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戦国異伝

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第二百四十話 果心居士その十

「既にな」
「ですな、では」
「それは間もなくですな」
「では御前が次に仰れば」
「そこから攻めましょうぞ」
「織田信長よ、見ておるのじゃ」
 老人の声は彼に憎しみを向けていた、これ以上はないまでに強いそれを。その上での言葉だった。
「次が貴様の最期の時じゃ」
「あの憎むべき日輪が、ですな」
「落ちる時ですな」
「散々我等の邪魔をしてきた」
「あの者の」
「あの者程厄介な者はおらなかった」
 彼等魔界衆が戦ってきた者達の中でもというのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「今度はですな」
「必ず倒し」
「そして遂にこの国を混沌に落とし」
「散り散りにしてやりましょうぞ」
「是非な。しかしな」
 老人の憎しみの声がまた出た。
「松永めは」
「はい、あの者は」
「最期までのらりくらりと」
「あれこれ言って動かず」
「お陰で予定が狂いました」
「我等のそれが」
「全て一旦仕切り直しとなった」
 また言う老人だった。
「あの者のせいでな」
「やはり表に憧れていましたか」
「我等の血族でありながら」
「闇の者だというのに」
「魔界衆であるというのに」
「魔界衆は闇の血族じゃ」
 このことは変わらないというのだ。
「それ以外の何でもない」
「まさにまつろわぬ者」
「我等はですな」
「それに他ならぬ」
「それが我等ですな」
「しかしじゃ」
 それでもというのだ。
「あ奴はな」
「日向に憧れ」
「ああして織田信長につき」
「中々動こうともせず」
「そうして」
「どうやらじゃ」
 老人の声は忌々しげに言った。
「あのままあわよくばな」
「織田家に入ったままで、ですか」
「暮らして、ですか」
「そのまま生きていくつもりでしたか」
「我等から離れ」
「血の宿命を無視してな」
 そうして、というのだ。
「生きるつもりだった様じゃ」
「ふざけたことですか」
「その様なことが出来る筈がないのに」
「それをしようとは」
「魔界衆から離れようとは」
「だからわしはあ奴を無理にけしかけたのじゃ」
 その時のことをだ、老人はこれまで以上に忌々しげに話した。
「血の絆は絶対だと言ってな」
「そして、ですな」
何とかですな」
「あの者を動かして」
「織田家に謀反を起こさせましたな」
「それまではよかったがな」
 松永に謀反を起こさせたそこまではというのだ。 
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