| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ二十七 美味な蒲萄その十三

「死ぬその時まで大事にせよ」
「はい、拙者冨貴には興味がありませぬが」
「真田の家とじゃな」
「義にはです」
「いつもそう言っておるな、しかし御主は決して器用な者ではない」
 信之はここで顔から笑みを消してこうも言った。
「文武両道ではあるがな」
「生き方が、ですな」
「一本気過ぎる、だからな」
「器用ではないからこそ」
「二つを求めることはない、家はわしに任せよ」
「この真田の家は」
「上田の土地も民も守り抜く」
 信之自身がというのだ。
「父上の後はな。だから御主はじゃ」
「義をですか」
「それだけを見て守るのじゃ」
 これが弟への言葉だった。
「そうせよ、義を貫くのじゃ」
「この者達と共に」
 幸村は己の後ろにいる十人を見た、家臣であり義兄弟でもある彼等を。
「そうせよと」
「そうじゃ、そうせよ」
「そして生きて死ねと」
「そうせよ、不義に生きることなくな」
「それが拙者の生き方ですか」
「そうすればよいであろう」
「ですか、義のみをですか」
 幸村は瞑目する様にして述べた。
「求めればですか」
「よいであろう」
「拙者にとっては」
「やはり御主は器用には生きられぬ」
「世間を泳ぎ回って調子よく、ですな」
「それはとても無理じゃ」
 幸村のその一本気な気質からしてというのだ。
「とてもな、だからな」
「ですか、では」
「家はわしに任せよ」
 またこう言う信之だった。
「よいな」
「はい、では」
「その者達と共にな」
「では兄上」
 あらためてだ、幸村は兄に言った。
「真田家のことお願いします」
「任せよ。わしは何としてもこの家を守り抜く」
「ではそれがしは義を貫いて生きます」
「一本でじゃな」
「そうさせて頂きます、それでなのですが」
 また言った幸村だった。
「兄上は天下はどうなると思いますか」
「今は羽柴殿じゃな」 
 信之も言うのだった、この様に。
「羽柴秀吉殿がおられるうちはな」
「では」
「後はわからぬな」
 秀吉の後はというのだ。
「しかし今はじゃ」
「兄上もそう思われますか」
「あの方が生きておられるうちはそうなろう」
「ではあの方の後は」
「わからぬ」
 信之はこう返した。
「全くな」
「やはりそうですか」
「あの方にはご一門が少ない、しかもご子息がおられぬ」
「それが為にですな」
「後がわからぬ」
「そうなりますな」
「羽柴家の天下は短いやも知れぬ」
 秀吉一代で終わるかも知れないというのだ。
「そうも思う」
「左様ですか、やはり」
「御主も思うな」
「はい、そうも」
「天下は暫くは流れがわかるが先はわからぬ」 
 秀吉の後はというのだ。
「わしはその中でこの家を守っていくが」
「それがしは、ですな」
「義を貫き。己の道を歩め」
「この者達と」
「そうせよ」
 こう微笑んで言うのだった、弟に。幸村も兄のその言葉に頷いてだった。そのうえで義を貫くことを誓うのだった。


巻ノ二十七   完


                        2015・10・9 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧