弟が重傷を負ったことに責任を抱き、歯を噛みしめて悔しさに耐え続けた。
それから他の代表候補生らの入出も拒み、千冬は早々に新たな対策を練りなおすことを余儀なくされれる。
そのころ、自分の不注意で一夏に重傷を負わせてしまったことに責任を感じた箒は、一夏が眠る部屋でずっと彼を見守り続けていた。
「一夏……」
何故、あのような行動に出たのか、箒には理解できずにいた。
「どうして……犯罪者などを庇うのだ? あの者たちは……どうして?」
そう眠る一夏へ彼女は問い続ける。
「あんな輩でも守る……それが、お前の強さなのか?」
「わからぬ……解せぬ! 何故、お前があのような行動に!?」
強さだけを一心に求め続ける彼女にとって、一夏の取った行動は本当に理解のできないことであった。
「篠ノ之さん?」
箒の様子を心配して真耶が彼女の様子を見に窺った。しかし、真耶の声に箒は振り向かないまま、ただ一夏を見つめている。
「次に作戦に備えて、休んだ方がいいです」
「私は……いいです」
「それはいけません。休める時に休んだ方がいいですよ?」
しかし、今の箒には何を言っても聞いてくれそうになかった。仕方なく、真耶は出直して、再び司令室へ戻った。
その後、箒は一夏を見つめるたびに、ここには居られなくなり、そのまま部屋を飛び出して海岸へ逃げるように走った。
別の宿部屋にて
俺たちは、白夜に内蔵されているマイクロビデオレコーダーから先の戦闘での情報取り出し、何か福音の攻略につながるものはないかと探っていた。
「戦闘時間が短いな? 箒を庇った身代わりになったといっちゃあ仕方がないが……」
太智は大きくため息をついた。
「ただわかるのは、このISの巨大な両翼から雨のような大量のレーザー弾幕を放つことぐらいしか……だね?」
清二は頬杖をつく。
「今のところ、短時間で超音速度による飛行を可能にし、尚且つ強度なステルス―レーダーを搭載して相手のレーダーから身を潜めるという厄介な相手です」
ホログラムファイルを開いて弥生が説明する。
「さらに、相手は単機での近接攻撃を軽々と交わすトリッキーな奴だ。油断も隙もならない……」
俺はそう言い加えた。
「俺達三人で一気に袋叩……ってのはどう?」
太智が何気なく案を出すが、そんな単純な攻撃では効果は無い。
「逆に同士討ちになるぞ? やはり……狼の「絶対神速」を使用しない限り勝ち目はない」
太智は、やはり俺の必殺技でなくては勝ち目はないと言い張った。確かに彼の意見には全員が同意見だ。だが、やはり……
「やはり……あの弾幕のような誘導弾が一番厄介だな?」
太智は腕組みをして唸った。
「そのレーザー弾こと、『銀の
鐘』に関してですが、例の両翼の大型スラスターに36の砲口を搭載し、広域射撃を行える新型システムです……」
「やたら厄介だな? あんなので弾幕張られたら、こっちとら満足に近づけやしねぇ……」
太智が清二のように腕を組みながら唸りだした。
「……そこで、私の出番というわけです」
弥生の一言に俺たちが彼女へ視線を向けた。
「私の霊術で広域結界を張り、狼さんを銀の鐘から護ります。相手の攻撃や止んだ隙に狼さんはつかさず絶対神速を発動させてください?」
「だ、だけど……弥生ちゃん? 危険すぎるよ」
俺は彼女の作戦参加を拒んだ。
「いいえ? 参加させてください。私だけ、安全なところでサポートなんて嫌ですよ?」
「……」
しかし、やはり彼女のことが心配で俺はどうしても反対だった。だが、そこで太智が割り込んでくる。
「いいじゃねぇか、連れてってやれよ? 狼」
「け、けど、太智……」
「もし、彼女の身に危険が迫ったときには……そんときゃ、お前さんが守ってやりゃいいだけだ」
「……」
照れくさいことを言われるが、しかし彼女の力なくして福音に接触することは敵わないだろう。
ここは、やはり彼女の力を借りるしかない。
「……わかった。だが、無理はするな? 危なくなったらすぐに逃げるんだぞ?」
俺はそう弥生に言うと、彼女も真剣な目で頷いた。
「よし! そんじゃあ、作戦開始ぃ!!」
立ち上がり、ビシッと指を立てる太智だが、そんな彼に清二はこう告げた。
「ところで……福音の位置は?」
「あ……」
太智は、再び座り込んで叫んだ。
「しまった~! そのことを忘れてたぜ!? くそ……そういや、福音ってのはステルスレーダー搭載してんんだろ? 俺たちのじゃ見つかるわきゃねぇ……」
「魁人さんに頼んでみれば?」
と太智。魁人に頼めば、福音なんて見つけるの簡単な話だが……
「いや……魁人の旦那なら、俺たちを危険な目に会わせないよう止めさせるだろ?」
太智はそう予想を言った。確かに、そうだな? あの人なら俺たちよりも腕の立つラルフやヴォルフといった筆頭を向かわせるだろう。
「くぅ……どうすればいい?」
俺たちはまた振出しに戻ってしまう。かといって、弥生がシキガミを使って辺りを捜索するにも日が暮れてしまう……
「手間取っているようだな?」
と、そんな時、部屋にある人物が訪れた。ラウラである。
「ラウラ?」
俺は彼女を見た。なにやら自身のある顔だった。
「その様子だと、福音の位置がわからないと見えるな?」
「何か用か?」
太智が怪訝な目つきで彼女に言う。
「なに、我々専用機持ちも、一夏の敵討ちに出向こうとコッソリ作戦を練っていたところだ。福音の居場所は見つけたが、どうも攻略の方は難問でな?」
「じゃ、じゃあ……」
清二は笑みを浮かべた。
「ああ……お前たちに協力させてくれ? だが、目標の位置を教える代わりに我々も共同で任務に参加させてもらう」
「……」
しかし、太智は戸惑った。いくら協力するとはいえラウラは過去に弥生にあのようなことをした張本人だ。
「……まて、こいつを信用できるのか?」
と、太智の一言で周囲の表情は暗く変わった。
「その女は、弥生の首に爆弾をくっつけた奴だ。そんな奴を信用していいのかよ? 皆」
「あ……」
さすがの清二も表情を暗くする。
「……もしかしたら、俺たちを知らない場所へ誘き出して、他の専用機持ちと一緒に俺たちを袋叩きにするんじゃねぇのか?」
太智は益々ラウラを疑い始めた。
「違う! 頼む……信じてくれ?」
しかし、ラウラは必死で俺たちに協力を要請してくる。俺は、二人のように腕を組みながら唸った。
「確かに……天弓侍に小型爆弾を付けたのは事実だ。命令とはいえ、行ったのは私自身だ……しかし、今は一夏のためにも何かしなくてはならない! お前たちも、その考えは同じのはずだ!」
「ああ、同じだ? だがな……俺たちの仲間を殺そうとした奴を、そう易々と信用することはできねぇな?」
太智は強情に言い切る。
「……頼む、この通りだ!」
すると、ラウラは深く頭を下げてきた。彼女にしては必死なのであろう。それでも、太智の険しい表情は変わらない。
しかし、俺はこう言う。
「……その情報は、本当なんだな?」
「……?」
俺の声に、涙を浮かべたラウラは顔を上げる。
「銀の福音の居場所を、知っているんだよな?」
「……ああ、本当だ」
そんな彼女に、俺は立ち上がった。
「……わかった。とりあえず、信じよう?」
「ろ、狼!?」
すると、俺の次に太智が立ち上がった。
「こいつを信じろってのか!? お前を酷い目に会わせた上に弥生に爆弾を取り付けた女何だぞ!?」
「……確かに、その事実は消えることはない。だが、今は協力してくれる力が欲しいよ? この戦いに勝つには、仲間と呼べる人たちを信じないとダメだ!」
「仲間、ねぇ……?」
太智は頭をボリボリ書くと、ラウラに口を向けた。
「ラウラ、一時休戦だ。その他の専用機持ちを連れてこい!」
「あ、ありがとう……! 貴君らの協力に感謝する!!」
再び俺たちに深いお辞儀をすると、彼女は他の専用機持ちを連れ来るために戻っていた。
*
「……」
夕日にたそがれながら、箒は結んだ髪を解いた。
「一夏……」
落ち込む彼女は、一人にしてくれと言わんばかりの状況であった。どうしても、一夏が重傷を負ったことに責任感を感じている。
――私は……
しかし、そんな彼女の背後からある男性の声が彼女を呼びかけた。
「よぅ! 珍しくシラケたツラしてんじゃねぇか?」
太智である。彼だけではない。太智の周辺には清二や狼、そしてその他の代表候補生らが集まっていた。
「お前たち……」
「篠ノ之! 今から、福音にリベンジすっぞ? 早くこっちに入れ?」
と、太智は自分たちの方へ親指を向けて箒を誘い出す。
「……遠慮する。私は、いい……」
「はぁ? 何言ってんだよ! お前が居ねぇと意味がねぇじゃん!?」
「私には……そのような資格などない。だから、お前たちだけでやってくれ……」
「……!」
すると、痺れを切らした太智は箒の元へ大股になって歩き出す。
「や、やめなよ! 太智!?」
しかし、温厚な清二は太智を止めに入る。
「止めるな……こういう奴にはビシッと言っておかないとな?」
すると、太智は途端に箒の胸ぐらを掴んだ。
「!?」
男性が、女性に対してこんなことしてくるなど彼女としては見当もつかず、そして太智の平手が彼女の頬を鳴らした。
「一夏がやられて悔しくねぇのかよ!? 一夏が、ああなったのは半分テメ―の責任でもあんだぞ!?」
「……!?」
箒は太智へ目を丸くする。
「……黙れ! そのような事は、わかっている……私に責任があるということは、誰よりも本人である自分が一番知っている! わかったような口をきくな!?」
怒鳴り返す箒だが、そんな彼女は太智は鼻で笑った。
「フン……だったら、どうして何もしようとしない? 一夏は俺たちに取って大切なダチであって仲間だ。俺たちは、一夏の仇とるために……そして、何よりもこの作戦の失敗によって奪われた、自分たちの誇りを取り戻すために、もう一度戦いに行くんだ。それなのに、俺たちよりも一番悔しい思いをしているオメェがこれに参戦しなくてどうすんだよ!?」
「っ……!?」
箒は、改めへ俺たちを見る。
そして、そんな俺たちの元へまた一人、あの相棒が帰ってきた!
「お前ら……仇討ちなんて、悲しいこと言うなよ?」
なんと、織斑一夏が、こちらへ駆けだしてくる。
「い、一夏!? お前……何ともないのか!?」
太智は震えた声で問う。
「ああ! あんな奴にやられるほどヤワじゃないッスよ?」
ケロッと一夏は片腕を軽く振り回した。おそらく、RSによる装着者への早期治療システムが高速で働いたのだろう。RSは主である装着者へのダメージを治療するための自動修復機能を搭載している。よって、防御力に優れている白夜には治療能力にも優れていたのだろう?
「箒?」
一夏は、箒の元へ歩み寄ると、彼女に優しく微笑んだ。
「……俺は、お前が大切な仲間だから身を張って護っただけだ。だから、お前には何の責任はねぇよ?」
「一夏……」
そんな言葉に、箒は目頭を熱くさせる。
「あの時、お前を誘わずに比奈と遊びに行ってゴメンな? 今度……一緒に行こうな? あ、勿論比奈も一緒だ。今度からは喧嘩せず仲良くしろ?」
「うむ……一夏!」
うれし泣きはこの作戦が終わった後だと、箒はグッとこらえた。
「よし! これで役者は揃ったぜ? と、いうことで……福音退治の第二ラウンドの始まりだ!!」
と、太智は叫ぶと、隣にいるラウラへ問う。
「……で、ラウラ? 肝心の目標の居場所は?」
「ああ、衛星の地上映像で奴の姿を肉眼で発見した。位置は……」
ラウラは、ISの片腕を展開してホログラムマップを映した。ここからそう遠くない沖合の上空に居るようだ。
「さすがはドイツの尖鋭部隊隊長だな?」
清二は、そんなラウラの能力に驚く。
「今度こそ、チャンスは一回限りだ……狼、よろしく頼むぜ?」
太智が俺にサムズアップを送る。俺も当然それに答える。
「ああ! 任せてくれ?」
「皆! 今から作戦を説明する。聞いてくれ?」
太智は全員に今から行う作戦の説明に入る。
直接、俺たちRSの装着者らと箒の赤椿、そして弥生が俺の援護を行うため、共に福音へ一気に接近する。
もし、その直後に奴が銀の鐘を仕掛けてくるときのためにラウラとセシリアを遠くへ配置させて遠距離射撃を行い動きを止める。さらにその中間地点からはシャルロットと凰を配置して、シャルロットによる中距離からの射撃と、彼女を護衛に凰がついてシャルロットへの接近を阻止する。
こういった流れで、俺たちは作戦に以降した。今度こそ、勝つために……
俺達が、上空へ飛び立って数分後、徐々に目標の潜む夕暮れ時の空へ近づいていた。
あのとき、太智の勢いに押されて堂々と答えてしまったが、今思うとやはり不安で緊張してしまう。
「……」
「狼君……落ち着いて行動しましょ?」
隣には弥生が巫女装束で共に飛行している。俺は、彼女の身に危険が迫らないよう常に周囲を警戒した。
――緊張はするけど……やるしかない! 俺は、何としてもやり遂げて見せる!
それ以外、道はない。残された希望は俺だけだ。そう思うと、プレッシャーから応援に変わる。
「狼! 目標が見えてきたぞ!?」
清二が叫ぶ。前方には巨大な球体の枠に包まれてエネルギーを温存している福音の姿が肉眼で捉えられた。
「あれだな!?」
「よっしゃあ! 作戦開始だ!!」
しかし、俺たちの気配に気付いた福音は、フッと俺たちの方へ振り向くと枠を消してすぐさま迎撃態勢に入る。
「あの様子だと、銀の鐘はすぐに出せないようだ! 今の隙に動きを止めて追い込むぞ!?」
俺と弥生を最後尾に他は一気に福音へ突っ込んでいく
……夕暮れ上空を、音速を超えるスピードで駆け巡る五人の影がうつった。RSの装着者達である。
そんな彼らと対峙している銀の福音は、上空でそのまま立ち止まると、背後の彼らへ振り向き、体を回転させながら雨のような弾幕を撃ち撒ける。
しかし、その攻撃は遠方から放たれた二発のビーム攻撃によって弾幕は途端に止む。
「私たちを忘れては困りますわよ!?」
「誇り高きドイツ軍人を舐めるな!」
遠方からはセシリアとラウラが見えた。
「太智! 奴がそっちへ行ったぞ!?」
俺が叫ぶ。
「清二、援護を頼む!」
目標を追う太智は、弾幕を槍状のRS楼幻で弾きながら突っ込む。
「一夏、奴の放つ弾幕に注意しろ!?」
巨大な斧ことRS雷豪を両手に持つ清二は、共に宙を舞う一夏の楯となって雷豪が弾幕をはじいた。
「りょ、了解!」
「皆さん! 敵の攻撃には十分注意してください!?」
しかし、そんな彼らの中には、あの弥生も加わっている。巫女装束を纏い空を舞う彼女は味方の防御と体力回復のための役割として同行していたのだ。
「一夏!」
「箒……?」
紅いIS赤椿に乗る箒は、両手にブレードを握る。
「皆さん! 敵から熱源……来ます!!」
弥生の声と共に、福音は再び雨のように弾幕を周囲へぶちまける。
「……!」
俺たちは、奴の脅威的な弾幕に気付くのが遅かった!
「皆!!」
しかし、そこへ清二が飛び出して雷豪を楯に俺たちへ襲い掛かる激しい攻撃をどうにか防いでくれた。
「ぐぅ……!」
しかし、防御力の高い雷豪とはいえ、ダメージは半端なものではない。清二はダメージに苦しむ。
「清二! 大丈夫か!?」
「ああ……それよりも皆は!?」
「ああ、助かったぜ清二!」
俺たちが福音との距離がギリギリのため、セシリアとラウラも、下手に引き金が引けないのだ。
そして、福音は敵の数が多すぎるのか、すぐさまその場から飛び去ってしまう。エネルギーを切らしたのだろうか? これでしばらくあの攻撃ができなかったこちらとて好都合だ。
しかし、予期せぬアクシデントが起こった。
『鎖火さん!? 天弓侍さん!? 陸側から一機の打鉄の機影がそちらに向かって飛行しています!!』
無線からセシリアの声が響いた。
『くぅ……こんなときに一体誰だ!?』
ラウラも叫ぶ。
『も、もしかして! 教員にバレたんじゃ……』
シャルロットは、やや不安になった。
「……!?」
俺はすぐさまホログラムレーダーを表示させた。確かに、こちらに向かって一機の打鉄らしき機影が接近してくる。それも、福音到達よりも早く……
『全く! 誰が乗ってるのよ!?』
苛立った凰が問う。
「いったい、誰が……!?」
俺が背後から迫る打鉄を見た。その操縦者は……
「舞香……!?」
「ど、どうして九条さんが!?」
俺たちは当然驚くが、それ以上に驚いたの舞香だった。
「聞いたわよ……アンタたち、A級の特命任務についているんですって?」
「どうしてそれを!?」
俺が問う。
「それはコッチの台詞よ!? 何で、アンタみたいなのがそんな重大任務についてんのよ!?」
「そんなことより、早く戻るんだ!? 今回のことは忘れろ? もしこのことがバレたらお前は重罪だぞ!?」
俺はとりあえず舞香を叱り、戻るよう言うが、それでもやはり俺を常日頃から見下している彼女は、こんな俺の言うことを聞くような娘じゃない。
「重罪にならないようにしてやるわ……」
と、彼女は打鉄で福音が向かってくる方向へ一直線に突き進んでいく。
「馬鹿野郎!! よせ!?」
だが、そんな俺の怒号が、後に彼女を刺激させてしまうのだ。舞香は、途端に逃げるはずの方向とは違う逆方向へ向かって飛んで行く、そこは白いISが一夏達と格闘する空域であった。
「何やってんだ!? 早くここから逃げるんだ!!」
「うるさい! アンタなんかよりも、アタシが一番上手く操縦できるってことを見せてやるんだから!!」
変な見栄を張り。彼女は一般的なIS打鉄で福音の元へ向かった。
――下らねぇ見え張りやがって!
そんな彼女の後を追いかける俺は、彼女が福音へスナイパーライフルを向けるところまで追いつく。
「やめろ! 下手に攻撃するな!?」
「……!」
しかし、舞香は敵に照準を定め、こちらへ突っ込む福音に対し引金を引いた。
「……!?」
それを察知した福音は、射撃は明確であるが攻めの甘い弾幕をかわすと、再び銀の鐘による弾幕をふらせた。
「危ない!」
俺は、舞香の前に出て、降り注ぐ弾幕の雨を両手の零で弾き返す。だが、激しすぎる弾幕ゆえに零の刃をすり抜けて、数発が俺の足や方を掠めていく。
「くそ……!」
それでも、俺はどうにか後ろの舞香の楯になることができた。だが、弾幕が止むと共に俺の胸に何かの激痛が走った。
「ぐぅ……!?」
口の端から血が流れている。俺は、ゆっくりと胸板を見下ろした。そこには、打鉄のブレードの先が俺の胸を貫いている。
――嘘だろ……?
俺は、ゆっくりと背後を振り向いた……
「……何で、何でアンタなんかが!?」
舞香が、俺の胸を突き刺しているブレードを震えながら握っていたのだった。
「舞……香?」
「アンタなんか……アンタなんか……!」
――何で……どうして……?
俺の意識は徐々に遠のいていき、そして零の力が徐々に弱まって行った……
「狼……君?」
そして、そんな俺の後から来た弥生は、この一部始終を見てしまった。
俺は、そのまま海へ真っ逆さまに落ちていった……
「い、いや……!」
俺が落ちるのを見て、弥生は叫んだ。
「いや……いやあぁー!!」
その叫びと衝撃が弥生を襲うと共に、突如彼女に異変が生じた!
「狼君……!」
弥生の体からは巨大な光が彼女を包みだし、そして光がやむと同時に、そこには見知らぬ巫女装束を纏う弥生の姿があった。
光り輝く装束に天使の羽衣を纏うその姿は、まさに天女を連想させた。
「狼……君……」
涙と共に、彼女の意識は遠のいていく……